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ネオウィルス学

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 河岡 義裕ほか 、 出版 集英社新書
新型コロナウィルスが猛威をふるっています。おかげで、もう1年4ヶ月も東京に行っていません。飲み会もありません。親しい人との語らいの場が失われてしまいまいした。学生たちが可哀想です。ネット上ではなく、生ま身の人間同士の接触のなかでこそ、人間は成長することができます。ワクチンも十分に確保できていないのにオリンピック開催だなんて、スガ首相は気が狂っています。宴(うたげ)のあとが心配でたまりません。
性病の一つであるヘルペスウィルスは、一生潜伏し続け、宿主を殺すことなく適度に再発して感染を広げていくという大変賢いウィルス。
ウィルスは植物にも感染する。チューリップの花に斑(ふ)が入ったとき、その斑は、ウィルスが起こした病変。ウィルスに感染して病気になった植物には、芸術的な美しさが出現する。ウィルスが感染した植物にはミツバチが多く集まる。また、アブラムシを引きつける。
日本では、毎年3万人が肝がんで亡くなっている。そのうち7割は、C型肝炎ウィルスの感染から肝がんに移行した患者。C型肝炎ウィルスは主として血液を介して感染する。C型肝炎の患者は日本に150万人、全世界に7000万人もいる。
植物、動物に限らず、宿主に病気を発生させるウィルスは、全体の1割にも満たない。
人間が増幅して増えていく生き物だとしたら、ウィルスは、そのメカニズムの隙や漏れを利用して勝手に移動し、増えていく。ウィルスは、人間の生命の一部であり、移動する遺伝体だ。
ウィルスは細菌より小さいという「常識」は、ミミウィルスの発見で覆された。ウィルスについて、今では、細菌よりも小さく、なおかつ単純で原始的な素材とは言えなくなった。巨大ウィルスの発見から、ウィルスは細胞性の生物が何かの原因で単純化した結果だと考えることも可能になった。
ウィルスを研究するために、渡り鳥のフンを集めたり、アフリカ・シエラレオネにコウモリの捕獲に出かけたり、学者も大変です。でも、恐らく、好きでみんなやっているのでしょう。そんな奇篤な人々のおかげで私たちの毎日の平和・平穏な生活が成り立っているわけです。大いに感謝したいと思います。
それにしてもオリンピックのあとの日本で全面外出禁止なんてことにならないことを、今、ひたすら願っています。
(2021年3月刊。税込1034円)

中村哲医師の生き方

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 宮田 律 、 出版 平凡社
アフガニスタンからアメリカ軍が撤退するなかで、タリバンが再びアフガニスタンを支配しました。やはり、暴力(武器)によって国を治めることはできないのです。アメリカ軍は、ベトナム戦争で敗退してサイゴン(現ホーチミン市)からなんとか脱出できましたが、今、同じような状況がアフガニスタンで起きています。日本の自衛隊の輸送機も3機が救出のため出動しましたが、いったい誰を「救出」するのか、明らかにされていません。またもやアメリカ軍の下請をさせられているようです。国会を開いて、きちんと議論すべき重大問題です。
野党の国会開催要求を自民・公明両党は無視・拒絶しているため国会での審査・究明もできません。これって明らかな憲法違反なのですが、違反を繰り返して、国民を黙らせ、あきらめさせています。それはともかくとして、タリバン政権が自衛隊機を素直に受け入れるはずがありませんので、戦闘状態になることは必至です。自衛隊員が死んだら、それって「戦死」になるのですか…。でも、おかしいでしょ。なんで、そんな危険なことをする(させる)のですか…。
中村哲さんを殺した犯人は今なおつかまっていません。中村哲さんは、生前、タリバンを単純に暴徒視してはいけないと語っていました。その当時のタリバンと今のタリバンとを同じようにみてはいけないと私も思います。でも、結局は、暴力と武器に頼って、国を長く治めることはできないというのが、歴史の教えるところです。本当にそうだと思います。
この本は、小学校高学年以上の子どもを対象にしていますので、中村哲さんに関して目新しいことが出てくるものではありません。それでも、平和な世界をつくるためには何が必要なのかを基本に立ちかえって明らかにしていますので、いい大人である私も素直な気持ちで勉強になりました。
まずは、表紙の中村哲さんの笑顔がすばらしい。アフガニスタンの男たちに囲まれ、屈託のない、幸せと喜びにみちた笑顔なんです。本当に、もっともっと長生きしてほしい人物でした。
信じられないことに、アフガニスタンを走る自動車のほとんどは日本車とのこと。ただし、ごく一部の富裕層はベンツなどドイツの高級車に乗っているそうです。
中村哲さんはキリスト教徒ですが、戦争やテロなどの暴力は、イスラムの教えに背(そむ)くと理解していました。
キリスト教もイスラム教もその建前では博愛・平和主義のようですが、現実は背反しています。無神論者の多い日本人のほうがよほど平和主義者だと思います。
忘己利他(もうこりた)という言葉があるそうです。瀬戸内寂聴さんがよく言うコトバです。自分の損得や幸せになりたい気持ちは置いておいて、他の人が幸せになって得(トク)をするように務めなさい、という意味のコトバだそうです。私も、なかなかその心境にはなれませんが、目標にはしています。
中村哲さんのすばらしいところは、アフガニスタンの砂漠を用水路を新設して肥沃(ひよく)な田園地帯に生まれ変えたところです。その水路建設工事のため、中村哲さんは本職の医師というより土木作業機械を操作する技師として、作業の先頭に立ったのでした。
「武器ではなく、命の水をおくりたい」というのが、この本のタイトルです。今、日本がやるべきことは、まさに、このタイトルどおりではないでしょうか…。
(2021年4月刊。税込1540円)
 日曜日、暑さのやわらいだ夕方、庭に出て、少し雑草を抜いたり、手入れをしました。庭のあちこちでクリーム色のリコリスが咲きはじめましたので、それをよけて雑草をひっぱって抜き、コンポストに放りこみます。ミニトマトと子どもピーマンは先週抜いたので、今はオクラくらいです。あとはサツマイモの葉が茂っています。
 なぜかツクツク法師をふくめて、セミが鳴きません。夏は終わったのですね。
 コロナ禍がおさまりません。「先に光が見えてきた」なんてスガ首相は、いったいどこを見ているのでしょうか。久留米市は累計で3000人をこえ、大牟も1000人になりました。いったい病院に入れず、家庭内で待機というのはどうしたらよいというのでしょうか。家庭内感染が避けられません。
 自民・公明政権の無為・無策ぶりはひどすぎます。

須恵村

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ジョン・F・エンブリー 、 出版 農文協
戦前、日本の農村に若きアメリカ人の人類学者夫婦が1年間すみつき、その実態調査をまとめたという画期的な本です。
訳者の田中一彦元記者(西日本新聞)は、退職してから3年間、この須恵村(現あさぎり町)に単身移住して取材・調査しています。私は、著者の妻エラによる『須恵村の女たち』に大変なショックを受けました。ぜひ、この本とあわせて読んでみてください。
須恵村は、米や麦、そして蚕による生糸を生産している。野菜は大根とサツマイモ、そして大豆。サツマイモとキュウリは男根崇拝の象徴。そして豆は女性器と同じ意味を有する。
宴会のときは、魚、ときに鶏がつく。タンパク質の多くは大豆でできた味噌汁、しょう油、豆腐からとる。馬や牛は飼われているが、荷物の運搬に使われるだけ。牛乳は汚いと考えられ、医師の処方で飲まれるのみ。豚肉も食べられない。豚の飼育は都会に売るためのもの。
村には大地主はいない。須恵村の男性は、ほとんど村の生まれだが、妻のすべては須恵村の生まれではない。
戸主の言葉は法。主人は最初に風呂に入り、一番に食事をし、焼酎を飲み、いろりでは特別の席にすわる。妻には必要に応じて家計費が渡される。
債権者が来ると、男は妻と離婚して、財産を彼女の名義にして、自分は無一文になる。あとで、男は離縁した妻と再婚する。
娘を芸者や売春婦に売るのは、父親の特権。娘は同意を拒否する立場にない。
養子縁組も、結婚と同じように、最初の1年ほどは、お試し期間を設ける。
村には、結婚していない成人は、ほとんどいない。寡婦は再婚するが、亡夫の弟と再婚することが多い。寡夫は、先妻の妹と結婚することがある。非嫡出子をもつ女性は寡夫と結婚することが多い。寡婦は特別な社会的地位にある。再婚しない限り、きちんとした社会的地位は不安定。性的に自由である。
農作業では、夫も妻も同じように働くので、農家では商店よりも女の地位が高い。
女が参加する宴会も多く、酒が入ると、やがて踊りは性的な性格を帯びてくる。ふだんおとなしい女性も踊りに加わり、即興の歌詞にあわせて、尻を前にぐいと突き出しながら踊る。男は、杖を男根の代わりに使い、それをほめそやす歌をうたう。この余興は、集まった来客に爆笑の渦を起こす。踊りでは、人々、とくに女たちは、物真似や風刺の驚くべき感性を発揮する。
田植えは厳しい共同作業。10人から15人の若い男女が一列に並んで作業する。単調な作業は、絶え間ない冗談、それも卑猥な話によって和らげられる。
須恵村では、頼母子講が盛ん。
須恵村で娘を芸者に売った男が8人いるが、社会的地位が高くない男たち。農業の社会的・経済的基盤の上に家族をつくろうとする人は、貧しくても決して娘を売ることはしない。
売られた娘は決して村には戻ってこないし、結婚することもほとんどない。
一般的に、子どもたちはひどく甘やかされている。
夜ばいの習慣があるが、娘たちには受け入れることも拒絶することもできる。
「三日加勢」という、三日間のお試し結婚がある。娘だけ3日間、男性の家に泊まる。もし結婚に至らなくても、どちらも世間的には顔をつぶされたことにはならない。
須恵村には医者はおらず、子どもの死亡は多い。
須恵村の生活にボスはいない。自治的で、民主的。
戦前(昭和10年から11年、1935年から1936年)の熊本の農村の生々しい状況が手にとるように分かる本です。写真もたくさんあり、興味深いこと、このうえありません。ぜひ、ご一読ください。全国の図書館に必置の本だと思います。
(2021年5月刊。税込4950円)

海獣学者、クジラを解剖する

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 田島 木綿子 、 出版 山と渓谷社
著者は茨城県つくば市にある国立科学博物館の筑波研究施設につとめる海獣学者。これまでの20年間に調査解剖したクジラは2000頭をこえる。日本一は間違いないとして、恐らく世界一、クジラを解剖している女性(いったい、男性で同じようなことをしている人はいるのでしょうか…)。
解剖の対象は、死んで海岸に打ち上げられたクジラたち。これをストランディング(漂着、座礁)と呼ぶ。日本国内の海岸に年間300件のストランディングが報告され、可能な限り著者たちは班を組んで現場に駆けつける。科学的に測定し、博物館の標本とするため。放っておくと腐敗し悪臭を漂わせるため、地方自治体は粗大ゴミ扱いしてよいことになっている。そんな処理をされる前に現場に行って、関係者によくよく趣旨を説明して、調査・保存に協力してもらうのが著者たちの第一の任務。
いつストランディングがあるのかは予測がまったくつかないので、対応するのは大変なこと…。さすが根性の入った海獣学者ですので、ともかくストランディング対応が最優先。
しかも、相手は巨体、そして腐敗が進行中…。一刻の猶予もなく解剖に取りかからなければなりません。悪臭なんか気にしているヒマはないのです。いやはや…。
一種につき一体やればいいというのは素人考え。プロは、最低30体はないと、その種を特徴づける肋骨、歯の数、頭骨の形を数値化した平均値、子どもを産む年齢、寿命、大人の平均的な体長といった基本情報、そして、その種がどのような生き方をし、暮らしているのか、他の生物との共通性や違いはどこにあるのか…、情報が多ければ多いほど正確性を増す。
私も、一つのテーマについて少し深く知りたいときには、最低30冊の本を読むようにしています。そのテーマについて30冊を読むと、だいたい共通認識が得られるからです。
マッコウクジラ(16メートル級)の心臓から血液を体内に送る大動脈は、消防車が消火に使うホースくらいの太さがある。うひゃあ、す、すごーい。さすがにデッカイですね。
2018年8月、鎌倉市由比ガ浜にシロナガスクジラの死体が漂着した。このシロナガスクジラは海の哺乳類の中でも特別な存在で、一生に一度あるかどうかの希少なチャンス。大人は全身25メートルにもなるが、このときは11メートルほどの、生後数ヶ月の幼体だった。母クジラと生き別れて死んでしまった赤ちゃんクジラ。
このクジラヒゲを分析すると、岩手県沖を親クジラと一緒に回遊していたことも判明した。すごいですね、そんなことも分かるのですね。そして、もっと恐ろしいことは、この赤ちゃんクジラの胃の中に、直径7センチのビニール片が見つかったということ。「ナイロン6」という材質のフィルムだった。いやはや、プラスチックゴミがこうやって自然環境を汚染しているのですね…。
私は読んでいませんが、本屋大賞をとった『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ、中央公論社)のタイトルにある「52ヘルツのクジラ」は実際に存在した(今も生きているかも…)というのです。52ヘルツというのは、通常なら20ヘルツ前後なのに、特殊な周波数の声で鳴いているのが観測されたのでした。あまりにも特殊な周波数なので、他の種のクジラと関わっている様子がないため、「世界でもっとも孤独なクジラ」と呼ばれるようになった。
ふむふむ、そういうこともあるのですね。1989年に発見されたクジラですが、ぜひ今でも生きていてほしいですね。
沖縄の海で、ジュゴンが異常な鳴き声を出しているのが観測された。そして、そのジュゴンの死体が見つかった。著者たちが出動して、オグロオトメエイというエイの棘(トゲ)がジュゴンの腹に刺さり、その痛みに耐えかねてジュゴンは夜間ずっと鳴いていて、ついに死に至ったことが判明した。
ええっ、そんなことまで分かるのですね、やっぱり学者って、すごいです。
人間関係に疲れて、人間との関わりの少ない専門分野として著者は自然に生きる野生動物を対象に選んだそうです。でも、やっぱり人間との関わりあってこそ研究が深められたといいます。ひき続き、元気にがんばってほしいですね。元気の出る面白い本でした。
(2021年8月刊。税込1870円)

本の力

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 酒井 京子 、 出版 童心社
孫に絵本を読み聞かせています。両足を組んで孫を座らせ、絵本を声色たっぷりに読みあげるのは本当に楽しいです。川崎セツルメントの大先輩である、かこさとしの「ドロボー学校」やら「カラスのパン屋さん」なんて、読んでる私まで気分がぐぐっと若返ります。
絵本誕生の秘話として著者が語るのは、誰でも知っている「おしいれのぼうけん」、「ダンプえんちょうやっつけた」、「14ひきシリーズ」、そして「いないいないばあ」といわさきちひろの「花の童話集」などです。長く長く心に残る絵本ってこうやって出来あがっていくのですね。
120頁ほどの薄い本なので裁判所に持っていって、待ち時間に読みはじめ、裁判が終わってからは控室に行って読み終わりました。
すぐれた絵本は、これを子どもに話したい、伝えたい、子どもたちを喜ばせたいという真剣なものが込められていなければならない。そして、生きる力や考えることの大切さを伝えるものでなければならない。なるほど、そうですよね…。
著者が古田足田さんの家に原稿を取りに行くと、20枚ほどの原稿がテーブルの上に置いてある。それを必死に読む。古田さんは黙って、見ている。ときには、にらみつける(著者は、そう思った)。本当に怖かった。試されていると感じた。読んだなら、その場で何か言わなくてはいけない。考えて明日言います、なんて許されない。緊張する。しかも、古田さんが次に進める意欲が出るようなことを言わなければいけない。問題点だけを指摘したら、古田さんはやる気をなくしてしまう…。
著者が何か言うと、古田さんは20分くらい黙って、何か考えている。さすがに20分間は長い。冬なので、薄手のセーターを着ていったが、汗びっしょり。古田さんの家を出るときには、セーターの上から汗がふき出ていた。それほど真剣勝負だった。
「おしいれのぼうけん」を社長は、「10万部は売ってみせます」と断言した。実際には、1974年に発売されてから2021年3月までに、なんと240万部も売れている。もちろん私の家にもありますし、孫たちにも読んでやりました。ねずみばあさんを今でも怖がっています。
書店に行くと分かる。たくさんの本が並んでいるけれど、力の入った本とそうでない本は、そこから発散するものが違う。それはその中に込められたものによる。込められたものが光輝くのだ。
力のある本は、作家と画家、そして編集者も印刷屋さん、製本屋さんも含め、製作に関わったすべての人の気持ちが、ひとつになる瞬間がある。それは奇跡に近い瞬間だ。
「おしいれのぼうけん」では、ねずみばあさんの怖さと、保育園の子ども2入の勇気がたまらない魅力になっている。
「14ひき」のシリーズに関わったとき、編集者の著者にも作者(いわむらかずおさん)はラフスケッチを見せてくれなかった。本は、生まれる前は作者だけのもの。ひとたび誰かに見せたら、もう作者だけのものではなくなる。ラフの段階で、編集者がトンチンカンなことを言うのは許されない。
「14ひき」シリーズの絵本が初めて出版されて40年たった。今では「日本のいわむら」から「世界のいわむら」になっている。パリでいわむらさんのサイン会をしたら、行列ができた。22言語に翻訳されている。
著者は、いわさきちひろの絵を見た瞬間、この人はただものではないと直感したという。それから、ちひろの黒姫の山荘に行ったとき、尊敬できる人には、いくらでも献身的になれ、料理や掃除がまったく苦にならなかった。
いやあ、いい絵本誕生の秘話でした。編集者としてすごい幸運でしたね…。
(2021年6月刊。税込1650円)

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