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イヌは愛である

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 クライブ・ウィン 、 出版 早川書房
私はイヌ派です。ネコには、どうも親しみがもてません。幼いころからわが家は犬を飼っていました。キャンキャン吠えるので、すぐ人気を失ってしまったスピッツが小学生のころから座敷にも上がるのを許されて飼っていました。おかげで、畳は、いつもザラザラです。今なら、とても耐えられませんが、子どもって平気なんですよね…。
イヌは単に社交的なのではない。正真正銘の親愛の情を示す。それは、人間だったら、普通は愛と呼ぶはずのもの。イヌは、深いつながりを築きたい、温かで親密な関係をもちたいという欲求、愛し、愛されたいという欲求をもっている。イヌの本質は愛である。その愛が、人間にとってイヌを特別な存在に、人間のまたとない相棒にしている。人間に対するイヌの愛の主導権は、人間にはない。主導権はイヌが握っている。
4000年以上も前の古代エジプトの墓碑に、イヌの名前が刻まれている。アブウティユウという王の護衛犬は、死んだとき棺に入れられ、上質の亜麻布、香、香りのついた軟膏が下賜された。
イヌは1万4000年以上前に生まれた。最後の氷河期のあいだに登場した。
イヌは、特定の人間をすぐに好きになる。これって、イヌ好きの人間をイヌはすばやく見抜くということではないでしょうか。イヌ好きの私は、あまりイヌを怖がらないので、イヌも私にすぐに近づいてくるような気がします。
イヌが人間より速く絆を築く反面、イヌはその絆を解くのも速いのではないか…。
これって新しい飼主にイヌがすぐなじむことを指しているのでしょうね。
個体としても種としても、イヌは人間に身を捧げてきた。イヌは狩りの能力などのすべてと引き換えに、人間のパートナーになるチャンスを選んだ。
深くて揺るぎない愛情と引き換えに、人間も自分たちを愛してくれる。イヌはそう信じている。ところが、人間のほうは、残念ながらイヌと盟約をまっとうしているとは言えない。
オープンで愛情深い性質をもつイヌは、身体的な接触と同じくらい、関心を向けてもらうことを求めている。
多くのイヌは、ひどい孤独に耐えられず、いろんな行動をとる。吠える、家具をかむ、室内の、してはいけないところで排泄する。
こうしたストレスの兆候は、分離不安障害と呼ばれる、だから、スウェーデンでは、少なくとも4時間から5時間おきにイヌに社会的交流をさせることを法律で義務づけている。
うひゃあ、これには驚きました。
現在いる犬種は、みな、ここ150年のうちに出来たものでしかない。純粋な血統をもつイヌをつくっていった結果、一部のイヌは、半数以上がガンで死んでいる。
イヌが人間の行動の意味を理解できるのは、人間といっしょに暮しているうちに学習するから。またイヌを飼ってみたくなりましたが…。
(2021年5月刊。税込2310円)

写真集・棚田の愉しみ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 玉井 質 、 出版 うめだ印刷
大阪の干早赤阪村の棚田を撮った素晴らしい写真集です。
干早赤阪村は大阪府で唯一の村。大阪からは、地下鉄の天王寺に行き、近鉄で富田林に行き、そこからバスに乗って干早中学校前で降りる。バスは1時間に2本しかない。
この干早赤阪村の「下赤坂の棚田」は、日本の棚田百選にも入っている。
干早赤阪という地名は楠木正成がたてこもった干早赤阪城として有名です。なので、私も機会があったら一度は行ってみたいところでもあります。
「下赤坂の棚田」の写真は、どれも見事です。まさしく生命観が躍動し、生き物すべてが光り輝いています。
棚田は12世帯が共同して、1000坪を運営しているそうですが、ここにも高齢化の波が押し寄せています。なにしろ始めて、もう17年目になるそうですから…。
それでも、保育園の園児たちが親と一緒になって田植えしている様子を撮った写真もありますので、期待はもてそうです。
九条の会がここにもあり、棚田でそろって平和憲法を守れのポスターをかかげた写真は壮観です。子どもたちに平和を確実に伝えていきましょう。
なにしろ傾斜のある棚田ですから、農作業用の機械を運びあげるのは困難です。田植えも稲刈りも人海戦術。いやあ、これは大変ですよね…。
それでも収穫したお米で餅つきをして、みんなで食べたら、さぞかし美味しいでしょう。収穫祭で乾杯しているときの笑顔がたまりません。苦労がきちんと報われたときの喜びの笑顔です。
80頁ほどの写真集ですが、こんな棚田をぜひぜひ保存してほしいものだとつくづく思ったことでした。
(2021年7月刊。税込2000円)

野球にときめいて

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 王 貞治 、 出版 中公文庫
1940年生まれの王選手は、私にとっても長嶋茂雄選手と並んで野球界のヒーローです。といっても、野球の試合をみたことも、みることもほとんどありません。スポーツ観戦は私にとって問題外、時間のムダでしかありません。といっても、子どもたちに一度は機会を与えるもの親の義務の一つだと思って平和台球場に子ども連れてナイター見物したことはありますし、弁護士会の懇親行事として福岡ドーム球場での野球観戦もしたことがあります。テレビではまったくみません。
なので、王選手の一本打法というのも動かぬ写真でみたことがあるだけ、ホームラン競争だってみたことがありません。人はそれぞれ好きなことをやっていたらいいというのが私のモットーです。
こんなに大活躍した王選手ですが、生まれたときは仮死状態で、虚弱児なので、大きくならないだろうと言われていたというのです。実際、2歳をすぎるまで歩けなかった。いやあ、人間って、変われば変わるものですね…。
2卵性双生児、つまり双子で生まれ、一緒に生まれた女の子が1歳3ヶ月で急死し、その後は、母親のお乳を独占できたからか、みるみる元気になったというのです。ふえっ、そ、そんなこともあるのですね…。
王選手は左利き。打つのは右だけど、投げるのは左。
父親は中国・淅江省から日本に渡ってきて、中華そば屋を始めた。そして、2人の息子には、医師と技師になってもらおうと考えた。実際、長男は医師になった。王選手も早稲田実業高校に入って技師の道が…。
王選手は、幼いころから物怖(お)じしない性格だった。小学校に入ると、実家が中華料理店のせいか栄養がよくて身体が大きくなり、ガキ大将になった。中学校では陸上競技部に入る。身長1メートル77センチで、体重は70キロ。そして、中学校の野球部ではなく、地元の草野球チームに入った。ところが、父親はそれが気に入らなかった。
王少年は、技師への道を進むつもりで都立隅田川高校を受験したところ、見事、不合格。そこでやむなく早稲田実業高校に入って、野球をするようになった。
王選手は1年生のとき、早稲田実業のエースになった。さすが、たいしたものです。ところが、制球難。投げるときに上体が揺れるので、コントロールが悪くなる。
巨人軍に入って、まっ先に言われたのは、走ること。スポーツの基礎は走ることにある。うむむ、そうなんですか…。そして、投手をクビになり、打者に専念するように指示された。
王選手は、相手投手の失投を見逃さずに打つタイプの打者。
王選手の一本足打法は荒川コーチの指導による、1962年7月1日にスタート。下腹、へその下の一点に気を集中させる。気が胸にあると上体は揺れ動いてしまう。へその下に気があれば、上体から力が抜け、自然体になる。外部からの力に、とっさに反応できる。身体と心が、ひとつになれば、どんな球にも順応できる。
さすがの言葉ですね。
本塁打を打ったら、その瞬間にスタンドに届くことが分かる。同時に打球の飛んだ角度などで、相手チームのバッテリーにも分かる。その瞬間、広い球場のなかで、王選手と相手投手・捕手の3人だけが本塁打と分かる。「やった!」と「しまった!」だ。
一芸をきわめた人の言葉は、さすがに重みというか深みがあります。
(2020年12月刊。税込924円)

「陵墓」と世界遺産

カテゴリー:日本史(古代史)

(霧山昴)
著者 陵墓公開記念シンポジウム委員会 、 出版 新泉社
上石津ミサンザイ古墳(履中陵古墳)や大山古墳(仁徳陵古墳)の海側からみた鳥瞰図(ちょうかんず)があります。地形を巧みに利用して段丘の縁辺部にできるだけ寄せ、海のほうからよく見えるようにつくっていることが分かる。なるほど古代の昔は、海が真近だったのですね。
前方後円墳、大型古墳群の移動、陵墓のあり方から考えると、『日本書紀』などの記載をもとに、日本の天皇制が古代から確固たる男系継承がおこなわれてきたというのは、学術的にはとても無理な話であって、そんなことがまかりとおっていることに、考古学者はもっと怒るべきだ。ここ10年、いや20年来の考古学の学界は、なにか非常に危険だ。ひどすぎる。
これは、陵墓をもっと大々的に公開し、学術的な研究をすすめるべきだということだと思います。まったく賛成です。それこそ30年計画をたてて、順次、陵墓を学術的に発掘し、その成果を公開していくべきではないでしょうか。そうすれば日本の考古学はさらに活性化するし、天皇制についての国民の議論も発展すると思います。
継体大王が登場するのは6世紀(527年)ですが、その前の5世紀にも、天皇(大王)の系列が違っていたようです。
允恭(いんぎょう)天皇は、即位すると履中(りちゅう)系と関係の深かった葛城(かつらぎ)玉田宿禰(たまだすくね)を倒した。また、允恭の子の雄略天皇は、葛城円大臣(かぶらのおおおみ)を焼き殺し、履中の子である市辺押磐(おしほ)皇子を惨殺して即位する。
つまり、履中、反正という履中系に対して、允恭以降の系統とは対立関係にあったと考えられる。
『宋書』倭国伝に現れる倭の五王は、2系統に分かれるという見方がある。つまり、倭の五王のうち、「言賛・珍」は兄弟、「済・興・武」は済が父親で、興と武はその子だが、珍と済の続柄が記載されていない。なので、この両者は異系ではないか、ということ。すなわち、この二つは王族としては異系で、履中そして反正と続いた王統に対し、異系の允恭が即位することで主導権が交替した、ということ。
このように古代日本の天皇(大王)の交替劇をとらえると、日本は古来より男系による万世一系なんていうのは、まったく事実に反する夢物語だということです。一刻も早く、陵墓の学術的発掘調査に踏みきってほしいと私は思います。
(2021年5月刊。税込2750円)

コロナ黙示録

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 海堂 尊 、 出版 宝島社
菅首相が「コロナ対策に専念する」という口実で自民党総裁選に出ないことを表明しました(9月3日)。なぜコロナ対策に専念するのに首相を続けられないのか、という当然の質問を受けつけず、すぐに立ち去っていったのは無責任ですし、政治家として哀れというしかありません。国民の前で自分の信念を語れないような人物は政治家になる資格なんてない、このことを決定的に明らかにした瞬間だったと思います。それなのに、「菅さんはよくやった」だなんて言ってかばおうとする人がいるのが信じられません。どれだけ騙されても、騙した人にしがみつくのでしょうか…。ダメな人にはダメだと、きっぱり言ってやる必要があるのです。ぜひ、みなさん、10月か11月にある選挙の投票日には足を運びましょうね。棄権するってことは、あんな「無責任男」を許してしまうことなんですよ。いくらなんでも、それはないでしょ…。
この本は、日本の政府がコロナ対策でいかに「後手後手」(ごてごて)にまわってきたのかを記録したような本です。医師を主人公としているだけあって、医学面での情景描写は迫真のもので、思わず息を呑んでしまいます。
菅首相のチョー側近である和泉補佐官の不倫はあまりにも有名ですが、「まったく問題ではありません」ということで、スルーされて、和泉補佐官は最後まで菅首相を支えました。それが、いえ、それも大きな間違いのひとつでした。
横浜のクルーズ船で本当ならトライアルとエラーをすべきだった。それができなかったのは、色ぼけと欲ぼけの失楽園官僚カップル(和泉補佐官と相手の女性官僚)による判断ミスだ。そんな人材を重用したアベ首相と官邸にいる厚労省官僚による人災だ。
私もコロナ禍を大きく深刻化させたのはスガ首相の無能・無策による人災だと考えています。だって、PCR検査をせず、ワクチン確保も遅れ、入院拒否の自宅療養と称して自宅待機を命じ、自粛を強要しながら補償もしないなんて、ひどすぎます。
アベ首相が「アベノマスク」に投じた500億円が医療現場にまわされたら、どれほど、現場は助かったことでしょうか。
国民に自粛を要請しながら、休業補償はしない。観光業界に1兆7千億円もの「GoToトラベル」をすすめながら、雇用調整助成金は、その半分の8千億円でしかない。そして、支出は遅れに遅れている。
こんな無能・無策なスガ首相なのに、国民は凡愚なスガ首相の罷免を求めることもなく、ただただスガ首相が退陣するのを、ひたすら辛抱強く待っているだけ。なんて面妖
(めんよう)な日本人だろうか…。
この本は読んで腹の立つ本です。そんなにバカにするなよと、ついつい叫びたくなります。それでも、投票所に足を運ばなかったとしたら、「スガさんって、一生懸命にがんばったのに可哀想よね…」という間違った思いこみから抜け出せないのです。でもでも、本当は違うんですよ…。自分たちの生命と健康を守るためには声を上げ、投票所に足を運ぶ必要がある。このことを確信させてくれます。一読に値する本です。
(2020年10月刊。税込1760円)

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