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写真集・棚田の愉しみ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 玉井 質 、 出版 うめだ印刷
大阪の干早赤阪村の棚田を撮った素晴らしい写真集です。
干早赤阪村は大阪府で唯一の村。大阪からは、地下鉄の天王寺に行き、近鉄で富田林に行き、そこからバスに乗って干早中学校前で降りる。バスは1時間に2本しかない。
この干早赤阪村の「下赤坂の棚田」は、日本の棚田百選にも入っている。
干早赤阪という地名は楠木正成がたてこもった干早赤阪城として有名です。なので、私も機会があったら一度は行ってみたいところでもあります。
「下赤坂の棚田」の写真は、どれも見事です。まさしく生命観が躍動し、生き物すべてが光り輝いています。
棚田は12世帯が共同して、1000坪を運営しているそうですが、ここにも高齢化の波が押し寄せています。なにしろ始めて、もう17年目になるそうですから…。
それでも、保育園の園児たちが親と一緒になって田植えしている様子を撮った写真もありますので、期待はもてそうです。
九条の会がここにもあり、棚田でそろって平和憲法を守れのポスターをかかげた写真は壮観です。子どもたちに平和を確実に伝えていきましょう。
なにしろ傾斜のある棚田ですから、農作業用の機械を運びあげるのは困難です。田植えも稲刈りも人海戦術。いやあ、これは大変ですよね…。
それでも収穫したお米で餅つきをして、みんなで食べたら、さぞかし美味しいでしょう。収穫祭で乾杯しているときの笑顔がたまりません。苦労がきちんと報われたときの喜びの笑顔です。
80頁ほどの写真集ですが、こんな棚田をぜひぜひ保存してほしいものだとつくづく思ったことでした。
(2021年7月刊。税込2000円)

野球にときめいて

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 王 貞治 、 出版 中公文庫
1940年生まれの王選手は、私にとっても長嶋茂雄選手と並んで野球界のヒーローです。といっても、野球の試合をみたことも、みることもほとんどありません。スポーツ観戦は私にとって問題外、時間のムダでしかありません。といっても、子どもたちに一度は機会を与えるもの親の義務の一つだと思って平和台球場に子ども連れてナイター見物したことはありますし、弁護士会の懇親行事として福岡ドーム球場での野球観戦もしたことがあります。テレビではまったくみません。
なので、王選手の一本打法というのも動かぬ写真でみたことがあるだけ、ホームラン競争だってみたことがありません。人はそれぞれ好きなことをやっていたらいいというのが私のモットーです。
こんなに大活躍した王選手ですが、生まれたときは仮死状態で、虚弱児なので、大きくならないだろうと言われていたというのです。実際、2歳をすぎるまで歩けなかった。いやあ、人間って、変われば変わるものですね…。
2卵性双生児、つまり双子で生まれ、一緒に生まれた女の子が1歳3ヶ月で急死し、その後は、母親のお乳を独占できたからか、みるみる元気になったというのです。ふえっ、そ、そんなこともあるのですね…。
王選手は左利き。打つのは右だけど、投げるのは左。
父親は中国・淅江省から日本に渡ってきて、中華そば屋を始めた。そして、2人の息子には、医師と技師になってもらおうと考えた。実際、長男は医師になった。王選手も早稲田実業高校に入って技師の道が…。
王選手は、幼いころから物怖(お)じしない性格だった。小学校に入ると、実家が中華料理店のせいか栄養がよくて身体が大きくなり、ガキ大将になった。中学校では陸上競技部に入る。身長1メートル77センチで、体重は70キロ。そして、中学校の野球部ではなく、地元の草野球チームに入った。ところが、父親はそれが気に入らなかった。
王少年は、技師への道を進むつもりで都立隅田川高校を受験したところ、見事、不合格。そこでやむなく早稲田実業高校に入って、野球をするようになった。
王選手は1年生のとき、早稲田実業のエースになった。さすが、たいしたものです。ところが、制球難。投げるときに上体が揺れるので、コントロールが悪くなる。
巨人軍に入って、まっ先に言われたのは、走ること。スポーツの基礎は走ることにある。うむむ、そうなんですか…。そして、投手をクビになり、打者に専念するように指示された。
王選手は、相手投手の失投を見逃さずに打つタイプの打者。
王選手の一本足打法は荒川コーチの指導による、1962年7月1日にスタート。下腹、へその下の一点に気を集中させる。気が胸にあると上体は揺れ動いてしまう。へその下に気があれば、上体から力が抜け、自然体になる。外部からの力に、とっさに反応できる。身体と心が、ひとつになれば、どんな球にも順応できる。
さすがの言葉ですね。
本塁打を打ったら、その瞬間にスタンドに届くことが分かる。同時に打球の飛んだ角度などで、相手チームのバッテリーにも分かる。その瞬間、広い球場のなかで、王選手と相手投手・捕手の3人だけが本塁打と分かる。「やった!」と「しまった!」だ。
一芸をきわめた人の言葉は、さすがに重みというか深みがあります。
(2020年12月刊。税込924円)

「陵墓」と世界遺産

カテゴリー:日本史(古代史)

(霧山昴)
著者 陵墓公開記念シンポジウム委員会 、 出版 新泉社
上石津ミサンザイ古墳(履中陵古墳)や大山古墳(仁徳陵古墳)の海側からみた鳥瞰図(ちょうかんず)があります。地形を巧みに利用して段丘の縁辺部にできるだけ寄せ、海のほうからよく見えるようにつくっていることが分かる。なるほど古代の昔は、海が真近だったのですね。
前方後円墳、大型古墳群の移動、陵墓のあり方から考えると、『日本書紀』などの記載をもとに、日本の天皇制が古代から確固たる男系継承がおこなわれてきたというのは、学術的にはとても無理な話であって、そんなことがまかりとおっていることに、考古学者はもっと怒るべきだ。ここ10年、いや20年来の考古学の学界は、なにか非常に危険だ。ひどすぎる。
これは、陵墓をもっと大々的に公開し、学術的な研究をすすめるべきだということだと思います。まったく賛成です。それこそ30年計画をたてて、順次、陵墓を学術的に発掘し、その成果を公開していくべきではないでしょうか。そうすれば日本の考古学はさらに活性化するし、天皇制についての国民の議論も発展すると思います。
継体大王が登場するのは6世紀(527年)ですが、その前の5世紀にも、天皇(大王)の系列が違っていたようです。
允恭(いんぎょう)天皇は、即位すると履中(りちゅう)系と関係の深かった葛城(かつらぎ)玉田宿禰(たまだすくね)を倒した。また、允恭の子の雄略天皇は、葛城円大臣(かぶらのおおおみ)を焼き殺し、履中の子である市辺押磐(おしほ)皇子を惨殺して即位する。
つまり、履中、反正という履中系に対して、允恭以降の系統とは対立関係にあったと考えられる。
『宋書』倭国伝に現れる倭の五王は、2系統に分かれるという見方がある。つまり、倭の五王のうち、「言賛・珍」は兄弟、「済・興・武」は済が父親で、興と武はその子だが、珍と済の続柄が記載されていない。なので、この両者は異系ではないか、ということ。すなわち、この二つは王族としては異系で、履中そして反正と続いた王統に対し、異系の允恭が即位することで主導権が交替した、ということ。
このように古代日本の天皇(大王)の交替劇をとらえると、日本は古来より男系による万世一系なんていうのは、まったく事実に反する夢物語だということです。一刻も早く、陵墓の学術的発掘調査に踏みきってほしいと私は思います。
(2021年5月刊。税込2750円)

コロナ黙示録

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 海堂 尊 、 出版 宝島社
菅首相が「コロナ対策に専念する」という口実で自民党総裁選に出ないことを表明しました(9月3日)。なぜコロナ対策に専念するのに首相を続けられないのか、という当然の質問を受けつけず、すぐに立ち去っていったのは無責任ですし、政治家として哀れというしかありません。国民の前で自分の信念を語れないような人物は政治家になる資格なんてない、このことを決定的に明らかにした瞬間だったと思います。それなのに、「菅さんはよくやった」だなんて言ってかばおうとする人がいるのが信じられません。どれだけ騙されても、騙した人にしがみつくのでしょうか…。ダメな人にはダメだと、きっぱり言ってやる必要があるのです。ぜひ、みなさん、10月か11月にある選挙の投票日には足を運びましょうね。棄権するってことは、あんな「無責任男」を許してしまうことなんですよ。いくらなんでも、それはないでしょ…。
この本は、日本の政府がコロナ対策でいかに「後手後手」(ごてごて)にまわってきたのかを記録したような本です。医師を主人公としているだけあって、医学面での情景描写は迫真のもので、思わず息を呑んでしまいます。
菅首相のチョー側近である和泉補佐官の不倫はあまりにも有名ですが、「まったく問題ではありません」ということで、スルーされて、和泉補佐官は最後まで菅首相を支えました。それが、いえ、それも大きな間違いのひとつでした。
横浜のクルーズ船で本当ならトライアルとエラーをすべきだった。それができなかったのは、色ぼけと欲ぼけの失楽園官僚カップル(和泉補佐官と相手の女性官僚)による判断ミスだ。そんな人材を重用したアベ首相と官邸にいる厚労省官僚による人災だ。
私もコロナ禍を大きく深刻化させたのはスガ首相の無能・無策による人災だと考えています。だって、PCR検査をせず、ワクチン確保も遅れ、入院拒否の自宅療養と称して自宅待機を命じ、自粛を強要しながら補償もしないなんて、ひどすぎます。
アベ首相が「アベノマスク」に投じた500億円が医療現場にまわされたら、どれほど、現場は助かったことでしょうか。
国民に自粛を要請しながら、休業補償はしない。観光業界に1兆7千億円もの「GoToトラベル」をすすめながら、雇用調整助成金は、その半分の8千億円でしかない。そして、支出は遅れに遅れている。
こんな無能・無策なスガ首相なのに、国民は凡愚なスガ首相の罷免を求めることもなく、ただただスガ首相が退陣するのを、ひたすら辛抱強く待っているだけ。なんて面妖
(めんよう)な日本人だろうか…。
この本は読んで腹の立つ本です。そんなにバカにするなよと、ついつい叫びたくなります。それでも、投票所に足を運ばなかったとしたら、「スガさんって、一生懸命にがんばったのに可哀想よね…」という間違った思いこみから抜け出せないのです。でもでも、本当は違うんですよ…。自分たちの生命と健康を守るためには声を上げ、投票所に足を運ぶ必要がある。このことを確信させてくれます。一読に値する本です。
(2020年10月刊。税込1760円)

裁かれなかった原発裁判

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 松谷 彰夫 、 出版 かもがわ出版
3.11の大津波で重大爆発事故を起こしたのは福島第一原発(フクイチ)ですが、この本が扱っているのは、「フクイチ」ではなく福島第二原発について1975年1月7日に提訴された設置許可取消を求める訴訟(原告403人)のほうです。
「3.11」の前、東京電力も国も、原子力発電所は絶対に安全で、事故など起きることがない、スリーマイル島(アメリカ)もチェルノブイリ(ソ連)も原発の「型」が違うので心配無用と断言し、裁判所もそれに盲従したのでした。そして、福島地裁(後藤一男裁判長)の一審判決は、スリーマイル島の原発事故は主として運転管理の人為的ミスによるもので、原子炉の基本設計に問題はないとした。続く仙台高裁の控訴審(石川良雄裁判長)も、チェルノブイリ原発で事故が起きたとしても、日本では事故は起こりえないとした。しかもそのうえ、なんと、「反対ばかりしていないで、落ちついて考える必要がある。原発は地球環境を汚染しないものだから」という自分勝手な個人的意見まで判決に書き込んだというのです。これには、まったく呆れはててしないました。この石川良雄裁判官が、その後に起きた「3.11」を、今どう考えているのか、聞いてみたいものです。
ことほどさように、裁判官の判断はあてにならないことがあります(幸いにしても、いつもではありません)。
原告側の弁護団長をつとめた安田純治弁護士の言葉は裁判の本質を次のように面白く、分かりやすく解説しています。
裁判官は、よろめきドラマの主人公のようなもの。よろめくことが仕事。原告側の主張に傾いてきたなと思えるときもあれば、反対にだいぶ被告側に寄っているなと思えるときもある。
原告・被告双方の主張を聞いて、あっちにフラフラ、こっちにフラフラと、絶えずよろめいている。もっとも、そうでないと困る。初めから結論をもって、法廷にのぞんでいて、どちらの主張しても真剣に耳を傾けないのでは裁判にならない。
まことに至言です。本当に、そのとおりです。ですが、まったくブレない裁判官が少なくないのも現実です。自分勝手な思いこみを絶対視してしまう人がいます。とくに、裁判当事者の一方が、行政や大企業だと、反対側の主張にはまったく耳を貸そうともしない裁判官がいます。それにも二種類あって、法廷での訴訟指揮では耳を貸したフリをしてバッサリ切り捨てる人と、聞く耳を持たない、聞こうとするポーズも示さない人すらいます。
10年近く続いた裁判を支えた原告団の多くは福島の教師たち(その多くは高校の教員)に対して、安田弁護士は鵜川隆明弁護士を通じて、「裁判は子孫への伝言なんだ」と諭(さと)した。そうなんですよね。勇気のない、国と大企業に盲従するばかりの裁判官たちを相手にしてでも、言うべきことは言う。これが必要なことは、「3.11」が証明しています。
この本ができたのも「3.11」のおかげですが、原告としてたたかった人たちは、「3.11」で自分たちの正しさが証明されたことを残念に思っているのです。本当にそうなんですよね。
原告団と一緒になって理論面で裁判を支えてきた安斎育郎・立命館大学名誉教授は「3.11」の直後に、「申し訳ない。なんとか、このような事故だけは起きないように力を尽くしてきたが、力及ばず申し訳なかった」と原告団に謝罪した。いやあ、学者の良心を聞いて、心が震えました。いろいろ勉強になりました。すばらしい本でした。やっぱり声を上げるべきときには、声を上げ、みんなで立ち上がるべきなんですよね。それが人生ではないでしょうか…。一読を強くおすすめします。
(2021年2月刊。税込1980円)

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