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第七師団と戦争の時代

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 渡辺 浩平 、 出版 白水社
北海道にあった第七師団の生い立ちから敗戦のときに解放するまでを追跡した労作です。
北鎮という言葉を初めて知り(聞き)ました。北方の脅威から自らを護るという意味だそうです。北とはロシア(ソ連)を指します。
第七師団は屯田兵を前身とし、中国・満州に渡ってノモンハンで戦い、また沖縄でも戦っています。師団というのは1万人あまりの兵力をもち、聯隊(れんたい)は2千人ほどの将兵がいる。師団長は中将があたる。
第七師団の歩兵第二十五聯隊は屯田兵を母体とし、1896(明治29)年に札幌の東の月寒(つきさむ)の地で誕生した。そして、この第二十五聯隊は、1945年8月17日に樺太の逢坂で聯隊旗が焼かれて消滅した。
第七師団の本来的任務は一貫して北方の護り。
屯田兵は、正式名称は屯田憲兵。ええっ、これまた初めて知りました。憲兵だったのですか…。屯田兵は、シベリアのコサック兵を模して、黒田清隆が進言してできた制度。
第七師団の用地は540万坪。そこに3個の歩兵聯隊(26、27、28)と騎兵、工兵、野戦砲兵、輜重(しちょう)兵がそれぞれ1個聯隊、師団司令部、病院、監獄、憲兵隊、兵器廠や官舎、それに火力発電所もあった。もちろん、練兵場や演習場も。
日露戦争のときの旅順港を見おろす203高地の攻略戦にも第二十五聯隊は出動しています。このとき、63人のアイヌ兵がいて、うち51人が戦功により勲章を授与された。この戦闘で、第七師団は、3割強、6206人の死傷者を出した。
ロシア(ソ連)の二コラエフスク市(尼港)における日本人虐殺事件にも第七師団は関わっている。1917年にロシアで革命が起こり、ソビエト政府が誕生した。そこへ、英仏、米日がシベリアに出兵して内政干渉を試みた。その名目は、チェコ軍団の救出ということだった。1918年8月に第七師団がシベリアに派兵された。
尼港事件は、1920(大正9)年5月24日に発生した。
尼港の日本軍守備隊はわずか300人。包囲するパルチザンは2000人。日本軍の救援は遅れ、日本の将兵と市民はパルチザンに処刑された。このころの日本人居留民は500人。うち、天草・島原出身者を主体とする娼妓が90人いた。また、パルチザンのリーダーは、直後の7月に赤軍によって処刑されている。
シベリア出兵したのは、当時21個師団のうちの10個師団。24万の兵力を送り出し、死者5千人、負傷者2600人、戦費は9億円にのぼった。日本はシベリアの資源を開拓して得ようとしていた。
ノモンハン事件のときにも、1939(昭和14)年5月から9月にかけて、満州(チチハル)にいた第七師団が出動した。
その第26聯隊長だった須見新一郎は、火焔瓶によってソ連軍の戦車と戦った考案者として名高いが、ノモンハン戦記のなかで、「御粗末なる作戦屋」として日本軍高官たちを痛烈に批判している。関東軍の植田謙吉司令官、辻政信らの参謀、そして小松原道太郎・第23師団長らを激しく非難した。
ノモンハン事件では、ソ連軍も莫大な被害を出したことが今では判明していますが、ジューコフ将軍が最大限の物量を集中させて日本軍を圧倒したこと自体は事実です。この戦果によってジューコフ将軍はスターリンに認められて、ソ連赤軍のトップにのぼりつめました。
そして、第七師団は沖縄に渡ってアメリカ軍と戦い、また樺太ではソ連軍と8月15日のあとまで戦ったのでした。
第七師団の歩みは、日本軍の歩みでもあることがよく分かる貴重な労作だと思いました。
(2021年11月刊。税込2750円)

消えた四島返還

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 北海道新聞社 、 出版 北海道新聞社
北方領土4島の返還要求が、いつのまにか2島だけとなり、それも失敗してしまったという、安倍前首相のあまりにもみっともない失敗を明らかにした本です。
北方四島は、1855年の日露通好条約で日本領と定められ、その20年後の1875年の樺太・千島交換条約、さらに30年後の1905年の日露戦争終結時のポーツマス条約でも、日本の領土とされた。なので、日本政府は、北方四島は、「我が国固有の領土」と主張してきたのには歴史的根拠がある。
北方四島とは、歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島、国後(くなしり)島、択捉(えとろふ)島。「2島返還」は、このうちの歯舞群島と色丹島の2島にしぼるということ。つまり、国後と択捉はあきらめるというのだ。こんな国政上大事なことをアベ首相は国会の承認をとることなくロシア(プーチン大統領)とのあいだですすめていたというのです。そのうえ、この2島返還要求もロシアからはすげなく(問答無用式に)拒絶され、失敗に終わりました。あの安倍前首相は「外交上手」を金看板にしていて、世界中をアッキーや財界中を引き連れて飛びまわっていましたが、結局のところ、外交上の成果は何ひとつあげることができませんでした。
ところが、自分の失敗は完全に棚にあげて、「野党は反対するばかり」、「対案を出すこともない」などと開き直り、マスコミの大部分もその尻馬に乗るばかりで、安倍外交の失敗を失敗として報道することがありませんでした。こんなみじめな自民党を、「なんとなくがんばっているようだから…」と支援する人には、ぜひ本書を読んでほしいものです。
安倍前首相は「北方四島の返還」と言わず、「北方領土問題」と言い替えた。それは、「四島返還」を求めないことを意味していた。「四島返還」をやめて「2島」に転換することを進言したのは新党大地代表の鈴木宗男議員。安倍前首相は、外務省幹部をはずして、最側近の今井尚哉秘書官、北村滋内閣情報官とだけ相談して、ことをすすめた。菅(すが)官房長官もカヤの外においた。
そして、河野太郎外務大臣は、記者からの質問に答えなかった。この河野太郎の質問回答拒否は政治家としてひどすぎます。政治家の資格はありません。
日本敗戦時(1945年)に北方四島には1万7千人の日本人が暮らしていた。その人々のうち存命の人は6千人もいない。
1945年からすでに76年が過ぎようとしている。1855年の日露通好条約で北方四島が日本領と定められてからソ連侵攻の1941年までの90年と比べて、このままではロシア支配下のほうが長くなりそうな状況にある。
北方四島への墓参が実現しているが、これはビザなしなので、勝手な自由行動はまったく許されていない。
いま、北方四島には色丹島だけでも3千人のロシア人が居住し、新式の水産加工場が建設されていて、ロシアはまったく返還する意思がない。
プーチン大統領は、安倍前首相との会談のたびに大幅に遅刻し、一切の言質(げんち)を与えないどころか、ロシアの憲法に領土返還を許さないことを描き込もうとしている。
あれだけ全世界をかけ巡って、莫大な税金をつかったのに、どれひとつとして成果をあげることのできなかった自民党政権を許す一方で、対案のない野党はダメだとか、野党に政権担当能力はないとばかり言いたてるマスコミには、本当に呆れてしまいます。もういいかげん、こんな自民党政治ではダメだと意思表示すべきではありませんか…。この本を読んで、私は、つくづくそう思いました。
(2021年9月刊。税込1980円)

宇宙の終わりに何が起こるのか

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 ケイティ・マック 、 出版 講談社
世界は、どのように終わるのか…、火で終わる。今後50億年ほどのうちに、太陽は膨張して赤色巨星となり、水星も金星も軌道全体が呑み込まれ、地球はマグマで覆われ、生物など皆無の、ただの黒焦げの岩になってしまうだろう。菌すらいない、くすぶった燃え殻さえ、やがて太陽の外層に落下し、死にゆく恒星の激しく渦巻く大気の中に、自らを原子としてまき散らしていくだろう。
私たちの暮らす宇宙が、安定した居心地のいいところで、安全に年をとっていける場所だ。そう思いたいが、こんな宇宙観はもはや成りたたない。私たちの宇宙は変化している。
宇宙論においては、明確に定義された「いま」という概念は存在しない。
運動する速度が速いほど、その運動しているものにとっての時間はゆっくり進む。また、非常に重い物体に近づくと、時間はゆっくり進むようになる。
初期宇宙は、一つの巨大な炎だった。この仮説は、完全に確かめられた。
プランク時代とは、宇宙時間ゼロから10秒のマイナス43乗まで。そのあとに大統一(GUT)時代がやってくる。これは10秒のマイナス35乗だけ持続する。宇宙時間の10秒マイナス6乗あたりで、最初の陽子と中性子が形成され、そこに電子も寄り添って、通常の物質の構成要素が出そろった。宇宙時間2分になるころ、宇宙は快適な摂氏10億度にまで冷えた。まだ、太陽の中心よりは熱いが、できたばかりの陽子と中性子が強い力で結合できるほどには低温だ。
宇宙に存在する水素のほぼすべてが最初の2~3分のあいだに生み出された。つまり、私たちをつくっているものの大部分が、宇宙が存在してきたのとほぼ同じ長さの期間、なんらかの形態で宇宙の中に存在してきたということ。
私たちの身体は星屑(ほしくず)で出来ている。つまり、ビッグバンの副産物から成り立っているのだ。
今から40億年もすると、私たちの天の川銀河は、アンドロメダ銀河と衝突し、華々しい光のショーが起こるだろう。
重力とは、物体と物体のとのあいだにはたらく力というより、質量をもつ任意の物体とのあいだにははたらく力というより、質量をもつ任意の物体の周囲に生じる空間の湾曲と考えたらよい。これがアインシュタインの天才的洞察の一つ。
ビッグリップが起きるのは、早くて2000億年後。ふー、やれやれ…。ビッグバンは一度限りの出来事だったのか。それとも、一つの激しい転換点なのか…。
2015年9月14日の午前9時50分45秒。ほんの一瞬、少しだけ背が高かった。そのとき重力波が通常したのだ。重力波の進路内にいたら、少し背が伸び、次に背がちぢんで、横幅が広がる。この変形は陽子の直径の100万部の1程度のものでしかない。つまり、ないに等しいというレベルの話だ。
いやあ、たまには、こんな気宇壮大な話を頭の中にとりこんで、あれこれ空想をたくましくしたいものですよね。自分が死んだあと、いったい世界はどうなるのか、地球はどうなるのか、いつまで人類は地球上に存在しうるのか…。興味は尽きません。
(2021年9月刊。税込1980円)

家は生態系

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ロブ・ダン 、 出版 白揚社
人間のすむ家から、20万種の生物が見つかっている。いやはや、すごい数です。その4分の3は、ホコリ、人体、水、食品、および腸内で見つかった細菌。4分の1は真菌。残りは節足動物、植物、その他。
人間が家の中を歩きまわると、どんな人でも1日に5000万個の皮膚断片(鱗屑、りんせつ)が身体からはがれ落ちている。そして、空中を漂う鱗屑一つひとつに数千個の細菌がすんでいて、それを食べている。
どんな人の手も、実は手だけでなく、鼻、へそ、肺、腸および体表面のすべてが、微生物叢(そう)で覆われている。
手を洗って除去されるのは、手にくっついたばかりでまだ定着していない微生物だけ。
チャバネゴキブリは、屋内の人間が暮らしている場所に限って、頑強で多産。そして、人間が好むような食物を好む。人間と同じく、一匹で孤立して暮らすのは苦手だ。
病原体の媒介という点では、イエバエはチャバネゴキブリをはるかに上回っている。下痢を起こす病原体を運んだりして、年間50万人をこえる死亡に関与している。
この本は、ゴキブリ駆除剤がきかなくなった理由を突きとめるべく、ゴキブリの口器にある味覚感覚毛の一本一本に電極を接続して感覚ニューロンの応答を調べるという実験を3年以上にわたって2000匹のゴキブリについて繰り返した日本人研究者も紹介しています。勝又(和田)綾子という女性です。すごい、ですね…。こんな地道な実験をする学者のおかげで毎日の安全・快適な生活が保持されているのですよね。感謝、感謝です。
(2021年6月刊。税込2970円)

富岳、世界4冠、スパコンが日本を救う

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 日経クロステック 、 出版 日経BP
日本の誇るスーパーコンピューター富岳が2020年に世界一になった。しかも、4つのランキングすべてで世界一。しかも、圧倒的な一位。
スパコンの核となるプロセッサを開発する技術をもっている国は、アメリカと日本そして中国の3ヶ国のみ。ところが、このスパコン富岳で数億年かかる計算をわずか数分で解いてしまうのが量子コンピューター。
ここまでくると、何のこっちゃら、とんと理解不能な、雲の彼方の話になってしまいます。
コンピューターには、まるで縁のない生活をしている私ですが、なんか分かるところはないかと思って読みすすめました。
富岳というのは富士山の異名。高性能であって省電力。そして高い信頼性と使いやすさ。スパコン開発では常にトップグループにいなければダメ。2番手グループは、トップグループの誰かの背中を見てまねる。比較的簡単なこと。だけど、まねなので、技術はすべてトップグループのもの。それでは、波及効果は期待できない。自分たちの技術ではないから。これには、なるほど、なーるほど、と思いました。
以前のスパコン京は、売れなかった。これは失敗だった。うむうむ、そうですよね…。
世界最速(2019年)のスパコンの米IBMのスミットを使って1万年かかる計算をわずか200秒で解いたのが量子コンピューター。
量子は波のような存在で、0か1か、単純には決められない。それどころか、同時に両方でありうる。これを「量子重ね合わせ」という。量子コンピューターで計算が劇的に速くなるのは、この「量子重ね合わせ」の原理による。
まったくの門外漢である私がスパコン紹介の本を紹介してみました。
(2021年3月刊。税込1980円)

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