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長崎丸山遊郭

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 赤瀬 浩 、 出版 講談社現代新書
長崎の出島との関わりで、丸山遊郭で働く遊女たちは莫大な収入を得ていた。遊女たちは10歳から25歳ころまで働いたが、10両(100万円)の借金をかかえて商売をはじめ、運と実力があれば、揚代だけで年1000万円をこえて、一度に数百万円単位のプレゼントを受けとることもあった。遊女の収入は、家族・親戚そして出身地域まで潤していた。
遊女は、長崎の第一の「商品」だった。
長崎では、ほとんどの遊女は、実家と密に連絡をとり、遊女になったあとも、地域社会の構成員としての意識をもち続けていた。そして、奉行所をはじめ、都市をあげて遊女を保護し、嫌な仕事は拒むことも可能だった。現代の価値にして数千万円の収入を得る可能性もある遊女は、必ず長崎市中の出身者でなければならなかった。
長崎の遊女にとって、遊女奉公を終えると元の実家に戻り、結婚し、子を産むという、「普通の」生活サイクルに復帰するのが、ごくごく当たり前のことだった。
丸山遊郭は、1万坪ほどの空間に、最盛期は遊女1500人を擁していた。新吉原遊郭は2万8千坪、島原遊郭が1万3千坪ほどに比べると、やや狭い。
丸山遊郭では、外国人を客にとるという、他の遊郭には見られない独特の性格があった。それは、出島に居留するオランダ高官関係者と唐船で寄港する唐人。
唐人は、元禄時代に長崎に1万人も単身男性がいた。つまり、遊女たちの主客は唐人だった。唐人たちにとって、遊女の格式など、たいした意味はなかった。
長崎の住民は、大なり小なり、貿易に依存して生計を立てていた。
遊女には賢い者が多く、言葉も対応も巧み、化粧も上手で、美しい顔に見事な衣装を着けている。
14~15歳が妙齢、25歳になると廊を出る。30歳になると年寄り。
享保16(1731)年の1年間で、のべ2万人余の遊女が唐人屋敷に入り、銀高103貫690目(2億5千万円)に売り上げがあった。
遊女は、揚代の2割ほどの収入があったようだ。そして、収入源としてもっとも大きく魅力的だったのは、唐人とオランダ人からのもらいもの(プレゼント)だった。砂糖のほか、日用品、小物、装飾品をもらっていた。
遊女が出島のオランダ人の寵愛を得ると莫大な収入を得ることができた。そのため、遊女たちは、オランダ人の心に食い込もうと涙ぐましい営業活動をくり広げた。手紙がそのツールだった。
丸山遊女は、子を産む女性として認められていた。
出島のオランダ人のカピタンは30代、そのほかは10代、20代の男性。
円山遊郭の遊女は、女性であれば誰でもつとめられるような安易な稼業ではなかった。
遊女の取り分は、短時間の場合は4割、長時間だと3割だった。
長崎の丸山遊女の実際、そしてオランダ人・唐人との関わりについて、目を見開かされる新書でした。
(2021年8月刊。税込1320円)

韓国カルチャー

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 伊東 順子 、 出版 集英社新書
お隣の韓国を知るということは、実は、日本をよく知ることでもあるということを実感させられる本(新書)です。
韓国には、小学校から大学までのエスカレーター校はない。日本の慶応大学には、小学校(幼稚舎)があり、内部進学のルートがある。早稲田大学も同じ。韓国には、この内部進学という制度がない。日本の早慶とたとえられる高麗大学と延世大学にはエスカレーター式の附属高校はない。
日本の都会にみられる熾烈(しれつ)な中学受験はないし、東大にごっそり入る中高一貫の男子校もない。医学部も韓国では、他の学部と大きな差はないので高学費を理由として、私大医学部をあきらめる必要はない。逆に、日本以上に倍率が高いので、韓国では医者の子どもも医者にはなれない。日本によくある親子二代続きの病院も韓国にはない。韓国の大学入試は、機会的等、フェアな競争が大前提。
日本の東大の入学者の8割は男子学生だが、韓国のソウル大学では4割強が女子学生。
韓国で「 S K Y 」の意味は特別。ソウル大学(S)、高麗大学(K)、延世大学(Y)のこと。韓国では、この3大学の地位が突出して高く、雲の上の存在。
日本人が考える何倍も、韓国社会においては「学歴」の価値は重い。
韓国の財閥は伝統貴族ではない。彼らは経済活動に成功した人々であり、さらに重要なのは、その経済活動が現在進行形であること。この躍動感こそが韓国の財閥の魅力。国民に夢を与え続けている。
財閥ファミリーがすることを一般富裕層が追いかけ、さらに普通の人々もそれに刺激される。財閥は企業体として韓国経済を牽引するが、それ以外の面でも韓国社会に与える影響力はすさまじく大きい。
韓国の財閥ファミリーは、過去の身分制とはつながっておらず、創業者の多くは自らの力で成功した起業家。韓国では、財閥ファミリーは「公人」扱いされている。
韓国人には徹底した水平思考があり、財閥ファミリーは「別世界」などと分けてしまうことはない。
韓国の人口は5,000万人(北朝鮮は2,500万人)。海外同胞は700万人。ピーク時は毎年3~4万人がアメリカの永住権を取得していた。その結果、1970年当時は8万人だった韓国系移民が1990年代には100万人をこえていた。
首都のど真ん中に、かつては広大なアメリカ軍基地があった。今は、国立中央博物館や龍山家族公園になっている。
今では、アメリカ軍基地の中に、韓国人が憧れるようなものは何もない。
韓国人にとって、ベトナム戦争は非常に重い記憶である。日本は憲法9条のおかげで自衛隊の海外派兵は当時できませんでした。盛んだったベトナム反戦運動がそれを与えていたと思います。しかし、韓国軍はベトナムに派遣され、大勢の韓国人が戦死し、負傷して帰国してきたのです。ところが韓国経済は、それで立ち直ったと言われています。朝鮮戦争が日本経済に好景気をもたらしたのと同じですね。
私の孫たちも韓国に住んでいますが、学歴競争に巻きこまれず、のびのびと育ってほしいと願うばかりです。
(2022年1月刊。税込946円)

ウィグル大虐殺からの生還

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 グルバハール・ハイティワジ 、 出版 河出書房新社
中国の西方に新疆ウィグル自治区があります。ウルムチ、そしてトルファンには、私も一度だけ行ったことがあります。シルクロードの旅でした。トルファンは、まさしく炎熱砂漠地帯です。羊を目の前で殺してくれ、その羊肉をみなで美味しくいただきました。ウィグル族の抵抗運動が激化する前のことです。
ウィグル人は、スンニ派のイスラム教徒で、その文化は中国ではなく、トルコに起源がある。ウィグルの分離独立を目ざす運動があって、中国政府は厳しく弾圧している。街のいたるところに顔認証カメラと警官が配置されている。そして、2017年に再教育収容所が開設された。ここにのべ100万人ものウィグル人が入れられた。
新疆には、1200ヶ所もの再教育収容所があり、1ヶ所あたり250人から880人が入っている。収容所では、授業で暗記を強制され、グロテスクな軍隊風の行進をし、木製かセメント製の寝床で眠る前に、まず人格を奪われる。汚れたつなぎと布製の黒い上靴を身につけると、女性収容者はみな似かよった存在となる。そして、その瞬間から、名前ではなく、通し番号で呼ばれる。心が弱っていく。服従することによって、自分の好みや感情を押し殺す。
収容所のシステムは、生活に結びついていたものを次々に奪うことで、収容者の個性を消し去る。共産党をたたえる同じ言葉を何度もくり返す。プロパガンダづけになりながら、同じ熱心さで自分の再教育に励み、しだいに自分のアイデンティティを失っていく。みんなが一様に壊れていき、しまいには、肉体的にも精神的にも似たり寄ったりになる。無気力で、何も感じない。中身がからっぽの亡霊だ。人間ではなく、死者同然。
収容所では、まぶしい蛍光灯に照らされ、似たような授業、食事、行進の練習を続けさせられるうちに、時間の感覚がなくなっていく。
著者は、警官の暴力の前に屈してしまいました。心にもない「自白」をするほどまでに屈したのです。罪を認めるのが早ければ早いほど、ここから早く出られる、と聞かされていた。疲れ果てた末、その言葉を信じた。
その役割を受け入れたのは、無意味な再教育にしたがう境遇のなかで、ほかの出口は何もなかった。警察はきわめて巧みに人をあやつる。精神をしなわせて、無敵の盾のように使うことで、真実を決して忘れずにすんだ。
1949年に中華人民共和国が建国された。人民解放軍が新疆に進駐した。同時に漢民族の入植が本格化した。1949年にウィグル人は76%だったが、今や、ウィグル人と漢人は、40%台と拮抗している。
新疆では、「三、六、九の規則」したがって行動(申告)しなければならない。他人の訪問があったら住民は30時間以内に、地区委員会に知らせ、地区委員会は6時間以内に地元の警察署に知らせ、警察署は9時間以内にその訪問者の連絡先をファイルに保存するという決まりのこと。いやあ、すごいですね。こうやって人々の生活は隅々まで厳しく監視されているのです。
フランスからウソの名目で呼び戻され、収容所に閉じ込められたウィグル人女性が、自らの体験を実名で語った貴重なレポートです。
(2021年10月刊。税込2550円)

追跡、謎の日米合同委員会

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 吉田 敏浩 、 出版 毎日新聞出版
本当は、読めば読むほど腹が立ってきますので、こんな本は読みたくもないのです。いえ、著者に文句を言っているのではありません。日本という国が、いかにだらしないか、とてもまともな主権国家、独立国とは言えないことを再認識させられ、日本人として腹立ちがおさまらないということです。
日米合同委員会の議事録も合意文書も原則として非公開。ところが、その内容は、日本の高級官僚と在日米軍高官の合意が「日米両政府を拘束する」というのです。バカみたいな話です。
それで何が起きるのかというと、たとえば新型コロナウィルスの検疫が日本にいるアメリカ軍兵士に対してはできない。感染者の把握もアメリカ軍の発表にたよるしかない。
アメリカ人は、横田などの基地に自由に降りたちできる。そのとき、日本政府は検疫すらできない。実数把握もできていない。ひどいものです。
日本の上空にアメリカ軍は「横田空域」や「岩国空域」なるものを設定している。この両空域は、日本の空なのに、日本の航空管制は及ばず、管理はできない。空の主権がアメリカ軍によって制限・侵害されている。民間機を両空域から締め出して、アメリカ軍が軍事訓練・演習や空中給油や作戦出動のため独占・使用する軍事空域を「アルトラブル」という。これには固定型と移動型の二つがある。
古く、松本清張は、「日本の空は、ひき続き日本国のものではない」と喝破していた。本当にそのとおりなので、涙が出ます。
そして、アメリカ軍は、日本の上空で日本の民間機を標的として攻撃する訓練までしている。実に恐ろしいことです。直ちにやめさせなければいけません。だからあなたも、ぜひ読んでください。腹立たしいばかりなんですけれど…。
(2021年12月刊。税込1980円)

「トランプ信者」潜入1年

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 横田 増生 、 出版 小学館
4年間のトランプ現象。分断を煽(あお)り、混沌をつくり出した。これが2021年1月6日、ワシントンDCの連邦議会議事堂を「トランプ信者」たちが暴徒と化して占拠するという前代未聞の暴挙をもたらした。
トランプは、あらゆる場面で、自分の味方と敵に分け、味方を絶賛し、敵をこきおろした。
トランプに敵対する議論をはるメディアを「フェイクニュース」として罵倒し続けた。事実かどうかは関係なく、自分の盾突くメディアは、何であれ、フェイクニュースと呼んだ。支援者を集めた集会では、必ずメディア席を指さし、「あそこにフェイクニュースの奴らがいるぞ」とけしかけ、聴衆は一斉にメディア席にブーイングを浴びせた。
トランプは、トランプが語ることなら、何でも信じたいという鉄板支持層を開拓することに成功した。その中心は白人層。近い将来、人口比で少数派に転落するだろう、それを不安視する白人層だ。
トランプは、大統領の4年間、分断と混沌がつくり出した対立軸という細いロープの上を歩く曲芸師のように、絶妙なバランスをとりながら政権運営してきた、稀有(けう)な政治家だとも言える。連邦議会議事堂を暴力的に占拠した事件は、現職のアメリカ大統領が企てたクーデターだ。トランプは、アメリカ史上もっとも嫌われた大統領だ。
ロシアの侵略戦争が始まったころのゼレンスキー大統領の支持率は30%前後の低さだった。ところが、ロシアによる侵略戦争が始まると、8割以上の支持率にはねあがった。
トランプ大統領の支持率は平均41%、最低は34%。50%を超えたことがない。
ブッシュ(子)政権は90%、クリントン政権73%、オバマ政権69%。これに比べると、トランプがいかに人気がなかったか、明々白々。そして、トランプの不支持率のほうは、47%が最低で、60%に達したことが5回もある。
トランプの演説は、原稿を読まず、プロプターを見ることもない。数字や固有詞を間違えずに、よどみなく話す。その緩急をつけた話術は、聴衆の心をつかみ、飽きさせることがない。
トランプの演説は、大衆の感情を煽り立て、不安につけこみ、怒りに火をつける扇動者を連想させる。聴衆はトランプの手のひらの上で転がされ、歓喜し、叫び、怒りながら、大満足して帰っていく。
アメリカ社会では、一般に、社会主義というのは、マイナスの意味あいが含まれている。
社会主義体制では、人々の個々の能力や努力は評価されない。均等に富が分配されるので、競争原理が働かず、社会全体が停滞してしまう。アメリカ人の多くが、まだまだ「アメリカン・ドリーム」の幻想から脱け出せていないようです。残念です。
アメリカの二大政党のうちの共和党は白人中心の党だ。トランプと、その政治手法を考えるうえ、ウソと切り離して話をすすめるのは不可能だ。トランプとウソは、密接にからみあっている。トランプのウソは次元が違う。その回数と頻度、また自分の再選に有利だと考えたら、たとえウソだと指摘されても、何度でも同じウソを繰り返す。
アメリカでは、居住区分を三つに分ける。一つは、裕福な白人が多く住む郊外。その二は、黒人などが住む都市部の低所得者地域。その三は、白人を中心として、農業・酪農従事者などが住む、カントリー・サイド(田舎)。
トランプは、オバマに対しては激しい怒りと憎悪を示す。オバマケアをまっ先に廃止しようとした。しかし、オバマケアに代わる政策なんてないものだから、司会者から、代わる政策は何かと訊かれたとき、壇上で立ち往生した。
トランプが何より恐れたのは、新型コロナのせいで、自分の再選が危機に直面すること。つまり、アメリカ国民の生命と健康なんて、トランプにとっては、どうでもいいのです。自分に幻想を抱いて、とっとと死んでしまえというのです。
トランプは科学を軽視し、役職者を任命する基準は役職にふさわしい実績があるかどうかではなく、トランプへの忠誠心があるのかどうか…。
トランプ自身も郵便投票を2回も実行しているのに、郵便投票だからこそ多くのインチキ投票があるというのは根本的に間違っている。
トランプのツイッターには8800万人ものフォロワーがいた。
今の共和党は、トランプ党になったし、なっている。トランプが大統領を退いてから設立した。
著者はフリーランスの記者として、「トランプ信者」のように装ってトランプの選挙運動にボランティアとして加わって取材していたのでした。いやあ、日本でもそこまでやるのでしょうか…。フリーランス記者は、まったくあなどれませんね。
(2022年3月刊。税込2200円)

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