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私たちはどこから来て、どこへ行くのか

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 森 達也ほか 、 出版 ちくま文庫
映画監督であり、作家である著者が、各界の理系知識人と対話した本です。
人間の身体は非常によく出来ているように見えるが、実は不合理なものもたくさんある。
クジャクのオスのきらびやかな飾り羽がモテるオスのカギだ。そう思って、その裏付けをとろうとして研究をすすめていった。ところが、鳴き声のほうが正確な指標だということが判明した。うひゃあ、意外でした…。
神経細胞は、増えないまま、少しずつ少なくなっている。少しずつ死んでいって、数が一定数以下になると、神経細胞としての統制が保てなくなる。
深海底にすむチューブワームは3000から4000メートルの海底に生息している。一本のチューブのような身体で海底に根を張っている。でも植物ではない。虫でもない。分類上は動物。ところが、動物なのに口がない。ものを食べない。
チューブワームは、植物のように独立栄養で、デンプンなどをつくる。海底火山から出る硫化水素を使う。酸素と硫化水素からデンプンをつくり、自分たちのエネルギー源としている。
チューブワームの大きさは、最長3メートルもある。硫化水素と酸素の供給が多いところでは、1年で1メートルも大きくなる。極端に少ないところだと、1メートル育つのに1000年かかると推測されている。なので、チューブワームの寿命は数千年という可能性がある。
宇宙の真空とは、文字どおり空っぽで何もないということなのだが、実は、ふつふつとエネルギーが湧いているところでもある。エネルギーがあるというなら、質量もあることになる。この真空のエネルギーが、暗黒エネルギーにつながっていく。暗黒物質(ダーク・マター)は、光学的に観測できる量の400倍もの質量が存在することが判明した。つまり、目には見えないけれど、引っぱっているものがあるはずだ、ということ。
スーパーカミオカンデが1998年に発見したニュートリノ振動現像によって、ニュートリノにも、ごくわずかな重さがあることも判明した。このニュートリノは左巻きに回っていて、反ニュートリノは、右巻きに回っている。
「動画」なんて存在しない。フィルムなら1秒24コマ、ビデオなら1秒30コマの静止画が連続して動くので、これを見た人は「画が動いている」と直感で感知する。
人は自分で思うほど自由に自分の意識をコントロールしていない。人の自由意思は、実のところ、とても脆弱だ。
正解がはっきりしているときには、コンピューターは強い。ところが、囲碁のように、選択肢が無限に近いほど多いので、大きな限界がある。
脳の機能はつぎはぎだらけ。
私たちヒト(人間)が宇宙で宇宙人を見つけたとき、その相手を生物とすら認識できないだろう。宇宙人は、自分たちなりの宇宙の法則をもっていてもおかしくない。
ぐんぐん、私たちの視野を広げていってくれる文庫本でした。
(2020年12月刊。税込1045円)

ツバメのひみつ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 長谷川 克 、 出版 緑書房
ツバメは地球規模で減少している。日本でも、10年前に比べて10分の1になっている気がする。
いやあ、本当にそうですね。ただ、私のところでは、今日も巣立ったばかりの子ツバメが飛行の練習中のようでした。というのも、畑の上を少し飛んでは、地上におりてくるからです。
昔、ツバメが多いときには、ツバメ釣りをしていたとのこと。ええっ、何のため…。もちろん、食べるためです。ツバメって、肉があまりついていない気がしますし、カラスと同じで、あまり美味しくはなさそうですが…。東南アジアの国(どこでしょう…)では、毎年10万羽のツバメが食べれているとのこと。ええっ、ウッソーと叫びたくなります。
ツバメは、赤ちゃんのとき、巣のなかで殺しあいのケンカをすることはない。兄弟間で本気で突くこともない。
ツバメの親は、子ツバメが巣立ったあとも、子の世話をしばらくは続ける。巣立ち後の子育ては大事で、巣立ち後、長くエサをやっていると、巣立ちビナの生存率が高まる。
日本のツバメは東南アジアからはるばる飛行してやってくる。ツバメは、昼間に、数羽で「渡り」をする。春の渡りは、一気に渡る。そのスピードは、7日で3000キロメートル。
ツバメのメスは、オスが「ジージー」と鳴くと、ヒナの声と混同して、間違って近づく。
ツバメのメスは、夫以外のオスと浮気して、子をなしている。また、自分の夫が魅力に欠けるときほど、浮気をして子をつくる。
ヨーロッパのツバメでは婚外子は3割もいるのに、日本では、わずかに3%のみ。
ツバメは日本に帰ってくるのは50%。前年に連れ添った相手との婚姻再開は、なかなかむずかしく、65%は離婚している。
ツバメについて、さらにいろんなことを知ることができました。それにしても、ツバメが空を飛んでいるのをじっと眺めていると、気が休まりますよね…。
(2020年8月刊。税込1980円)

人類の起源

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 篠田 謙一 、 出版 中公新書
DNA研究がすすみ、今までの通説がひっくり返ってしまったことも珍しくありません。たとえば、ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスと交雑しなかったとされていたのが、今では交雑を繰り返していたことが判明しています(これはDNA研究の成果です。どうして、そう言えるのか門外漢の私には、とんと不明です)。
現生人類(ホモ・サピエンス)がネアンデルタール人の祖先と分岐したのは60万年前のこと。そして、その後も、ネアンデルタールや他の絶滅人類とも交雑していたというのです。DNAを調べたら交雑していることが判明するというのは素人の私にも何となく想像できます。でも、それが何万年前のこと、と時期まで特定できるというのが不思議でなりません。
人類の起源は200万年前。5万年前、ホモ・サピエンス(現代人類)は、いくつかの集団に分かれていた。その一つがネアンデルタール人と交雑し、世界に広がっていった。ところが、現代ヨーロッパ人を形成する集団はネアンデルタール人とほとんど交雑していない。なので、現代ヨーロッパ人は、ネアンデルタール人のもつDNAをわずかしかもっていない。
ネアンデルタール人は、女性が生まれた集団を離れて、異なる集団の中に入っていくという婚姻形態をとっている。これはチンパンジーと同じでしたっけね。ホモ・サピエンスが種として確立したのは、アフリカ。アフリカのどこなのかは、まだ決着ついていない。今のところ、中央アフリカがもっとも可能性が高い。ネアンデルタール人とかクロマニヨン人とか、中学校そして高校でよく学ばされましたよね…。
人類の進化がどんなものだったのか、それを学校でどう子どもたちに教えるのか、教師としての悩みはきっと尽きませんよね。でも、ワクワクする面白さがあります。だって、知らないことを知ることができますからね…。
(2022年3月刊。税込1056円)

13枚のピンぼけ写真

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 キアラ・カルミナ―ティ 、 出版 岩波書店
ところは北イタリア、ときは第一次世界大戦のころ。平和な村に戦争が急に押し寄せてきた。オーストリア・ハンガリー帝国がセルビアに対して宣戦布告した。1914年7月のこと。
オーストリアに出稼ぎに来ていたイタリア人一家は急に帰国を迫られた。最初に一家が失ったのは仕事だった。男だろうが、女だろうが、おかまいなしに…。
出稼ぎに行っていた大勢の村人がいっぺんに帰郷したから、北イタリアの村は、お祭りさわぎになった。みんなと再会できて、毎日が村祭りのようだった。
だけど男たちには仕事がなかった。何週間かたつと、戦争が恐ろしいかぎ爪をむき出しで、家々の戸を引っかき、村から男たちを連れ去った。
そして、教会の司祭は人々に説教した。
「祖国は今、人民の忠誠心と勇気を必要としていて、誇りとともに祖国を守り抜く必要がある。戦争は、それほど長くは続かないだろう。祖国のために死ぬことを恐れてはならない。それにより、永遠の英雄になれるのだから…」
しかし、こんなことを言う司祭の声は、どこか変だった。いつもなら、自分の言葉でしっかり伝えようとするのに、今日の言葉は、なんだか自分でも心の底では信じていないみたいだ…。主人公の女の子は、おかしいと思った。
主人公の母親はオーストリアに味方するんだろ、とわざわざ文句を言いにくる者がいた。まず長男が軍隊にとられ、次に父親も軍隊にとられた。こちらは戦士ではなく、工兵として働かされる。村には、女性と子ども、そして老人だけが遺された。すぐに終わるはずの戦争は、長く続いた。
主人公は13歳の少女イオランダ。イタリアの村に戻りますが、やがて父も兄たちも軍隊にとられ、少女に恋する少年まで軍隊に入ります。そして村はオーストリア軍が占領して、逃げ出し、母と絶縁した祖母のもとへ…。
戦争は、男の人たちがはじめるものなのに、それによって多くを失うのは女の人たちなの…。
ロシアがウクライナへ軍事侵攻して4ヶ月になります。大勢の市民が殺され、傷ついています。そして、双方とも何万人もの若い兵士たちが死んでいったようです。戦争は、本当はむごいものです。
ドローンが上空から撮った動画によって戦車が爆撃され、焼失していく映像を見るたびに、この戦車には4人か5人の若者たちが乗っていたんだよね…、と悲しみを抑えられません。
戦争の不合理さを少女の眼からじんわりと伝えてくれる小説です。
タイトルからは、とても内容が想像できません…。いいのでしょうか…。
(2022年3月刊。税込1870円)

『西岡芳樹先生を偲ぶ』

カテゴリー:司法

(霧山昴)
西岡芳樹、 自費出版
大阪の西岡芳樹弁護士(20期。以下、西岡さん)が昨年8月に77歳で亡くなって1年たとうとしているとき、すばらしい追悼文集ができあがりました。
 私も寄稿者の一人です。それは、西岡さんが日弁連の憲法委員会(今は憲法問題対策本部に発展的に改組された)の初代委員長で、私は、その次の次の委員長を3年間つとめたことによります。私の直前の委員長は村越進弁護士で、日弁連会長選に出馬するというので、なぜか福岡の私に声がかかったのです。
そして、この3人は、みな大学生のころセツルメント活動にいそしんだという共通項があります。私が川崎セツルで、西岡さんは亀有セツル。
この本によると、西岡さんの配偶者の恵子さんもセツラーで、ダンパで初めて出会ったらしいのに、西岡さんには何の記憶もなかったらしいとのこと。
灘中、灘高卒の西岡さんは、麻雀、パチンコ、ダンス、ボーリング、なんでもござれだけど、「何をしても虚(むな)しい」と言っていたのでした。
長めの髪をオールバックにして耳にひっかけ、細身のマンボズボンに明るい紺色のブレザー。これは、まことに生真面なセツラーにはそぐわない、「派手くるしい格好」。亀有のハウスにも、法相部ではなく、文化部に土曜日ごとにそんな格好でやってきたそうです。いやあ、川崎にはそんな派手な格好のセツラーはさすがに見かけませんでしたよ…。
弁護士になってからも相変わらずのダンディーぶりは変わりませんでした。この文集でも何人も指摘しています。
ちなみに、この冊子の編集責任者の岩田研二郎弁護士(33期)も、亀有セツルと同じ足立区の鹿浜セツルのセツラーです。
恐らく、このセツルメント活動をきっかけとして西岡さんは労弁になることを志向して、駒場で司法試験の勉強を始め、本郷の3年生のとき、さっさと合格したのでした。
そして、結婚するときに恵子さんに言ったのは…。
「ぼくはビジネスで弁護士をやるのではない。ワークでやるのだから、経済的には期待しないでほしい」
似たようなことを、娘(三女)にも西岡さんは言ったそうです。
「商売で弁護士をやってるんじゃない」
西岡さんは、文字どおり人権派弁護士として最後までがんばりました。
西岡さんが弁護士として取り組んだのは、弁護士会の人権擁護委員会(医療問題)、そして憲法委員会を別にすれば、中国在留日本人孤児国賠訴訟とマンション問題。実は、私は今も築20年以上のビルの建築瑕疵の修理代をめぐる裁判を担当していますが、その消滅時効の問題をいかにクリアーするか悩んでいて、インターネット検索したところ西岡さんの論文がヒットしたのです。それで、旧知の仲なので西岡さんの自宅兼事務所に電話をかけて教えを乞いました。いつものように優しい口調で教えてもらって助かりました。まさか、それほど西岡さんの病状がひどいとは夢にも思いませんでした。
西岡さんは、へビースモーカーだったようで、死因も肺ガン。それでも、何回も死の淵から生還し、娘や孫たちを励まし、喜ばせたようです。西岡さんがすごいのは、そのときの食事。好きなものを好きなように食べたのです。抗ガン剤のあとも、食欲があまり低下せず、恵子さんの手づくり肉じゃが、虎屋の羊かん、そして店のカレー、うなぎ弁当、かりんとう万十、チーズケーキ、プリン。いやはや、なんとも…。
実は西岡さんは自ら料理人でもありました。でっかいマグロを自分でさばいたというのには私はびっくりたまげてしまいました。
いやあ、すばらしい追悼文章です。
「自分の人生に悔いはない」と西岡さんは家族にもらしたとのこと。まことにそのとおりです。でも、昨今のキナ臭い状況をみると、西岡さんは、彼方から、なにしてるんや、なんとかせいやと渋いダミ声で叱咤激励されそうです。いえ、先生、なんとかがんばりますから…、と返したいものです。
(2022年6月刊。非売品)

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