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ひと喰い介護

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 安田 依央 、 出版 集英社文庫
著者は司法書士というだけでなく、ミュージシャン、そして作家だそうです。この本は司法書士の体験も踏まえたものということです。
孤立した高齢男性たちが、より孤独で残酷な死にひきずり込まれていくという救いのない状況が描かれています。登場人物の多くは、自分のことしか考えず、悪に立ち向かうヒーロー役が登場して悪人たちを退治するというストーリーではありません。残念です。
著者は巻末の対談の最後で、高齢者のあいだでも分断、孤立化がすすみ、そこに付け込みたい人にとって「入れ食い」状態になるだろうと予測していますが、私も放っておくと、そうなるだろうという気はしています。だって、認知症かそうでないかは簡単に判別できませんし、高齢者介護施設も千差万別ですからね…。
高額の寄付金を出させる高度のテクニック…。24時間、誰かが付き添っているオーダーメイド介護は1日4万円とか6万円もする。
意思能力が完全に欠如していれば、成年後見制度が残っているのですが…。
高齢の入所者たちは、話し相手を渇望している彼ら彼女らから話を聞きだすのは非常に簡単なこと。プライバシーに関わることすべて、親族のこと、資産状況をふくめ洗いざらい引き出してしまう。
陥れられて入った施設では、四六時中、甘いものを与えられ、歯をみがくのを嫌がった結果、もともと多かった虫歯を悪化させ、次々に歯を失って、ついには、咀嚼ができず、流動食しか食べられない状態に置かれてしまう。すると認知症がさらに進行する。
介護施設に親を預けたまま、面会に来ない人も少なくない。
言葉巧みに高齢の人に接近し、その人の子まで引きずり込もうとする。今や恐るべき社会になっている。
この本を読むと、「いかに安らかに余生を過ごす」という施設でインチキが起き、それがバレないというのです。起こりうる話なので、明日の我が身…と考えざるをえませんでした。騙されてしまったという惨めな気分を味わうことになりますが、これも社会に存在するのでしょう。身が震えてしまいます。明日は我が身なのではと…。
(2018年12月刊。税込847円)

住宅営業マン・ぺこぺこ日記

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 屋敷 康蔵 、 出版 三五館シンシャ
住宅営業マン…、あまたある営業職のなかでも群を抜いたハードワーク。きわめて高い離職率を誇っている。一生に一度の高い買い物として、数千万円のお金が動く現場はきれいごとの通じない世界。会社から、「目標」という名のノルマを課され、お客からは過剰な要求、ときに不当なクレームをつけられる。
タマ「ゴ」ホームの固定給は「生かさず殺さず」ほどの金額、つまり、22万円。これに成果を出して歩合給がプラスされて、ようやく生活が成り立つ仕組み。うまくいけば年収1000万円以上も夢ではない。歩合給は、契約金額の1.2%を着工時、上棟時、完工時に3部割で支給される。
イベントの景品だけをもらいにくる「客」がいる。ところが、本気で住宅購入を考えている客ほど、景品をもらいたがらない。その逆に、景品目当ては客にならない人ばかり。
タマ「ゴ」ホームにはノルマはなく目標があるだけ。しかし、いつのまにか「目標」は「ノルマ」にすり替わっている。3ヶ月以上も契約がとれない営業マンは「接客停止」処分となる。 そして、精神的に追いつめて、自主退職の流れをつくる。
また、成績の悪い営業マンの罰ゲームとして、飛び込み営業させられる。成績が悪いと、こうなるよ、という見せしめに使われるのだ。
住宅メーカーによって、金額・坪単価にはかなりの開き(差)がある。これは、広告その他の諸経費・人件費をどれだけかけているかの差でもある。
規格設計と自由設計…。規格住宅は、間取りや外観の自由度がないだけでなく、設備のグレードも落ちて、見劣りしてしまう。
住宅営業マンは、客のもっている「お金のニオイ」に敏感だ。でも、その判断を見誤ることがある。そして、来た人のなかで、誰が決定権をもっているのかを探るのが肝心。本当にお金をもっている人は、逆にもっているフリをしない。
今日、家を買おうとは思っていない人に、今日、家を買わせるのが住宅営業マンの仕事だ。タイミングを逃がすと、客の住宅購買意欲は下がってしまう。
きのう初めて展示場に来た客に、今日、契約の確約をもらい、明日、契約する。所要3日で押し込む。これが、スーパー短期間クロージング。
住宅営業マンは、お客の前で理想の人間を演じ続ける、「一流の詐欺師」でなければならない。多くの人が、家という名の「夢」を買いに来る。
タマ「ゴ」ホームでは、頻繁に入社して退職するため、そもそも新入社員が長く働き続けることを期待していない。
タマ「ゴ」ホームでは、毎朝の朝礼で、まず額縁に入った社長の写真に向かって「おはようございます!」と挨拶する。これって、いかにも軍隊調ですよね、ひどく違和感があります…。
私の依頼者に、何人も住宅営業マンがいました。少しは、その苦労話を聞かされていましたので、話として、良く理解できました。それにしても大変な仕事ですよね…。いつまで、こんなハードな仕事をやれるものでしょうか…。でも、社会的には必要な仕事なんですよね。
(2022年6月刊。税込1430円)

災害と復興、天明3年、浅間山大噴火

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 嬬恋郷土資料館 、 出版 新泉社
嬬恋村(つまごいむら)と言えば、キャベツの産地として日本に名をとどろかせていますよね。高原キャベツの産地として断トツの日本一です。1933(昭和8)年にキャベツの初出荷がなされたといいますから、古いと言えば古いわけですが、江戸時代からキャベツを栽培していたわけではありません。私もキャベツは大好きですが、ビタミンUもビタミンCもたっぷり含まれていて、美容と健康にいいのですよね。
村の人口は9500人。村の3分の2は、上信越高原国立公園に含まれている。
天明3(1783)年に3ヶ月に及ぶ浅間山大噴火によって村は壊滅的は被害を受けた。浅間山は、今もたびたび噴煙をあげる活発な活火山。
浅間山の大噴火による被害者は1490人以上、流失倒壊家屋は1300戸以上。
そして、この災害は、天明の飢饉を深刻化させた要因ともなっている。
山の中腹にある観音堂まで逃げ上がった93人だけが助かったと言われ、現在15段の石段があるが、実はかつて150段ほどあったのが、大半は埋もれてしまった。石段の最下段で、逃げようと石段を駆け上がろうとして2人の女性の遺体が発見されている。
被災した家屋の建物から、ガラス製の鏡が出土しているというのには驚きました。当時は大変に貴重なものだったはずですが、いわば庶民の家にあるのが見つかったのですから…。
ここらあたりでは、馬を使って物資を運ぶのを仕事とする人々が大勢いたようです。それで、馬を200頭以上も飼っていたとのこと。すごいですよね、これって…。
江戸幕府から被災地の現場見まわりとして派遣された人々たちは、真面目に仕事をしていたようです。藩としては熊本藩が指名されています。
村を再生させるため、夫を亡くした女と妻を亡くした男を結婚させる、親を亡くした子と亡くした親を養子縁組させ、家族の再生が図られた。こうして再婚者7組の集団結婚式が挙行された。そういうこともあるんですね…。
大変幅が広く、また奥行きの深さも実感できる本でした。
(2022年3月刊。税込1980円)

宮廷女性の戦国史

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 神田 裕理 、 出版 山川出版社
現代の私たちは、天皇がいて、皇后がいるのは当然のこと、夫がいて妻がいるのと同じと考えています。ところが、この本によると、14世紀の南北朝時代から17世紀の江戸時代の初めまでの300年のあいだ、皇后はいなかったというのです。ええっ、では誰が天皇の世継ぎを生んでいたのか…。それは、後宮女房たち。
なぜ皇后がいなかったのか。それは、この300年間、朝廷にはそれだけの財力がなかったから。皇后を立てる(立后)の儀式を挙行する費用がなかったこと、立后したあと必要になる「中宮職(しき)」という家政機関(役所)を設立・維持するだけの財力もなかった。
また、娘を皇后として出せるはずの上流公家にも、それほどの財政状態になかったので、娘を入内(じゅだい)させようという積極的な動きがなかった。
立后が復活したのは江戸時代の三代将軍家光のとき。二代将軍秀忠の五女・和子(まさこ)が入内することになった。
女房職(しき)の相伝については、ある「慣習」があった。すなわち、後宮女房は、出身の「家」によって、就くべき職(ポスト)が決まる傾向にあった。
『お湯殿の上の日記』は、後宮女房によって、かな書き、女房詞(ことば)で書かれた執務日記。なんと室町時代から江戸時代まで350年間も書きつづられている。いやあ、これは知りませんでした。こんな日記があっただなんて…。
日記の書き手は後宮女房で、天皇は何日かおきに日記に目を通していた。ときに、天皇が自ら記すこともあった。贈答(献上・下暘)についても、目的・品目など、こまごまと記されている。食料品は、当時の食生活の一端を知ることができる。たとえば、織田信長から朝廷へ鶴が10羽、献上された。鶴は長寿の薬とされていて、食用として珍重されていた。
女房詞には、現代にも残っているものがある。しゃもじ、おでん、おひや、さゆ、おみおつけ、おこうこ、など…。
朝廷をゆるがす大スキャンダル(密通)事件がたびたび起きていたことも改めて知りました。後宮女房と公家衆の密通事件は、それほど珍しくはない。しかし、慶長14(1609)年のものは、関係者があまりに多数だった。公家衆8人、地下人(じげにん。医師)、後宮女房衆5人。
幕府に仕える女房たちは、将軍権力の一端を担う幕臣でもあった。そして、幕府に訴訟がもち込まれたとき、女房たちも深く関与した。
日本の女性が昔から政治に深く関わっていたことを明らかにしている本でもあります。
(2022年4月刊。税込1980円)

私たちはどこから来て、どこへ行くのか

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 森 達也ほか 、 出版 ちくま文庫
映画監督であり、作家である著者が、各界の理系知識人と対話した本です。
人間の身体は非常によく出来ているように見えるが、実は不合理なものもたくさんある。
クジャクのオスのきらびやかな飾り羽がモテるオスのカギだ。そう思って、その裏付けをとろうとして研究をすすめていった。ところが、鳴き声のほうが正確な指標だということが判明した。うひゃあ、意外でした…。
神経細胞は、増えないまま、少しずつ少なくなっている。少しずつ死んでいって、数が一定数以下になると、神経細胞としての統制が保てなくなる。
深海底にすむチューブワームは3000から4000メートルの海底に生息している。一本のチューブのような身体で海底に根を張っている。でも植物ではない。虫でもない。分類上は動物。ところが、動物なのに口がない。ものを食べない。
チューブワームは、植物のように独立栄養で、デンプンなどをつくる。海底火山から出る硫化水素を使う。酸素と硫化水素からデンプンをつくり、自分たちのエネルギー源としている。
チューブワームの大きさは、最長3メートルもある。硫化水素と酸素の供給が多いところでは、1年で1メートルも大きくなる。極端に少ないところだと、1メートル育つのに1000年かかると推測されている。なので、チューブワームの寿命は数千年という可能性がある。
宇宙の真空とは、文字どおり空っぽで何もないということなのだが、実は、ふつふつとエネルギーが湧いているところでもある。エネルギーがあるというなら、質量もあることになる。この真空のエネルギーが、暗黒エネルギーにつながっていく。暗黒物質(ダーク・マター)は、光学的に観測できる量の400倍もの質量が存在することが判明した。つまり、目には見えないけれど、引っぱっているものがあるはずだ、ということ。
スーパーカミオカンデが1998年に発見したニュートリノ振動現像によって、ニュートリノにも、ごくわずかな重さがあることも判明した。このニュートリノは左巻きに回っていて、反ニュートリノは、右巻きに回っている。
「動画」なんて存在しない。フィルムなら1秒24コマ、ビデオなら1秒30コマの静止画が連続して動くので、これを見た人は「画が動いている」と直感で感知する。
人は自分で思うほど自由に自分の意識をコントロールしていない。人の自由意思は、実のところ、とても脆弱だ。
正解がはっきりしているときには、コンピューターは強い。ところが、囲碁のように、選択肢が無限に近いほど多いので、大きな限界がある。
脳の機能はつぎはぎだらけ。
私たちヒト(人間)が宇宙で宇宙人を見つけたとき、その相手を生物とすら認識できないだろう。宇宙人は、自分たちなりの宇宙の法則をもっていてもおかしくない。
ぐんぐん、私たちの視野を広げていってくれる文庫本でした。
(2020年12月刊。税込1045円)

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