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自衛隊海外派遣、隠された「戦地」の現実

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 布施 祐仁 、 出版 集英社新書
自衛隊を国連の平和維持活動(PKO)のために派遣する法律(PKO法)が制定されたのは1992年6月のこと。それから30年たった。これまで、海外15のミッションに自衛隊は派遣され、参加した自衛隊員は1万ン2500人(のべ人員)。今や、その一人は自民党の国会議員になっている。世論は、すっかり受け入れ、定着しているかのように見える。しかし、果たして、その実態を十分に知ったうえで、日本国民は受けいれているのだろうか…。
実際のところ、日本政府は日本国民から批判されるのを恐れ、PKO法にもとづく自衛隊員派遣の現場で起きたことをずっと隠してきた。
政府文書は黒塗りされたものしか公表されてこなかった。
南スーダンに派遣された自衛隊員が書いていた日報は「既に廃棄した」とあからさまな嘘を言っていたが、実は存在していて、あまりにも生々しい現実があったことが国民の目から隠されていたことが発覚した。
イラクのサマーワに自衛隊が派遣されたとき、実はひそかに10個の棺も基地内に運び込んでいた。自衛隊員の戦死者が10人近く出ることを当局は覚悟していたのだ。
自衛隊がサマーワにいた2年半のあいだに、周辺地域には、総額2億ドル超が投下された。要するに、日本政府は安全をお金で買っていたのです。
サマーワでは幸いにして、一人の戦死者も出しませんでした。ところが、なんと、日本に帰国してから、陸上自衛隊で22人、航空自衛隊で8人が自殺しているのです。それほどサマーワでの体験は過酷でした。このように、戦地に出かけて滞在するというのは強烈なストレスをもたらすものなんです。それを知らずして、戦争映画のDVDを自宅のテレビで見ているような感覚でとらえて議論してはいけないと思います。広く読まれるべき、貴重な新書です。
(2022年4月刊。税込1034円)

薬草ハンター、世界をゆく

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 カサンドラ・リア・クウィヴ 、 出版 原書房
義足の女性民族植物学者、新たな薬を求めて、というのがサブタイトルです。
父親はベトナム戦争に従軍し、そのとき浴びた薬剤の影響で、右脚を切断しなくてはならなくなった少女が医学を志し、アマゾンで薬草に魅せられ、世界各地に薬草を求めて歩く半生が語られています。
学者として一人前になるまでの苦労がすさまじいのですが、若くして学者になったあとも、陰険教授とか威張りちらす教授、セクハラ教授などとも戦わねばならなかったという女性学者としての苦闘も明らかにされています。
アマゾンで子どもたちがおやつとして食べるアリ。大きくふくれたアリを指でぎゅっとしぼると、とろりとした半固形状の液を吸う。著者も真似して食べてみた。すると、しばらくして嘔吐に苦しむ破目になった。それはそうでしょうね…。
アマゾンの生物多様性の根源である森の破壊がどんどん進んでいる。そして、それは、現地の人々から、長年にわたって蓄積されてきた植物に関する知識の喪失も意味している。いやあ、本当に残念です。目先の利益だけで多くの人々が動いているのです。
野生植物は、飢饉や戦争を生きのびるための日常的な食材であると同時に、その植物が健康に良いという信念と結びついていた。おもに女性が、栽培種や野生の植物を用いての日々の健康に対処する知恵をもっている。
著者は、伝統両方に深い敬意と関心を寄せている。それが、西洋医学の欠点や短所の批判に終わっていないのは、著者自身がなんども感染症の治療を受けた経験があるから。抗生物質耐性菌に効く新薬を植物から発見することが著者のライフワーク。そして、MRSAとあわせてコロナ・ウィルスへも対処しようとしているのです。
この本を読むと、アマゾンの乱開発は人類の未来を狭め、危くしていることを改めて考えさせられます。目先の牛肉、そしてゴールド(金)のために、人類の先の長い未来を放棄するのは許されない選択だと思います。
それは、電気不足になりそうだから原発(原子力発電)を最大(再)稼働させようというのと同じ、短絡的な、間違った考えです。一刻も早く、一人でも多くの人が、このことに気がつき、声をあげることを願っています。大自然は奥深いものがあると実感させられる本でもありました。
(2022年3月刊。税込2530円)

クモの世界

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 浅間 茂 、 出版 中公新書
わが家には、本当にたくさんのクモがすみついています。たまに手のひらほどの大型のクモが室内を徘徊することがあり、そのときは室内ホーキで外に追い出します。芥川龍之介の「クモの糸」を読んでから、クモを殺すことは絶対にしません。
クモって、どんな生きものなのか、よくよく分かる新書です。
日本には1700種のクモがいて、半分は網を張り、残り半分は徘徊性。我が家のクモも、半々です。クモは世界中に5万種いて、南極大陸以外のすべての大陸に分布している。
クモは8本の脚をもつ。昆虫は6本脚。そして、クモは頭と胸が一つになっている。
クモの多くは、人間にとって毒液の毒性はほとんどない。
クモは糸を出すのが特徴。一生涯を通じて糸を出す。歩き回っているときも必ず糸を引いている。
クモは、地中性のクモから造網性のクモ、そして徘徊性のクモへ進化した。
地中性のクモは一般に長生きで、成体になるのに3年以上かかり、飼育下では9年以上という記録もある。
ジョロウグモは、オスは7回、メスは8回脱皮して、成体になる。オスが早く成体になって、脱皮中のメスと交尾する。
日本のカバキコマチグモは母グモが子グモに自分の体を与える。
うひゃあ、自分の体を子グモに食べさせる母グモがいるんですね…。
クモは、一般的に、メスよりオスが小さい。「ノミの夫婦」という言葉があるが、それよりはるかにオスは小さい。
徘徊性のクモは、視力がそれなりに優れている。造網性のクモの視力は、あまり良くない。
オオジョロウグモのメスは5センチほどもあり、網にかかった鳥やコウモリを捕食する。
クモは紫外線を利用する。クモは擬態する。刺激を与えると、一瞬で体色を変えるクモがいる。クモは変温動物。
クモが壁にへばりつけるのは、原子・分子間で生じる引力、ファンデルワース力による。
クモの糸には、粘着性のある糸とない糸がある。クモの糸の先に粘球がついている。
口から粘球を吐きかけて獲物を捕らえるクモがいる。
クモは、獲物にかみつき、牙の孔から毒液を出して注入し、麻痺させて動けなくする。そのあと消化液を注入して溶かし、半ば消化されたものを吸う。
一般にクモは肉食性で、何でも食べる。クモを専門に食べるクモもいる。
クモだけを専門に狙う狩りバチがいる。
このように、クモは生態系の中で、中間捕食者として、捕食者であり被食者でもあるという役割を果たしている。
コサラグモのオスは、魅惑的な分泌液をメスにプレゼントして、その間に交尾する。
アシナガグモのオスは、食べられないようにしてからメスと交尾する。
クモの糸は軽く、同じ太さでは鋼鉄以上の強さをもち、かつ、しなやか。今のところ、まだ、自然界のクモ糸を越えた人工クモ糸は合成されていない。前に、このコーナーで、クモの糸をより集めて、強い糸をつくったという実験結果を報告したことがあります。
クモの不思議な生態がぎっしり詰まった、カラー写真いっぱいの楽しい新書です。
(2022年4月刊。税込1100円)

ダマして生きのびる虫の擬態

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 海野 和男 、 出版 草思社
小さな大自然の驚異をたっぷり味わうことのできる写真集です。木の葉そっくりのコノハムシ。どうして、こんな色と形、模様ができたのか…。
昆虫が意思をもって擬態を発展させてきたとしか思えない。でも、昆虫自身は自分の姿を客観的に見ているはずがない。それなのに、どうして、こんな芸当ができるのか…。本当に不思議、フシギです。
昆虫の擬態と隠蔽の姿のオンパレード。何かの姿に「化けて」誰かをだましている。
団塊世代の著者は50年以上かけて、昆虫の擬態を観察し、撮影してきました。なので、写真もバッチリ、解説文もバッチリ。
木の葉に似せるにしても、色も形も異なっている。すると、昆虫のほうも、それにあわせていろんな葉の色や形にあわせている。
コノハムシのメスは木の葉にうまく擬態しているため、飛ぶことができない。すると、オスがメスのところにまで飛んでいかないといけない。なので、もちろんオスは飛べる。
著者が日本一すごい擬態の巧者としているのはムラサキシャチホコ。長野県や東北地方にフツーにいるガの仲間。必ず葉の上面にとまる。すると、光が上からあたって、丸まった枯れ葉のように見える。ところが、これは、実際には、翅が丸まっているのではなくて、たんに前翅と胸の模様の陰影によって立体的に見えているにすぎない。
ホシミスジは、おとりをつくって身を隠す。
マレーシアには、枯れ葉そっくりの彼はカマキリがいる。まさしく枯れ葉そのものです。そして、メスの葉が葉に似ている。それは卵をうむメスは重要なので、オスより上手になったのだろうと著者は推測しています。いやあ、ホントでしょうか…。
色や模様で捕食者を脅かす昆虫がいます。翅を開いたマレーシアのセンストビナフシは、まさしく扇子を開いた格好をしています。
バラの茎にいる昆虫は、バラのイバラまで形も色も似せます。
ハチでないのに、ハチに似せた生き物がこんなにもたくさんいるというのも驚きです。縞(しま)模様はハチの印なのです。
突然、目玉が出てくるヤママユガも、不気味そのものです。よくぞ、こんな色と形を思いつき、それを体現したものです。これも何か、誰かの意志のたまものなのでしょうか…。大自然はまさしく不思議だらけです。だから生きているって面白いのですよね。
(2022年6月刊。税込2640円)

弁護士のすすめ

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 宮島 渉、多田 猛 、 出版 民事法研究会
この本には、若い人たちに弁護士になることを強くすすめたいという思いがあふれています。まったく同感です。そもそも弁護士志望が減っていると言われて久しいのですが、予備試験の受験者は1万5千人をこえているのですから、私はそうは思いません。
今や、あちこちで「弁護士不足」が指摘されています。九州各県の弁護士会は、福岡を除いて、せいぜい微増です。そして、大都会志向はますます強まっています。
いま、企業に勤務する弁護士は2820人(2021年)。その団体である日本組織内弁護士協会(JILA)は、司法試験の合格者を2000人とすること、合格率を70%とすることを求めている。
現状は、合格者1500人です。これを以前から1000人にまで減らせ、若手弁護士は食べていけなくなっている、見殺しにしていいのかと声高に叫び続けている人たちがいます。私は、そうは思いません。少なくとも合格者1500人は維持する必要があるし、若い人には東京だけでなく地方都市にも目を向けてほしいと考えています。
1000人減員を主張する人の多くは、福岡のあさかぜ法律事務所のような弁護士過疎地対策の拠点事務所の持続になぜか冷たいという共通点があります。でも、弁護士独占を法律で認められているのに、弁護士過疎地があっても仕方がないだなんて、そんなワガママが許されるはずもありません。
さらに、法テラスに対しても批判的な人が多いというのも共通しています。たしかに、法テラスに対しては、もっと改善してほしいところは多々ありますが、それでも法テラスをなくせだとか、法テラスに依存するなと言われても、私は「はい、そうですか」とは絶対に言いたくありません。だって、お金がない人が法テラスを利用してようやく裁判手続を利用できているのですから。
「弁護士は食えない」という点についていうと、地方で法テラスと契約しないで弁護士が生きていくのは難しいという現実はたしかにあります。でも、私のように、法テラスと契約して、積極的に利用していると、事務所全体の売上の半分ほどを法テラスが占めていますが、決して「食べていけない」ということはありません。これは、大東京でも同じではないでしょうか…。東京だからといって、弁護士みんなが大企業や金持ち層を顧客にしているはずはありません。
73期の修習修了者の4分の1近くが、五大事務所(17%)と、新興二大手(6%)に就職している。これは、恐るべき現象だと思います。東京三会への登録率は、この10年間で、46%から62%に上昇しています。いやはや、なんという東京志向でしょうか…。これに大阪、愛知の2県を加えると、同じく63%から76%へ上昇しているのです。
企業内弁護士への需要が増えているだけでなく、地方自治体でも積極的に弁護士を職員として採用しようというところが増えています。私は、とてもいいことだと思います。
そして、五大事務所や新興二大事務所の弁護士初任給は1000万円から1200万円とのこと。私の事務所では、考えられない高給です。
合格者1000人へ減員せよと叫ぶ人は、裁判所の一般民事事件の減少を根拠とします。たしかに、ひところの過払いバブル時期と比べると民事事件は減っています(この本では、地裁は7%増だとしています)が、その代わり家事事件は大きく増えています。
そして、弁護士の側の工夫も求められていると私は考えています。じっと何も宣伝しなくても客はやって来るというのは古いのです。
以上が、この本の前半ですが、実は、この本の読みどころは後半で、弁護士がいかに魅力にあふれた職業なのかを本人たちが語っているところにあります。
弁護士過疎対策で、ひところ「松本三加(みか)現象」とまで言われた松本弁護士(54期)は、北海道にある紋別ひまわり基金法律事務所で2年間やりとげたあと、アメリカに留学し、今は福島県で活躍しています。日本企業が海外展開するのをサポートする弁護士として活躍している弁護士もいます。たいしたものです。
弁護士の未来は明るいのです。ぜひ、弁護士を目ざしてほしいと思います。
(2022年6月刊。税込1540円)

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