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裏切り(上・下)

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 シャルロッテ・リンク 、 出版 創元推理文庫
 著者はドイツ在住のドイツ人なのに、イギリスを舞台とするミステリー小説です。文庫本で2冊の分量ですが、次々に起きる残虐な殺人事件の動機が不明なのです。被害者の1人は、イギリスのスコットランド・ヤード(警視庁)の独身女性刑事の父親の元警察官(警部)。いったいなぜ元警部が残虐な殺され方をしたのか…。その動機の解明は下巻の最後にまで先送りされます。
 途中で浮かびあがった犯人は典型的なDV男。我が子に無関心な両親から捨てられたという思いでいた女性が、DV男の見かけだけの優しさから、ついには隷従状態と化してしまいます。どんなに叩かれ、馬鹿にされても、この人なしでは自分は生きていけないという思いからDV男の言うなりについていくのです。それはまるで統一協会の信者のようです。他人の忠告もききめがなく、目が覚めることがありません。
 警察のなかの人間関係も寒々とした印象です。殺人犯人を検挙して成績をあげなければいけないので、とてもストレスがたまる職です。アルコールに頼ってついに中毒患者にまでなってしまう警部が登場します。
 ドイツでは2015年に160万部と、もっとも売れたミステリー小説だそうで、その評判どおりなのか、そこに関心があって読んだのでした。時間がつくれる方には一読をおすすめします。それだけの価値はあります。
 残虐な殺人の動機がこの本の最後で、やっと解明されます。なーるほど、…、そう思って初めからストーリー展開をたどると、あまり無理のない動機におさまっています。ネタバラシはしません。最後に、この本の末尾の文章を紹介します。
 「人は極限状態を体験したあとでは、決して元の生活を完全に取り戻すことはできない。いちど受けた損傷は、もう治らない。これからは、ひとつの重荷を背負って生きていかねばならない。その重荷は二度と降ろすことができないかもしれない。でも、どれほど辛かろうと、これは今なお私たちの人生なんだから…」
 最後まで、ハラハラしながら読ませますので、ドイツで大ベストセラーになったのも当然だと思いました。
(2022年6月刊。税込1320円)

深海学

カテゴリー:生物

深海学
(霧山昴)
著者 ヘレン・スケールズ 、 出版 築地書館
 この本を読んで、私は二つの謎に直面しました。その一は、地球上の海が、いったい、どうやってこれほど大量になったのか、ということです。だって、地球は生成当時は「火の玉」だったわけですよね。それが冷たくなったとしてても、水が簡単にできるはずはありません。さらに雨粒ができたとしても、今のような大海になるなんて、いったい、どれくらいの年月がかかることでしょうか…。200メートルより深い海の水の総量が10億立方キロメートル。アマゾン川は、80分ごとに1立方キロメートルの水を海に流しているが、この量で深海全体を満たそうとすると、15万年かかる。いやはや、「海の水はなぜ塩辛い」という難問の前に、なぜ海水はこんなに大量にあるのか、どこから来たのか、のほうがより難問ですよね。その答えは、今のところ、太陽系の外縁から氷の彗星が初期の地球に衝突して水が供給されたというもの。つまり、水の起源は宇宙(空)から降ってきたものなんです…。
 もう一つの疑問は、深海に光が届かいのはなぜか、です。海面から1000メートルより深い深海には太陽光は届かず、漆黒の闇となる。では、光の粒子は、いったいどこへ行ってしまったのか。光の粒子を吸収したものって、何なのか…。私には理解できません。また、もう一つ、光って粒子であると同時に波でもあったのですよね。だから、光は、何万光年も先まで届き、また、やって来るのでしょ。波は、いったい、どうやって深海中で消えてしまったというのでしょうか…。これら疑問の答えを、ぜひ教えてください。
 マリンスノー(海の雪)は、おもに植物プランクトンや動物プランクトンの死骸や糞で、それらがプランクトンやバクテリアの分泌する分子からできる粘着性物質でつなぎ合わされている。
 マッコウクジラは推進2000メートルまでフツーに潜れる。3000メートル近くまで潜ったという記録もある。なぜ、そんな深海までマッコウクジラは潜れるのか…。マッコウクジラは独自の手法で体に酸素を蓄えている。つまり、筋肉や血液中に酸素を蓄える。血液は糖蜜のようにドロドロ。それは、酸素と結合するタンパク質であるヘモグロビンが詰まった赤血球の占める体積が多いから。
 ミログロビンというタンパク質は、酸素と結合して、筋肉を黒に近い色に染め、必要なときに酸素を放出する。マッコウクジラは深海では、心拍数を下げて、蓄えた酸素の消費量を減らす。そして、潜水中に必要のない臓器への血管をふさいで血流を止め、その分で生かせる酸素を脳と筋肉に使う。
 マッコウクジラは、深海では音を突発的に発し、音響定位で獲物のイカを探して、追いかけ、食べる。まるで、水中版巨大コウモリのよう。
 深海には地上の光が届かないので、真っ暗。ところが、深海には発光する魚類がいる。
 深海に生息する魚類は、きわめて良い視力を進化させた。どの魚も生物発光を感知するため。目は超高感度になり、網膜には、数十もの光・色素をぎっしり並べて異なる波長の光を見分けることができる。そのため、ほかの動物が発する弱い光の点滅が見えるだけでなく、発する光の色の違いも見分けられる。
 深い海に生息する生き物の多くは寿命がとても長い。深海の動物たちは、何事も時間をかけ、ゆっくりと成長し、わずかばかりのエサが通りかかるのを待ち、次の交尾の機会がめぐってくるのを辛抱強く待つからか…。
 深海をめぐる深刻な問題点も指摘されています。その一は、マイクロプラスチック。その二が、地上の有毒廃棄物を深海に捨ててきたこと。その三が、放射性物質の捨て場になってきたこと、です。いずれも本当に深刻な問題だと思います。
 深海をめぐる根本的な問題が、いくつかの光をあてて浮きぼりにされていて、大変勉強になりました。人類が末永く生きていくためには、今を生きる私たちのやるべきことは多いことを痛感させられました。見えないから何もしなくてよいという問題ではないのです。
(2022年6月刊。税込3300円)

統一協会の何が問題か

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 郷路 征記 、 出版 花伝社
 統一協会(教会ではありません)と35年にわたって対峙・対決してきた著者が安倍元首相を殺害した山上容疑者の母親の置かれている状況を深く深く突っ込んで解説しています。これを読むだけでも、この800円の小冊子(ブックレット)を読んだ甲斐は十分にあります。
 統一協会が対象とする人は次の3条件を備えている人。その1、預貯金が100万円以下の人は誘わない。お金のない人を誘うのはムダなこと。目標は100億円の預貯金のある金持ちをゲットすること。その2、素直な人に限る。何事も疑ってかかる人はコスパが悪い。その3、宗教心があること。あの世を全然信じないような人はダメ。占いを信じる人ならOK。
 印鑑販売に始まり、氏名判断をする。このときのトークは、運勢があなたの人生に影響している。先祖の悪霊が家系を通じて、あなたの不幸につながっている、というもの。霊界や因縁の話を聞かされて、迷信と思わず、実在すると感じる人が一定割合でいる。そんな人を統一協会は狙う。そして、ビデオセンターに誘導する。このときは、統一協会の教養は徹底的に隠しておく。ビデオセンターを受講すると、少なくとも1割、著者によると25%以上が統一協会員になる。
 霊人体が存在し、霊界で永遠に生きるという講義内容を素直に受け入れられない人は、「卒業させる」、つまり追い出してしまう。
 統一協会の神は、悲しみの神だ。サタンが人間を奪っていってしまったことに対して手を出せず、何もすることができず、6000年間、涙にくれていた神。今から6000年前というと、日本では思いあたりませんが、古代エジプト王国があったのでしょうか…。
 山上容疑者の母親(この冊子ではA子さん)の夫は自殺しています。
 配偶者を自殺で失ったときの自責の思いは、他人が想像もできないほど格別に深い。
 ここに統一協会はつけこみ、原罪をもっているあなた(A子)は愛のある人格者でなかった、愛をもって夫を支えきれなかった、あなたの罪の故に、夫は自殺した。そのため、夫は地獄の深いところ、下から2番目のところで苦しんでいる。このようにA子は強い罪の意識を深めただろう。そして、そのとき、「救われる道はある」とささやき、「偽りの希望」を与える。そこにA子は飛びついたのだろう。
 ビデオセンターは、罪人である自分と家族が救われる方法を知るための場になった。
 罪の意識を持たされた人は、それが深ければ深いほど、切ない思いで救いを求め、メシアを渇望する。そこにメシアを与える。
 このとき、それでも罪の意識をもたせられない人は「卒業」させ、追い出してしまう。
 不安や恐怖を発生させる力をもつ因縁を実感させられ、記憶として定着させられてしまうと、不安や恐怖は意識の表層部分に常にあらわれていなくても、意識の下層に埋め込まれた状態になっているので、何かの拍子に不安や恐怖が沸きあがってきて、意思決定が歪められてしまう。これが、「因縁」の力。
 原理講義は理解させるのはなく、そのまま丸呑みすることを求める。
 A子を献金させ続けるための新しい理屈は「恨霊」。自殺した夫は恨霊になって地上をさまよっている。A子は恨霊になった夫をおさめるため、また小児ガンとなった長男の体のなかの恨霊を追い出すため献金を続け、さらに韓国・清平に何度も通った。
 そして、堕落性本性(よこしまな心)を自分の心から追い出し、きれいな心になるためには、物売りをすること、統一協会を増やすことが必要だと告げられ、実践していく。
 財産がなくなったら、借金してまで献金させる。また、親戚・知人に嘘をついて借金し、献金させる。すると、人間関係が全部切断されてしまい、統一協会に頼るしかなくなる。
 嘘をついての勧誘や物売り、嫌がらせの電話など、すべては神のため、メシアのため、善なので、やらなければならない。
 カインはアベルの言うことに絶対服従。自分の頭で考えることは禁じられ、やれと言われたら、やるという人間になる。
 「今はわかってもらえなくても、霊界に行けば、きっとわかってもらえる、感謝してもらえる」
 「私の使命は、そうすることによって息子たちを守ること。それは、私以外にできないこと」
 A子にとって、統一協会の存続、栄誉が第一の問題になっている。途中でやめたら、自分は地獄に行く。
 著者は、A子は、統一原理に頭を支配されている以外は、私と何の変わりもない人なんだと強調しています。そのとおりなのでしょうね。でも、これほど人間の頭をコントロールできるって、本当に恐ろしいことですよね。
 統一協会に入った人を救うには、論理・常識ではなく、愛がもっとも重要だとしています。
 文鮮明(故人)と韓鶴子の王になった即位式の写真が紹介されていますが、まさに「王」ですね。韓国の本部も「宮殿」でした。日本人の信者から騙しとった大金がつぎこまれた建物です。むかつきました。全文で100頁ですが、前半の50頁だけでも十分に統一協会問題の本質が分かると思いました。今、大いに読まれるべき冊子として、強く一読をおすすめします。
(2022年11月刊。税込880円)

最上氏三代

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 松尾 剛次 、 出版 ミネルヴァ書房
 出羽(山形)の雄将として名高い最上(もがみ)氏三代の栄衰史です。あまり期待もせずに読みはじめたのですが、いやいや、どうしてどうして、とても面白い盛衰記でした。
 初代の最上義光は家康の意を受けて、関ヶ原の戦いのとき、上杉景勝と一歩も引かずに激闘したおかげで、関ヶ原に上杉勢は行くことができなかった。その功績を家康は高く評価し、戦後、天皇に面会するとき義光を同行させたほどです。しかも、領地を一度に増やしてやりました。
 このときの家康の会津(上杉勢)攻めは、豊臣秀頼の許可を得て、秀頼から金2万枚、米2万石をもらっていた。つまり、これは家康の私戦ではなく、豊臣秀頼の承認のもとに行われた、豊臣軍による征討だった。
 ところが、石田三成が秀頼に働きかけて、家康を弾劾するようになったので、上杉景勝を征伐する大義を失った。それで、伊達政宗も二股外交に走り、上杉方と停戦するに至った。それでも最上義光は上杉勢との戦闘を続けた。しかし、上杉が120万石に対して、最上は13万石でしかない。単独で戦えば、勝敗は明らかだった。しかし、関ヶ原の戦いで西軍の石田方が敗北したことで、大きく局面は変わった。
 上杉勢に石田方敗北の報は9月30日に入った。結局、最上義光は13万石から57万石の大名となった。
 ただ、最上勢のなかに1万石をこえる大名クラスが15人もいて、山形藩の統治は難しかった。
 山形城には天守閣がない。城下整備などの土木事業は、百姓の疲弊をもたらす。最上義光は「民のくたびれにまかりなり候」と考えていた。
 最上義光は、父の義守と親子対立し、死闘を繰り広げた。そして、自分自身も子の義康と対立し、横死させてしまった。何の因果か…。
 これには、義康が豊臣秀頼の近習であったことから、家康が秀忠の近習だった家親を最上家の跡継ぎとするよう、そのため義康を排除するように義光に指示したのだろうとされています。
 なるほど、最上家にも豊臣秀頼と徳川秀忠のどちらにつくか、二つの流れがあったわけです。
 そして、その家親。家親は、秀忠の近習として、大変信頼されていたようです。ところが、家親はずっと秀忠のそばにいたため、山形藩のなかに直臣を形成することができなかったうえ、なんと36歳という若さで急死してしまったのです。
 すると、その次、三代目は、まだ12歳。いかにも頼りがない。重臣たちが、勝手気ままに分裂して、まとまりのない藩になった。そこで、「家中騒動」(重臣の不知)を理由として、改易を申し渡され、1万石に転落した。さらには、大名ではなく、5千石の旗本にまで降格された。
 最上家には、もう一つの悲劇が襲った。義光の娘が豊臣秀次に嫁入りしていたところ、秀吉に子(のちの秀頼)が出来たことから秀次は切腹させられ、同時に、秀次の妻妾たちも一挙に惨殺された。そのなかの一人に義光の娘が入っていた。しかも、娘の死を追うようにして義光の妻まで死んでしまった(恐らく自死)。
 戦国時代の武将が、なかなか厳しい人生を送っていたことを実感させられる本でもありました。
(2021年12月刊。税込3850円)

奈良絵本・絵巻

カテゴリー:日本史(中世)

(霧山昴)
著者 石川 透 、 出版 平凡社選書
 この本の冒頭に書かれていて、あっと驚いたのは、『ガリバー旅行記』に日本の絵本の影響が認められるということです。
 『ガリバー旅行記』は、イギリスの作家スウィフトが1726年に刊行したものです。私は原文を全文読んだ覚えはなく、ダイジェスト版の絵本を読んだと思います。でも、そこに、こびとの島や巨人の島、さらには馬人の島、天空の島が登場してくるのは覚えがあります。
 ところが、御伽草子(おとぎぞうし)の一つである『御曹司島渡(おんぞうし、しまわたり)』という、源義経が兵法書を求めて、さまざまな島を訪れるというストーリー展開の絵本があり、そこにこびとの島、背高島、馬人の島が登場するというのです。日本の絵本のほうが『ガリバー旅行記』より100年古い。いったい、これは、どういうこと…?
 スウィフトは、イギリスで駐オランダ英国大使の秘書をしていて、大使の遺品整理をしている。もちろん、オランダは江戸時代の日本と長崎・出島を通じて交流があった。そのなかに日本の絵本が含まれていた可能性は大いにある。そして、文章は読めなくても、絵を見るだけでストーリー展開は理解できる。空中の島も絵本の中にあり、スウィフトは最後に「日本」を登場させていることから、恐らく間違いないだろう。
 驚きましたね。日本の浮世絵がヨーロッパの絵画に大きな衝撃を与えていたことは知っていましたが、それよりもっと早い時期にも、日本の絵本がイギリスに伝わっていたとは…。
 奈良絵本とか絵巻というから、奈良時代か奈良地方でつくられたものかというと、いずれも間違い。奈良絵本・絵巻とは、17世紀を中心として、主として京都で製作された絵本・絵巻のこと。印刷ではなく、すべて手作り。豪華に彩色されていることが多い。その作者として、浅井了意がいるが、居初綱(いそめ)つなという女流絵本作家もいる。
 このあと、私たちがよく知っている昔話が、実は、昔はストーリーの結末が大きく異なっていることが、いくつも紹介されています。
 「浦島太郎」では、子どもが亀をいじめる場面はなく、浦島太郎は乙姫と結婚している。そして、太郎は船で蓬莱の島へ向かう。息のできない海中を進むような非科学的なシーンはない。なーるほど、そうだったんですね…。
 『鶴の草子』は「鶴の恩返し」のもとになった御伽草子だけど、室町時代から江戸時代にかけては、機織(はたお)りをするのは鶴ではなく、蛤(はまぐり)だった。
 『桃太郎』のもとになった『瓜子(うりこ)姫』では、日本の古い時代において円形状ないし卵状のものから誕生するのは、圧倒的に女子が多い。瓜から生まれた瓜子姫は、その代表的な存在。
 かぐや姫は、竹から誕生するのではなく、その多くは鶯(ウグイス)の卵から誕生する。そして、かぐや姫は月に帰るのではなく、富士山へ帰っていくのが多い。
 いやあ、知らないことばかりでした。物語って、こんなに内容が変遷していくのですね…。
(2022年7月刊。税込3960円)

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