法律相談センター検索 弁護士検索

「大地の子」(上)

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 山崎 豊子 、 出版 文芸春秋
 いま、戦前、応召して中国東北部(満洲)で工兵として働いていた叔父(父の弟)が、戦後、八路軍(パーロ。中国共産党の軍隊)の要請に応じて技術員として紡績工場に働くようになり、結局、1953年5月に日本に帰国するまで、9年ほど中国にいたときのことを調べています。
 この本の主人公・陸一心は、日本が満州に送り込んだ開拓団の孤児として、大変な苦労をします。満州開拓団はまさに侵略者の一員でしたが、その生活は惨(みじ)めなものでした。終戦直前に「根こそぎ動員」によって働ける男たちは兵隊にとられ、開拓団に残ったのは老人と女性と子どもばかり。そこへソ連軍が突如として襲いかかってきて、また、恨みを買っていた現地の人々からも襲われました。
 7歳だった主人公は両親と死別し、妹ともはぐれて中国人にさらわれ、こき使われ、さらには売りに出されました。そのとき、ひょんなことから中国人の良心的な小学校教師に救われ、そこで養われます。地域でも学校でも「日本鬼子」としていじめられますが、心やさしい中国人少年もいて助けられます。
 養親の期待にこたえて必死に勉強して工業大学に入り、鉄工所に就職。
 ところが、文化大革命の嵐のなかで「反革命分子」として吊るしあげられ、冤罪でモンゴルの労働改造所に送られてしまうのでした。ここでの生活もひどいものですが、心優しき看護婦と出会い、また、幼なじみが主人公を労働改造所から助け出そうと努力します。
 いえ、なにより養父のがんばりがすごいのです。教師の職をなげうってまで、主人公を救出しようと北京にのぼって陳情活動を続けるのでした。
 30年ぶりに読みましたが、迫害のひどさに胸を痛め、また、心優しき人々が主人公の救出に執念を燃やす姿に接し、目頭が熱くなりました。著者の筆力に、今さらながら感服します。私もぜひこんな小説を書いてみたいと思いました。
(1992年1月刊。税込1400円)

アウシュヴィッツのお針子

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ハーシー・アドリントン 、 出版 河出書房新社
 アウシュヴィッツ収容所の所長の妻などが、自分たちの服を見栄えよく仕立てるために、アウシュヴィッツ絶滅収容所に収容された若いユダヤ人女性たちを働かせていた実話です。彼女らはアウシュヴィッツ収容所から生きのびて、長寿をまっとうした人もいたのでした。
 アウシュヴィッツ収容所にファッションサロンがあり、このサロンのお針子の大半はユダヤ人。他に、政治犯で裁縫のできる女性もいた。これらのお針子たちは、友情とまごころの強いきずなでナチスに抵抗し、生き永らえることができた。しかも、親衛隊幹部夫人のために立派な服を仕立てるだけでなく、レジスタンス活動に加わり、なかには逃亡の計画を立てる女性たちもいたというのです。成功したケースも、失敗したケースもありました。
ナチス上層部の女性は、ナチスと同じく衣服を重要視していた。たとえば、ゲッペルス宣伝相の妻マクダ・ゲッペルスは、ユダヤ人のこしらえた衣服を臆面なく身につけていたし、国家元帥ヘルマン・ゲーリングの妻エミー・ゲーリングも同じくユダヤ人から略奪した豪華な衣服をまとっていた。
 アウシュヴィッツに婦人服仕立て作業場を設けたのは強制収容所のルドルフ・ヘス所長の妻ヘートヴィヒ・ヘス。このサロンのお針子の大半はユダヤ人。そのほか占領下フランスから送られてきた非ユダヤ人のコミュニストもいた。彼女らは、ヘス夫人をはじめとするナチス親衛隊員の妻たちのために型紙を起こし、布を裁断して縫いあわせ、装飾をつけ、美しい衣服をつくっていた。お針子たちにとって、縫うことは、ガス室と焼却炉から逃れる手段だった。
このサロンには総勢25人の女性が働いていた。サロンを指揮するのは、1942年3月に入所したハンガリー出身のマルタ・フフス。人気のファッションサロンを経営していた一流の裁断職人。お針子の大半は10代後半から20代はじめ。最年少はわずか14歳。サロンには十分な仕事があり、ベルリンからの注文でさえ、6ヵ月待ちだった。注文の優先権は、もちろんヘス夫人にあった。
 ファッション業界と被服産業からユダヤ人を追い出すことは、ユダヤ人主義が偶然もたらした副産物ではない。明確な目標だった。両大戦間のドイツでは、百貨店とチェーンストアの8割をドイツ系ユダヤ人が所有していた。また繊維製品卸業者の半数がユダヤ系だった。衣服のデザイン、製造、輸送、販売に携わる被雇用者の大きな役割をユダヤ人労働者が占めていた。ユダヤ人実業家の実行力と知力があったからこそ、ベルリンは1世紀以上ものあいだ女性の既製服産業の核とみなされてきた。
 ゲッペルスの妻マクダは、ユダヤ人のファッションサロンが閉鎖されたことを嘆いた。「ユダヤ人がいなくなったら、ベルリンからエレガンスも失われるってことを、みんな分かっているはずなのに…」
 戦後、生き残ったユダヤ人たちに対して、「なぜ抵抗しなかったのか?」と尋ねたときに返ってきたのは…。「起きていることが信じられなかったから」
 アウシュヴィッツ収容所から幸運にも逃げ出した人が外の世界で収容所内で起きていることを伝えたとき、人々の反応は「まさか、そんなこと、信じられない」というものでした。人間は、想像外の出来事については、まともに受けとめることができなくなるようです。
 衣服は人を作る。ぼろ切れはシラミを作る。衣服は尊厳と結びついている。後者はシラミが不潔な環境で湧くこととあわて、ぼろ切れをまとった人はシラミ扱いされることも意味している。収容所の外でも中でも、見た目がすべてなのだ。清潔で、まともな衣服は、人間であるという感覚を回復させてくれた。
 収容所の中では、ハンカチ、石けん、歯ブラシは、とくに重宝された。薬は金(きん)よりも貴重品だった。
 ファッションサロンの責任者である親衛隊女性エリーザベト・ルパートは驚くほど親切な看守だった。お針子たちに好意的に接したら、仕事の合間に、無料で服を縫ってもらえた。ただ、ほかの親衛隊女性隊員から不満の声が上がってビルケナウへ異動させられた。そして、異動先では威張りちらす残忍な人間と化した。場所によって、人間は良くも悪くも変わるのですね。
 お針子のノルマは、最低でも週に2着は注文のドレスを仕立てること。すべて無料でありながら、高級服仕立て作業場の仕事はきわめて質が良く、マルタの品質管理の目が行き届いていた。
 親衛隊の顧客は、その見返りとして、食べ物の余りやパン、ソーセージをもってきた。
 病気すると、レモン、リンゴそして牛乳が届けられることがあった。
 アウシュヴィッツに関する本はそれなりに読んできたつもりでしたが、このジャンルは欠落してしまいました。関心のある方に、ご一読をおすすめします。
(2022年5月刊。税込2475円)

100問100答

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 日本国民救援会 、 出版 日本国民救援会
 弾圧・干渉とたたかう心得と私たちの権利というサブタイトルのついた小冊子です。30年以上も前は、選挙のたびに警察による不当干渉があり、逮捕者が出ていました。
 私が担当したのは、政党演説会の告知ビラを市会議員が商店街で一軒一軒に声をかけながら配布していたのが戸別訪問にみなされるとして起訴された案件です。私は戸別訪問が買収・供応の温床になるとして取り締まりの対象になっているのは、当時も今も間違いだと考えています。ちなみに個々訪問は戸別訪問と違って許されます。
 アメリカもヨーロッパも戸別訪問こそが有権者が自らやれる選挙運動だとして、大いに推奨されていますが、当然です。戸別訪問と買収・供応とに必然的な関連性はまったくありません。一日も早く戸別訪問を解禁し、もっと自由に、のびのび選挙運動がやれるようにして、現在のような6割にも達しない投票率をせめて7割台にまで引き上げたいものです。
 警察は「不倫不党」ではなく、ときの政権与党に明らかに有利になるよう常時考えて行動している。
 街頭でビラ配りをするとき、通行人の妨害にならないように配布する限り、警察の許可は要しない。マンションへのビラ入れ活動も正当な活動。ただし、住人から注意されたら、その場で論争せずに速やかに退去したほうがいい。マンションのエントランスにある集合ポストへのビラ入れは住居侵入罪に該当しない。
 HP、ブログ、SNS(ツィッター、LINE)で、特定の候補への投票を呼びかけたり、候補者の演説の映像を流すのは自由。ただし、電子メールで投票依頼のメールを送ることはできない。なりすましや中傷は、もちろんNG。
 尾行されていることに気がついたら、その場で「なぜ私をつけるのか」と問いただし、抗議してやめさせる。一人では難しそうなら、友人・知人そして救援会にSOSを発信する。
 パソコンが押収されようとしたら、その場でファイルを一つひとつ開いて確認させ、必要なデータだけを印刷したり、関係ないファイルを持ち出させない。
 警察がビデオ・カメラで録画するのをやめさせられないのなら、こちら側からも録画を試みるべき。今では、ほとんどの人がスマホをもっていますので、録音・録画は昔と違って簡単です。
 黙秘権は、ずっと黙っていても、ときどき話してもいいけれど、終始一貫、何も言わず、ただ黙っているのが一番。目の前にいる捜査官の言うことは、完全に無視する。供述調書に署名・押印はしない。
 わずか110頁ほどの本文ですが、今の日本で、まだまだ本当に役に立つ小冊子です。あなたもぜひ手にとって読んでみてください。
(2022年7月刊。税込500円)

「検証・統一教会=家庭連合」

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 山口 広 、 出版 緑風出版
 統一協会・原理研・勝共連合問題の第一人者である著者が今から5年前に出版していたものが、先の安倍銃撃事件のあと、増刷されました。なお、この本の元になったのは、1993年春に刊行された『検証・統一協会―霊感商法の実態』です。このときは「統一協会」となっていますが、今回は「統一教会」となっているのは、世間一般の認識にあわせたのでしょう。でも、私はやっぱり「統一協会」と書くべきだと考えています。本人が「協会」としているのに、わざわざキリスト教の教会と混同させる名称を使うべきではないからです。統一協会は、キリスト教とは無縁だし、教会でもなく、要するに宗教に名を借りて「無知」の人々から大金を騙しとる詐欺集団、反社会団体なのです。ですから、統一協会を徹底的に批判するとき、宗教の自由など、まったく問題になりません。「カルト」指定して、活動禁止すべきなのです。
 裁判所は、統一協会のインチキ商法について次のように判決しています。
 「契約締結に至ると、不安感等を抱いた客の心理状態を巧みに利用して、即座に支払えるだけ現金を支払わせたうえ、印鑑を購入したことを他言しないように言って口止めをするというもので、巧妙で悪質である」
 統一協会は勢力減退中であり、若者の入信者が激減し続けているため、信者の高齢化が進行し、平均年齢は55歳。かつて合同結婚式に参加した信者夫婦の多くは50歳をこえ、多くの二世が成人しているが、その7割は統一協会から離れている。現在、統一協会は、既婚女性中心の2万人から3万人ほどの集団とみてよい。年150億円が国内運営費として必要であるが、韓国にある本部から年に300億円を送れと指示されているので、その資金獲得目標の達成を常に目標とする資金集め活動が中心の教団。
 文鮮明は、23歳年下の韓鶴子とのあいだに7男7女をもうけたが、そのうち4人は既に亡くなり、うち5人以上に離婚歴がある。
 韓国の統一協会の信者は、日本のように高額の献金はしない。
 韓国では、文鮮明は教祖というより、統一教グループの総師として、多くの会社を経営し、莫大な財産をもつ大金持ちとして知られている。
 「韓国人が人間なら、日本人は犬ころ以下」
 「韓国人ならこじきでも、日本人の貢献した人より上に立つ」
 こんな主張をしている団体と手を結んだ安倍元首相や高市、稲田らの日本右翼グループの存在意義を疑います。
 統一協会は、70人もの自民党の国会議員の秘書を送り込んだ。これらの「秘書」たちは、国会議員との政策のすりあわせもしていただろう。 国会議員は、統一協会の集会のメッセージやスピーチをする。また、政治献金を税金からもらう。
 1991年12月、文鮮明は突如、北朝鮮を訪問し、金日成とにこやかに握手した。これには驚きました…。反共を看板にしている団体が、最も過激な北朝鮮トップと手を握ったのですから…。
 文鮮明は、アメリカで脱税犯として裁判にかけられ、1年半の実刑判決を受け、実際にも服役した。文鮮明は2012年9月3日、92歳で死んだ。そのあと、後継者となるはずだった七男と四男はアメリカへ放逐されたのでした。莫大な利権のからむ後継者争いは、今、故文鮮明の妻・韓鶴子が握って、一応の決着がついているようです。
 統一協会の問題が明るみになった今、積年のウミにどっぷり浸ってきた自民党の国会議員たちには、いったん全員が辞職し、身体をきれいにして出直してもらいたいものです。
(2022年7月刊。税込2750円)

日米地位協定の現場を行く

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 山本 章子 ・ 宮城 裕也 、 出版 岩波新書
 日本のなかにあるアメリカ軍基地、そしてアメリカ軍の勝手気ままな行動を見るにつけ、日本は本当の意味で独立国家ではないことを痛感させられます。自公政権を支持している人は、アメリカに日本は守られているのだから、少しぐらいのことは辛抱すべきだと考えているようですが、私には、とても「少しぐらいのこと」とは思えません。
 たとえば、アメリカの大統領は日本に入国するのに、羽田空港ではなく横田基地を利用します。羽田空港と違って、横田基地はアメリカ軍人は全員フリーパス。入管の検査を受けることがありません。
 私は、これだけでも、ひどいと思います。コロナ禍の下でもそれは変わりませんでした。アメリカ軍の兵士と家族は、入出国が日本政府のコントロール下には置かれず、まったく自由なのです。信じられません。
 東京の港区六本木というと、東京のなかでも超一等地。そこにアメリカ軍基地があります。横田基地から、この赤坂プレスセンターまでヘリコプターで移動します。赤坂プレスセンターの宿舎は、1泊6千円で、一室に2部屋ある。こんなに安いのは、例の「思いやり予算」でまかなわれているから。
 アメリカ軍の関係者は、日米地位協定9条によって外国人登録が免除されているため、自治体に住民登録する必要がない。すると、住民税などの税金を負担しなくてよい。それでも、市民サービスの恩恵は受けている。住民税の代わりに調整交付金なるものが自治体に支払われるが、その原資は日本国民の税金であって、アメリカ軍は負担していない。ええっ、ウッソー、嘘でしょ、と叫びたくなります。
 2004年8月13日に普天間飛行場に隣接する沖縄国際大学にアメリカ軍の飛行機が墜落したとき、日本の警察すら現場から排除された。50人ものアメリカ兵が大学構内に無断進入し、1週間にわたって大学を占拠・封鎖した。これが日米地位協定の運用の現実です。日本政府は抗議のひとつもしませんでした。情けないというしか言いようがありません。
 沖縄では、アメリカ軍基地から大量の有害物質が流出している疑いがある。なので、付近住民は水道水は、そのまま飲まないほうがいい。泡消火剤に含まれているPFOS・PFOAの流出問題。これは有機フッ素化合物で、これによって子どもが低体重で生まれ、精巣がんや腎細胞がん、甲状腺疾患などに関連している疑いがある。なんと、なんと、ひどいものです。
 沖縄県知事選挙が始まりましたが、自公政権はアメリカべったりの政策をすすめるために、それに少しでも歯向かえば予算を削減するという、露骨なアメとムチ政策を続けています。でも、経済振興策って、平和を前提としていますよね。アメリカ軍の基地・宿舎をなくして、跡地を再開発して莫大な経済効果が生まれましたよね。アメリカ軍の基地を沖縄経済の発展を阻害していることは実証ずみなのです。沖縄県民の良識をひたすら信頼するばかりです。
(2022年5月刊。税込990円)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.