法律相談センター検索 弁護士検索

迫りくる核戦争の危機と私たち

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 大久保 賢一 、 出版 あけび書房
 2月に始まったロシアによるウクライナ侵略戦争は、いつ終わるか不明のまま、越年しそうで心配です。このロシアの戦争を前にして、日本も核兵器で武装すべきだとか、アメリカと「核」を共有すべきだとか声高に叫ぶ人々がいます。
 日本が核を持ったら、日本の平和が守れるなんて、ちょっと真面目に考えたら、ありえないことがよく分かるのではないでしょうか。なにしろ、日本は、日本海に面して、たくさんの原子力発電所をもっていますから、そこに通常兵器のミサイルを打ち込まれたら日本はおしまいなのです。
 3.11の福島第一原発は地震による津波被害という自然現象でした。それでも大変な苦労をしているというのに、ミサイルで攻撃された原子力発電所は膨大な放射能を出し続け、もう誰にもそれを止めることができません。
 世界には原子力発電所が434基もあるとのこと。つまり、地球規模で考えて、人類は核戦争を始めてしまったら、この地球上どこにも住むところがないことになるのです。まさしく、「核の冬」は人類を絶滅させます。
 この本の著者は、一貫して核兵器を直ちになくせと主張し、行動してきました。まったくそのとおりです。
 今ひとつの危険は事故によって核戦争が始まりかねないということです。現に、これまで、何回となく核戦争が起きそうになりました。それはあの悪名高い「キューバ危機」だけでなく、本当の事故です。人為的ミスがどうかは別として、核攻撃を告げるアナウンスが間違ってされたことは現に何度もあります。人間がやっていることですから、どうしても間違いは起こりえます。それを防ぐことはできません。これまで、たまたま重大な事故にならなかっただけなのです。
 ロシアの保有核弾頭は4630基で、そのうち1625基が実戦配備されている。
 ロシアは1キロトンの小型核兵器を2000発保有している。それを前提として、ロシアのプーチン大統領は核兵器をつかうぞと威嚇しているのです。本当に怖いです。
 「平和を望むなら、戦争に備えよ」
 「平和を望むなら、核兵器に依存せよ」
 世界には1万2千発の核弾頭があり、その運搬手段は高速化し、精緻化している。
 ところが、日本政府は相変わらずアメリカの「核の傘」に依存し続けていて、核兵器禁止条約に反対している。アメリカの核抑止力を損なうことになるからというのが理由。おかしな理屈です。
 核兵器は、戦闘のための手段ではない。相手方の力を弱めるための、相手方の敵意をそぐための「国際政治の道具」なのだ。これが核抑止論者の考え方。
 しかし、すでに核抑止論は破綻している。ウクライナはプーチンの核使用の威嚇にもかかわらず、戦闘を続けている。
 核による脅しは、現実には核軍拡競争を激しくしただけ。このように、核兵器によって平和と安全を確保しようとする核抑止論は、理論的に破綻しているというだけではなく、現実的にもその効用が証明されているものでもない。
 地球上に核兵器がもっとも多かったのは1986(昭和61)年で、7万発あった。それが、今では1万3千発に減っている。
 原資爆弾はまさしく「悪魔の兵器」なので、なくすしかない。まったくそのとおりです。
 今、多くの日本国民が物価高に苦しみ、年金の切り下げ、賃金の低下と不安定雇用で先行き不安をかかえているのに、軍事予算の増大に半分以上が賛成しています。先日のJアラート効果は抜群でした。日本政府が苦しい状況に置かれると、そのタイミングで都合よく北朝鮮がミサイルを打ち上げる。このタイミングの良さから、北京で日本政府が内閣官房機密費を原資として「賄賂」を提供しているという噂が消えません。いやあ、先日のJアラート効果は絶大でした…。政府の世論誘導に国民がすっかり乗せられています。
 いま、大いに読まれてほしい一冊です。著者の論文集、講演録を一冊の本にしていますので、重複が多いのが少し残念でした。著者より贈呈を受けました。ありがとうございます。ますますの健筆を祈念します。
(2022年11月刊。税込2420円)

パンダ「浜家」のファミリーヒストリー

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 NHK取材班 、 出版 東京書籍
 日本にパンダがいるのは、東京の上野動物園、神戸の王子動物園、そして和歌山・白浜のアドベンチャーワールドの3園だけ。
 40年以上も前に子どもを連れて上野動物園にパンダを見に行ったときは、昼間なのでお目あてのパンダは寝ていましたので、よく見ることができませんでした。神戸には行ったことがありませんが、白浜のアドベンチャーワールドにはすぐ目の前でパンダがゆったり歩き、竹を食べていましたので、それこそ大興奮しました。
 アドベンチャーワールドには2回行きましたが、パンダをじっくり見たいなら、やっぱりここです。白浜温泉に1泊して、ゆっくりパンダを眺めると、ストレス発散まちがいありません。
 「浜家」のパンダファミリーとは、中国と提携しているアドベンチャーワールドでオスのパンダ「永明(えいめい)」が次々に子をもうけ、なんと16頭ものパンダの父親となったことによります。その子どもたちは、白浜で生まれたので、みな名前に「浜」がついています。それで、永明につながるパンダを「浜家(はまけ)」のパンダと呼んでいるのです。
 パンダの寿命は野生では15年ですが、飼育していると30年は生きます。永明がまさに30歳。人間でいうと90歳。まだまだ元気です。おっとりした性格で、いつものんびりしているのがいいようです。人間も同じですね。
 この本を読んでパンダにも右利きと左利きに分かれていることを知りました。永明は右利き。竹を食べるようになると、よく使う手(利き手)が分かるそうです。
 パンダは竹だけを食べるのではありません。雑食性の動物です。やはりクマの仲間なのでしょうね。肉も魚も昆虫も食べます。アドベンチャーワールドでは、竹以外に補助食としてリンゴ、ニンジン、動物用のビスケットを与えています。
 竹でも、どんな竹でもパクパク食べるパンダもいるけれど、永明は竹の選り好みがとても激しく、気に入らないと少しかじってポイ、匂いをかいだだけでポイしてしまう。
 永明の好む竹を求めてスタッフは駈けずりまわり、ようやく園内に植えて、食材を確保したとのこと。
 パンダの眼はあまり良くないようだが、鼻と耳は、とても良い。飼育スタッフの声は、ちゃんと聞き分けている。
 ちなみに、白浜にパンダがたくさんいるのは、中国のパンダ基地にいるパンダが病気で全滅しないようにするための安全策という面もある。白浜で生まれたパンダが中国に戻っていくのは、そんな交換条件があるからでもあるが、とても合理的なシステムだと思います。もちつ、もたれつのいい関係なのです。
 それにしても、何度みてもパンダの写真集って、心がなごみますよね。パンダ、万才です。NHKの番組が本になっています。
(2022年7月刊。税込1430円)
 日曜日、よく晴れた気持ちのいい朝でした。
 フェンスにジョウビタキがやってきて、しきりに尾っぽを振って挨拶してくれました。ほんとうに可愛らしい小鳥です。
 フジバカマの花が、白い花も茶色っぽい花もまっさかりです。アサギマダラは来てくれないかなと見守っていると、茶色の派手なチョウが一匹やってきました。でも、アサギマダラではなさそうです。
 庭師さんに伸びすぎた本を刈り込んでもらい、庭がずいぶんすっきりしました。今は芙蓉のピンクの花が咲いています。
 午後から、チューリップの球根、そしてアスパラガスを植えました。春にそなえます。今年もあと2ヶ月、早いものですね。

咲かせて三升の團十郎

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 仁志 耕一郎 、 出版 新潮社
 江戸時代も後期の歌舞妓(かぶき)の舞台で大活躍した七代目・市川團十郎(だんじゅうろう)の半生記が見事に語られています。
 東西(とざい)、東西…。七重の膝を八重に折り、隅から隅まで、ずずずいーと、御(おん)願い申し上げ奉(たてまつ)りまする…。
 市川團十郎家が座頭をつとめる芝居小屋では、初代團十郎が初春興行で初めて「暫(しばらく)」を演じてから、二代目以降も見世興行の序幕は「暫」と定められている。
 市川團十郎家は、「成田屋」の屋号をもつだけに下総国(しもふさのくに)幡谷(はたや)村にある成田山新勝寺とは縁深い。江戸での出開帳(でかいちょう)の折には、代々の團十郎が不動明王を演じてきた。
 江戸庶民のあいだでは、不動明王には病を治す力が備わっていると信じられており、弟子たちも、やはり不動明王と縁深い成田屋だから…、と御利益(ごりやく)を信じて疑わない。
 役者の世界で「華(はな)がない」とは、観客を引きつける魅力がないということ。これだけは生まれもっての「天賦の才」というもの、芝居のうまい下手(へた)ではなく、顔の良し悪しでもない。
 「まだ若いから見えないだろうが、71年も生きてくると、若いころには見えなかった世の中の理不尽や不条理が、よーく見えてくるもんだよ」
 こんなセリフに接すると、「そうだ、そのとおり」と大声をあげたくなります。
 演技の優劣・うまい下手は背中に出る。とくに動きの激しい立役に比べ、仕草の小さい女形は舞台で巧みに背中を使い、台詞(せりふ)以上に喜怒哀楽を表し、観客の目を魅了しなければならない。いやあ、これは難しいことですよね…。
 芝居は上辺じゃない。役の心になりきれるかだ。どんなに顔が良くても、役の心、心の芸ができなければ、役者は下だ。心の芸ができてきたら、体も自ずと動き、台詞も重みを増す。それが役を演じるってこと。それができないのは、心に妙な物が棲みついて、濁(にご)っているからだ。
 江戸で人気の高かった相撲力士の雷電為右衛門は、「天下無双の雷電」と刻ませた鏡を寺に奉納したカド(廉)で、江戸払いとなり、戻ってはこなかった。
 歌舞伎は明治以降のコトバであって、江戸時代には歌舞妓と書いていたそうです。その歌舞妓の世界を情緒たっぷりに味わうことができる本でした。
(2022年4月刊。税込2640円)

裏切り(上・下)

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 シャルロッテ・リンク 、 出版 創元推理文庫
 著者はドイツ在住のドイツ人なのに、イギリスを舞台とするミステリー小説です。文庫本で2冊の分量ですが、次々に起きる残虐な殺人事件の動機が不明なのです。被害者の1人は、イギリスのスコットランド・ヤード(警視庁)の独身女性刑事の父親の元警察官(警部)。いったいなぜ元警部が残虐な殺され方をしたのか…。その動機の解明は下巻の最後にまで先送りされます。
 途中で浮かびあがった犯人は典型的なDV男。我が子に無関心な両親から捨てられたという思いでいた女性が、DV男の見かけだけの優しさから、ついには隷従状態と化してしまいます。どんなに叩かれ、馬鹿にされても、この人なしでは自分は生きていけないという思いからDV男の言うなりについていくのです。それはまるで統一協会の信者のようです。他人の忠告もききめがなく、目が覚めることがありません。
 警察のなかの人間関係も寒々とした印象です。殺人犯人を検挙して成績をあげなければいけないので、とてもストレスがたまる職です。アルコールに頼ってついに中毒患者にまでなってしまう警部が登場します。
 ドイツでは2015年に160万部と、もっとも売れたミステリー小説だそうで、その評判どおりなのか、そこに関心があって読んだのでした。時間がつくれる方には一読をおすすめします。それだけの価値はあります。
 残虐な殺人の動機がこの本の最後で、やっと解明されます。なーるほど、…、そう思って初めからストーリー展開をたどると、あまり無理のない動機におさまっています。ネタバラシはしません。最後に、この本の末尾の文章を紹介します。
 「人は極限状態を体験したあとでは、決して元の生活を完全に取り戻すことはできない。いちど受けた損傷は、もう治らない。これからは、ひとつの重荷を背負って生きていかねばならない。その重荷は二度と降ろすことができないかもしれない。でも、どれほど辛かろうと、これは今なお私たちの人生なんだから…」
 最後まで、ハラハラしながら読ませますので、ドイツで大ベストセラーになったのも当然だと思いました。
(2022年6月刊。税込1320円)

深海学

カテゴリー:生物

深海学
(霧山昴)
著者 ヘレン・スケールズ 、 出版 築地書館
 この本を読んで、私は二つの謎に直面しました。その一は、地球上の海が、いったい、どうやってこれほど大量になったのか、ということです。だって、地球は生成当時は「火の玉」だったわけですよね。それが冷たくなったとしてても、水が簡単にできるはずはありません。さらに雨粒ができたとしても、今のような大海になるなんて、いったい、どれくらいの年月がかかることでしょうか…。200メートルより深い海の水の総量が10億立方キロメートル。アマゾン川は、80分ごとに1立方キロメートルの水を海に流しているが、この量で深海全体を満たそうとすると、15万年かかる。いやはや、「海の水はなぜ塩辛い」という難問の前に、なぜ海水はこんなに大量にあるのか、どこから来たのか、のほうがより難問ですよね。その答えは、今のところ、太陽系の外縁から氷の彗星が初期の地球に衝突して水が供給されたというもの。つまり、水の起源は宇宙(空)から降ってきたものなんです…。
 もう一つの疑問は、深海に光が届かいのはなぜか、です。海面から1000メートルより深い深海には太陽光は届かず、漆黒の闇となる。では、光の粒子は、いったいどこへ行ってしまったのか。光の粒子を吸収したものって、何なのか…。私には理解できません。また、もう一つ、光って粒子であると同時に波でもあったのですよね。だから、光は、何万光年も先まで届き、また、やって来るのでしょ。波は、いったい、どうやって深海中で消えてしまったというのでしょうか…。これら疑問の答えを、ぜひ教えてください。
 マリンスノー(海の雪)は、おもに植物プランクトンや動物プランクトンの死骸や糞で、それらがプランクトンやバクテリアの分泌する分子からできる粘着性物質でつなぎ合わされている。
 マッコウクジラは推進2000メートルまでフツーに潜れる。3000メートル近くまで潜ったという記録もある。なぜ、そんな深海までマッコウクジラは潜れるのか…。マッコウクジラは独自の手法で体に酸素を蓄えている。つまり、筋肉や血液中に酸素を蓄える。血液は糖蜜のようにドロドロ。それは、酸素と結合するタンパク質であるヘモグロビンが詰まった赤血球の占める体積が多いから。
 ミログロビンというタンパク質は、酸素と結合して、筋肉を黒に近い色に染め、必要なときに酸素を放出する。マッコウクジラは深海では、心拍数を下げて、蓄えた酸素の消費量を減らす。そして、潜水中に必要のない臓器への血管をふさいで血流を止め、その分で生かせる酸素を脳と筋肉に使う。
 マッコウクジラは、深海では音を突発的に発し、音響定位で獲物のイカを探して、追いかけ、食べる。まるで、水中版巨大コウモリのよう。
 深海には地上の光が届かないので、真っ暗。ところが、深海には発光する魚類がいる。
 深海に生息する魚類は、きわめて良い視力を進化させた。どの魚も生物発光を感知するため。目は超高感度になり、網膜には、数十もの光・色素をぎっしり並べて異なる波長の光を見分けることができる。そのため、ほかの動物が発する弱い光の点滅が見えるだけでなく、発する光の色の違いも見分けられる。
 深い海に生息する生き物の多くは寿命がとても長い。深海の動物たちは、何事も時間をかけ、ゆっくりと成長し、わずかばかりのエサが通りかかるのを待ち、次の交尾の機会がめぐってくるのを辛抱強く待つからか…。
 深海をめぐる深刻な問題点も指摘されています。その一は、マイクロプラスチック。その二が、地上の有毒廃棄物を深海に捨ててきたこと。その三が、放射性物質の捨て場になってきたこと、です。いずれも本当に深刻な問題だと思います。
 深海をめぐる根本的な問題が、いくつかの光をあてて浮きぼりにされていて、大変勉強になりました。人類が末永く生きていくためには、今を生きる私たちのやるべきことは多いことを痛感させられました。見えないから何もしなくてよいという問題ではないのです。
(2022年6月刊。税込3300円)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.