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負動産地獄

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 牧野 知弘 、 出版 文春新書
 親から不動産を相続したとき、大都会では価値ある資産がころがって入ってきたと喜ぶ。しかし、田舎では、厄介者が来たという感じで喜ばれない。ホント、そうなんです。
 田畑だったら、1反(300坪)300万円はしていたのに、今では30万円もしないどころか、引き取り手がない。たとえ評価額が1000万円あっても、実際にはその1割でも買い手がつかない。つまり、利用する人が見つからないということ。評価額が高いのは、市役所が固定資産税を高くとりたいからというだけで、実情を反映していない。
 相続人になったら、不動産はいらない、お金だけは欲しい。それが一番多いのです。
 かつてのニュータウンでも、子どもたちが戻って住み続けることがないため、ゴーストタウン化が進行中。
 私のすむ団地では、真っ先に子ども会がなくなりました。次に、老人会もなくなり、公民館も存続が危くなり、市内の連協役員会には出ない、独立した存在として、辛うじて今も続いています。
 老人会がなくなったのは、老人はいても、その取りまとめ役の人がいないということです。あまりに高齢化して、同じ町内でも歩くのがおっくうになってしまったのです。病院にだって、送迎つきで出かけます。
 タワマン(タワーマンション)が次々に建っています。もちろん、私のすむ町ではありません。東京、そして福岡市内です。首都圏(1都3県)には、925棟(2020年)ありました。日本全国でみると、2021年以降の計画で、280棟(うち首都圏が173棟)ある。だいだい、タワマンは1戸1億円以上する。いったい誰が購入するのか…。相続税対策として購入する。借金してタワマンを購入すると節税効果はとても高い。
 そして、貸家(アパート)が増えている。これも相続税対策。借金してアパートを建てる。不動産業者が20年間の賃料を保証してくれる。ところが、実は、この賃料保証には、条件がついている。業者側の指示で一定のリニューアルをオーナー側がすることが条件。ところが、リニューアルの費用は意外なほど高い。そこでオーナーがその条件を拒絶すると、賃料保証のタガがはずれて、アパート間競争の渦に投げ込まれてしまう。
 つまり、意外に商品寿命の短いアパートなんかに長期で多額のローンを組むのは考え直したほうが良いということ。
 「お隣さんに売れ」。これが地方にある実家の不動産を処分するときの必勝法。隣人とはケンカすることなかれ…、です。
 マンション内の老人の孤独死は珍しくなくなり、今までは「事故死」扱いをしていたのが、止まった。
 ここでとりあげられている状況は大変身近な話ばかりで、とても勉強になりました。ありがとうございます。
 日本の相続税は税率55%。著者は相続税の税率は「100%」にすることを主張しています。私は賛成ですが、実現は無理でしょう。
(2023年2月刊。税込1045円)

国商、最期のフィクサー・葛西敬之

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 森 功 、 出版 講談社
 この本を読むと、葛西敬之という人物は日本という国をダメにした張本人の一人だと実感します。
 東大法学部を卒業して国鉄に入り、国鉄の分割・民営化を推進した「国鉄改革三人組」の一人です。私は、国鉄の分割・民営化はまったく百害あって一利なしの、間違った政策だと考えています。おかげで、地方ローカル線はどんどん切り捨てられていく一方で、無駄であり有害でしかないリニア中央新幹線づくりに狂奔するなんて、とんでもありません。
 そして、葛西は鉄道会社の経営者にすぎないのに、いつのまにか安倍晋三政権の最大の後見人として国政に裏から深く関与していたというのです。もちろん葛西ひとりの力では出来ません。警察官僚と密接に結びついて、権力機構にがっちり喰い込んだのです。警察官僚といえば杉田和博に中村格です。中村格は安倍銃撃事件の責任をとって警察庁長官を早々に辞めさせられた男ですが、伊藤詩織さん事件のモミ消しを図った汚い男です。警察庁長官になったこと自体が間違いでした。杉田和博のほうも、前川喜平氏のときに暗躍し、学術会議の任命拒否でも裏でコソコソ動いていたようです。
 NHK会長の人選も葛西たち薄汚れた手の連中の謀議で決められていたようで、おぞましい限りです。恐らく、日本という国は、自分たちのサジ加減ひとつで動いていくと自慢していたのでしょう。つくづく嫌になってしまいます。
 葛西はリニア中央新幹線を推進するだけでなく、原発再稼働の旗振り役の一人でもあった。「日本を守る」と言いながら原発を再稼働させるなんて、とんでもない矛盾です。いったい日本に数多くある原発に一発でもミサイルが撃ち込まれたら、どうなりますか…。そのとき、日本列島は、破滅します。海に囲まれているから、私たちは、逃げることはできないのです…。
 葛西は瀬島龍三と親しく、反共の一点で結びついていた。葛西は、反共組織である「日本会議」の中核を占める有力メンバー(中央委員)。
 国鉄の分割・民営化を実現することによって、日本の労働界にストライキもやれないようにした。それによって、日本の根底からの活力をすっかりダメにしてしまったのです。
 葛西は革マル(松崎明)と手を結んだ。葛西は松崎が革マルだと知ったうえで、共産党や社会党(協会派)とたたかわせて弱体化するために利用したことを公言していた。いやあ、実にひどい男です。許せません。そのため警備公安警察を総動員したようなのです。本当にひどい話です。
松崎を利用するだけ利用したあと、用済みになったとして切り捨ててしまうのです。さすがのマヌーバー好きの革マル(松崎明)も葛西にいいようにもてあそばれただけというのです。いやはや…、とんだ茶番劇ですよね。
 葛西は官僚とつきあうといっても、財務省そして外務省のほかは警察庁くらいという、本当にトップエリートだけだというのも嫌味な男です。怒りと嘆き、そしてため息の絶えない思いに駆り立てられる、腹の立つ本です。
(2023年1月刊。税込1980円)

ルポ・特殊詐欺

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 田崎 基 、 出版 ちくま新書
 見知らぬ人のかけてきた電話をころっと信じて大金を欺しとられる人が後を絶ちません。電話の主(ぬし)は、息子であったり、市役所の人であったり、警察官だったりしますが、声だけで会ったこともない人の話すストーリーをそのまま受け入れ、慌てて大金を引き出しに走るのです。よほど、そのストーリーがうまく出来ているのでしょうね。
 昔から詐欺商法はたくさんありました。相場(先物取引)もそうですし、豊田商事(純金のペーパー取引)も、ネズミ講もそうです。これらについて、私も相談に乗り、ときには相手の会社に乗り込んで、また、裁判をしてかなり被害を回復しました。もちろん、それなりの成功報酬をいただきました。
 ところが、本書で扱っている詐欺商法では、ほとんど弁護士の出番がありません。だって、「加害者」がどこの誰だか分からないのですから、乗り込みようがありませんし、ましてや裁判なんか起こせません。大金を振り込んだ口座の凍結もしましたが、ほとんどカラッポでした。
 警察に摘発してもらうしかないのですが、その警察は「世界一優秀」だと自慢している割には、ほとんどのケースで犯人を捕まえられず、泣き寝入りで終わっています。本当に残念無念です。警察にもう少し本気で取り組んでもらうしかありません…。
 警察庁の定義によると、特殊詐欺とは、被害者に電話をかけるなどして、対面することなく信用させ、指定した預貯金口座へ振込みその他の方法により、不特定多数の者から現金をだまし取る犯罪(現金等を脅し撮る恐喝も含む)の総称とされる。オレオレ詐欺や還付金詐欺など、9つのタイプがある。
 2003年から2021年までの累計被害総額は5743億円。2022年の上半期(1~6月)だけでも148億円の被害。これは被害届出のあった分だけの合計でしょうから、実際には、その何倍かが被害額になるのでしょう…。
 欺し(脅し)の手口のなかには、警察官とつるんでいるというのがある。実際にも、悪徳警察官が詐欺グループの仲間になっていることもある。いやあ、本当なんですか…。
 かけ子が電話をかけ、口車に乗せる。受け子は被害者と接触して、現金を受けとり、また、出し子は、被害者の預金口座からATMを操作して現金を出して受け取る。
 問題は騙されやすい人のリストに、なぜ被害者が載っている(いた)のか、ということ。高収入の人に向けた雑誌の購読者リスト、通販商品の購入者リストが売られている。
 「闇バイト」を入り口として詐欺の仕事を軽い気持ちで始めさせ、やがて莫大な被害を生み出す。関わる人間を互いに分断し、手順を複雑化させている。これには、個々の犯人たちの犯罪意識を希薄化させる効果もある。
 この特殊詐欺に対しては、各地の弁護士が早くから裁判に持ち込んでいます。そして、暴力団に責任をとらせることに成功しているのです。稲川会、住吉会、神戸山口組などが被告とされ、責任をとらされるようになった。裁判所も少しだけ実態をふまえて、責任をとらせるようになったのでしょう。
 現在は、「悪」が野放図に、止めようもなく、あばれまわっています。警察の責任はまことに重大です。みんなで、巨「悪」を根絶しましょう。
(2022年11月刊。946円)

80歳の壁

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 和田 秀樹 、 出版 幻冬舎新書
 この本を読むと、いくつも安心できます。
 その一、認知症は、基本的に老化現象である。認知症を遅らせるには、薬よりも、頭を使うほうが有効。なーるほど、そうなんですね…。
 その二。死というのは、寝てしまって、起きてこない状態なので、過剰に恐れる必要はない。ガンで死ぬのは、割と楽な死に方。
 その三。やや肥満な人のほうが長生きする。糖尿病の人のほうがアルツハイマーになりにくい。糖尿病の治療が、アルツハイマーを生んでいる。
 いま、私の体重は70キログラム寸前のところです。本当は65キログラムにすべきなのですが、どうにも減りません。私の同級生で、ダイエットのため昼食を抜かしている人がいますので、それを真似しようと思いましたが、やはり昼食はとりたいので、お米のごはんだけは少量にしています。
 その四。幸(高)齢になったらガンの治療の必要はない。80歳を過ぎたら、ガンの進行は遅くなり、転移もしにくくなるので、何もせず、放っておいたらいい。なーんだ、そうなのか…。
 薬は無理にのまない。私は、今も何の薬ものんでいません。幸いなことに、目薬と、皮膚科の軟膏以外の薬は、弁護士になって以来(つまり、この50年近く)、のんでいません。
 食事は無理にガマンせず、食べたいものは食べる。まったく同感です。美味しいものを少量、よく味わって食べたいです。一人で食べるときは、好きな本を読みながら、少しずつ味わいます。食べたいものは食べるようにしていますが、ラーメン類はもう久しく食べていません。うどんは食べますが…。
 自分の身体の内なる声を素直に聞くこと。これは私も実践しています。目で見て食欲が湧かないのに、無理して食べることはありません。
 子どもにお金は残さない。当人が使うのは当たり前のこと。いやあ、本当にそうなんですよね。弁護士として相続争いをたくさん経験して、つくづくそう思います。
 運転免許の返納はやめたほうがいい。返納すると、6年後の要介護リスクは2、2倍にもなる。
 好きなことはするけれど、嫌なことはしない。私も同じ考えでやっています(やっているつもりです)。
 おかしなことがまかり通っている日本です。幸(高)齢者はもっと怒っていいのです。もっと自分の意見を主張していいのです。何も無理に自己規制なんかしなくてよいのですよ。
 残りの人生を豊かに生きるうえで、大切なヒントが盛り沢山の新書です。あなたも、ぜひ読んでみてください。
(2022年9月刊。税込990円)

マヤ文明の戦争

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 青山 和夫 、 出版 京都大学学術出版会
 マヤ文明は、中央アメリカのユカタン半島あたりで、前1000年ころから、スペイン人が侵略する16世紀前半まで、2500年ほど続き、盛衰があった。マヤ文明は、日本でいうと縄文時代晩期から室町時代に相当する。
マヤ文明は「戦争のない、平和な文明」だったとか、「都市なき文明」と誤解されてきたが、実際は、戦争はしばしば起こり、「石器を使う都市文明」だった。マヤ文明の大都市には数万人の人々が住み、国家的な宗教儀礼のほか、政治活動や経済活動もかなり集中し、彩色土器や石器を生産していた。マヤ支配層は、文字、暦、算術、天文学を発達させ、ゼロの文字も発明している。
マヤ文明は、大河がなく、大型家畜もいないので、小規模な灌漑(かんがい)、段々畑、家庭菜園などの集約農業と焼畑農業を組み合わせていた。家畜は七面鳥と犬だけ。文字の読み書きは、王族・貴族の男女の秘儀だった。専業の戦士はおらず、王・王族、支配層書記を兼ねる工芸家は、戦時には戦士となった。マヤ文明は、統一王朝のないネットワーク型の文明で、中央集権的な統一王国は形成されなかった。戦争の痕跡が次々に発見され、戦争を記録した数多くの碑文が解読された。戦争は頻繁にあり、戦争が激化して多くの土地の中心部は破壊された。
戦闘では初めに弓で大量の矢を放ったあと、石槍を手にもって接近戦を展開し、あくまで高位の捕虜を捕獲しようとした。地位の高い捕虜自身が政治・経済的に重要な価値を有し、捕虜を受け戻すための高価な品々、貢納や政治的な主従関係を勝ちとることにつながった。遺跡にはたくさんの壁画が残っていて、捕虜を足で踏みつけるようにして勝者の王が立っている絵が多い。
この本で驚嘆するのは詳細な出来事が年表としてまとめられているということです。もちろん、これはマヤ文字を解読しなければできません。でも、マヤ文字って、要するに絵文字です。人物の顔などが入っています。
たとえば、ヤシュチラン遺跡では130以上の石像記念碑が発見されていて、少なくとも359年から808年まで20人の王が君臨した。こんなことが碑文を解読して判明しているのです、すごいです。
いろんな王朝がいて、初代の王も9代目の王も名前が分かっています。コパン遺跡の祭壇化には、初代王、2代目王、15代目王、16代目王が彫られています。王には、女王もいます。彫像の捕虜にも名前がついていて、捕虜には、その目印として紙の耳飾りがついていた。パレンケ王朝11代目のパカル王は、683年8月に亡くなるまで、なんと68年もの長さの治世を誇った。
マヤ人は、20進法を使った。これは、手足両方の指で数を数えるもの。コパン王朝の人々の人骨を分析すると、8世紀になると農民だけでなく、貴族の多くも栄養不良に陥っていた。環境破壊が進行していた。人口過剰と農耕による環境破壊が要因となって、その結果として戦争が激化し、王朝が衰退した。人骨の分析でこんなことまで判明するのですね…。すごいものです。
数百人のスペイン人が侵略戦争でマヤ人の大群に勝利できたのは、第一に、優秀な通訳による情報戦に長(た)けていたこと。第二に、マヤ人内部の群雄割拠の状況をうまく利用したこと。第三に、マヤ人の戦争は、接近戦で高位の敵を捕虜にするもので、スペイン人のように戦場で大量の敵兵を虐殺するのが戦争とは考えていなかったこと。なので、スペイン総督を捕虜にしようとしていた。第四に、マヤ人はウイルス感染で次々に病死していったこと。マヤ人の人口は100年間のうちに5~10%に減少した。90~95%のマヤ人が死滅した。
ただし、今もマヤ人は生きていて、今ではむしろ増加している。そして、キリスト教を信仰するようになっても、自己流に解釈し、マヤ諸語とともにマヤ文明は生き続けている。マヤ人の心まではスペイン人は支配できなかった。
500頁もの大著ですが、大変興味深い内容なので、3日3晩で読了しました。学者って本当に偉いですね。心から敬意を表します。
(2022年11月刊。6500円+税)

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