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ヒエログリフを解け

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 エドワード・ドルニック 、 出版 東京創元社
 エジプトでロゼッタストーンが発見されたのは1799年。ナポレオンのエジプト遠征のとき。
 そこには、3種類の文字が彫られていた。最下段にギリシャ文字、最上段はヒエログリフで、真ん中部は何か不明。学者はギリシャ文字は解読できたが、上の2種類の文字は、まったく分からなかった。
 この謎は、フランス人とイギリス人という2人の天才によって解明された。どちらも幼いときから神童として呼ばれていた。
 イギリス人のトマス・ヤングは世にまれな多芸多才の天才。フランス人のシャンポリオンは、エジプトを偏愛する一点集中型の天才。クールで洗練されたヤングと、熱血漢で激しやすいシャンポリオン。
 エジプトの文化は驚くほど「死」に執着している。ピラミッド、ミイラ、墓、神々、死者の書など、これらすべては、死を追い払い、ねじ伏せ、死後の世界で迷うことなく生きていくためのもの。祈祷文や呪文は、どれも死は終わりではないと訴えている。
 ファラオは、「あなたは、まだ若返って再び生きていく、また若返って永遠に生きていく」という呪文とともに死後の世界へ送られていった。だから、エジプトでは輪廻転生(りんねてんしょう)は信じられていなかった。もし信じていたら、魂が新しい肉体に宿るわけだから、わざわざ古い肉体をミイラ化して保存する必要はない。人間のミイラをはるかに上まわる数の動物のミイラがつくられた。ネコ、イヌ、ガゼル、ヘビ、サル、トキ、トガリネズミ、ハツカネズミ、はてはフンコロガシまで…。
 麻布でくるまれたネコのミイラが無数に出土している。
 ロゼッタストーンのギリシャ文字はやがて解読された。それによると、次のとおり。
 「この宣言は、神々の文字(ヒエログリフ)、記録用の文字(真ん中の段の文字)、ギリシャの文字をつかって堅牢な石版に刻み、永遠に生き続けるファラオの像とともに、最高位の神殿、二位の神殿、三位の神殿に置くものとする」
 楕円形のカルトゥーシュは、支持標識。この楕円形の中に入っているヒエログリフは、王の 名前をつづったもの。そして、クレオパトラが判明した。
 ガチョウと卵と思われていたのは、アヒルと太陽だった。この二つを合わせると「太陽の息子」。アヒルは息子を意味する。
 ヤングとシャンポリオンはライバル関係にあった。だが、天才の二人が競いあったことで、ヒエログリフは解明されたのだと、この本の著者はまとめています。そうなんでしょうね…。
(2023年1月刊。税込2970円)

金環日蝕

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 阿部 暁子 、 出版 東京創元社
 いやぁ、読ませました。読みはじめたら、ええっ、いったい次はどんな展開になるんだろう…と、目が離せなくなり、電車を降りてバスに乗ってからも読みふけってしまいました。それでも読了できず、少しだけ次の予定まで時間があったので喫茶店に入り、遅い昼食のサンドイッチをかじりながら、ようやく最後の大団円にたどり着いたのでした。
 ネタバレはしたくありませんので、要は「振り込め詐欺」(特殊詐欺)を舞台とした展開だということだけ申し上げます。
 名簿屋は、名簿を擦(こす)る。欺しのターゲットの細かい情報を調べるのを擦るという。これがあるとないのとでは、成功率がまるで違う。それはそうですよね…。
 擦るには、真心を込めて相槌を打ち、うなずき続ける。こちらも本心でないとダメ。こちらが真摯(しんし)だからこそ、相手も気を許し、心の深い場所を開いて見せてくれる。同情し、共感しながら、もっと情報を吐き出してとうながしつつ、頭の中に入手したデータを余さず書き込んでいく。
 受け子は、ターゲットからお金を受けとってくる役。出し子は、振りこまれたお金をATMで引き出す役。警察に捕まるのは、この受け子か出し子。この危険な役をやらせる人間を集めて、人材派遣会社みたいにお金の回収を請け負うグループが存在する。
プレイヤーが電話をかける場所は「アジト」というより、普通の会社のオフィスという感じ。それぞれのデスクがあって、電話がずらり並んでいて、出勤も退勤も時間が決まっている。
ターゲットから取るお金は、売上と呼び、目標額まであといくら、気合入れてがんばろうという反省会までやる。そして、1クール2ヶ月というように期間が決めてあって、その期間内にガンガン稼いで、それが終われば解散してしまう。あとには何も残らない。
 プレイヤーは、1人では無理。最低3人。それくらいいないと、ターゲットにこちらの話を信じさせられない。疑うヒマも与えず、こっちのシナリオに引きずり込めない。台詞(セリフ)を覚えてミスなく話せばいいっていう問題ではない。本当は存在していない人間、起こっていない出来事を、相手にここに存在していて、今まさに起きてるって信じさせなければいけない。
 追跡アプリなるものは、フツーに街の電器屋さんで買える。たとえGPS機能を遮断しているスマホ(スマートフォン)でも、一度本体にインストールさせてしまえば、現在地が特定できるうえ、通話履歴の取得、写真撮影、音声録音まで遠隔操作で可能だ。今では、こんなとんでもないアプリが存在し、有料とはいえ、誰でも手に入れて使うことができる。
 主要な舞台のひとつが昨秋、久しぶりに訪れた北大(北海道大学)でした。構内の喫茶コーナーでお茶したことを思い出しました。北大って、いつ行っても風情があっていいですよね。でも、この本のストーリーは、ちょっとばかり怖いです。それも現実にあった(だろう)話をベースにしている(だろう)から、ホント、思わず身震いするほどの怖さをひしひしと感じました。先日つかまった「ルフィ」が、「悪」から抜け出ようとした人間を徹底的に痛めつける(本当にやるようです)というのを聞いて、恐怖による支配は人を間違わせるものだと、つくづく思いました。一読をおすすめします。
(2022年10月刊。1800円+税)

マザーツリー

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 スザンヌ・シマード 、 出版 ダイヤモンド社
 森林はインターネットであり、地下には菌類が縦横無尽につながっていて、「巨大脳」を形成している。
 ええっ、いったい何のこと…、と思いたくなりますよね。先日、NHKテレビでもこれを実証する映像を流していました。圧倒される思いでした。
 古い木と若い木は、ハブとフードで、菌根菌によって複雑なパターンで相互につながりあい、それが森全体を再生する力となっている。
 古木は森の母親だ。これらのハブはマザーツリーなのだ。いや、ダグラスファーは、それぞれが雄である花粉錐と雌である種子錐の両方をつくるのだから、マザーツリーであり、ファザーツリーでもある。このマザーツリーが森を一つにつないでいる。マザーツリーから伸びる太くて複雑な菌糸は、次の世代の実生に大量の養分を効率よく転生している(に違いない)。森林を皆伐すると、この複雑な菌根ネットワークがバラバラになってしまう。
 ダグラスファーは、自分が受けたストレスを24時間以内にポンデローサパインに伝えている。
 マザーツリーは、親族の苗木の菌根菌に、そうでない苗木よりもたくさんの炭素を送っている。マザーツリーは、自分の子どもが有利なスタートを切れるように図らうが、同時に、村全体が子どものために繁栄できるよう、その面倒もみている。
 私たち、現代社会に生きる人々は、木々に人間と同じ能力なんかあるはずがないと決めつけている。でも今や、私たちは、マザーツリーには、実際に子孫を養育する力があることを知っている。ダグラスファーが自分の子どもを認識し、ほかの家族や樹種と識別できることが分かっている。彼らは、互いにコミュニケーションを取りあい、生命を構成する要素である炭素である炭素を送っている。
 マザーツリー役の苗木は、その炭素エネルギーで菌根ネットワークを満たし、炭素はそこからさらに親族の苗木の葉へと移動して、マザーツリーの滋養は苗木の一部になっていた。
 ハサミで傷つけられたマザーツリーの苗木は、より多くの炭素を親族に送っていることも判明した。つまり、自分のこの先が分からなくなったマザーツリーは、その生命力を急いで子孫に送り、彼らを待ち受ける変化に備える手助けをした。死が生きることを手助けをした。死が生きることを可能にし、年老いたものが若い世代に力を与える。
 このように森は知性をもっている。森には、周囲の状況を知覚し、コミュニケーションを取りあう能力がある。
 著者はカナダの森林生態学者です。2人の娘の母親としてもがんばっていましたが、乳ガンと分かり両乳房を切除し、抗ガン剤で頭髪が抜けても、見事に研究生活を続けています。ガンになってから寛解に至るわけですが、それは、決して希望を捨てないことを実践したからでした。
 健康でいられるかどうかは、周囲とつながり、意思を伝達しあうことができるかどうかにかかっている。
 あれっ、これって森の中のマザーツリーが果たしているのと同じことじゃない…。著者は、その点でも共通点をつかんだのでした。550頁もの大部の本ですが、一気読みしようと決意し、電車の中の1時間で読了しました。典型的な速読です。
(2023年1月刊。2200円+税)

テキヤの掟

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 廣木 登 、 出版 角川新書
 先日、私の住む街で、江戸時代から続いているという「初市」がありました。植木市とあわせて、たくさんの屋台が並びます。歩行者天国になりますので、子どもたちが梅ヶ枝餅やらリンゴアメなどを食べたり、なめたりしながらぶらついて楽しみます。
 この屋台を出しているのがテキヤと呼ばれる人たち。
 サンズン(三寸)は、組み立てた屋台、三尺三寸のサイズ、また「軒先三寸を借り受けて…」から来たもの。タコ焼きや焼き鳥屋台など。
 ゴランバイは、子ども向けのバイ(売)。ソースせんべい、あんずアメなど。親から子どもに「見てゴラン」ということから。
 コロビは、ゴザの上に商品をコロがし、タンカにメリハリをつけて商売する。映画「男はつらいよ」で、寅さんが神社の境内などで客を呼び込んで何かを売っていましたね。昔々は、私も実物を見た気がします…。
 テキヤの圧倒的多数は暴力団ではない。ただし、テキヤ系暴力団も存在する。たとえば、極東会。極東桜井一家関口一門を中核とする。
 暴力団とテキヤを同一視するのは誤り。ヤクザは人気商売であり、「裏のサービス業」でテキヤは売る商品をもっている。
 テキヤが自衛のために団結して組織したのが「神農会」。テキヤは自らを神農と名乗る。そして神農を崇(あが)める。テキヤの業界を神農会という。
 テキヤは個人事業主なので、労災や保険という問題がある。なので、まともに日本に来ている外国人は難しい。
 日本人の若者がテキヤに入門することはない。テキヤは若い人たちの憧(あこが)れの職業ではない。拘束されるのを嫌がる。
 テキヤの商売ができる場所が少なくなっている。
 テキヤは前科があって生き辛い人たちにとってのセーフティネットになりうる。そして、「この商売、いつまでもやってんじゃねえぞ。どんどん辞めてけ。カネ貯めたら、すぐに辞めろ」でいい。著者は、このように提言しています。同感です。
 昔、私の子どものころ、筑後平野の夏の夜の風物詩として「よど」があっていました。お寺や神社の境内に何日間か夜の露店が立ち並ぶのです。よくヒヨコが売られていました。カラーヒヨコで、大きくなっても卵を産まないオンドリになるだけ…。そんな夜の世界があって、子どもに夢を与えてくれるものがあったらいいですよね。
(2023年2月刊。税込1034円)

あつまる細胞

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 竹市 雅俊 、 出版 岩波科学ライブラリー
 私は1月半ばに「ゲタ骨折」しましたが、1ヶ月以上たっても骨がくっつかないままです。
 ところが、この本によると、動物の体の複雑な構造は、細胞自身が自律的につくり出すとしています。つまり、細胞は勝手に集まるというのです。
 そこにカドヘリンが登場します。著者が命名しました。今や、ヒトでは20種類以上のカドヘリンが発見されている。カドヘリンは、細胞と細胞をくっつける。体を構成する細胞は、三つのカドヘリンのどれかをもっている。
 カドヘリンの立体構造を眺めると、細胞外領域は五つの単位に分割されていて、ちょうど五つの団子を串刺ししたような形になっている。そして、この串が弓のようにしなっている。
 カドヘリンは、柔らかい細胞膜どうしを糊づけしているわけではなく、その裏側にあるアクチン骨格(細胞膜より固い構造)どうしを結びつけている。
 
 軸索が目標の神経細胞に到達したとき、そこでシナプスが形成される。このシナプスの形成にもカドヘリンが関与している。
 近年、カドヘリンの世界はもっと複雑であることが分かってきた。カドヘリン「のような」タンパク質が多数見つかっている。
 そして、結局、カドヘリンとは、たまたまカテニンに結合することにより、「接着分子」としての地位を確立した分子なのだ。
 E-カドヘリンは、発がんという、がんのもっとも本質的な過程にも関与する。
 一定の条件があれば、E-カドヘリンを失った細胞はがん化することから、このE-カドヘリンにはがん発症を抑制する機能があると推定できる。
 細胞が自然に集まっているのであれば、私の「ゲタ骨折」も、いずれゆっくり骨が癒合してくれることでしょう。それを期待して、ギプスなしの生活を続けます。
(2023年1月刊。税込1870円)

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