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法律事務所「総合力」経営の実務

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  長井 友之・仁本 恒夫 ほか 、 出版  日本加除出版
 法律事務所で事務職員を活用しているか、できているか、というのは、とても大切です。事務職員がやる気があって、明るく前向きに働いているところは、法律事務所の雰囲気が良いので、相談に来た人は安心して相談できますし、事件解決を一緒にたってくれそうだと依頼され、新規の受任にもつながっていきます。
 事務職員の能力向上に主体的に取り組む組織として一般社団法人日本弁護士補助職協会(JALAP)が存在します。
 日弁連は2009年から、毎年1回、能力認定試験を実施しています。15科目の基本応用研修が出題範囲で4択60問を2時間で回答します。合格には7割の正答が必要で、合格率は受験者の5割前後です。2022年5月までに4695人の合格者を出しています。
 ただ、この認定試験に合格したからといって、直ちに給与が上がったり、仕事が質的に拡大する(できる)というものではありません。今のところは、あくまで事務職員の質の向上に姿するというものでしかありません。
 そこで著者たちは、一つの提案をしています。それが「弁護助手」です。「弁護士の助手」を体現したものですよね。ただし、弁護助手でなく法律事務職員が、ここからは関与できないとか、そんなものをつくってはいけないともしています。ここらあたりが実に悩ましく、難しいところです。
アメリカではパラリーガル職がすっかり定着していますし、日本でも大手の法律事務所ではパラリーガルと名乗って働いている人たちが多数いて、それなりの処遇も受けているようです。私は20年前に「一級秘書」という名称はどうかと提案しましたが、受けは良くありませんでした。
この本によると、アメリカの大規模法律事務所では、経営者弁護士に依頼したら、時給で400~800ドル。「イソ弁」だと時給225~400ドル。パラリーガルだと時給100~300ドルだとのこと。
 ちなみに、ニューヨークでは、スタッフをもっていない「一人弁護士」も珍しくないそうです。日本でも、最近は、事務所(オフィス)をもたず、パソコンとケータイだけで仕事をしているという若手の弁護士が少しずつ増えていると聞きます。
 この本は、事務職員の採用面接についても手の内を明かしています。3回の面接で、向上心のある人、明るい人を選ぶ。最後は、なんといっても、一緒に働きたいと思えるかどうかに尽きる。まったく、そのとおりです。
 「法律事務職員活用のバイブル」というのがサブタイトルになっています。この本を読んで大いに「総合力」をアップさせ、経営と生活を安定させましょう。この分野に関心のある方には強く一読をおすすめします。
(2023年2月刊。3300円+税)

プーチンの過信、誤算と勝算

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 松島 芳彦 、 出版 早稲田新書
 ロシアのウクライナへの侵攻が昨年2月に始まり、1年以上たつのに、いつ戦争が終わるのか、どうやって終わるのか、誰にも予測できない状況が続いています。私はプーチンのロシアがウクライナに攻め込んだのは絶対に間違いだと考えています。でも、アメリカもヨーロッパもウクライナに軍事支援を強めるだけで、ロシアのプーチンとの外交攻勢が弱いと思われてなりません。うがった見方をすれば、アメリカの軍事産業の好景気を続けさせるため、戦争が早く終わるのを望んでいないのではないかとさえ思われます
今やプーチンは核兵器を使うと脅しています。これは自分の身の保全のためには世界を破滅させてもいいというのと同じです。絶対に許せません。
それにしても、日本は今度もアメリカ追随だけ、なさけない限りです。私は岸田首相がゼレンスキーにしゃもじを贈ったのは許せますが、「非軍事援助」と称して莫大な経済援助を約束してきたのには疑問を感じます。どうして、岸田首相はロシアに行ってプーチンに会って話そうとしないのでしょうか・・・。もちろん、ただ話しただけで何か成果がすぐに上がるなんて私も期待しません。でも、行くだけのこと、行って話そうとすることはそれなりに国際世論を動かす意味があると思うのです。
ゼレンスキーは今ではロシアと戦うウクライナの先頭に立ってがんばっていますが、ロシアの進行する前、大統領の支持率は下がっていたようです。
ゼレンスキーは、有力なオリガルヒ(財閥)と協力関係にあった。ゼレンスキーは、キーウ大学で法律学を先行し、喜劇集団の一員として芸能界で活躍していた。
プーチン大統領によると、昨年(2022年)2月24日にウクライナに侵攻したのは戦争ではなく、「特殊軍事作戦」だ。
ロシアではメディアが「戦争」として報道すると、「虚偽の情報を拡散した」罪に問われ、最長15年の懲役刑を科される恐れがある。
ロシア軍は19万人もの兵員がウクライナとの国境線を踏み超えてなだれ込んだ。ロシア軍が大挙して攻め込めば、すでに支持基盤が揺らいでいて、政治・軍事の素人であるゼレンスキーは首都キーウからすぐに逃げ出すとプーチンは踏んでいた。しかし、プーチンの目論見は外れ、ゼレンスキーは国内に踏みとどまり、ウクライナ国民にロシアに対する徹底抗戦を呼びかけた。そして、初戦でロシア軍は大打撃を受けた。
ロシア軍はウクライナ領内に侵攻して、120万人ものウクライナ国民をロシアに強制連行した。そのうち50万人近くが子どもだった。
ロシアは深刻な人口減少に悩んでいる。アメリカのバイデン大統領は、オバマ政権が発足した2009年からウクライナ情勢に深く関与していた。これもロシアのプーチンと確執を深めた。
アメリカとロシアは、水面下でウクライナの奪いあいを展開していた。このアメリカ側の司令塔は、今のバイデン大統領だった。
プーチンは、「ロシアは過去も未来も大国である」と断言する。プーチンは、ロシアの核兵器に言及するとき、決して「核保有国」とは言わない。常に「核大国」とする。ロシアが生来の大国であるが故に当然のように核兵器を有していると言わんばかりだ。
プーチンにとって、現在のウクライナは真の意味での国家ですらない。プーチンは、「近い外国」つまり旧ソ連圏に加えて、「スラブの同胞」には手を出すなと宣明した。
第二次チェチェン紛争当時のロシア国民は、プーチンの「男ぶり」を熱狂的に支持した。プーチンのいう「強いロシア」を体現するのが核兵器だ。核兵器で相手を威圧するためには、核使用が現実的な選択肢であることを繰り返し見せつける必要がある。アメリカはプーチンが核を使うかもしれないと警戒している。プーチンのほうはアメリカが核を使うとは考えていない。
アメリカもロシアも核保有国として核兵器禁止条約に反対している。そして、日本はアメリカの言いなりに、この条約の署名・批准を拒み、締約国会議にオブザーバー参加すらしなかった。
裏切り者は決して許さない。これがプーチンの支配する世界の掟だ。娘が戦争反対する絵を描いてニュースになると、その父親を逮捕し、娘は施設に放り込む。これがプーチンのロシア。
チェルノブイリ(チョルノービリ)原発もロシアに占拠されていますよね。ザボロジア原発もです。原発への攻撃は冷戦時代からの悪夢だったが、プーチンは悪夢を現実に変えた。核兵器の使用と原発への攻撃は、どちらも核による威嚇という点で変わりがありません。
プーチンは、ロシアの若き経営者との面談のなかで、自分をピョートル1世になぞらえたとのこと。350年も前の皇帝を夢見ているということ。
プーチンにとって、ウクライナは「奪う」のではなく、「取り戻す」だけの存在。いやぁ、怖いですよね、これって・・・。プーチンとは何者かを知ることができる新書です。
(2022年8月刊。990円+税)

ディープフェイクの衝撃

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 笹原 和俊 、 出版 PHP新書
 先日、国際ロマンス詐欺の被害者がインターネットの映像によってすっかり本物だと欺されたと語る記事を読んだばかりでしたので、この本を手にとって読んでみました。
そういえばウクライナの「ゼレンスキー大統領」が自国民に向かって降伏を呼びかけたフェイク映像、そして、同じくオバマ元大統領もフェイク映像の被害にあったというニュースを思い出しました。
この本(新書)は、そんな映像が今や「簡単に」つくれることを紹介しています。本当に恐ろしい時代になりました。
ディープフェイクとは、人工知能(AI)の技術を用いて合成された、本物と見分けがつかないほどリアルな人物などの画像、音声、映像やそれらをつくる技術のこと。ディープフェイクはポルノから始まった。ポルノ女優の顔を有名人の顔にすり替えて作った合作ビデオが大量につくられ、流通している。
オバマ元大統領が「トランプは完全なバカ野郎だ」と耳を疑うような暴言を吐いている動画があり、900万回も視聴された(2018年4月)。
ディープフェイクは、誰でもパソコンのブラウザやスマートフォンのアプリで製作できるようになる日は近い。
2019年7月、ディープフェイクの動画1万5000本の96%はポルノだった。2020年にはディープポルノ動画は2万7000本で、うち7割はディープフェイクに特化したポルノサイトに投稿されていた。
ディープポルノ制作者が集まる地下コミュニティがあり、10万人以上のメンバーが偽ポルノ制作の腕を競っている。
今では、ディープフェイク動画は、本人と見間違ってしまうほど精巧。なので、被害はより深刻。女性の写っている写真から衣服を取り除いて合成ヌードを作成するアプリも存在する。日本でも、ディープポルノで逮捕された人がすでにいる。2020年10月、ポルノ動画の人物の顔を女性タレントの顔にすり替えて偽ポルノをインターネットで公開した男2人を名誉棄損と著作権法違反の疑いで逮捕した。この2人は、ディープポルノを400本アップし、80万円以上の収益をあげていた。
ディープボイスも作られているし、顔認証をハッキングした事件も発生している。
中国では、顔認証が突破され、お金が盗みとられる被害が多発している。「顔交換」は1動画あたり15ドル、5時間で制作できる。いやぁ、これって安すぎですよね(もちろん、高ければいいというのではありません…)。
現在のディープフェイク技術は、本物の人間かどうかを検知する人間の無意識すら欺してしまうようなものに進化を遂げつつある。ディープフェイクを見破るコツの一つは、まばたき。AIモデルは、まばたきを知らないので、まばたきを再現できない。また、人物の動きが異常に少なく、同じ動きばかりしているのは、怪しい。まばたきが不自然で、生身の人間だったらありえないほど変化がない。まばたきや瞳は嘘をつかない。今、このようなディープフェイクを検出する技術の開発がすすめられている。
いやはや、本当に怖い、恐ろしい世の中になりました…。
(2023年3月刊。1100円+税)

防衛省に告ぐ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 香田 洋二 、 出版 中公新書ラクレ
 軍事予算が天井知らずにふくれあがっています。ウクライナでのロシアの侵略戦争、北朝鮮のミサイル打ち上げ、中国の台湾とのトラブル(武力統一・・・?)。こんな状況で、マスコミも、その軍備拡張に異を唱える勇気を示すことができないようです。いったいトマホークを日本が400発も持って、日本を守れるものなんですか。日本海ぞいにたくさん立地している原発(原子力発電所)を特殊部隊がミサイルで攻撃するのをトマホークや超高速滑空弾をもっていれば防ぐことができるんですか・・・。もちろん、そんなこと出来ません。原発が一つでもミサイル攻撃されたら、残念ながら、この日本は終わりです。海に囲まれた島国の日本ですから、ウクライナのように周辺諸国へ避難して助かるなんてこともありえません。国を守るって、強力な武器があればいいだなんて、ありえないって、ちょっと考えたら小学生だってわかるような話なのに、なんとなく戸締りを強力にしておけば安心安全だなんて幻想、それこそ「お花畑」の錯覚のもとで、自民・公明政権の軍備増強にマスコミはストップをかけようともしませんし、多くの日本人が流されている気がしてなりません。忙しいから、選挙(投票)なんか行ってるヒマはないとうそぶいている日本人が、なんと多いことでしょうか・・・。
この本は海上自衛隊の現場トップ級にいた人が、日本の防衛行政を鋭く告発しています。
イージス・アショアという陸上での迎撃システムの設置が失敗したので、今はイージスシステム搭載をアメリカから購入することが決まっている。2隻で4800億円。しかし、実は燃料代や整備費は巨額なので、総額1兆円以上に膨らむ可能性があるという。1兆円といえば、今すすめられている全国旅行支援の予算規模と同じレベルです。GoToトラベルは当初2兆円の事業として始まりましたが、コロナ禍のせいで途中で中止となったのです。コロナ禍が少しおさまったので再開されましたが、その予算規模が実に1兆円、そんなお金があったら、大学の学資をヨーロッパと同じように無料化できるんです。
著者は15発のミサイルを打った経験があるとのこと。目標まで誘導されていても、平時の安易な環境下でも失敗率が4分の1もあったとのこと。やはり、人間は間違うのですね。
防衛力は、正面装備、後方、教育・訓練の三つがそろって安定する椅子のようなもの。自衛隊は戦うつもりのない組織。いえ、私は、これでよいんだという考えです。
25万人の隊員の誰一人として戦場で人を殺したことのない軍隊、しかも、それは創設以来の良き伝統なのです。この伝統は、しっかり守られるべきものです。
いま、岸田政権は全国130ヶ所に大型弾薬庫を新しくつくろうとしています。1週間の継戦能力に備えての弾薬庫です。でも、原発が幸い襲われていないとしても、1週間も戦闘が続いたら、日本人の多くは飢え死にしてしまいませんか・・・。だって、食料自給率は、3割程度なんですよ。
自衛隊の司令部は地下にもぐるそうですが、国民は地上に取り残されたまま、頭上をミサイルが飛びかっている。なんと恐ろしい光景でしょうか・・・。
アメリカの軍事産業を喜ばせるために、日本は次々に高価な軍事装備品をアメリカから購入させられています。止めてください。税金のムダづかいです。そんなことより、大学の授業料を無償にしてください。小・中・高校の給食費を無料にしてください。赤ちゃんと60歳以上の医療費負担をゼロにしてください。
「身を切る改革」と称して、維新は知事の退職金をゼロにしました。ところが実は、その分を毎月の俸給を引き上げていました。なので、総額は前より値上げしたのです。朝三暮四のごまかしです。
税金の間違った使い方にはきっぱり「ノー」と声をあげる必要があります。ヨーロッパでもアメリカでもストライキが頻発し、デモ行進が活発です。日本は見習う必要があります。この本のように自衛隊現場トップだって声を上げているのですから・・・。
(2023年2月刊。860円+税)

辞書編集、37年

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 神永 暁 、 出版 草思社文庫
 辞書づくりの面白さ、大変さを知ることができました。そして、もちろん辞書の大切さも…。私も辞書はよく引きます。すべて手書き派のモノカキですから、漢字は読みも書きもそれなりにできると自負しているのですが、送り仮名は難しいし、漢字だって、このときはどれが一番ふさわしいかなと疑問を抱いたら、すぐに辞書を引くようにしています。もちろん国語辞書です。ついでにいうと、フランス語をずっと勉強していますが、電子辞書ではなく、あくまでペーパーの辞書です。大学受験のときは、部厚い英語の辞書を最初から最後まで読み通しました。赤鉛筆を引きながらですから、辞書が真っ赤になりました。同じようにフランス語もロベールの仏和大辞典を読みすすめました。そうなんです。辞書は必要なところを引くだけでなく、読みすすめると、それも楽しいのです。うひゃあ、そうなんかと、いくつもの発見がありますから。この本でも、著者はそのことを何度も強調しています。
辞書編集者の仕事は、ひたすらゲラ(校正刷り)を読むこと。書かれた内容すべてに対して、本当に正しいのかと疑問をもちながら読んでいく。だから、辞書編集者は、とても懐疑的な性格になっていく。つまり、疑ぐり深い正確になるのですね。
日本の辞書は、内容だけでなく、印刷や製本、製紙の技術も素晴らしい。辞書は発刊と同時に改訂作業がスタートする。つまり、辞書編集とは、エンドレスなのだ。いやぁ、これには驚きました。ともかく息の長い仕事なのです。10年とか30年のスパン(単位)で考える世界です。
辞書編集者に求められるのは、言葉に関する興味であり、ことばに対する探究心である。これがあれば誰にでもできる仕事だ。いえいえ、決してそんなことはありますまい・・・。
辞書編集者は、誰が書いた原稿でも、内容のおかしな原稿には手を入れる。これが鉄則だ。
日本の辞書は、表紙は塩化ビニール(塩ビ)などの柔らかい素材のものとし、本全体を厚紙のケースに入れている。外国の辞書にはケースがなく、表紙もやや厚手の紙製なのが多い。
『美しい日本語の辞典』には日本の伝統的な色名を示し、117色のカラー口絵を付けた。いやぁ知りませんでした。これは買わなければ損ですね…。青鈍(あおにび)、今様色(いまよういろ)、朽葉色(くちばいろ)、潤朱(うるみしゅ)、浅葱色(あさぎいろ)…。これはすごい。
『ウソ読みで引ける難読語辞典』というのもあるそうです。アベやアソウが読み間違って聞いているほうが恥ずかしい思いをさせられた言葉がありますよね。アベの「でんでん」(云々)が有名ですが、それが辞書で引けるようになっているとは、思いもしませんでした。たしかに、コトバが人々から誤読されているうちに、「正読」になってしまうことはよくありますよね。
「がさをいれる」という「がさ」とは、「さがす(探)」の語幹「さが」の倒語だというのは、知りませんでした。「むしょ」は刑務所の略ではないというのにも驚きました。刑務所ができる前から「むしょ」は存在していて、これは「虫寄場」とか「六四」(牢の食事は麦と米が6対4の割合だったことによる)からという。いやはや、世の中は知らないことだらけですね。
山形弁は、「ゴミをなげる(捨てる)」、「コーヒーをかます(かき回す)」という。愛媛では「梅干をはめる(入れる)」という。
シャベルとスコップ。東日本では大型のものをスコップといい、小型のものはシャベル。西日本では大型のものはシャベル、小型のものをスコップという。
辞書の紙はインディアペーパーだった。薄くて、インクの裏抜けのしにくい紙だから。辞書の製本も、見開きで180度開くだけでなく、左右両方向に180度、つまり360度開いても壊れない。これは外国の辞書にないこと。
コトバ選びの楽しさも味わうことができました。辞書編集者に対して、改めて感謝します。
(2022年1月刊。990円+税)

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