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つげ義春、流れ雲旅

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 つげ義春 ・ 大崎紀夫 ・ 北井一夫 、 出版 朝日新聞出版
 つげ義春といったら、大学生のころ寮で誰かが買った月刊マンガ雑誌『ガロ』で読んでいました。「ねじ式」など、独特の画風ですが、とても味わい深い雰囲気があり、魅きつけるマンガでした。
 団塊の世代の私よりひとまわり上の世代ですが、昨年、漫画家では初めて日本芸術院の会員になったことでも注目されました。日本のマンガを高く評価している私はいいことだと考えています。たかがマンガというべきではありません。もちろん、マンガがすべてだとも思いませんが、マンガもひとつの芸術分野だし、ときには入門の手がかりになると思うのです。たとえば、先日、小学4年生の孫の誕生日記念に「日本の歴史」のマンガ版をプレゼントしましたが、これなんか私だって読みたいものなんです。
 そして旅です。コロナ禍の3年間で、旅行が制限されましたが、今やその反動のように旅行が大人気です。でも、あのゴートゥー・トラベルそして今の「全国旅行支援」はまったく税金の使い方の間違いです。なんと3兆円もの税金を使った(っている)のでしょう。教育や福祉分野にこそ3兆円はまわすべきです。
 それはともかくとして、著者たち3人組は東北、四国そして大分・国東(くにさき)半島を旅してまわります。写真を見ながら、いやあ、今どきこんな状況はないはずだけど、いったいいつの旅なのか不思議だと思っていました。最後の頁で疑問が氷解しました。なんと1970年前後の旅なのです。今からもう50年も前の日本各地を旅したときのものなんです。でも、この本が発行されたのは今年(2023年)1月なんです。1967年に上京して大学生になりましたから、1970年というと、まだ私は大学生です。アルバイトと大学紛争に明け暮れていました。司法試験の論文式試験を終えて、息抜きに出かけた東北の一人旅では、田沢湖のほうから後生掛(ごしょがけ)温泉、そして蒸(ふけ)の湯にも泊まりました。
 東北の温泉場には、農閑期に農家の人たちが自炊しながら長期滞在する習慣があることもそのときに知りました。
 さすがに、いかにもつげ義春らしいタッチのカットと当時の写真に心がなごみます。ところが、巻末の座談会を読むと、衝撃的な事実が判明します。
 なんと、つげ義春は、旅行のマンガを描いていても、ほとんど自分の部屋で寝っころがって、考え出して作るもの。実在の地名を使うから、いかにも旅行しているように見えるけれど、実際は頭の中で作っているだけ。旅をしながら、考えても逆に物語にならないとまで言い切っています。作品を描きたくて、わざわざ地方を訪ねて、生活を観察したいという気持ちには全然ならないとのこと。
松本清張は、詳細な地図をじっと眺めて町並みを想像して、行ったこともない土地の雰囲気を文字で再現するのが常だったという話を読んだことがあります。同じことなのでしょうか…。古い時代の旅行見聞記として、なつかしく面白く読みました。
(2023年4月刊。2600円+税)

エキセントリック・ジャーニー

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 やく みつる 、 出版 帝国書院
 週末の博多駅の混雑ぶりはコロナ禍前と同じか、それ以上です。
 外国人旅行客も増えましたが、ともかく多いのは、日本人旅行客です。新聞広告も旅行会社による旅行プランが国内国外、すごいものです。
私もコロナ禍で自粛していましたので、全国へ旅したいと思いますが、なかなかチャンスがありません。残念です。
マンガも文章も書ける著者は海外にも旺盛に出かけています。100ヶ国も行ったとのこと。それも辺境旅行を企画する旅行会社のプランに乗っているようです。さすがに石橋を叩いて渡る私には出来ない旅行です。なので、こんな他人の旅行体験記を読むのが大好きなのです。これだったら、読み手の私はチョー安全で、退屈してしまったら寝てしまえばよいからです。
 著者は、旅行した先々でちょっとした物を買い集めているとのことです。私も似たところがあります。大きなものではなく、ほんのちょっとした小物です。これだと、かさばる荷物にならないし、隅にいくらも押し込んで日本のわが家で心ゆくまで眺めることができます。
 著者が海外旅行に初めて出かけたのは30歳のとき。私も同じころだったでしょう。一度行ったら病みつきになり、年に1度は海外旅行しようと決意しました。フランス語の勉強を真剣に始めたのも、その動機からです。おかげで、フランスだけは、今や列車もレストランも、電話での予約も心配無用です。
アフリカも南アメリカも、よくこんなところへ行ったもんだと思うところにまで著者は足を運んでいて、驚嘆するばかりです。そして、小物を買い写真をとり、またマンガの描ける著者は風景をスケッチしています。たいしたものです。私は国内それも北海道や信州に行きたいです。
(2023年4月刊。1980円)

カワセミの暮らし

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 笠原 里恵 、 出版 緑書房
 わが家から歩いて5分ほどの小川にカワセミを見かけたときには、感激しました。この小川の上流は「ホタルの星」になっていて、6月前後にたくさんのホタルがフワフワと飛びかい、童心に帰らせてくれます。
カワセミは、その青色の美しさが人の目を強く惹きつけます。
カワセミの羽毛の内部には網目状の泡のような部分がある。これは「スポンジ層」と呼ばれる構造体。ランダムな網目状の構造。これが周期的なパターン構造。
 カワセミの形をしているのは、新幹線の500系新幹線。
カワセミの巣は、川の水辺近くの露出した土の崖に奥行のある横穴を掘って巣をつくる。カワセミの巣は崖の途中にあいた穴から、地上に向かって上向きに傾斜している。
巣を堀りすすめるのは、オスの役割。産卵は1日1個ずつで、1回に6~7個の卵を産む。夜間の抱卵は、メスが担当する。アオダイショウなどのヘビが天敵。アオサギも、幼いカワセミを準っている。
 巣の中のヒナたちは、食物を親から受けとると、うしろ(奥)にひっこみ、ほかのヒナが受けとれるように交代する。
日本にはカワセミの仲間は8種。スズメよりひとまわりほど大きい。
宝石のように輝くカワセミの暮らしの一端をのぞいてみました。
(2023年4月刊。2200円)

ラザルス

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 ジェフ・ホワイト 、 出版 草思社
 多くの国民が食うや食わずで餓死の危険すらあるというのに、北朝鮮は次々にミサイルを打ち上げ、人工衛星まで宇宙空間に飛ばしています。いったい、この貧困そのものの国のどこに、そんなお金があるというのか…。
 北朝鮮の飛ばすミサイルは短距離弾道弾で1発4~7億円。アメリカに届く長距離弾道弾だと、1発30~40億円もかかる。この莫大な費用を北朝鮮は億ドル札やハッカー部隊で稼いでいるのではないか、それが本書のテーマです。
北朝鮮には軍を母体とする超エリートのハッカー集団があるようです。でも、政府機関や軍に属するハッカー組織が存在するのは何も北朝鮮には限らない。世界の多くの国でハッカー集団が組織され、他国政府の情報収集やスパイ活動ないしサイバー攻撃を行っている。
 北朝鮮の異様さが目立つのは、宿敵である韓国政府と軍に対してのサイバー攻撃だけでなく、世界中の暗号資産の収奪をもっぱら標的にしている点。
 ただ、不正に得たデジタル(暗号)資産は、それだけでは利用できず、ドルやポンドなどの現金に換えなければならない。それをどうやって克服するのか…。
 北朝鮮の犯行とされるハッキングで流失した暗号資産の総額は13億ドルにのぼる。
 この本の冒頭は、西インドの人口50万人の都市にキャッシュカードの束を持つ男たちが集まってきて、一斉に何十台ものATMから現金をカードで引き出していったシーンです。2時間あまりのうちに1100万ドルもの現金が引き出されたのでした。
 その犯人のあやつっていたのはラザルスグループ。
 北朝鮮のハッカー集団(ラザルス)は、2015年からは銀行をターゲットに定めている。ハッカー集団(ラザルス)は銀行のインターネットシステムのなかに潜入し、暗証番号の確認なしに現金を入手できるようにした。ハッカーたちは捕まるかもしれないとビクビクしながらネット操作を繰り返している。そして、銀行内のシステムにデジタル記録を削除し、爪痕が残らないようにしている。わずか数文字の変更によって、コンピューターの「ノー」が「イエス」に変わり、10億ドルの預金がしまわれている銀行の金庫室のデジタル扉が開放される。これが、コンピューター社会の怖いところです。
 プリンターを故障と思わせ、緊急メッセージは白紙しか出ないように変えられていた。
北朝鮮は、12歳までの頭の良い子どもたちを「サイバー戦士」に仕立てあげている。「国際数学オリンピック」に参加するほどの天才児たちがいるのです。そして、北朝鮮のハッカーたちの肉親も巻き添えをくってしまうのです。
 今や、銀行までもがハッカー集団に狙われて、ひっかきまわされることが頻繁に起きています。知らなかった、怖い話がオンパレードでした。
(2023年6月刊。2200円+税)

いなべんの哲学(第8、9巻)

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 千田 實 、 出版 (株)MJM
 80歳になった著者が50年間の弁護士生活を振り返った、含蓄あふれる小冊子シリーズです。著者は「生涯100冊発刊」の目標を立てて、なんと、それを達成し、ついに140冊になったとのこと。すごいです。
 読むと、今すぐに始めたほうが良いことがいくつも指摘されています。たとえば…、明日から徹底してやるより、少しでもよいから今すぐにやることが大切。気がついたらすぐやるほうが実行しやすいし、効果があがる。
失敗のない人生は、目的を果たそうとしなかった人生だったということ。失敗のない人生なんて、それこそ失敗だ。つまり、何か目的をもって生きようとしなかった人生なんてつまらない、ということ。これまた、激しく同感です。
 著者の哲学の根本は、人生は楽しめばよい、つまり面白く生きるということ。
 著者は弁護士として生きているうちに、「人生は、刑に服しているのではないか」と思うようになったとのこと。いや、それではいかん。60歳を過ぎたころから、「人生を刑務所からパラダイス(楽園)に変えてやると決心したとのこと。つまらないことにこだわり、すったもんだを繰り返してきた60年間は、身も心もすり減らしてしまった。これからは、ものごとにこだわらず、青空道中を生き(生き)たいと考えた。
 煩悩(ぼんのう)は、生きるためのエネルギー源。
 離婚問題を弁護士として扱い、解決するうえで一番気をつかうのは、困る人が出ないようにすること。もっとも困る人が出るのは戦争。戦争は絶対にしてはならない。戦争こそ紛争の代表。紛争は避けるのが利口。
 たとえ正義でも戦争は大嫌い。正義のための戦争より、不正義でも平和がいい。
 正義のための戦争なんかしてはいけない。戦争とは、人殺し。
 戦争に勝つために巨額のお金を費やし、戦争を増強するより、戦争にならないように知恵を出したほうがいい。
 戦争をしなければ、戦力は不要。不要な戦力に巨額の予算を投じる国や政治家には、もっとよい気づかいをしてほしい。
 ステルス戦闘機やミサイルにお金をつかう前に、原発(原子力発電所)の安全を確保することに、もっと気をつかうべき。
 まったくもって、著者の指摘するとおりです。本当に、自民・公明そして維新は根本的に間違っています。
ミンミンと泣く総理蝉(ぜみ)、
民を忘れ 飴(アメ)にすり寄る
兵隊 蟻(アリ)にす
国民を苦しめ、アメリカにすり寄るばかりの小泉そしてアベ首相を皮肉っています。憲法9条と日本の平和を守らなければいけません。
「経済力向上」「戦力増強」「富国強兵」をスローガンにかかげて欲望の衝空を激化させる政治家はより、欲望の衝空を避ける工夫をしてほしい。
 著者は、その経験上、持てる欲は少なくても、捨てることの効果は絶大だと強調しています。これまた、まったく同感です。
 著者は今、80歳。これだけの著書を書けるだけ元気一杯。でも、60代で大病をし、入院して臨死経験もしているし、厳しい食事制限(カロリー制限、塩分制限)も長らくしています。だから、著者は、人生には明日の保障はないのだから、人生は、今の一瞬を、まわりの人と一緒に楽しみ尽くすのみだと強調するのです。
 教えられることの多い冊子2冊をまとめて紹介させていただきました。
(2022年4月刊。1100円)

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