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「日本人捕虜」(上)

カテゴリー:日本史(古代史)

(霧山昴)
著者 秦 郁彦 、 出版 中公文庫
 日本人が捕虜となった事件を紹介する本です。
 白村江(はくすきのえ)の戦(663年)で、日本・百済(くだら)連合軍は唐・新羅(しらぎ)連合軍に大敗しましたが、このとき唐軍にとらわれ、27年後に日本へ帰還して「有30端、稲1千束、水田4町」を恩賞にもらった筑紫国の住人の大伴部(おおともべの)懐麻(はかま)がいた。このほか、三宅連(むらじ)得呼(とくこ)も捕虜となって先に帰国していた(『日本書紀』)。捕虜となったあと帰国して、ごほうびをもらった日本人がいたんですよね。
 秀吉の朝鮮出兵のとき(壬辰倭乱)、日本軍捕虜は「降倭」と呼ばれた。捕虜というより指揮官クラスをふくむ投降者が多く、しかも第一次出兵の初期から始まっていて、多くは朝鮮軍に寝返って日本軍と戦い、戦後も朝鮮にとどまり帰代定住した。
秀吉の朝鮮出兵は兵力30万人のうち5万人を失う惨烈な戦だった。参戦した武将達には概して不人気で、名分がなかったせいか、日本軍に戦意が乏しく、朝鮮や肥前名古屋からの逃亡者は多かった。
その総数は不明だが、有名なのは「沙也可(さやか)」こと金忠善。1642年に72歳の天寿をまっとうした。現在も14代目の子孫が健在。加藤清正の配下の岡本越後守と推定する人もいるが、確証はない。
このとき、日本軍は、2万人ないし5万人もの朝鮮の人々を日本に連行してきた(捕虜という定義にあてはまるのか疑問)。徳川家康が朝鮮との国交を回復したあと、数千人を送還した。鍋島の有田焼や島津の薩摩焼のような陶芸技術を伝えた人たちもいた。
日清戦争のとき、中国軍に捕まった日本兵は多くは中国軍に殺されたようで、捕虜となった日本兵が帰国したのは1人のみ。
日本軍の捕虜となった清国(中国)軍兵士は1790人いて、1113人が日本内地の収容所に入れられた。そして、下関条約で講和が成立したあと、中国に送還された。
 日露戦争のときは、捕虜がケタ違いに多かった。ロシア軍が8万、日本軍が2千だった。
 2千人の日本人捕虜は、うち223人は中国(満州)から帰国し、残りはヨーロッパ・ロシアの収容所から帰国した。収容所での待遇は、決して悪くはなかった。ただし、日本へ帰ってからは、周囲の冷たい視線に耐えられず、出奔する例が多かった。
 欧米では、「捕虜はひとつの特権にして、保護は当然」と考えられていた。ところが、日本兵は恥と考える思考が強かった。田舎になるほど捕虜に対する偏見が強く、居づらくなって大都市や海外移民へ逃避した者も少なくなかった。
 日露戦争のときは、ロシア兵が「マツヤマ」と連呼しながら投降してくるぐらい、日本の敵国捕虜に対する好遇ぶりは有名だった。
 この本に書かれていることではありませんが、中国共産党軍が日本敗戦後の国共内戦をすすめるにあたって、国民党軍の捕虜を好遇したことは特筆されるべきでしょう。国民党軍の兵士が負傷して捕虜になったら、自軍の兵士と同じレベルで治療し、回復したときに自軍への参加を呼びかけ、応じないときには、いくらかの旅費を手渡して帰郷させたというのです。これは絶大な効果があったようです。それほどの温情ある軍隊なら、自分も参加しようという気になるでしょう。
 ところで、共産党軍が日本軍を敵としていたときには、いったん捕虜になったら日本軍に戻っても好遇されないことを知って、日本軍への送還は止めたというのです。
 日本軍の悪しき伝統である兵士の生命・身体をまったく軽視してしまう考えは改められる必要があります。自衛隊では、その点、どうなっているのでしょうか…。まさか捕虜になったら死ねなんて教えてはいないでしょうね。大変勉強になりました。
(2014年7月刊。1200円+税)

憲法改正と戦争・52の論点

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 清水 雅彦 、 出版 高文研
 今や「戦争前夜」になりつつありますよね。岸田首相は広島でG7の会合を開いて司会席にすわっていながら、核兵器禁止条約を結び核廃絶を具体的にすすめようとは全然訴えませんでした。アメリカの核は良くて、ロシアの核は悪いなんて言っても、誰もまともにとりあいません。
 ところが、広島に集まって何か宣言を出したというので、その中味を抜きにして外交上の成果を上げたとマスコミが持ち上げるので、岸田内閣の支持率がぐーんと上がったというのです。騙されやすい日本国民の悪いところが見えて、悲しくなります。
 この本は行動する憲法学者として著名な著者が、Q&A方式で憲法改正の問題点を具体的かつ簡潔に指摘しています。
 朝鮮(著者は北朝鮮とは呼びません。韓国と朝鮮と呼んでいます)と中国と日本にとって脅威だと考えるのは、「タカ派というよりバカ派」だと軍事ジャーナリスト(田岡俊次)が言っているそうです。朝鮮がミサイル発射したのは、アメリカを交渉のテーブルに着かせるためのものであって、日本を目標としたものではない、本当に、そうなんです。日本に陸上イージス基地を置くという計画はアメリカ本土とアメリカ軍基地を守るためのものでした。
 敵基地攻撃能力(自民党は反撃能力と言い換えて、ごまかそうとしています)は先制攻撃そのものになります。実際、朝鮮は移動式ミサイル発射機を200機もっていて、攻撃すれば必ず反撃されます。核兵器による報復だってありえます。
 ロシアのウクライナ侵攻を見て、やはり日本も軍備を持てと短絡的に叫ぶ(考える)人が増えているようです。果たして、そうでしょうか。日本が軍事力を強化しても、中国にはかないっこありません。人口が10倍以上もあるのですから、中国と「過度の」軍拡競争に陥るだけなんですよ…。それでは国際平和は守れません。
 災害などの緊急事態のときに備える必要があるといいますが、ナチス・ドイツは、国会の多数を占めると、今や非常事態になっていると一方的に宣言して、すべて政府が決め、国会を無視しました。それと同じなんです。有害なだけです。歴史にきちんと学ぶ必要があります。
 防衛費は青天井で増大していくのに、文教・福祉予算は伸びないどころか削減という自民・公明の岸田政権は間違っています。
 分かりやすく、元気の出てくる憲法改正論点集でした。ぜひ、ご一読ください。
(2023年3月刊。1280円+税)

消された水汚染

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 諸永 裕司 、 出版 平凡社新書
 ピーフォス、PFOS、ペルフルオロオクタンスルホン酸。航空機火災用の泡消火剤に入っている。沖縄の嘉手納基地、そして東京の横田基地でアメリカ軍が大量に使用してきた。このPFOSによる水汚染が基地周辺の住民の健康を損なっている。しかし、アメリカ軍は実態を明らかにしないし、日本政府も日米地位協定の壁もあって被害解明にまったくの及び腰。いやはや怒りを通りこして涙が出てきそうなほど、情けない状況です。
 日本国民が、なんとなく、日本にアメリカ軍がいるおかげで日本は守られている、安全だという、何の根拠もない幻想に浸っているなかで、実際には日本国民の生命・健康が現実に脅かされているのです。
 横田基地のある多摩地域の井戸がPFOS汚染によって使用停止が命じられているなんて、知りませんでした。水汚染は深刻な状況にあります。
 横田基地の周辺にある、立川市、国立市、国分寺市、府中市では井戸も浄水所もPFOSの汚染はきわめて深刻。多摩地区の地下水は、西から東に向かってゆっくり流れている。1年で130メートル、1日36センチという動きだ。横田基地では、2012年に泡消火剤3000リットルが漏出した。
 日米地位協定によって、アメリカの同意なしに日本が基地内に立入調査することはできない。日本は泣き寝入りするしかない。
 ところが、アメリカが基地を置いている国は、どこも、そんな治外法権を許していない。ドイツもイタリアも、イギリスもベルギーだって、アメリカ軍基地への立入調査が認められている。国内法がアメリカ軍に適用されないというのは日本だけ。まさしく日本はアメリカの従属国であって、独立国ではないのです。多くの日本人は自覚していませんが…。
しかも、アメリカ軍とその兵士が日本人に損害を与えたとき、賠償金はアメリカが75%負担することになっているのに、現実には日本政府が日本人の納めた税金で全額負担し、アメリカは1円も負担していない。まさしく、開いた口がふさがらないとは、このことです。
 これほどまでアメリカに馬鹿にされていながら、多くの日本人はアメリカを神様のように考えているのですから、まさしく植民地根性そのものとしか言いようがありません。本当に残念です。
 妊婦のPFOS血中濃度が高いと、出生後の低体重をもたらし、アレルギーや感染症のリスクが高まり、免疫機能や性ホルモンにも影響する。世代をこえて汚染が伝わっていくのが、PFOSの怖いところ。
しっかり現実に目を向け、声を上げないといけない。つくづくそう思いました。自分自身というより、子どもや孫が健康に育つ環境を保障してやるのは私たち大人の義務ですよね。
(2022年1月刊。980円+税)

ヒトはどこからきたのか

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 伊谷 原一 ・ 三砂 ちづる 、 出版 亜紀書房
 ヒト(人間)がアフリカで生まれたこと自体は今や確定した真実です。「人類みな兄弟」という人類は、それこそアフリカ起源なのです。なので、白人優位とか黒人は劣等人種なんて全くの間違い。黄色人種も同じこと。そんなレベルで優劣を論じること自体がナンセンスです。
 では、ヒトは森の中で誕生したのか、草原(サバンナ)で生まれたのか…。著者は従来の通説を「おとぎ話のような説」として、徹底して否定しています。
その通説は何と言っているか…。ヒトと類人猿の共通祖先は森の中で誕生し、乾燥帯に出た祖先がヒトになったというもの。ではでは、著者の主張はどういうものか…。
 類人猿やヒトの共通祖先は乾燥帯、あるいは森と乾燥帯の境界あたりに生息していて、ヒトの祖先はそのまま乾燥帯に残り、類人猿は森に入りこんだのではないか。ヒトが乾燥帯にいられたのは、肉食が始まったから…。なーるほど、ですね。
 ボノボは、ものすごく上手に二足歩行する。
 アフリカの類人猿はチンパンジー、ゴリラ、ボノボのすべてがナックルウォーキングする。類人猿とヒトの違いは、四足歩行か二足歩行か。足と骨盤を見ると歩行様式が分かる。
 この本を読んで、衝撃的だったのは、文字どおりショックを受けたのは、アフリカに学生を連れていって、ある場所で放り出して、そのあと何ヶ月間も誰もいない無人地帯で生きのびるようなことをしていた(している)ということです。著者自身も、自転車に80キロもの荷物を積んで5カ月も一人で「放浪の旅」をした(させられた)とのこと。いやいや、これは大変、ありえないのでは…。だって、現地のコトバはまったく話せないのですよ…。猛獣から身を守るのに、まさか鉄砲は持っていないでしょうし、夜、どこに、どうやって安全を確保しながら眠るのでしょうか…。「万一、自分が死んで発見されても絶対に文句は言いません」なんて念書をとっておくのでしょうか…(もちろん、そんな念書は意味ありません)。安全が確保できたとして、コトバのほうはどうなりますか…。
ところが著者は、現地を自転車に乗って一人で旅しているうちに、自然と喋れるようになったというのです。現地のリンガラ語です。すごいですね、勇気がありますね。
勇気があるといえば、著者は有名な伊谷純一郎の息子ですが、自称「不良少年」(グレ)で、高校2年生のとき、家を出て一人暮らしを始めたというのです。すごいですね、本人も親も…。といっても、父親のほうはアフリカに長期滞在していて、家(自宅)にはあまりいなかったようですが…。
 著者は小学生のころから放浪癖があり、北海道に行ったり、沖縄で漁師をしたり…。
 日本人学者は、サルもチンパンジーもゴリラも、みな個体識別して名前をつけて観察しています。欧米人は、それができなかった、できるとは思わなかったようです。でも、今では、日本人学者は金華山のシカまで個体識別しているというのです。すごいことですよね、これって…。そして、そのためにエサを与えていたのが、今では近づく人に慣らすだけ(「人付け」)だというのです。
著者はチンパンジーの子どもを引きとって大きくなるまで一緒に育てたこともあるそうです。すると、大きくなっても、同じ部屋にいることができるようになるそうです。単なる飼育員だと、危険すぎて、それは禁止されているとのこと。
ヒトと類人猿との違いと共通点、そして、学者のフィールドワークの実際など、対話形式の本なので、とても面白く、すらすらと読みすすめることができました。
(2023年4月刊。1800円+税)

物語・遺伝学の歴史

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 平野 博之 、 出版 中公新書
 遺伝学で高名なヨハン・メンデルは修道院に入り、そこでエンドウ豆の交配実験をしてメンデルの法則を発見した。なぜ、修道院で生物学の研究がなされたのか、できたのか…。この時代、修道院は単なる宗教施設というだけではなく、その地方の学術や文化の中心だった。蔵書も20万冊ほどあった。
 なーるほど、そういうことだったのですね。いわば大学とか研究所のような存在だったのでしょう…。メンデルの法則を中学校(?)で学んだとき、私もその規則性には目を見開く思いでした。今でも、そのときの感触を覚えています。
 メンデルは、自分の研究成果を論文としてまとめて、1866年に科学雑誌に発表した。しかし、この論文について、当時は、まったく反応がなかったそうです。メンデルの法則として学界で認知されたのは、1900年のこと。
 遺伝学ではショウジョウバエとともに、トウモロコシが大活躍したそうです。というのも、トウモロコシの染色体は大きいので観察しやすいこと、雌花と雄花とが分化していて、交配しやすいことによる。
驚いたことに、大腸菌にも性があり、有性生殖をして遺伝子組み換えをする。
 遺伝子はタンパク質ではなく、DNAであることが確認された。遺伝子配列の中に「CAT」というのがあります。この本では、これを「ネコ」と呼んで説明します。野生型では「CAT」の3塩基が「ネコ」というアミノ酸を指定しているが、第1の変異により、「G」の塩基が挿入されると、読み枠がずれるため、「タコ」(GCA)や「チコ」(TCA)という別のアミノ酸になってしまい、タンパク質は機能を失ってしまう。ところが、第2の変異により塩基(T)が1個欠失すると読み枠が元に戻るため、大部分のアミノ酸は「ネコ」となり、タンパク質の機能は復活する。
 細胞は同じ染色体をもつにもかかわらず、なぜ、脳や肝臓など、いろいろなタイプの細胞が分化するのか。現在では、いろいろな細胞が生じるのは、遺伝子が共通していても、発現している遺伝子が細胞ごとに異なっているためだということが分かっている。そうなんですか…。
 遺伝子について、少しだけ分かった気になりました。
(2022年12月刊。980円+税)

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