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宗教2世

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 荻上 チキ ほか 、 出版 太田出版
 統一協会(教会ではありません)と文科省は質問と回答を往復していますが、まったく上辺だけで、宗教法人に対する解散命令を出す気はないとしか思えません。でも、統一協会というのは「宗教」の仮面をかぶった巨大な詐欺集団であることはあまりに明らかではないでしょうか…。少なくとも国家が宗教法人として税法上その他で優遇するなんて間違いそのものです。
 宗教2世の問題は、一般的な「親子問題」とは異なる一面を有する。この点、私もまったく異論ありません。
 宗教2世問題は、家族問題のみならず、帰属する(させられた)コミュニケーションの問題とも関わっている。
身体的な脱会は意外と簡単にできるけれど、心のほうは依然として囚われたままなので、自分の主体性、自立性を確保するには、入信していた期間とほぼ同年、つまり10年、あるいは人生をかけたライフワークになる。
自分で決めるということをずっとやっていなかった人は、脱会しても、自分で決めることがなかなかできない。たとえば、食堂に入って、何か好きなものを食べなさいと言われたとき、えっ、自分で決めていいんですか?と思ってしまう。いやあ、そうなんですか、そこまで主体性を奪われてしまうんですね…。なので、自分が決めていいものなんだと理解できたら(したら)、その人は自分の足で踏み出すことができる。
統一協会の信者であり続けている人たちは、心の中で疑問を抱いていても、いまさら協会を抜けられるわけはない。今までどれだけの犠牲を払ってきたのか、と自己正当化して、協会のなかで我慢して生活しているという人が少なくないだろう。
ううむ、この葛藤は理解できますよね。それで脱会に踏み切れないのですね。無惨です。
カルト宗教、そして自民党右派は同性愛者より人口の少ないトランスジェンダーを集中的にバッシングするというのは、国際的な状況。まずは弱い環を叩け、という戦法ですね。
自民党に山谷えり子という議員がいます。安倍晋三議員と一緒になって、学校での性教育をえげつなく攻撃した議員です。そのおかげで、学校での性教育はタブーのようになって、大きく後退してしまいました。自分たちは散々、浮気、不倫しているくせに、子どもたちにはもっともらしい道徳論を押しつけるというのが、この連中の手口です。学校で、もっと大らかに性教育が進められるべきだと私は思います。
統一協会問題が終わってしまったかのようなマスコミ報道の現状に腹が立って仕方ありません。自民党の萩生田政調会長に統一協会について今どう考えているのか、マイクをつけてぜひ質問してほしいし、それをテレビで報道すべきです。
彼には、子どもの健全育成は、そのあとで語ってほしいものです、まったく…。
(2022年11月刊。2200円+税)

難民鎖国ニッポン

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 志葉 玲 、 出版 かもがわ出版
 先日、国会で入管法のひどい改悪が成立してしまいました。本当に残念です。自民・公明そして維新は日本に難民を一人も入れたくないホンネをむき出しにしました。人道主義とか国際人権というのは、この3党の議員の眼中にはないようです。今でも難民申請して認定されるのは1%ほどでしかありません。その難民認定が、いかに杜撰なものであるか国会の質疑を通じて明らかになったのに、まったく目を向けて反省しようともしません。我らが仁比弁護士(参議院議員)の国会での質問は胸を打つものがありました。
 難民申請は3回以上だと、申請中でも強制退去させることができるなんて、法律としてひどすぎませんか。外国人労働者を大量に導入して安くこき使うのはいいけれど、政治的・社会的に政府からにらまれた人の逃げ場所と日本がなってはいけないなんて、自分の都合しか考えないということではないでしょうか…。
スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が、名古屋入管(出入国在留管理局)の収容施設で亡くなったのは2021年3月のこと。本人が助けて下さいと何度も訴えたのに、まったく無視され、十分な医療を受けることなく衰弱して死に至ったのです。ひどすぎます。このウィシュマさんについて、維新の会の女性議員が国会質問のなかで公然とデマ宣言したのも許せません。
ウィシュマさんはひどいDV被害を受けていて、その結果、留学生としての在留資格を失ったのでした。ウィシュマさんについては、ビデオによる映像記録があるとのこと。入管当局は2週間分の映像を2時間に編集してウィシュマさんの遺族だけに見せました。弁護士の立ち会いを入管当局は拒否したのです。これまた、許せません。
 日本の法務省は、現在、国際的に問題となっている「紛争難民」について、難民条約上の「難民」と決して認めようとしない。ともかく、狭く解して、一人でも多く入国させまいという姿勢なのです。
 日本各地にある収容施設に収容されている在日外国人は1253人。うち1年以上も約束されている人が531人(42.3%)もいる。入管による予防拘禁については、裁判所の判断が介在せずに無期限に拘禁するというのです。これは戦前の治安維持法による予防拘禁より悪質。
わずか150頁というハンディーな小冊子です。タイムリーなものとしてじっくり読んでみました。
(2022年2月刊。1600円+税)

平和憲法をつくった男、鈴木義男

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 仁昌寺 正一 、 出版 筑摩書房
「ギダンさん」と呼ばれる、福島県出身の法学者、弁護士そして政治家がいて、戦後、日本国憲法の成立する過程で第9条に「平和」の文言を加え、また、25条の生存権の追加に大きな役割を果たしたというのです。恥ずかしながら、まったく知りませんでした。
 私はどちらも視ていませんが、NHKは2017年のNHKスペシャルで「憲法70年、『平和国家』はこうして生まれた」で鈴木義男の「平和」条項挿入への関与を取りあげ、また2020年のETV特集「義男(ギダン)さんと憲法誕生」でも、鈴木義男が憲法制定過程で大きな役割を果たしたことを紹介したとのこと。いやはや、知らないことは世の中に、こんなに多いのですね…。
 「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する(憲法25条1項)は、本当に大切な権利です。自民・公明そして維新は「憲法改正」に必死ですが、その前に政党がやるべきなのは、この憲法25条を現実のものにすることです。
 司法権の独立、三権分立の点で意味のある、天皇が最高裁長官を任命するという憲法6条2項の修正にも鈴木義男が提案し、結論をリードしたとのこと、すごいことです。
鈴木義男は戦前、学者を辞めたあと弁護士になったが、そのとき、鈴木自身は賛同しないマルクス主義の立場をとる学者・知識人が被告人となった治安維持法違反の弁護活動もしています。これまた、すばらしいことです。
鈴木義男の父・義一は、キリスト教的人道主義の立場から明治末の社会主義者であり、幸徳秋水とも親交があり、警察の尾行・監視つきの生活だった。
鈴木義男は東北帝大の法学部教授のとき、大学での軍事教育に反対する論陣を張って当局からにらまれた。文部省が1926年9月に作成した「左傾教授」のリストに名前があげられている。ひょっとして今の文科省も、こんなリストをつくっているのでは…、ちょっと心配になりますよね。
鈴木義男は、「すいかのように外観は青くても、中味は赤い」と河北新報で評された(1926年9月20日)。
鈴木義男は宮本百合子の弁護人もつとめ、その生活も支援したとのことです。
日本敗戦後のまもなく(1947年6月)誕生した社会党の片山内閣で、鈴木義男は法務総裁(法務大臣)になった。
日本国憲法について、単純にアメリカによる押しつけ憲法だとする人が、今も少なくありませんが、憲法制定国会では真剣な議論があり、それなりに修正されたことを改めて知ることのできる本でもありました。
(2023年1月刊。1800円+税)

半導体戦争

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 クリス・ミラー 、 出版 ダイヤモンド社
 知らなかったこととはいえ、大変なショックを受けました。
 中国のコンピュータの大半は、機能するのにアメリカ製のチップが不可欠。中国は2000年代そして2010年代の大半の時期を通じて、半導体の輸入に石油以上の資金を費やした。半導体の設計に使われるソフトウェアツールはアメリカ企業が独占していて、中国のシェアは1%未満。
 IPコアの分野では、中国の市場シェアは2%で、大半をアメリカとイギリスが占めている。
 中国は世界のシリコン・ウェハーその他の半導体材料の4%しか供給していない。
 中国が占める半導体製造装置の市場シェアは1%、半導体設計は5%、半導体製造は7%。しかも、その製造能力に、付加価値の高い最先端の技術は一切ふくまれていない。
 半導体のサプライ・チェーン全体にわたって、半導体設計、装置、製造等の工程について、中国の市場シェアは6%で、アメリカ39%、韓国16%、台湾12%に遠く及ばない。
 ファーウェイの隆盛は、同社が市場シェアを獲得し、自社の機器を世界の通信網に組み込むにつれ、中国国家の利益になってきた。
 ファーウェイが中国国家によって目的をもってつくられたという説を裏づける強力な証拠はない。しかし、中国指導部がファーウェイの世界的な拡大を支援してきたのは間違いない。世界の有名な人工知能(AI)研究者の国籍をみると、中国29%、アメリカ20%、ヨーロッパ18%となっている。しかし、結局のところアメリカで働くことになる専門家はアメリカが59%も占めている。
 台湾がもつ半導体製造能力を他国で再現するのには長い年月がかかる。それまでは、全世界は引き続き台湾に依存することになる。したがって、もし戦争によって台湾のTSMCの工場が破壊されたら、ひどいことになる。つまり、世界経済や、アジア台湾海峡を縦横無尽に交差するサプライ・チェーンは、このような不安定な平和を大前提としている。アップル、ファーウェイ、TSMCなど、台湾海峡の両側に投資してきた企業は、暗黙のうちに平和が続くことに賭(か)けている。
 台湾は世界のメモリ・チップの11%、世界のロジック・チップの37%を製造している。
 コンピュータ、ケータイ、データ、センターその他の電子機器の大半は、こうしたチップなしでは動作しないので、台湾の工場が稼働を停止したら、計算能力は37%も減少する。これが世界経済に及ぼす影響は甚大だ。
 スマートフォン向けプロセッサの大半は台湾製、一般的なケータイに搭載されている10枚以上のチップも、多くは台湾製だ。台湾有事による経済損失は、数兆ドル規模になるだろう。計算能力の年間生産の37%が失われる。これは、コロナによるパンデミックや、経済に壊滅的な影響を及ぼしたロックダウンより、ずっと甚大な損失が生じる可能性がある。しかも、失われた半導体製造能力の再建には、少なくとも5年はかかる。
 アメリカの国防総省(ペンタゴン)には、10億ドルの潜水艦や150億ドルの空母専用の造船所があるが、使用される半導体の多くは台湾を主とした民間業者から購入している。最先端の半導体を設計するだけでもコストは1億ドルをこえるので、国防総省にとっては手に余る状態になりつつある。
最先端のロジック・チップの製造工場を建設するには、空母の2倍の費用がかかる。そこまでしても、数年たったら時代遅れになってしまう。
500頁をこす大作ですが、いま心ある人はぜひ読むべきです。これが世界の現実だと思いながらも、いつのまに台湾のー私企業が世界の根本を牛耳るようになったのか、その理由と事情について、ぜひ明らかにしてほしいと思います。
(2023年4月刊。2700円+税)

植物はなぜ薬を作るのか

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 斉藤 和季 、 出版 文春新書
 薬学の世界に40年以上も関わってきた著者が人間にとって植物成分がどんな意義をもっているのかを分かりやすく解説してくれている新書です。
チンパンジーは体調不良のとき、ふだんは口にしない苦味(にがみ)の強いキク科の植物の髄液(茎からしみ出た液)を飲む。すると、1日たてば体調が回復する。この髄液は寄生虫の駆除に役立つ。いったいどうして、野生のチンパンジーがそんなことができるのでしょうか…。
 「日本薬局方」に記載されている生薬(しょうやく)は300種。市場では、その倍以上の生薬が使われているとみられている。周知の生薬は、甘草(カンゾウ)、桂皮(ケイヒ)、大黄(ダイオウ)、麻黄(マオウ)、人参(ニンジン)。
 大黄は便秘薬として、悪いものを食べてしまい、すぐに排泄したほうがよいときに用いる。ケシがモルヒネをつくるのは、捕食者となる動物から自分を守るための防御物質だから。モルヒネには、血圧低下や呼吸抑制のような強い毒性作用がある。そして、このモルヒネは、実は哺乳動物の脳内でも植物体内と同じような経路でつくられている。なんとなんと、驚きますよね、脳内でモルヒネを自家生産しているなんて…。
解熱鎮痛薬のアスピリンはヤナギの枝の成分からつくられる。日本の爪楊枝(つまようじ)はヤナギの枝を使うのも、そのため。いやあ、ちっとも知りませんでした…。
 ニコチンは猛毒。かの青酸カリよりも毒性は強い。人がタバコを吸っても死なないのは、タバコに含まれているニコチンのすべてが一度に体内に吸収されるわけではないから。
 ニコチンには薬物依存性がある。ニコチン摂取は、血圧上昇、悪心、めまい、嘔吐などがありうる。ニコチンはタバコの根でつくられ、葉に運ばれて蓄えられる。次の捕食者からの攻撃に対する防御力を高める。
 カフェインにも毒性がある。一度に10グラム以上摂取すると危険。コーヒー豆が地面に落ちて芽生えをするとき、大量のカフェインの土中に放出する。すると、この放出されたカフェインによって、他の競合植物の芽生えを阻害する。
 甘草に含まれるグリチルリチンにはさまざまな治療効果が世界中で認められている。
 ところが、この甘草の主要産地は中国なので、中国が輸出制限をしたときには今後の安定供給が不安視される。
 植物は動けないことで生物多様性の生存戦略を守っている。なにしろ上陸植物は5億年ものあいだ生きてきたから…。植物は強い毒性をもつ成分には自らは打撃を受けない。(自己耐性)たとえば、自らがつくり出した毒性成分は、液胞に入る。
太古からの植物と人間の奥深い関係を少しはイメージもって学ぶことができました。動かないからといって植物をバカにしてはいけないということです。植物だって、それなりに生き抜くためにやれることを必死でやっているのですね…。
(2021年7月刊。880円+税)

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