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中谷クンの面影

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 中野 慶 、 出版 かもがわ出版
 読み進めていくうちに不思議な、フワリフワリと漂うような感触に陥ってしまいました。
主人公は一家の主婦であり、夫がいて、娘と孫がいる。孫は可愛い。娘は母親に頼りつつも、母親べったりではないどころか、ときに冷ややか。むしろ父である夫と共同戦線を張ったりする。孫は3歳なのでひたすら可愛いが、何をするか分からないので、一瞬たりとも目が離せない。
 主人公は66歳。東京で生まれ、武蔵野に住み続け、中学教師も定年まで勤めあげた。孫の世話に明け暮れているある日、幼ななじみの中谷クンがボリビアに移住したというニュースが飛び込んできた。中学の同窓会の案内状が来ている。参加申し込みの締め切りが迫っている。どうしようか、決断できない。
 私も中学の同窓会に出たことが一度だけあります、もう20年以上も前のことです。中学校の同窓会は出ようという気になりましたが、高校の同窓会には出る気がせず、ずっとずっと出席しませんでした。なにしろ、保守反動の市政を牛耳っている連中が大きな顔をしているのを日頃うとましく感じているので、とてもつきあいたくなんかありません。といいつつ、2年ほど前、ごく親しい人から自分も出るので一緒に出ようと誘われて昼間の会合に出席しました。高校のときは、生徒会の活動を2年ほどしていました(会長を総代と呼び、休憩時間にタスキをかけて学校中を選挙運動してまわったのです。無事に当選しました)ので、その同窓会には、誘われていそいそと参加しました。でも、誘ってくれた尊敬すべき先輩が亡くなったので、こちらは、もう次はないと思います。
 この本の主人公は、中学の同窓会は大好きだったとしています。活躍ぶりをぐいぐい誇示する人にも反発は感じない。女性たちも打ち解けている。今は、仕事などよりも、健康法と病歴に話題が集中する。ところが、今回は、なぜか主人公は億劫(おっくう)なのです。
 そして、同窓生の一人が中谷クンなのです。ボリビアに移住したという。その中谷クンから20年前に、小説をもらったまま呼んでいなかった。それを探し出して久しぶりに読んでいくのです。
 中谷クンの本の主人公の男の子(中学生)はアトピー性皮膚炎に悩んでいる。そして、夏休みに母親と一緒に広島へ行き、被爆者から話を聞いた。被爆者は、ケロイドのあとがかゆくて大変だったと訴える。
しかし、すべての被爆者がかゆみを感じていたわけではない、火傷(やけど)の程度にもよる。かゆくて辛かったのに、なぜ被爆者は、それを話そうとしなかったのか。アトピー性皮膚炎で苦しんでいる男の子は、問いを投げかける。
 被爆者がケロイドの箇所にかゆみを感じたのは、被爆して数ヶ月もあとのこと。だから、原爆にあった日を語るとき、かゆみのことは登場しない。結局、中谷クンの本は、現代の中学生が、かゆみという皮膚の感覚を通じて被爆者に出会う物語だ。
創造する人は、酷評を受忍すべき。無視されるよりは、ありがたいから。
 でも、私は、けちょんけちょんにけなされるくらいなら、黙って無視してほしい。心が折れそうになったら、困るから…。
中谷クンは、被爆の惨状を克明に描いて子どもに突きつけようとはしなかった。そうなんですよね、難しいところですね。原爆による死体の惨状をえんえんと描写する、その映像を流すことは、かえって、目をそらしてしまうかもしれません。あまりにも現実が恐ろしすぎるからです…。ナチスの絶滅収容所の惨状を描いた映像や写真をあまり見ないのは、そんな「配慮」があるからかもしれません。
この本の最後は、ノーベル平和賞受賞式の夜です。私も、ノルウェーのオスロ市庁舎の大広間を見学したことがあります。ここで、被団協の代表委員の田中さんが堂々とスピーチしたのです。本当にすばらしいスピーチでした。そして、ノルウェーのノーベル賞選考委員会の委員長のスピーチも心打つものでした。
選考委員会のヨルゲン・ヴァトネ・フリードネス会長は、受賞スピーチの中で次のように述べ、賛辞を送った。
「あなた方は被害者であることに甘んじませんでした。あなた方はむしろ自らを生存者として定義しました。大国が核武装へと世界を導くなか、あなた方は立ち上がり、かけがえのない証人として自身の体験を世界と分かちあう選択をしたのです。暗闇の中で光をみつけ、将来への道を模索する、それは希望を与える行為です。個人的な体験談、啓発活動、核兵器の拡散と使用に対する切実な警告、あなた方は数々の活動を通じて、数十年間にもわたり世界中で反核運動を生み出し、その結束を固めることに貢献してこられました。私たちが筆舌に尽くしがたいものを語り、考えられないことを考え、核兵器によって起こされる想像を絶する痛みや苦しみを、自分のものとして実感する手助けをしてくださっています。あなた方は決して諦めませんでした。あなた方は抵抗し続ける力の象徴です。あなた方は世界が必要としている光なのです」
(2025年7月刊。1870円)
 参議院の選挙のなかで、参政党が「終末期医療の全額負担化」を公約としています。それを読んで、私は心が凍る思いでした。病気にかかったら、さっさと死ねといわんばかりの冷酷さです。
 自民・公明の政府は医療予算をバッサリ削って、全国どこの病院も赤字をかかえて困っています。軍事費のほうはトランプの言いなりに際限なく増やしていますが、こちらのほうこそバッサリ削るべきです。
 冷酷・無惨な参政党が国会で議席を占めるなんて許せません。

中国手仕事紀行

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 奥村 忍 、 出版 青幻舎
 中国各地に行って民芸品を買い付け、日本で売るのを仕事をしている著者が、中国での買い付けに至る状況をルポしています。30年以上も中国に渡って、民芸品を買い付けているのです。すごいですね。各地の言葉を話せるのでしょうか…。
 どの町にも路地裏があり、そこにはおだやかな暮らしの時間がある。この本で見られる写真は、その光景をまざまざと伝えてくれています。
この本では、中国のなかでも秘境・絶景と呼ばれる場所がそこかしこにある雲南省、そして最貧の省とも呼ばれ、独自の文化を今なお残す貴州省の2省が紹介されています。
 土地を歩き回りながら、五感で感じとる。たくさんの刺激をかつて手仕事を探して旅をした先人たちも感じてきたのだろう。
 雲南省は中国も南の方に位置する。南の低地はプーアル茶の産地として知られる。雲南省には25の少数民族の居住区がある(全国で55の少数民族がいる)。
 省都の昆明は日本読みで「コンメイ」、現地読みは「クンミン」。
 雲南省には、銅鍋がある。たとえば、ごはん鍋。
 プーアル茶は、生茶と熟茶の二つに大別される。生茶は本来のお茶。熟茶は、最近つくられるようになったお茶。日本で飲むのは、大量生産しやすい熟茶。
雲南省のタイ族やシャン族には入れ墨の文化があり、蛇、虎、龍といった信仰のモチーフを彫り込む。
 雲南省の人は麺をよく食べる。それも米でつくった麺が主流。
チベット族の人々は、チベット自治区だけでなく、雲南省、四川省、青海省と、かなり広い範囲に及んでいる。
 ヤク肉は普通に煮ると硬くて食べられたものじゃない。一度冷凍して細胞を壊して柔らかくするのがポイント。
 昆明には世界最大と言われる野生菌市場があり、24時間、絶えずどこからかキノコが届き、またそれを求める人たちでにぎわっている。シロアリの巣の上に生えてくるキノコがあり、とにかく食感が良い。まあ、私はあまり食べようという気になりませんでした。
 貴州省には、太陽が貴重なので貴陽という名前がついた町がある。
 「天に三日の晴れなし、地に三里の平地なし、民に三分の銀もなし」と言われるほど、曇りと雨が多い。
 中国映画『山の郵便配達』は、私も観ましたが、映画に出てくる風景がここかしこに見られるところがあるそうです。
トン族伝統の食材はウシやヤギの胃の消化液から成る。草を食べる動物の胃の消化液なので草が溶けたドロドロの汁。苦くて変わった味だけど、食べ慣れると、クセになる味。
貴州省では、闘鳥が盛ん。鳥かごで小鳥を飼うが、そのエサでありこおろぎを入れておくために古くから使われているのが、こおろぎかご。竹細工の工芸品。ベトナムでは、まるまると太ったこおろぎの唐揚げは、レモングラスと一緒に食べると、最高にうまい。ところが貴州省は虫食は盛んなのに、なぜかこおろぎは食べない。
貴州省のたれは独特。ドクダミの根と焦がし唐辛子が入っているのがスタンダード。クセの強い香りに驚くが、慣れてしまうと、これ抜きでは物足りなさを感じるようになる。
中国の最奥地まで足をのばして民芸品を買い付けているわけです。たいした度胸がありますよね…。
(2025年1月刊。2700円+税)
 「日本人ファースト」を掲げる参政党は外国人排斥です。外国人の犯罪が増えているというのですが、私たちは、アメリカの軍人がとりわけ沖縄で重大犯罪(強姦殺人など)をしても、実は多くの事件で冤罪されている現実があります。さっさとアメリカに帰ってしまうのです。そして、民事賠償責任を負っても本人は負担せず、日本政府が肩代わり負担している現実もあります。そもそもアメリカの軍人や政府要人は横田基地から入国して、入管のチェックを受けていないのです。信じられない現実です。
 外国人の犯罪を問題にするのなら、まずはアメリカ軍人の犯罪が沖縄で繰り返されていること、そしてそれは、あたかも治外法権のようになっているアメリカ軍基地があるからだという現実を直視すべきだと思います。そもそも日本にアメリカ軍の基地は必要なのですか?アメリカ軍の基地と軍人の維持のための「思いやり予算」って、全廃していいのではありませんか?日本の国の根本に関わることは問題とせず、身近な人を敵視するような参政党はまったく信用できません。

縮む韓国、苦悩のゆくえ

カテゴリー:韓国

(霧山昴)
著者 朝日新聞取材班 、 出版 朝日新書
 日本社会もさまざまな問題をかかえていて大変ですが、隣の韓国は少子化という点ではもっと深刻のようです。
 韓国の人口は今5168万人(2025年)ですが2050年には4711万人(456万人減)になるそうです。日本はそのとき1億468万人(2026万人減)。
 出生率は日本が1.20に対して、韓国は0.72。日本でも少子化が問題になっていますが、韓国はそれ以上に深刻です。
 少子化で困ることの一つが必要な職業での人員確保が出来ないことです。たとえば、介護職です。もともと学生が少ないうえに、介護職の大変さと、その待遇の悪さ(低賃金など)によって介護施設が維持できなくなっています。そのため、インドネシア人などを導入しています。外国人排斥なんてとんでもないことなのです。
韓国の飲食店では、「ノーキッズゾーン」の飲食店があるとのこと。日本でも以前に話題になりましたよね。ファミレスで子どもが騒いで、うるさいという苦情が出ていたのです。でも、子どもが騒ぐのは万国共通なのですから、仕方がないこと。お互い我慢するしかありません。
韓国の子育ては、ともかくお金がかかる。習い事をハシゴする子どもたちが大半。毎日、夜7時まで、4ヶ所ほど習い事をまわる子が珍しくない。すると、もちろんお金もかかる。そこで、結婚していない男女、結婚しても子どもをつくらないカップルが増えているというのです。
韓国の少子化が進んでいるのは、子どもたちを育てるのに大変お金がかかることが原因しているというわけです。
 韓国では、大学進学率が7割、男女間の差は大きくない。ところが、結婚すると、女性は家事を押しつけられる。
子どもを持つことで、自分の人生を犠牲にしたくないと考える女性がいても不思議ではないのです。
韓国では、最近、「ひとりご飯」を受け入れる店が流行しはじめている。
 韓国は日本以上の競争社会だけど、高校までは受験で進学先を振り分けられることはない。大学受験の一発勝負。異様なほどソウル首都圏に集中する。
 ソウルの地下鉄は、65歳以上は無料で乗車できる。
 高齢者の生活難、貧困の問題は深刻だ。高齢者の貧困率は39.3%(2021年)。日本(20.0%)の2倍。OECD平均の3倍の高さ。自殺率も高い。
 若者はソウルに集中する。その穴を外国人労働者が埋めている。
釜山には何度か行ったことがありますが、この30年間に人口が50万人も減ったそうです。驚きました。390万人だったのが今や330万人です。若者人口が減っています。79万人いたのが、69万人になりました。
 日韓、似ているようで、異なるところもあります。お互い、もっと知る必要があると痛感しました。
(2025年5月刊。990円)
 6月に受けたフランス語検定試験(1級)の結果が届きました。もちろん不合格です。自己採点で50点でしたが、得点は55点。150点満点ですから、4割に届いていません。合格点は82点なので、27点も差があります。道はるか遠い先です。もう30年以上も受けていますが、今では合格するのが目標というより、語学力の低下を防ぐ、というよりはっきり言って、ボケ防止です。
 参政党がブームで、大きく議席を伸ばしそうです。でも「与党入りを目ざす」とのこと。つまりは落ち目の自民党を支えるということです。大臣の席をもらいたいのでしょう。自民党政治を根本から変える気はまったくないのに、なんだか「日本人ファースト」を唱えているから、政治を良い方向に変えてくれるんじゃないかということです。大きな「敵」(自民党)を守って、小さな「敵」(外国人)をヤリ玉にあげて、目をそらしています。
 騙されないようにしたいものです。

アウシュヴィッツ脱出

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ジョナサン・フリードランド 、 出版 NHK出版
 アウシュヴィッツ絶滅収容所をめぐる本は何十冊も読んでいますが、若いユダヤ人収容者が2人そろって脱出に成功したという話を読むのは初めてです。志願して収容所に入って、そこから脱出した人(ヤン・カルスキ)の本は読んだことがありますし、このコーナーでも紹介しています。
 その一人は、ルドルフ・ウルバ。19歳のとき、アウシュヴィッツ収容所から脱出した。本名はヴァルター・ローゼンベルク。脱出したあと、ユダヤ人らしくない名前に変えたのです。もう一人の相棒のフレートは25歳。どちらも若いからこそ、脱出できたのです。
 アウシュヴィッツ収容所から脱出するとき、まずは木材の積まれていたところの地下空洞で3日3晩、じっと動かなかった。犬よけに効果があるタバコの臭いを周辺にまいておく。まだ、ここは収容所の敷地内だが、通電フェンスの外側ではある。
ヴァルターが収容所に入れられたのは17歳のとき。若くて健康で、何ヶ国語も語学ができた。17歳のヴァルターは頭の回転が速かった。順応期間がろくにない強制収容所では、それは不可の資質。
強制収容所で人が死ぬのには二つのパターンがある。撃ち殺されるか、殴り殺されるか。そして、生きる意欲を失って死んでいく人々、ムズルマン(回教徒)と呼ばれる、人がいる。
 脱出するには準備がすべて。計画が必要。ヴァルターは、常に脱走について考え、絶対に脱走すると決意していた。ただし、正しい方法で…。ヴァルターは、すばやく相手を値踏みする能力を身につけていた。ここでは人を見る目は必須だ。
 収容所では、その日を生きのびても、死者や死にかけている者とは紙一重だった。
 「カナダ」と呼ばれる区画があった。このカナダの語源は、「中に何か(貴重品が)ないか?」を「カン・エーア・ダ」というドイツ語から来ているという説がある。また、北米のカナダは豊かな神話の土地だからという説もある。
 収容所に連行されてきたユダヤ人たちは引っ越しだと思わされていた。なので鍋やフライパンまで持っていた。そして、必要なときに使うため、歯磨きチューブにダイヤモンドを入れていた。
 カナダには、宝石や貴族品・現金があふれていた。毎日、ドイツ国内に向けて貨物列車が運んでいった。月曜日は、高品質の男性用シャツ。火曜日は毛皮のコート。水曜日は子ども服。そして、日用品は必要に応じて修理されたあと、前線に送られた。
 ナチスにとって収容所は大きなビジネスだった。死者の頭髪をメリって、紙の毛から布地がつくられ、ドイツの工場で爆弾の遅延装置として使用された。そして1942年から44年までに、6トンの金歯がドイツ帝国銀行の金庫に預けられた。収容所の基本通貨は食料で、現金に価値はなかった。カナダでは、親衛隊員と被収容者との間に、持ちつ持たれつの関係が築かれた。
 アウシュヴィッツにも地下組織があった。しかし、それは一種の互助会であり、メンバーだけに安定をもたらす団体。レジスタンスは、収容所を人間らしい場所としようとし、いくらかは成功していた。脱走は常軌を逸している。いわば自殺行為だ。
 強制収容所では他人を信じてはいけない。脱走に成功したあと、二人は運良く、自分たちの体験と見聞したことを報告書にまとめてもらった。これで、ナチスのユダヤ人絶滅計画の進行はストップするはずだった。まだ捕っていないユダヤ人はパニックから騒動を起こして、収容所をストップさせるはずだった。しかし、そうはならなかった。
 イギリスの新聞に真相を伝える話が載った。でも…。アメリカのルーズヴェルト大統領は報告書を読んでも何もしなかった。ウィンストン・チャーチルも同じ。連合軍の爆撃機は収容所のガス室・人間焼却室を爆撃しなかったし、収容所につながる線路も爆破しなかった。
それでも脱出した二人によってハンガリーの20万人のユダヤ人の命が救われた。
二人による報告書の内容があまりにおぞましかったので、にわかに信じてもらえなかった。
 「ユダヤ人は頭がいい。子どもの手を引いて、ガス室行きの列車に乗り込むなんて、信じられない」
「死の工場」の存在を信じるのは、容易ではなかった。人間を殺すことを目的として建設され、24時間稼働する施設。かつて、こんな場所が存在したことはなかった。人間の経験の埒外(らちがい)にあり、想像力が及ばないものだった。
 「どうして、おまえは、そんな馬鹿なことを信じられるのか。ありえない」
 耳にしたことを信じようとはしないというのが大方の反応だった。目の前の事実を否定しようとする。
 「軍が一般市民を殺すなんて、筋が通らない。本当のはずがない」
 情報は必要だが、それだけでは十分ではない。情報を信じさせなくてはならないのだ。
 だから、今でもアウシュヴィッツの虐殺なんて嘘だ、南京大虐殺なんてなかったと堂々と言って、それを信じてしまう人がいるんですよね…。恐ろしい、本当の話です。
なぜ脱出した二人が有名にならなかったのか…。それはユダヤ人協議会がユダヤ人虐殺に手を貸したとして二人が厳しく批判したから。なかなか難しいところです。
身震いしながら一心に読みふけってしまいました。
(2025年4月刊。2970円)
 日本国憲法は、第3章に国民の基本的人権を守るために、たくさんの条文を並べています。憲法というと、なんだか、私たちの日常生活とは縁がないと思われがちですが、決してそうではありません。たとえば、私がこのコーナーに私の意見をいろいろ書いていますが、政府を批判しても逮捕されることがないのは表現の自由が憲法に定められているからです。参政党の新憲法構想案には、私たちにとって大切な基本的人権のほとんどが、バッサリ削除されています。
 参政党にまかせたら、日本は真っ暗闇の社会になってしまいます。

ウィーブが日本を救う

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ノア・スミス 、 出版 日経BP
 日本の停滞は2008年に始まった。2008年こそ転換点だ。日本の実質賃金は1996年から、ずっと下がりっぱなし。超大企業の内部留保金はずっとずっと増えているのですから、賃金は増やせるはずなのです。政府も連合も、いったい何をしているんですか…。
 この本は、日本には発展途上国としての強みと利点があるとしています。かつて、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」だと言って、浮かれている一部の日本人がいましたが、今や日本を一流国だと考えている日本人がどれだけいるでしょうか…。
 日本国内の市場は縮小している。だって、実質賃金が下がれば、購買意欲が減退するのは必至です。そして、日本の生産性は低水準。だって、非正規社員をどんどん増やしていけば、企業の生産性が高まるはずもないでしょう。
 ウィーブ(weeb)というコトバを私は知りませんでした。Weeaboo(ウィーアブー)を短縮したコトバです。日本文化に首ったけの非日本人を指す。かつては、過剰に日本に執心している人たちを指す侮蔑語だったが、今では侮蔑語としては使われていない(そうです)。かつてOTAKU(オタク)と呼ばれていたのが、ウィーブと呼ばれるようになった(とのことです)。
 日本政府に欠けている政策が2つある。その一は、より良い福祉国家への政策。日本の社会福祉支出は中程度の水準でしかない。そうですよね。生活保護の給付を政府(厚労者)が合理的根拠なく切り下げたことに対して、あの最高裁も是正を命じたほどです。そして、自民・公明・維新・そして国民民主は医療制度の切り捨てを公約にしています。ひどすぎます。国民皆保険をやめて、アメリカのように金持ちだけが助かる保険会社本位のシステムにしたいようです。
著者は、もう一つとして貧困緩和をあげています。いやあ、鋭い指摘です。まったく同感です。誰もが安心して生活できるような社会にするためには生活保護の拡充が必要だと思います。生活が苦しいときに保護を受けるのは、市民として当然の権利なのです。参政党やら国民民主が外国人は生活保護を受けてはいけないようなことを公約に掲げていますが、排外主義ですし、根本的に間違っています。
この本は、日本は治安はいいし、食べものはおいしいし、みんなが移り住みたくなる国だとベタほめしていますが、その反面、日本の生活水準は低すぎる、日本人は今、静かに隠れた貧困に苦しんでいると、きちんとした指摘もしています。見るところは見ているのです。日本の相対的貧困率は、ヨーロッパよりも高い。
 購買力平価での日本の1人あたりGDPは、アメリカの64%、フランスの87%、韓国の92%と、先進国では下の方に位置している。それでも、日本では薬物乱用、10代の妊娠、犯罪は極めて少ない。生活水準が年々低下し続け、労働時間がのび続けているように、静かに犠牲が払われている。
 日本は、それほど幸せでも、気楽でもない国に感じられる。まったく、そのとおりです。
東京をふくむ首都圏には16万軒のレストランがある。パリには1万3千軒、ニューヨーク都市圏には2万5千軒。いやあ、そんなに多くの飲食店があるのですか…、知りませんでした。
 雑居ビルは、いかにも雑念としていて、日本特有の状況ですが、著者は、すごく好意的です。まあ、ともかく日本だと、ほとんどの店で安心して飲み食いできますよね(たまに、ボッタクリの店があり、気をつけないといけないことはありますが…)。
 日本の良さを生かしつつ、さらに貧困対策、そして福祉政策を充実させたいものです。それにしても、すぐに賃金の大幅アップが必要です。大企業の内部留保の巨大さには信じられない思いです。共産党が消費税をすぐ5%に下げること、その財源として、この内部留保金に目をつけているのに大賛成です。赤字国債なんかに頼ってはいけません。
(2025年3月刊。2860円)
参政党は日本人の納めた税金は日本のために使えと主張しています。でも、日本に住んで税金を納めているのは日本人だけではありません。多くの外国人が働いて、税金を負担しています。
 外国人の犯罪が多いということはありませんし、外国人が生活保護をたくさん受けているので、日本人が困っているという事実もありません。生活が苦しくなったら、日本人だろうと外国人だろうと生活保護を受けて生活できるようにするのは当然のことです。
 参政党の主張は、前提からして大きな間違いです。

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