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ハシビロコウのふたば

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 南幅 俊輔 、 出版 辰巳出版
 静岡県掛川市にある掛川花鳥園にハシビロコウがいます。人気者で、「ふたば」という名前がついています。生まれたのはアフリカのタンザニア。推定で7歳をこえるメスです。身長1.2メートル、体重は5キログラムもあります。
 ハシビロコウは、成長すると、瞳はオレンジ色から黄色に、クチバシは黒い斑点が薄くなってくる。
 こんな大きな体をしていて本当に空を飛べるの…、と疑ってしまいますが、どうやら飛べるようです。
 ハシビロコウの顔がユニークなのは、その大きなクチバシです。
 しかも派手な色こそついていませんが、じっとにらまれたら、すぐにも負けてしまいます。負けるといっても、ニラメッコの類です。ついつい笑ってしまうのです。
 ハシビロコウのふたばは、魚を食べたあとは、必ず水でクチバシをゆすいでいる。いやあ、鳥がこんなにキレイ好きだったとは信じられません。
 ハシビロコウは、長くコウノトリの仲間とされてきた。でも、今やペリカンの仲間とされている。こんなデカ鼻のような鳥からきっとにらみつけられたら、みんな、さっと身をかわし、逃げ出してしまうでしょう。
(2021年4月刊。1540円)

マナティとぼく

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 馬場 裕 、 出版 青菁社
 ちょっとトボけていて、可愛らしい顔のマナティって、どこに棲んでいるのかと思うと、アメリカのフロリダ州でした。クリスタルリバーという海岸です。ここは、川があり、一年中、温かい。外海で暮らすマナティたちは冬になると、温かいところで過ごそうとやって来る。
 マナティは好奇心が強くて、遊ぶのが大好き。ふだんは集団で暮らしていないのだけど、冬のクリスタルリバーでは仲間がたくさんいて、みんなでふざけあう。まるで人間の子どもみたいです。
 ボートの下の水中にロープがあると、マナティたちが寄ってきて、食べ物でないのが分かっているのに、ふざけてカミカミする。
 マナティにとって、人間は対等な存在。人間にこびることなく、なつくわけでもない。遊びたいときに遊び、いやになったら、どこかへ行ってしまう。
 マナティは人間と同じく肺で呼吸している。くしゃみをするし、いびきもかく。
 いやあ、マナティのいびきって、どんな音がするんでしょうか…。水中で寝ているときのいびきなんて想像できません。
 マナティは草食動物なので、水草(マナティグラス)が好物。マナティはよくオナラをする。でも臭くはない。
 マナティは水中で眠るときは目をつむる。最長25分ほど息つぎなしで眠っている。
マナティは2年に1度、1頭だけ子を産む。子どもは2年間、母親と一緒に過ごす。
 マナティは寒さに弱く、17~19度で活動できなくなり、15度以下だと死んでしまう。
マナティの寿命は60年以上だけど、死因の1割はボートによる事故死。アメリカ・フロリダ州にマナティは5730頭いた(2019年)。
実は、残念なことに著者は若くして亡くなっています。奥様による写真集のようです。
 ほのぼのとした写真集なので、眺めているだけで、心が癒されます。
(2023年5月刊。2400円+税)

江戸の借金

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 荒木 仁朗 、 出版 八木書店
 江戸時代、人々は借金するとき証文を書いていた(書かされていた)。もちろん口頭の貸借もあったが、返済が滞ると、文書にしていた。識字率の高い日本では江戸時代の農村でも借用証は普通に書かれていた。
江戸時代における農村の借金の大半は、もともと年貢を納められないことによって始まった。年貢未納が増えると口約束をして借金となり、それでも借金が増えると一筆を願って借用証を書く。この借用証が、さまざまな貸借条件を付けられ借金返済を促された。それでも返済できないときは、高額借金返済のために永代売渡証文を作成する。ただし、永代売渡証文を作成して土地所有権を手放したときでも、その土地は、土地売買金額さえ払えば取り戻すことが可能だった。
 永代売買は村落共同体の合意がないと成立しなかった。永代売買の実施は、村落共同体に管理されていた。
 現代日本人の感覚では、土地を売り渡してしまったら、その土地が売主のところに戻ってくるなど考えられもしません。ところが、土地は開発した地主と一体の関係にあるので、いずれ売主のところに戻ってきても不思議ではなかった。それは明治、大正そして戦後まで慣行として続いていた。売買も貸借も一時的なものだという思想が広範に受け入れられ、社会に根づいていた。
 この本によると、出挙(すいこ)は、とても合理的な金銭貸借だった。というのも、稲作の生産力は驚くほど高く、千倍もの富を生み出したから。また、古代の金銭貸借では、利息にも限度が定められていた。たとえば、最長1年につき、元本の半倍まで。(挙銭-あげせん-半倍法)。こうやって債務者の権利を保護していた。
中世の人々はおおらかで、借金できるのも一つのステータスだと考えていた。中世の貸付金利は月4~6%と高かった。
 徳政令は借金を帳消しにするものではあったが、その後の借金が出来なくなれば困るので、必ずしも好評ではなかった。人々は借金帳消しではなく、債務額の10分の1とか11分の1、あるいは3分の1を支払って、貸主との関係を維持しておこうとした。
 「返り手形」というのは、永代売渡証文と別に永代買主が売主に対して売買対象地を受け戻すための証文だった。ただ、この返り手形には、その有効性を担保するため、名主など村の有力者が証人であることが必要だった。
 江戸時代の金銭貸借の実情そして、証文の文言の詳細を知ることのできる本です。
(2023年5月刊。8800円)

あなた、それでも裁判官?

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 中村 久瑠美 、 出版 論創社
 このタイトルから、敗訴判決をもらった弁護士が、判決を書いた裁判官が初歩的な事実認定ないし法律判断を誤ったことへの批判だと想像しました。50年近い弁護士生活のなかで、何度も何度も、裁判官の間違った判決に泣かされてきました。もちろん、法律構成や判断については私のほうが裁判官に教えられることは多々ありました。そのときは、ありがたく感謝しました。そうではなくて、事実判断のレベルで、基本的な常識に欠けるレベルでの誤りをしているとしか思えない判決に何度も何度も接しました。そして、高裁で、その点を指摘しても、ほとんどの高裁の裁判官はことなかれ主義で、仲間としての裁判官をかばい、書きやすい判決に流れていく気がしてなりませんでした。あと、行政に弱いのは、ほとんどの裁判官に言えることです。まさしく、三権分立を担っているという裁判官の気概を感じたことは残念ながら皆無と言って言い過ぎではありません。
 私が裁判官評価アンケートに長く積極的に関わっているのは、この状況を少しでも改善したい、そのためには出来るだけ状況認識を多くの弁護士の共通のものにしたいという思いからです。
前置きが長くなりましたが、この本のタイトルは、そんなものとは無縁です。つまりは、DV夫が裁判官だったということです。東大卒の自称エリート裁判官が、自宅では新婚の妻に文字どおり身体的暴力を働き、また精神的なDVを繰り返していたというのです。
 知的で議論好き、博学でちょっとニトルなところのある男。しかし、その夫は妻に対して平気で暴力を振るう男でもあった。新婚旅行から帰ったその晩から、妻は夫の激しい殴打にあった。殴打ばかりではない。突き飛ばされ、足蹴にもされた。
 妻はいつからかサングラスが手放せなくなった。夫は、かんしゃくを起こすと、決まって妻の顔を殴った。目のまわりや頬はアザとハレが絶えなかった。それを隠すため、いつもサングラスをかけていた。ところが、夫は、他人の前ではやたらと社交的に愛想をふりまき、気をつかい、まさに「気配りの人」のように見せる。ところが、自宅では、絶望的な不機嫌さ、身も凍りつきそうな冷酷な態度だった。
 人前と妻の前でのご機嫌が天と地ほども変わった。妻は常に夫の機嫌を損ねないように気をつかい、かゆいところはここかあそこかと手をさしのべ、一から十まで世話を焼き、「殿よ、殿よ」とあがめていないと夫の暴力を防ぐことはできなかった。
 なぜ、そんな夫と妻が我慢していたのか…。暴力がおさまったあと、夫はまるで手のひらを返したように優しくなって、妻にベタベタしてしまうから。これで妻は、機嫌を直して、自分が悪かった、もっと夫に気に入られるようにしようと反省するのだった。これは「虐待のサイクル」といって、多くのDV加害者に通じるパターン(サイクル)だ。
 「オレほどの頭があり、仕事ができる男は日本中にいない。おまえはオレが仕事しやすいような最高の環境をつくらなきゃいかんのよ。ご主人が判決書きに忙しいときは、書き終えるまで何時間でも官舎のまわりを赤ん坊を背負って、ぐるぐる回り続けるのが普通なんだぜ…」
いやあ、信じられませんね、こんなセリフを吐くだなんて…。
 「あなた、それでも裁判官?」
 「ああ、オレは裁判官さ。書記官たちに聞いてみろ。オレくらい被告人の人権を考えている裁判官はいないって、誰もが言うぞ…」
 1年半もの交渉のあげく、慰謝料200万円、子の養育費は月2万円で協議離婚が成立した。その裁判官の月給は10万円の時代だった。まあ、それでも離婚して(できて)よかったですね。
そして、著者が司法試験に合格して30期の司法修習生になったとき、司法研修所の教官たちは、女性修習生にこう言い放った。
 「男が生命をかけている司法界に、女の進出を許してなるものか」
 「娘さんが司法試験に合格して親は嘆いたでしょう」
 「女なんかに、裁判は分かりませんよ」
 信じられない暴言です。でも、これらは当時の裁判官たちのホンネだったことは間違いありません。さてさて、今はどうなんでしょうか…。
 初版は2009年で、10年以上たっての再版の本を読みました。いやはや驚くべき内容でした。
(2020年7月刊。2200円)

沈黙の勇者たち

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 岡 典子 、 出版 新潮選書
 ヒトラー・ナチス支配下のドイツで1万2千人ほどのユダヤ人が地下に潜伏し、その半数近い5千人が生きて終戦を迎えた。これは驚異的な生存率ですよね。
ユダヤ人の潜伏に手を貸したドイツ市民は少なくとも2万人をこえると推測されている。彼らは、隠れ場所を提供し、食べ物や衣服を与え、身分証明書を偽造し、あらゆる非合法手段によって、ユダヤ人を匿(かくま)った。
 それはどんな人々だったかというと、その多くがごく平凡な「普通の人々」だった。職業もさまざま、年齢は老人も子どももいた。強固な思想の持主ばかりではなかった。圧倒的多数のドイツ国民がユダヤ人迫害に加担し、あるいは「見て見ぬふり」に終始するなかで、彼らは自分や家族を危険にさらしてまでユダヤ人に手を差し伸べた。
 1933年の時点で、ドイツ国内にいたユダヤ人はわずか52万5千人。ところが、ユダヤ人は、政財界、学問、文化、芸術などの分野で中心的な役割を担っていた。医師にも弁護士にもユダヤ人は多かった。これは現代アメリカでも言えることのようです。ユダヤ人は子弟の教育にことのほか熱心な民族だと言われています。潜伏期間においても、ユダヤ人は子どもたちには学問の機会を保障しようとしたようです。
ゲシュタポ(ナチスの秘密警察)がユダヤ人狩りに出動するときの80%は一般市民からの密告だった。また、ナチスは、いち度つかまえたユダヤ人を転向させナチスの協力者(「捕まえ屋」)に仕立てあげた。
 「地下に潜る」とは、ユダヤ人であることを隠し、別人になりすまして生きること。本当の名前を捨て、ユダヤ人の身分証明書を捨て、家を捨て、監視の目をかいくぐり、偽名を使って仕事を見つけ、闇で食料を手に入れ、家族と離れ離れになってでも生き抜く覚悟が必要だった。
 身分証明書を手に入れるのは、救援者から譲り受ける(譲った人は紛失として届け出て、再発行してもらう)、闇で入手する、あるいは盗む。この三つしかない。
ある親衛隊高官は、自分の娘が潜伏ユダヤ人と恋仲になったことから、そのユダヤ人青年を自宅に匿い、親衛隊員の身分証明書を偽造し、制服まで支給してやった。いやあ、そんなことがあったのですか…。
ユダヤ人弁護士カウフマンのユダヤ人救援者ネットワークは総勢400人というもので、最大規模でした。このカウフマンはユダヤ人として生まれながら、親の方針でキリスト教徒として育てられ、プロテスタント教会で洗礼も受けていた。カウフマンが何より強制収容所に入れられなかったのは、貴族階級出身のドイツ人女性と結婚したから。
 カウフマンのネットワークは身分証明書を大量に偽造していた。身分証明書の偽造に関わったのは22人、食料配給券の調達者は34人もいた。
 1943年8月19日、カウフマンは逮捕された。ゲシュタポへの密告によるものだった。そして、翌1944年2月17日、ザクセンハウゼン強制収容所で射殺された(58歳)。
潜伏ユダヤ人を助けた人々の善行は長いあいだ埋もれていました。これは、ドイツ国民の多くがホロコースト(ナチスによるユダヤ人の大量虐殺)を知らなかったとされてきたが、実は多くのドイツ国民はユダヤ人大量虐殺を知り、それに加担し、利益を得てきたことがあきらかになってきたことに関わるものなので、いわばタブーだったことによる。ひるがえって、日本でも今でも「南京大虐殺」なんてなかったという嘘が堂々とまかり通っていますので、共通するところがあります。
 本書は「沈黙の勇者」について統合的な形で日本人に示してくれるものとなっています。ご一読をおすすめします。
(2023年5月刊。1750円+税)

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