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土の塔に木が生えて

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 山科 千里 、 出版 京都大学学術出版会
 アフリカ南部のナミビア共和国、首都から1000キロも離れた小さな村に何ヶ月も一人住みこんで、毎日、シロアリ塚を探し求めて、1日に何十キロも歩き回る…。いやはや、そのたくましさにはほとほと頭が下がります。
 若い大学院生の日本人女性が一人で、言葉が通じない、ケータイも通じないなかで、電気も水道もない小さな村で、6ヶ月間、シロアリ塚の調査をする…。いやはや、とても考えられませんよね。
 シロアリ塚は木の下にできる土の塔。でも、この「土の塔」から森ができるという不思議さもあるのです。いったい、どうなってんの…。
 著者がナミビアでシロアリ塚の調査を始めたのは2006年のこと。ナミビアは日本の2.2倍の広さがある。
 ヒンバは、世界一美しい民族と言われる。頭のてっぺんから足の先まで真っ赤な女性たちが目を惹く。オークルと呼ばれる赤土に牛の乳から作ったバターと香料を混ぜたクリームを全身に塗っている。上半身は裸で、頭・首・足首には革や金属の装飾品、腰にはぺらりと布を下げている。
 「チサトの小屋」に著者が一人で寝るかと思うと、大間違い。平日は、就学前の子どもたちが3~4人、週末には遠くの寄宿舎生活から村に戻ってきた子どもたちを含めて、にぎやかに寝るのです。電気・ガス・水道はなく、マッチすら使わない。生活に必要なものの多くは自然から得て、その多くは自然に返っていく。
 トイレもないので、近くにある茂み(ブッシュ)に潜り込む。
 食事は、毎日、同じものを、みんなと一緒に食べる。1人ふえたからといって1人分多くつくるという具合ではない。この村の食事はワンパターンで、野菜とタンパク質不足が体にこたえる。
 女性は、上半身が裸なのはあたり前のことだけど、膝から上を出すのは恥ずかしく、ふしだらなこと。
シロアリは真社会性昆虫で、分業する。
日本で代表的なシロアリは下等シロアリで、体内に共生細菌をもっている。
 キノコシロアリでは、コロニーの寿命は創設女王・王の最大寿命である20年ほどが上限。ただし、職アリや兵アリは数十日から数ヶ月で、どんどん入れ替わる。
 キノコシロアリは、高さ1メートルもある「塚」を90日でつくりあげる。このシロアリ塚は、地上の厳しい環境を調整する役割をもつ。シロアリ塚の巣内には、数百万匹にも達するシロアリの大集団と、シロアリが栽培するキノコが暮らしている。これは日々、大量の二酸化炭素を生み出す。その放出する代謝熱と太陽の日射によって塚内部に温度差が生じ、塔内部に張りめぐらされた直径数センチの通気管を空気が循環することで、適当な二酸化炭素濃度、一定の気温、高い湿度が維持されている。つまり、シロアリ塚の塔部分は換気扇として、巣内の生活環境を整える役割を担っている。実際、巣内は、1年中30度、湿度100%、二酸化炭素の濃度は数%以下という快適な環境に保たれている。
シロアリ塚は、とんでもなく硬い。足でけっても、棒で叩いても、突き刺そうとしても、ビクともしない。鍬を借りてガツンとやって表面がポロっと欠けるくらい。
シロアリ塚が先にあり、そこに樹木が乗り、さらにこと次第に「シロアリ塚の森」へ変化していく。
日没前に水浴びをして、日が沈むのを眺める。夕日は世界一美しい。夜はとても冷えるため、長袖シャツにゴアテックスの分厚い合羽を着て火にあたり、夜ご飯を食べる。周囲は真っ暗闇、家族みんなが火のまわりに集まってご飯を食べ、おしゃべりする、そして誰ともなく歌いはじめ、たらいを裏返した即席太鼓が加わる。
 夜空いっぱいに星が隙間なく瞬く。毎晩、空には天の川が大きな龍のように横たわり、いく筋もの流れ星が走る。月明りで本を読むことが本当にできる。
 それに伴い新月の夜は、月の前に真っ黒な布を下げられたような暗さだ。
副食のミルクや肉をもたらす牛やカギは、地域の人々の財産。家畜のミルクは日常的に利用するが、肉を食べるのは特別な日か、家畜が病気などで死んだときだけ。
 ヤギのミルクは非常時かつ子供用。大人はほとんど口にしない。著者が飲んだら、じんましんが出た。
ナミビアのなかの小さな村に、コトバもできず、ケータイは通じず、コンビニも店も一切ないなかで半年も暮らすなんて、そして、シロアリ塚を求めて一日中、歩きまわるだなんてよくぞよくぞやってくれましたね。しかも、マラリアに何回もかかって生き永らえているのです。この圧倒的なバイタリティーというか、生命力に、ほとほと圧倒されました。
 トイレの話は分かりましたが、猛獣やらヘビやらの怖い目にはあわなかったのでしょうか。そして、もっとも怖い「人間」にぶつからなかったのでしょうか…。
 あまりの体験談が淡々と語られているので、疑問どころも満載でした。そんな疑問にこたえる続編を期待します。毎日の生活に少し飽きてきた、そんなあなたに強く一読をおすすめします。強烈な刺激を受けること必至です。
(2023年4月刊。2200円+税)

ハシビロコウのふたば

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 南幅 俊輔 、 出版 辰巳出版
 静岡県掛川市にある掛川花鳥園にハシビロコウがいます。人気者で、「ふたば」という名前がついています。生まれたのはアフリカのタンザニア。推定で7歳をこえるメスです。身長1.2メートル、体重は5キログラムもあります。
 ハシビロコウは、成長すると、瞳はオレンジ色から黄色に、クチバシは黒い斑点が薄くなってくる。
 こんな大きな体をしていて本当に空を飛べるの…、と疑ってしまいますが、どうやら飛べるようです。
 ハシビロコウの顔がユニークなのは、その大きなクチバシです。
 しかも派手な色こそついていませんが、じっとにらまれたら、すぐにも負けてしまいます。負けるといっても、ニラメッコの類です。ついつい笑ってしまうのです。
 ハシビロコウのふたばは、魚を食べたあとは、必ず水でクチバシをゆすいでいる。いやあ、鳥がこんなにキレイ好きだったとは信じられません。
 ハシビロコウは、長くコウノトリの仲間とされてきた。でも、今やペリカンの仲間とされている。こんなデカ鼻のような鳥からきっとにらみつけられたら、みんな、さっと身をかわし、逃げ出してしまうでしょう。
(2021年4月刊。1540円)

マナティとぼく

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 馬場 裕 、 出版 青菁社
 ちょっとトボけていて、可愛らしい顔のマナティって、どこに棲んでいるのかと思うと、アメリカのフロリダ州でした。クリスタルリバーという海岸です。ここは、川があり、一年中、温かい。外海で暮らすマナティたちは冬になると、温かいところで過ごそうとやって来る。
 マナティは好奇心が強くて、遊ぶのが大好き。ふだんは集団で暮らしていないのだけど、冬のクリスタルリバーでは仲間がたくさんいて、みんなでふざけあう。まるで人間の子どもみたいです。
 ボートの下の水中にロープがあると、マナティたちが寄ってきて、食べ物でないのが分かっているのに、ふざけてカミカミする。
 マナティにとって、人間は対等な存在。人間にこびることなく、なつくわけでもない。遊びたいときに遊び、いやになったら、どこかへ行ってしまう。
 マナティは人間と同じく肺で呼吸している。くしゃみをするし、いびきもかく。
 いやあ、マナティのいびきって、どんな音がするんでしょうか…。水中で寝ているときのいびきなんて想像できません。
 マナティは草食動物なので、水草(マナティグラス)が好物。マナティはよくオナラをする。でも臭くはない。
 マナティは水中で眠るときは目をつむる。最長25分ほど息つぎなしで眠っている。
マナティは2年に1度、1頭だけ子を産む。子どもは2年間、母親と一緒に過ごす。
 マナティは寒さに弱く、17~19度で活動できなくなり、15度以下だと死んでしまう。
マナティの寿命は60年以上だけど、死因の1割はボートによる事故死。アメリカ・フロリダ州にマナティは5730頭いた(2019年)。
実は、残念なことに著者は若くして亡くなっています。奥様による写真集のようです。
 ほのぼのとした写真集なので、眺めているだけで、心が癒されます。
(2023年5月刊。2400円+税)

江戸の借金

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 荒木 仁朗 、 出版 八木書店
 江戸時代、人々は借金するとき証文を書いていた(書かされていた)。もちろん口頭の貸借もあったが、返済が滞ると、文書にしていた。識字率の高い日本では江戸時代の農村でも借用証は普通に書かれていた。
江戸時代における農村の借金の大半は、もともと年貢を納められないことによって始まった。年貢未納が増えると口約束をして借金となり、それでも借金が増えると一筆を願って借用証を書く。この借用証が、さまざまな貸借条件を付けられ借金返済を促された。それでも返済できないときは、高額借金返済のために永代売渡証文を作成する。ただし、永代売渡証文を作成して土地所有権を手放したときでも、その土地は、土地売買金額さえ払えば取り戻すことが可能だった。
 永代売買は村落共同体の合意がないと成立しなかった。永代売買の実施は、村落共同体に管理されていた。
 現代日本人の感覚では、土地を売り渡してしまったら、その土地が売主のところに戻ってくるなど考えられもしません。ところが、土地は開発した地主と一体の関係にあるので、いずれ売主のところに戻ってきても不思議ではなかった。それは明治、大正そして戦後まで慣行として続いていた。売買も貸借も一時的なものだという思想が広範に受け入れられ、社会に根づいていた。
 この本によると、出挙(すいこ)は、とても合理的な金銭貸借だった。というのも、稲作の生産力は驚くほど高く、千倍もの富を生み出したから。また、古代の金銭貸借では、利息にも限度が定められていた。たとえば、最長1年につき、元本の半倍まで。(挙銭-あげせん-半倍法)。こうやって債務者の権利を保護していた。
中世の人々はおおらかで、借金できるのも一つのステータスだと考えていた。中世の貸付金利は月4~6%と高かった。
 徳政令は借金を帳消しにするものではあったが、その後の借金が出来なくなれば困るので、必ずしも好評ではなかった。人々は借金帳消しではなく、債務額の10分の1とか11分の1、あるいは3分の1を支払って、貸主との関係を維持しておこうとした。
 「返り手形」というのは、永代売渡証文と別に永代買主が売主に対して売買対象地を受け戻すための証文だった。ただ、この返り手形には、その有効性を担保するため、名主など村の有力者が証人であることが必要だった。
 江戸時代の金銭貸借の実情そして、証文の文言の詳細を知ることのできる本です。
(2023年5月刊。8800円)

あなた、それでも裁判官?

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 中村 久瑠美 、 出版 論創社
 このタイトルから、敗訴判決をもらった弁護士が、判決を書いた裁判官が初歩的な事実認定ないし法律判断を誤ったことへの批判だと想像しました。50年近い弁護士生活のなかで、何度も何度も、裁判官の間違った判決に泣かされてきました。もちろん、法律構成や判断については私のほうが裁判官に教えられることは多々ありました。そのときは、ありがたく感謝しました。そうではなくて、事実判断のレベルで、基本的な常識に欠けるレベルでの誤りをしているとしか思えない判決に何度も何度も接しました。そして、高裁で、その点を指摘しても、ほとんどの高裁の裁判官はことなかれ主義で、仲間としての裁判官をかばい、書きやすい判決に流れていく気がしてなりませんでした。あと、行政に弱いのは、ほとんどの裁判官に言えることです。まさしく、三権分立を担っているという裁判官の気概を感じたことは残念ながら皆無と言って言い過ぎではありません。
 私が裁判官評価アンケートに長く積極的に関わっているのは、この状況を少しでも改善したい、そのためには出来るだけ状況認識を多くの弁護士の共通のものにしたいという思いからです。
前置きが長くなりましたが、この本のタイトルは、そんなものとは無縁です。つまりは、DV夫が裁判官だったということです。東大卒の自称エリート裁判官が、自宅では新婚の妻に文字どおり身体的暴力を働き、また精神的なDVを繰り返していたというのです。
 知的で議論好き、博学でちょっとニトルなところのある男。しかし、その夫は妻に対して平気で暴力を振るう男でもあった。新婚旅行から帰ったその晩から、妻は夫の激しい殴打にあった。殴打ばかりではない。突き飛ばされ、足蹴にもされた。
 妻はいつからかサングラスが手放せなくなった。夫は、かんしゃくを起こすと、決まって妻の顔を殴った。目のまわりや頬はアザとハレが絶えなかった。それを隠すため、いつもサングラスをかけていた。ところが、夫は、他人の前ではやたらと社交的に愛想をふりまき、気をつかい、まさに「気配りの人」のように見せる。ところが、自宅では、絶望的な不機嫌さ、身も凍りつきそうな冷酷な態度だった。
 人前と妻の前でのご機嫌が天と地ほども変わった。妻は常に夫の機嫌を損ねないように気をつかい、かゆいところはここかあそこかと手をさしのべ、一から十まで世話を焼き、「殿よ、殿よ」とあがめていないと夫の暴力を防ぐことはできなかった。
 なぜ、そんな夫と妻が我慢していたのか…。暴力がおさまったあと、夫はまるで手のひらを返したように優しくなって、妻にベタベタしてしまうから。これで妻は、機嫌を直して、自分が悪かった、もっと夫に気に入られるようにしようと反省するのだった。これは「虐待のサイクル」といって、多くのDV加害者に通じるパターン(サイクル)だ。
 「オレほどの頭があり、仕事ができる男は日本中にいない。おまえはオレが仕事しやすいような最高の環境をつくらなきゃいかんのよ。ご主人が判決書きに忙しいときは、書き終えるまで何時間でも官舎のまわりを赤ん坊を背負って、ぐるぐる回り続けるのが普通なんだぜ…」
いやあ、信じられませんね、こんなセリフを吐くだなんて…。
 「あなた、それでも裁判官?」
 「ああ、オレは裁判官さ。書記官たちに聞いてみろ。オレくらい被告人の人権を考えている裁判官はいないって、誰もが言うぞ…」
 1年半もの交渉のあげく、慰謝料200万円、子の養育費は月2万円で協議離婚が成立した。その裁判官の月給は10万円の時代だった。まあ、それでも離婚して(できて)よかったですね。
そして、著者が司法試験に合格して30期の司法修習生になったとき、司法研修所の教官たちは、女性修習生にこう言い放った。
 「男が生命をかけている司法界に、女の進出を許してなるものか」
 「娘さんが司法試験に合格して親は嘆いたでしょう」
 「女なんかに、裁判は分かりませんよ」
 信じられない暴言です。でも、これらは当時の裁判官たちのホンネだったことは間違いありません。さてさて、今はどうなんでしょうか…。
 初版は2009年で、10年以上たっての再版の本を読みました。いやはや驚くべき内容でした。
(2020年7月刊。2200円)

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