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世に資する、信号電材株式会社の50年

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 糸永 康平 、 出版 石風社
 福岡県の南端・大牟田市にある会社が日本全国至るところにある信号機の関係で全国50%のシェアもっている。交通信号機をつくるメーカーだ。遠くドバイやドイツ、アメリカをふくめて世界にも目を向けている。なぜ、どうやって…、その疑問にこたえる本。
 信号電材株式会社の設立は1972年10月のこと。創始者の糸永嶢(たかし)48歳、従業員5人、売上高2千万円の極小企業としてスタートした。
 まずは交通信号用鋼管柱を考案し、鋼管内に入線することで、外部配管材をなくした。鋼管柱は軽量化し、施工性の良いものにしたことで、いくつかの県警本部から採用され、売上高が1億円をこえた(1976年)。
次に、1987年、日本初のアルミ製車両灯器の量産に成功した。
そして、「西日(にしび)対策灯器」という難題に挑戦する。西日があたると、信号灯が乱反射して、全点灯状態に見えてしまい、どれが点灯しているか分からなくなるという問題だ。これは交通事故発生の原因となっていた。
 これを克服するため、多眠レンズ式の疑似点灯防止機能付ランプユニットを開発し、外部からの太陽光を遮断し、灯器内部光を通過させるという画期的なレンズを開発した。
 1992年、東京でのテストで最優秀と評価され、1993年、警視庁が「西日対策灯器」として採用した。
1995年、昼間は明るく、夜は減光する自動調光機能付きのLED矢印灯器を製品化し、京都府警が採用した。
2003、2004年ころ、業界で談合疑惑問題が発覚し、利益率が低下した。
2009年には売上高が50億円台となった。そして、2009年に経理課長を解任するという不祥事が発覚し、2010年には国税局の調査を受ける。
2014年、低コスト型信号灯器を開発。全面アルミ製で軽量化、省力化もすすんでコストダウンを達成。西日による表面反射をおさえ、強風にも積雪にも強くなった。
県警ごとに信号灯は仕様が異なっているというのには驚きました。全国統一ではなく、500種類もあるそうです。LED素子を192個から108個へ減らし、消費電力は10VA以下。より西日に強い歩行者用LED灯器も開発した。
信号電材の社員は、今や150人(年商60億円)。この本には書かれていませんが、従業員はかなり国際色も豊かだと聞いています。これからも発展してほしい会社です。
(2023年7月刊。2500円+税)

護られなかった者たちへ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 中山 七里 、 出版 宝島社文庫
 福岡のタワーマンションを全室1億円以上で売りだしたら、まもなく完売。高級ブドーは1房160万円、1粒4万8千円…。福岡・天神に新装オープンした超高級ホテル(リッツ・カールトン)は素泊まりで最低10万円。目の玉が飛び出るような話です。そして、天下の日立では年棒1億円以上の取締役が20人もいるとのこと。いやはや、持てる者はますます富み栄える世の中です。
 その反対に、生活保護の受給者はどんどん増えています。月4万円ほどの国民年金しかもらえないという人の話を聞くと、いったいどうやって生活しているのか、不思議でなりません。
 60代の男性が公営団地で生活保護を受けながら一人で生活していて、電気代が心配なので、エアコンつけてないと聞いて、せめて昼間はショッピングモールに避難することをすぐに勧めました。すると、クルマを持っていないからバスで行くしかないけれど、足が弱って歩けないというのです。本当に深刻な状況です。
この本は、生活保護の現場の問題点を鋭くえぐっています。映画化されていますが、私はみていません。
 保護課の受付の人はこう言う。
 「生活保護は最終的なセーフティネットという位置ですから、少しでも余裕があるのなら、生活保護は受けない方向でがんばってほしいんです」
 「広い意味での不正受給が圧倒的に多い。低賃金であくせくするよりは、働かずに生活保護を受けたほうが楽だとか、生活保護を受けながら闇の商売をするとか、社会制度を食い物にしている連中が少なからず存在している。ところが、その一方で、本当に生活が困窮してぎりぎりの生活を送っているのに、他人に迷惑をかけるのは嫌だ、恥ずかしいという理由だけで、申請をためらう人たちがいる」
 「ここは感情ではなく、現状をよく見て生活保護を支給するところですから、あまり国に甘えないでください」
 肉体的にも精神的にも追いつめられた申請者が窓口で、さらに追い詰められている状況は、見ていて楽しいものではない。
 生活保護を申請する人は、ひどく追い詰められた精神状態にある人がほとんどなので、受給を妨害しようとするケースワーカーは、いわば天敵みたいなもの。不正受給の取り締まりの端緒はほとんど市民からの通報による。
 貧困の臭い。生活費を切り詰め、風呂も隔日になり、最後は食費も節約していくと、こんな臭いがし出す。
福祉事務所や保護課は、社会的弱者を救うための機関のはず。ところが、実際にやっているのは弱者の切り捨て。
そんな現場で働く、生真面目一本の公務員が狙われ、強制的に餓死させられて殺される事件が相次いで発生した。いったいどういうことなのか…。
 いやあ、本当によく出来た、考えさせられるストーリー展開でした。北九州で、「おにぎり食べたい」と書き残して餓死してしまった男性を、つい思い出してしまいました。こんな不公平・不平等な現実を一刻も早くなくしたいものです。
(2021年9月刊。858円)

本の夢、本のちから

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 椎名 誠 、 出版 新日本出版社
 著者は世界中を駆け巡っていることがよく分かる本です。体力に自信がなく、しかもコトバの通じないところには本能的に拒否感をもつ私は、行った人の体験記を読んで追体験したつもりになって、それで良しとしています。そりゃあ、私だって、ピラミッドを見てみたいし、マチュピチュにのぼってみたいし、イースター島やガラパゴス島にも出かけてみたいという気持ちは、気持ちだけはもっています。でも、そこに至るまでの道中の苦難を考えたら、写真を手にとって眺め、苦労話をエアコンの利いたところで、熱いお茶を飲みながらじっくり味わってすますことで満足します。
 日本人は、世界でも相当に旅行好きな国民と言われている。私も、たしかにそうだと思います。江戸時代にも日本人はどんどん旅行に出かけています。しかも、無銭旅行も大流行していました。その典型が伊勢参りです。そして、戦前までの日本は旅人を止めてくれる家が日本全国至るところに余りました。
 ところが、今や、寺の境内の隅にキャンプを張ろうとしても寺は拒否するは、近所の人が文句を言いに来るわで、泊まるのも容易ではないそうです。すっかり寛容さが失われてしまったようで、悲しい限りですね。
 世界を自転車で一周しているスイス人は、日本人を皮肉って、こう言った。
 「日本はアウトドアライフの盛んな国だと聞いていたけれど、キャンプできる場所は限られていて、テントが張れる森や野原がない。しかも、海岸はゴミだらけで、川の水はどこも飲めない。ところが、不思議なことに、アウトドア用品を売る店は全国どこにもある。それを買った人は、いったい、どこで、何をしているのか。もしかすると、アウトドアが盛んだというのは間違いで、本当は日本はアウトドア用品を買うのが盛んな国ではないのか・・・」
いやあ痛烈な皮肉ですが、半分あたっている気がしますよね・・・。
 相手と話すとき、もっとも相手の目を見ない、見ないようにするのは日本人。その反対に、もっとも強烈に、終始、相手の目をにらみつけるように話すのはアラブ系の人々。たしかに、そうなんですよね。弁護士の仕事として相談に乗っているとき、相手の人の目を見るのは、ときどきだけです。じっとじっと見ているなんてことはありません。むしろ、書類を指し示したりしながら話すほうが多いです。でも、ここ一番、ここは説得の切所、ヤマだと思うときは、じじっと、目を見つめながら、声を低めて話しかけることにしています。
 それにしても、コロナ禍のせいで、マスクをしている人への対応は困りました。顔色、表情が読みとれないのです。目だけでは困るのです。口元そして全体の表情も大事なんです。
 この本で紹介されている旅行記を早速、10冊、ネットで注文して読むことにしました。
(2018年10月刊。1800円+税)

山本周五郎・ユーモア小説集

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 山本 周五郎 、 出版 本の泉社
 私が山本周五郎を読むようになったのは、司法試験に合格したあと、司法修習生として横浜で実務修習していたとき、仲間の修習生(石巻市の庄司捷彦氏)から勧められたからです。読みはじめて、たちまちトリコになって、たて続けに周五郎ワールドに浸りました。今でも、書庫には「ちいさこべ」「五弁の椿」「つゆのひぬま」など10冊ほどが並んでいます。なぜか「さぶ」が見あたりません。もちろん映画にもなった「赤ひげ診療譚(たん)」もあります。貧乏な病人はタダで診てやった医者の話です。
 次に、弁護士になってから藤沢周平を読みました。これもしっとり味わい深かいものがありました。山田洋二監督の映画や「たそがれ清兵衛」は良かったですよね。そして、葉室麟と続きます。
 山本周五郎の時代小説は、重厚感があり、人情の細やかなぎびんに触れて、その江戸情緒たっぷりのワールドについつい惹かれ、ひきずり込まれていきます。ところが、この本は、ユーモアをテーマとして集めたものです。ユーモアといっても、なかなか味わい深いものがあります。
 「堪忍(かんにん)袋」の話は、重苦しく始まります。乱暴者の主人公が、ともかく堪忍袋を胸中に沈め、あらゆる扱いにひたすら我慢する。ところが、ある日、水面にうつった顔は、まるで自分のものとは思えないものだった。自分が自分でなくなったのだ。それに気がついたとき、堪忍袋のひもが切れた音を聞いた。そして、それまで馬鹿にしていた男たち皆に対して、翌朝、出てくるように申し入れて歩いた。ところが、翌朝、その場所に誰も来なかった・・・。堪忍袋のひもが切れた音を聞いただなんて、よくぞ思いついたものです・・・。
 解説を読むと、これは戦前に書かれ、戦後に発表されたもの。戦前は厳しい言論統制があり、戦後もマッカーサー指令の下、自由な言論は保障されていなかった。そんな状況を踏まえて、この堪忍袋の話を読むと、どうなるか・・・。深読みできる話の展開なのです。
 「ひとごろし」は、臆病者という評判がすっかり定着している男(独身の下級武士)が、手だれの武芸者を上意討ちするのに名乗りをあげ、武芸者を追いかける。でも、尋常に勝負を挑んだら、それこそ返り討ちにあってしまうのは確実。そこで「臆病者」は考えた。武芸者の行く先々につきまとい、少し離れた、安全なところから武芸者に向かって「人殺し」と呼び続ける。すると、そのため武芸者は食事がとれず、宿をとるのも難しくなった。ついに疲労困憊した武芸者は根負けして、切腹すると言い出す。「臆病者」は、そのとき、何と答えたか・・・。
 弱いことは恥ずかしいことではない。知力を働かせれば、強敵を打ち負かすことはできる。恥ずかしいのは、それをせずに自分を大きく強く見せることばかりに腐心することだ。
 「核抑止論」とか「敵基地攻撃能力の保有必要」とかいうのが、この恥ずかしいことにぴったりあてはまります。そこにはユーモアのかけらもありません。残念です。
 お盆休みのお昼に、美味しいランチをいただきながら、読了して心豊かな気分でした。
(2023年3月刊。1300円+税)

大津絵

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 クリストフ・マルケ 、 出版 角川ソフィア文庫
 大津絵って、聞いたことがありませんでした。江戸時代の庶民に人気があった絵です。そのころ、浮世絵ほどの人気があったのに、今やすっかり忘れられてしまいました。でも、今でも滋賀県には大津絵を扱う店があるそうです。いかにも素朴な絵です。鬼まで可愛らしく描かれています。
 東海道最大の宿場であった大津、その西端の追分や大谷で旅人に対して大津絵は土産品として売られていた。
 大津絵は、神仏画、世俗画、戯画など、画題は120種以上。量産するため略画化され、型紙で彩色もされた。
 大津絵は土産品として、浮世絵と同じく手軽に買い求められ、庶民の日常生活に浸透していた。また、護符としても身近なものだった。
 大津絵は江戸時代の初期、寛永年間に始まった。大津絵の普及には、江戸時代に盛んだった伊勢参りも背景としてあげられている。
 大津絵に登場してくる鬼は悪い怪物ではなく、人間の善行に触発され、罪をあがなおうとしている。
 著者は、浮世絵ファンは世界中に多いが、同じ江戸時代の代表的な庶民絵画である大津絵について、ほとんど知られていないことを残念に思っています。カラー図版をみたら、なるほど、その思いがよく理解できます。
(2016年7月刊。1400円+税)

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