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呪医の末裔

カテゴリー:未分類

著者:松田素二、出版社:講談社
 ケニアにある一族4代の生きざまを日本人の学者が丹念に追って紹介した本です。アフリカの社会の内側をのぞき見した思いがしました。
 アフリカ大陸は今、深刻な危機にあります。たとえばHIVです。2850万人がHIVウイルスに感染し、これまでに1100万人のエイズ孤児が生まれ、今後20年間のエイズによる死者は5500万人と予測されています。ボツワナでは全人口の40%がPWH(HIVとともに生きる人)だというのです。ケニアでも220万人が感染しており、これは全国民の9人に1人の割合です。
 ケニアのアフリカ人は定住民というより、漂泊の民でした。結婚するにしても、マーケットや水場の近くで若い男が女性を見つけて、すぐ一緒に生活をはじめることが珍しくない。女性の両親からすると、あるとき市場に出かけた娘が突然に行方不明になるわけですが、大騒ぎはしません。村の日常生活において、それは「結婚」の可能性がもっとも高いからです。そのうえで、婚資の交渉が双方の一族のあいだで始まります。たとえば牛10頭の一括払いで話がまとまります。
 白人のもとでサーバントとして働くことがあります。そのときの考えは、白人の世界とアフリカ人の世界はまったく別物で、無効の世界はワシたちの世界ではない。だから、そこで何が起こっても、ワシたちの世界には関係のないこと。そう思っているからこそ、長く勤めることもできる。同じ世界に生きていると思えば腹もたつ。しかし、都市化がすすむなかで、社会が停滞し、後退していった。ぎりぎりの生活をしている者同士での寛容の心をもてなくなってしまった。
 身内が死んでお葬式をしたり遺体を引きとるについても、金銭のトラブルから、いがみあうようなことまで起きているのです。こんなことは昔はとても考えられなかったことです。ケニアの大草原でライオンを見てみたいと思いますが、都会のジャングルはもっと怖いところだとしみじみ思いました。

砂漠の戦場にもバラは咲く

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著者:姜仁仙、出版社:毎日新聞社
 ソウル大学を卒業し、ハーバード大学で学んで韓国人の女性記者がイラク戦争に従軍したときのルポです。
 アメリカはイラク戦争のとき、600人の記者を同行させました。うち、13人が死亡しています。すごく高い比率です。25万人のアメリカ軍兵士が5400人も死んだ勘定になります。もちろん、そんなに兵士は死んでいません。どうして、記者はそんなに死んだのか?よく分かりませんが、記者には自ら危ないところへ出かけていこうと習性があることは間違いありません。
 アメリカ軍は「エンベット」方式で記者を従軍させました。記者は交代せずに長期に従軍する。指定された部隊から離れたら資格を失う。作戦を事前に報道しない。3つの条件がつけられました。記者は防毒マスクを身について、銃も手にします。イラクの人々から見たら、侵略軍の一員でしかありません。
 バグダッドという名前は「平和の都市」だそうです。アメリカ軍はそこに攻めこみました。砂漠の戦場に女性記者が入ってトイレはいったいどうしたのか、疑問をもつでしょう。夜まで半日待ったこともあるというのです。ですから、砂漠で水を自由に飲めなかったそうです。
 戦闘を間近で見たいなんていう、仕方のない好奇心は捨てて欲しい。死んだり、負傷する軍人たちを、そのすぐ横で見るなんていうのは、もう、人間として後戻りできない道に踏みこんでいくようなもの。
 こんな言葉があります。本当にそうだろうと思います。人間を殺し、殺されていく人間を平然と眺めることができるとしたら、その人は、もはや人間ではないというしかありません。化物(ばけもの)でしかないのです。アメリカ軍への本質的批判を欠落させている、この韓国の女性記者は、その一線を越えてしまったような気がしました。

鉄の花

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著者:小関智弘、出版社:小学館
 東京の下町、大田区のあたりの工場で旋盤工として長く働いてきた著者ならではの短編小説集です。
 鉄が匂う、鉄が泣く、鉄が歓ぶ。下町で働く人々の肌の触れあいが見事なタッチで描かれています。山本周五郎の世界を江戸から今にタイムスリップさせた気がしました。
 しばし、時刻が過ぎるのを忘れさせ、旋盤の音が隣の家から聞こえてくる、そんな錯覚に襲われる本です。

二・二六事件

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著者:須崎慎一、出版社:吉川弘文館
 二・二六事件(一九三六年)というと、皇道派対統制派の対立・抗争を思い描きます。山川出版社の『詳説・日本史』の影響です。この本は、それが間違った俗説であることを立証しています。農村の窮乏や社会大衆党の躍進に危機感を強めた青年将校が、軍備の飛躍的な増強を実現するため、それを阻む財閥、その具体的あらわれとしての高橋是清財政と元老・重臣を打倒し、戒厳令を施行して青年将校や軍部にとって都合のいい内閣を実現するというのが決起の目的だったというのです。
 ところが、刑死した北一輝は、政友会の実力者であった森格から5万円をもらい、三井財閥から年間2万円という大金をもらっていました。財閥に養われて自家用車をもち、お抱え運転手もいたというほどの優雅な生活を送っていたのです。だから、実際には財閥打倒どころではなかったのです。
 二・二六事件当時の青年将校の意識を知るうえで目を開かされる本です。

ぼくの見た2003年イラク戦争

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著者:高橋邦典、出版社:ポプラ社
 イラク戦争の現実の一端を伝える写真集です。アメリカ軍に従軍した日本人カメラマンがとった写真ですので、攻め込まれた側であるイラクの人々の悲惨な状況を伝えるうえで大きな限界があります。それでも、戦争によって普通のイラク市民の平穏な生活が奪われている事態をうかがい知ることはできます。
 いよいよ日本の自衛隊がイラクに進出しました。なんでもアメリカの言いなりの日本ですが、アメリカ占領軍の片棒をかつぐことによる日本のイメージダウンは深刻です。いえ、それよりなにより、日本の自衛隊が初めて本当に人を殺す経験を積むことの恐ろしさに私は身が震えてしまいます。これまでの日本の自衛隊は人を殺したことが一度もない「軍隊」でした。だから、いざとなったときに役に立つか疑問だ。アメリカ軍からは低い評価しかされてきました。それをイラクで克服しようというのです。
 日本人がイラクの人々を殺し、先の外交官お2人のように日本人がイラクの人々によって殺される。こんな事態は、一刻も早く解消してほしいものです。

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