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凶犯

カテゴリー:未分類

著者:張平、出版社:新風社文庫
 中国の山村で、国有林保護監視員が村を牛耳る4人兄弟の言いなりにならず、ついには殺しあいに発展していく。すさまじい展開です。小説は事件発生の前と後とを時間刻みで交互に描いていきます。目まぐるしいのですが、それが緊迫感を生むのに成功していて、結末と原因が手にとるように分かります。
 中国の農村部で、取り残されたような農民の欲望に支えられ、絶大な実権を握って君臨する4人兄弟がうまく描かれています。殺人事件のあと、県から偉い役人が派遣されてきて、聞きとりが始まります。公正な結論が出ることを期待していると、とんでもない。でも、こんなものかなあー。日本だって、表面はともかく、本質的にはあまり変わらないよな。そう思わせる結末です。
 中国でベストセラーになったのも、うなずける凄い小説でした。

ネパールに生きる

カテゴリー:未分類

著者:八木澤高明、出版社:新泉社
 ネパールに行ってみたいと思ったことは何度もあるが、残念ながら行ったことはない。ヒマラヤのふもとの美しい大自然に囲まれた、のどかな暮らし。というより、最近では、まだ毛沢東主義者(マオイスト)がいて政府軍と殺しあっている。そんな物騒な国だというイメージの方が先に立ってしまう。
 著者は、まさにそのマオイストの軍隊に入りこんで取材し、写真つきで紹介している。表紙で微笑えんでいる女性兵士は戦闘中に死亡し、すでにこの世にはいない。のどかな山並みを背景とした写真なのに・・・。しかし、そこは厳しい戦闘地域だったのだ。
 マオイストは1万5千人もの兵力を擁しているという。女性兵士も少なくない。ネパールでは、2001年6月1日に、当時のビレンドラ国王夫婦が、ティペンドラ皇太子に殺害され、本人も自殺するという惨事が起きた。そのあとを前国王の弟であるギャネンドラ現国王が継いだ。そして、つい先日、国王親政を強引に始めた。
 ビレンドラ前国王は親中国派で、マオイスト対策に軍隊をつかうことに反対し、話し合いによる平和解決を望んでいた。ギャネンドラ現国王は、親インド派でマオイストの増長を警戒し、軍隊の出動を強く望んでいた。なるほど、そうだったのか・・・。
 マオイストの兵士は14歳から20歳が中心で、戦闘の前に酒や麻薬で無感覚になり、死を恐れずに突進する。村人は貧しいから、兵士になるしかない。それがマオイストの兵士であってもかまわないのだ。マオイストは酒と賭博を禁止している。集会に何万人も集めるだけの力がある。ところが、村人が途中で集会を抜け出そうとすると、若い女性が棒で叩いて坐らせてしまう。
 ネパール人女性と結婚した日本人カメラマンである。この本にある写真はネパールの実相を伝えてくれる貴重なものだ。

味ことばの世界

カテゴリー:未分類

著者:瀬戸賢一、出版社:海鳴社
 デザートをいただくとき、それは別腹よ、なんて言葉があります。この本によると、それは実在するというのです。甘いものは身体にプラスになる。このプラス信号を口にすると、たとえ既にお腹がいっぱいのときであっても、たちまち胃袋は中身を押し下げてデザートの入るだけのスペースを空けるのです。えーっ、本当なの・・・。でも、真実のようです。
 味は舌で感じる。だが、おいしさは脳で感じる。ある食べ物を口にしたとき、右脳と左脳は同時に活動しはじめる。まず、右脳でおいしいかまずいのか判断をし、左脳の言語中枢を介しておいしいとかまずいと言葉で表現する。左脳の分析は複雑系になればなるほど分析結果に時間がかかり、その表現も難しくなる。おいしいかどうかは右脳ですぐ判断できるが、どこがどう違うのかを分析し、言語的に表現するのは左脳が担当し、それには時間がかかり、表現にも大きな個人差がある。
 味やおいしさを言い表すのは知的なゲーム。その人の人間としての経験の豊富さ、知的才能とその鍛錬・品格など、すべてにかかわる。おいしさを上手に伝えることのできる人は深みのある人である。
 味覚の情報は半分しか新皮質に入らない。だから、料理番組では「おいしい」としかレポーターは言えない。意識にのぼってくる部分しか表現できないから。視覚はすべて新皮質に入るから言葉にしやすいのに比べて、臭覚や味覚が言葉にしにくいのには根拠がある。なるほど、そうだったのか・・・。
 だから、私は、単においしかったとか、うん、うまい、などという言葉ではなく、どういう味だったのか、その場の雰囲気をふくめて、情景描写で美味しさを言葉にしようと努めています。なにしろ深みのある人間になりたいものですから・・・。

仁義なき英国タブロイド伝説

カテゴリー:未分類

著者:山本 浩、出版社:新潮新書
 紳士の国というイメージが完全にふっとんでしまう本です。ええっー、そんなにイギリスって、他人のゴシップが好きだったのか・・・。そんな思いにかられました。
 私は週刊誌はほとんど読みません。でも、新聞の下の方にのる週刊誌の広告は必ずチェックしています。今どんなことが政界や芸能界で話題になっているのか、新聞を読んでいるだけでは絶対にうかがい知れない世界がそこにあります。
 イギリスのタブロイド新聞は、どこも旗幟鮮明です。右派のサンは310万部、左派のディリー・ミラーは210万部・・・。
 バッキンガム宮殿の召使いにまんまと化けたディリー・ミラーの記者がいました。日本の皇居に夕刊紙の記者が潜入することは不可能な気がしますが、かりに可能だったとしても、それが記事になることは絶対にありえないことだろうと思います。ダイアナ妃の死をめぐるパパラッチ騒動も紹介されています。その謎はいまも解明されていないようです。
 札束ジャーナリズムという言葉があるそうです。タブロイドに限らず、イギリスではネタを独占するために情報提供者に高額の報酬を払うのです。取材謝礼というより、情報を独占する権利についての売買だという発想なのです。
 きわめつけは、タブロイド記者からブレア首相のスポークスマンにのぼりつめて首相府情報・戦略局長までつとめた人物(アレスター・キャンベル)を紹介しているところです。日本では、週刊誌の記者が首相のスポークスマンになるなんて、とても考えられません。
 仁義なきタブロイド新聞の激しい競争ですが、日本のサンケイやヨミウリのような自民党べったりの新聞を読んでいない者からすると、朝日も毎日も西日本も日経も、いつだって同じような論調なので、いかにも物足りなさを感じています。まあ、どっちの方がいいか、評価の分かれるところなんでしょうが・・・。

伊藤博文暗殺事件

カテゴリー:未分類

著者:大野 芳、出版社:新潮社
 伊藤博文は1909年(明治42年)10月26日午前9時半過ぎ、ハルビン駅で安重根のピストルで暗殺された。教科書にも書いてある歴史的事実である。しかし、暗殺者は安重根ではなかった・・・。
 小柄な体格の安重根は駅のホームに降りたち、儀仗兵を閲兵していた伊藤博文を下の方から狙って撃った。しかし、伊藤博文の治療にあたった医師は、3発の弾丸はいずれも右上から左下へ弾が入ったと認めた。さらに、現場で発射された弾丸による弾痕は合計13個。1発で2箇所ないし流れ弾を考えたら、狙撃犯は8発か9発を発射したことになる。ところが、安重根のブローニング拳銃は7連発で、弾丸が1発残っていた。ということは数があわない。
 伊藤博文の側近であり、当日も同行していた室田義文・貴族院議員は30年後に次のように語った。
 ハルビン駅の2階の食堂から、斜め下に向けてフランスの騎馬銃(カービン銃)で撃ったものがいる。右肩から斜め下に撃つには、いかなる方法によっても2階以外は不可能だ。そこは格子になっていて、斜め下を狙うには絶好だった。
 ということは、安重根は真犯人ではない、ということになる。これは、暗殺グループの一員であったが、直接の下手人ではないということ。関係者はそれを知ったうえで安重根を暗殺犯人として扱い、それなりの待遇をしていたのではないのか。本書はそのように提起している。
 旅順監獄において安重根は多くの書を残している。墨と筆、そして絹の白布が差し入れられ、揮毫が許されている。日本の元勲を殺した殺人犯で死刑囚に、なぜ関係者がこれほどの厚遇を示したのか。それは、陰謀があり、その人身御供となった安重根に心から同情していたから。もちろん、安重根の人格が高潔であったことも一因ではあるだろう。
 ところで、安重根の裁判は、実は難問をかかえていた。暗殺現場は中国のハルビンである。当時はロシアが支配していた。しかも、犯人は朝鮮人。だから、日本の刑法で犯人を処罰できるのか、という問題があった。イギリス人やロシア人、そしてスペイン人の弁護士たちが安重根の弁護人をして名乗り出ていた。それを日本政府は排除しなければならなかった。日本の元勲を殺したといっても、犯人は死刑にならず、無期徒刑の可能性も強かった。それでは困るということで、政府が裁判所に圧力をかけて無理矢理に死刑判決へもっていった。
 では、安重根が真犯人ではないとしたら、一体、誰が、何のために伊藤博文を暗殺したというのか・・・。韓国併合を強引に推進しようと考えていたグループにとって伊藤博文は最大の障害であった。邪魔者は消せ。そして彼は消された。うーん、そうだったのか・・・。

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