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忠誠の代償

カテゴリー:未分類

著者:ロン・サスキンド、出版社:日本経済新聞社
 オニール前財務長官が語るブッシュ政権の正体とオビにあります。また、大統領を震撼させた衝撃の内幕本とも銘うっています。なるほど、ブッシュ政権の寒々しい内幕がよく分かります。
 ブッシュ大統領は団塊世代。マイケル・ムーア監督の映画「華氏911」を見た人は覚えているでしょう。9.11事件を知らされたときのボー然とした表情のブッシュの顔は、ノータリン男の間抜け面の典型でした。よくもこんな男でアメリカの大統領がつとまるものだと思ったことでした。嘘だと思ったら、ぜひ一度あの場面を見てください。まるで何も考えていないことがよく分かる表情をしています。
 オニール財務長官はブッシュ大統領と定期的に1対1で話すことのできる地位にありました。そのオニール長官がそのときのことをこう語っているのです。
 ブッシュは何も質問しなかった。表情を変えずにオニールを見つめ、肯定的なものも、否定的なものも、反応らしきものはまったく示さなかった。ブッシュは重要な資料を読むことはしないし、周囲から期待されてもいない。ブッシュは、しばしば私は直観でやると高言する。
 だから、ブッシュ政権には前途なんてない。もともと政策を評価し、効果的に検討して一貫した統制をとる組織なんて存在しないも同然だ。いや、ブッシュの側近で実権を握っている者はごく少数ながらいる。ローブ、ヒューズ、カードそしてライス。
 ブッシュは重要な権限を他人に委ねている。政権内部の大多数がそれを見抜いている。ブッシュは十分に考え抜かれたとはいえないような極度に観念論な意見に踊らされている。ブッシュが出席する重要な会議、たとえば、閣議や国家安全保障会議には綿密な台本が用意されている。大統領が報告書を読むなんて思ってはいけない。ホワイトハウス内のスタッフはこう言っているそうです。ブッシュは、耳が聞こえない人間ばかりの部屋にいる目が見えない人間のようなもの。お互いに何の疎通も見られない。このように表現されています。呆れてモノも言えません。
 オニールとパウエルとクリスティの3人は、ブッシュの隠れみのとして利用されただけ。 背筋がゾクゾク寒気を覚える本です。身近にいた人間がここまでブッシュの正体を暴いていいものかと心配になったほどです。そんなブッシュ大統領が2期目、再選されたなんて、今でも信じられない思いです。
 ところで、この本にはこんなエピソードが紹介されています。
 ブッシュ大統領の参加する内輪だけのパーティーのとき、子どものころお母さんにねだった好きな料理は何でしたか、そう質問されたブッシュは次のように答えました。
 とんでもない。母は一度も料理したことなんてありません。あの人は指に霜焼けをこしらえていましたよ。いつも冷凍庫から取り出すだけでしたから・・・。
 なんだか寒々とした情景ですね。ブッシュは父親もアメリカ大統領だったわけですが、親の愛情に恵まれず、不幸な家庭で育ったようですね。可哀想といえば、かわいそうです。

ドッグメン、第三軍犬小隊

カテゴリー:未分類

著者:ウィリアム・W・パトニー、出版社:星雲社
 今や観光地として名高いグアム島を日本軍が占領していたことがありました。そこへ、1944年7月、アメリカ軍が反撃して進攻し、1ヶ月もたたぬうちに制圧しました。このとき、アメリカ軍の死傷者は7000人、日本軍は1万8500人が生命を落として、8000人が降伏せずにジャングルに身を潜めました。横井さんとか小野田さんとか日本軍の生き残りがジャングルに隠れていた、あのグアム島です。
 反撃するとき、アメリカ軍の海兵隊は720頭の犬を率いていました。第三軍犬小隊は110人の兵士がいて、軍犬のハンドラーとして戦闘に従事したのです。これらの軍犬は戦後549頭がアメリカに戻りました。再訓練の効果は十分にあがり、民間の暮らしに戻れなかったのは、わずか4頭でした。そのような軍犬の訓練の様子とグアム戦での従軍経過を当事者が紹介した本です。
 軍犬は凶暴さより、むしろ家庭のペットと同じく、知性、従順さ、忠誠心、スタミナ、信頼性、鋭い聴覚と臭覚とが求められる。ある程度の攻撃性は必要だが、ハンドラーがそれを制御できる範囲内でなければならない。たとえば、恐怖から噛む犬は極端に臆病で、卑怯な振る舞いをする。犬は自分との関係を支配してくれる人間を好むものだ。
 軍犬は訓練によって戦場では声を出さないように教えこまれるそうです。なるほど、ですね。
 この本を読んでもっとも驚いたのは、日本軍が自殺的なバンザイ攻撃をする前夜の様子がアメリカ軍に察知されていたということです。この本には次のように紹介されています。
 テンホー山の山頂に日本軍兵士は大集団を成して酒を飲み酔っぱらっていた。日本兵の集団は遠く離れていたにもかかわらず、叫んだり怒鳴ったりする声がアメリカ軍にも聞こえていたし、目撃されていた。日本兵は、空いた酒瓶を宙に放り投げたり、銃剣や軍刀を振りまわしたりして、予定の攻撃に向けて、自らを熱狂に駆り立てていた。
 日本軍兵士の突撃はアメリカ軍の機関銃と小銃射撃によって撃退されたが、第一波、第二波、第三波と襲いかかり、波の切れ目がなくなっていった。日本兵は絶叫する暴徒の群れとなって、次から次へと押し寄せた。彼らは100人単位で命を落とした。
 なんだか、本当に哀れな状況です。バンザイ突撃を今でも聖戦視する見方があるようですが、こんな不条理な戦闘を最前線の兵士に強いた日本軍上層部の責任は糾弾するほかありません。第二次大戦においてアメリカ軍で軍犬が活躍していたことを初めて知ると同時に、日本軍によるバンザイ突撃の不条理さを改めて認識させられた本でした。

アレクサンドロス大王

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著者:森谷公俊、出版社:講談社選書メチエ
 映画「アレキサンダー」を見ましたので、もっと詳しく知りたいと思って読みましたが、私の期待に十分にこたえてくれた本でした。
 アレクサンドロス大王は紀元前336年、20歳でマケドニア王となり、2年後に東方遠征に出発し、ペルシア帝国をほろぼした。西のエジプト、リビアから東は中央アジアをこえてインダス川にまで及ぶ大帝国を築きあげた。しかし、前323年、バビロンで急死した。そのとき、まだ32歳。
 この本は、ポンペイで出土した有名なアレクサンドロス・モザイクの絵を中心にすえて解説しているという点にも特色があります。ダレイオス3世が戦車の上におびえた表情で乗っていて、アレクサンドロス大王は馬に乗り長槍を右手に水平にもってダレイオス3世を見つめています。いったい、どの戦場の場面を描いたものかという問いを自らに投げかけ、どの戦場のものでもない、想像上のものだというこたえを示しています。
 この本ではアレクサンドロス大王の軍隊の強さが図解されています。たとえば、重装歩兵密集部隊です。長さ5.5メートルの長槍を前4列の兵士が前に倒して前進します。後ろ4列は槍を立てて続きます。これで8列の方形をつくったり、16列の楔形(くさびがた)隊形をつくったりして前進するのです。徹底した集団訓練なしにはできない戦法です。
 そのうえで、3つの会戦について、戦闘開始前と途中の両軍の位置を図示しながら解説していますので、とても分かりやすくなっています。
 たとえば、アレクサンドロスの軍隊が川辺で待ち構えているペルシア軍を打ち破ったとき、まずは少数の先発部隊を送り出し、それ惨敗する。しかし、それによってペルシア軍の戦列を乱す効果を上げる。だから、そこを本隊が攻撃する。このようにして不利な条件をカバーしたというのです。
 アレクサンドロスは味方の少数の部隊をおとりにしてペルシア軍をおびき寄せたり、奇襲をかけたし、天才的な用兵を示しました。図入りですから、よく理解できます。
 ダレイオス3世との最後の決戦の様子も図入りで詳しく解説されています。ダレイオス3世が夜襲を恐れてペルシア軍兵士を前夜、武装して立ったまま待機を命じ、兵士が戦闘意欲を喪っていった様子も描かれています。そして、映画「ベンハー」にも出てくる鎌付き戦車については、威力を示させないように工夫したというのです。すごいものです。
 ただ、当時、やっと26歳になったアレクサンドロスにも弱点はあったとも指摘されています。たとえば、戦場から逃げるダレイオス3世を捕まえようとわずかな兵を率いて深追いしたことです。
 さらに、映画「アレキサンダー」にも後半で、現地ペルシア人高官を登用したり、兵士として採用したりして、一緒にたたかってきたマケドニア人将兵から反発を呼んだというのも事実でした。やはり異民族を支配するというのは昔も今も一大難事なのです。
 アレクサンドロス大王の実像そして虚像について素人なりによく理解できました。

夏目金之助、ロンドンに狂せり

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著者:末延芳晴、出版社:青土社
 下の娘が今春、大学生になりました。大学生への読書のすすめのなかで、夏目漱石をあげている学者が何人かいて、漱石って、今でも日本の若者にとって必読文献なんだなと、自覚させられました。もちろん、私も高校生のとき、また大学に入ってからも漱石はかなり読みましたよ・・・。
 この本は、漱石がロンドンに留学したころを取りあげています。漱石はロンドンでノイローゼに陥り、知人から「ついに狂った」と言われたほどでした。
 漱石がロンドンに着いたのは1900年(明治33年)10月28日。今から105年ほど前のことです。33歳でした。イギリスが南アフリカで戦い(ボーア戦争)、その義勇兵の帰還を歓迎する大パレードがくり広げられているさなかのことです。
 漱石は単身イギリスに渡りました。妻の鏡子24歳は日本に残しました。鏡子は早起きが大の苦手。朝、夫が出勤してもまだ目が覚めなかったそうです。その鏡子は熊本の白川に投身自殺を図ってもいます。
 漱石はイギリスに渡る前、人間は外見が大事だという考えから、東京・銀座の森村組で最高級のスーツを新調しました。
 漱石は、巧みな英会話を披露できるほどの能力はありました。決して英語が話せなかったというわけではありません。ただ、キリスト教には警戒し、入信はしませんでした。キリスト教に疑いをもっていたからです。
 漱石の顔には、あばたが残っていて、本人もかなり気にしていたようです。心のトラウマだったと指摘されています。あばたに起因する屈辱感があったというのです。
 ところで、漱石は、初期の漢文体から最後の完全言文一致まで、一番過激に文体を変えていった作家といってよい、とされています。こんなこと、はじめて知りました。
 当時、ロンドン在住の日本人は、駐英公使もふくめて30人ほどしかいませんでした。
 日本人は部屋代の支払いがよく、きれいに生活しているので、ロンドンの家主から歓迎される存在でした。漱石もロンドンでの留学生活をはじめて半年間ほどは、それなりに楽しんでいました。ところが、そのあとは下宿に引きこもりがちになりました。文部省給費留学生として、支給される学費があまりに少なかったため、外出や付きあいを控えざるをえなかったのです。下宿籠城主義だと自称しました。
 帝大英文学科卒業という肩書きをもっていた漱石は、ロンドンで、それがいかに空虚なものにすぎないか十分に自覚していました。ところが、その後、神経衰弱に陥って下宿から一歩も外に出れなくなったのです。
 漱石をもう一度読んで、ついでに青春の日々を自分のなかによみがえらせたい、そう思いました。

宮澤喜一回顧録

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著者:御厨 貴、出版社:岩波書店
 自民党の元首相が何を言うのか、あまり期待もせずに読みはじめましたが、意外や意外、戦前から戦後、そして現代政治について、かなり思い切って裏面も紹介しながら語っていますので、面白く読みとおしました。たとえば、宮澤元首相は憲法9条を変える必要はないと言うのです。これには私も、まったく同感です。
 現に自衛隊が50年いる。それは事実だ。でも、だからといって条文そのものを変える必要はないだろう。いま誰も自衛隊をやめろと言っているわけではないし、そうかと言って、わが国は外国で武力行使をしてはいけないということは多くの国民が承認していることなのだから、なにも憲法9条2項を変えなければならないことはないのではないか。9条を中心に改正することは入り用のないことだ。
 同じく、宮澤元首相はイラクへの自衛隊の派遣についても批判的です。
 イラク戦争は、かつてのアメリカではありえなかった先制攻撃をしかけたもの。ところが、大量破壊兵器はなかったし、9.11とイラクに直接の関係のなかったことが明確になった。そして国連の安保理事会で多数の賛成を得ることなく、ブッシュ政権が先制攻撃をかけた。このような問題のあるブッシュに対して、小泉首相は少し踏みこみすぎたのではないか。ブッシュはネオコンにひっぱられている。そこに、イギリスのブレアほどではないが、小泉首相がコミットしていることに少し不安をもつ。日米安保条約はたしかにある。しかし、だからといってここまでアメリカに踏みこみすぎることがいいのかどうか。
 幸い自衛隊はこれまで攻撃を受けずに仕事をしているからいいようなものの、実際には宿営地の外へ出て、思ったほど仕事ができているわけではないし、場合によってはいつゲリラの攻撃を受けるかも分からない状況におかれている。いま武力行使はしていないが、何者かに襲われたら正当防衛せざるをえない。そのとき死んだとか殺したとかいうことになりかねない。そいう立場に自衛隊を置くことを日本の憲法は果たして想定していただろうか。やや疑問を持っている。
 小泉首相についても危ないという不安感が拭えないようです。次のように語っています。
 小泉首相の政策を徹底していくと従来からの自民党の支持基盤そのものが崩されることになる。自民党は既存の現役候補者をかかえているので新人が出ない。民主党の方が出世の早道になっている。官僚出身も民主党に行く人が増えている。民主党は、私にいわせるとやや仮面をかぶったまま、政権交代が可能な政党としてのイメージを獲得していくのではないか。自民党は公明党にかなり寄っかかっているところがあるので、民主党はいいところまで伸びていくのではないかと予測している。とくに小泉改革が本当に成功していけば、自民党が立っている基盤そのものがかなり緩むので、これは思わぬ展開をしないとも限らないと感じている。
 宮澤元首相は、日本がこれだけ経済大国になって、安全を他国に依存しているだけでいいのか、今後もアメリカ頼りでいいのか、という点も問題提起しています。ただ、自主独立をとるべきだという強い主張でもないようですが・・・。
 内閣の閣議なんて、実は議論する場なんかじゃない。このように率直に紹介されているのも驚きでした。なるほど、言われてみればそうなんでしょう。前日に開かれる次官会議ですべて決まっていて、それを承認するだけのセレモニーなんですね。
 アメリカとの単独講和について、反対する人がいるけれど、当時はあれしかなかったんじゃないかと開き直っています。うーん、そうかなー・・・。私は動揺してしまいました。また、日米安保条約に反対する運動についても、あれは中味のない騒ぎだったと、一言のもとに片づけられています。そうはいっても、日米安保条約のもとでアメリカの横暴さはますますひどくなっていると思うのですが・・・。
 戦争を体験した70歳以上の自民党長老に戦争反対の声が強いのは頼もしいのですが、戦争を知らない30代、40代の政治家にいかにも「勇ましい」好戦派が多いのは困ったことです。いったい自分とその家族が率先して外国の戦場、たとえばイラクへ出かけるとでもいうのでしょうか。もちろん、私は戦場へ行きたくないし、子どもたちにも行かせたくなんかありません。

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