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警察内部告発者

カテゴリー:未分類

著者:原田宏二、出版社:講談社
 私よりひとまわり上の世代ですが、その勇気に心から敬意を表したいと思います。思わず襟をただしながら読みすすめていきました。「うたう警官」(角川春樹事務所)は、この本を読むと、まさにノンフィクションなんだと思いました。まさかと思うようなことが実話なんですね・・・。なにしろ130キログラムの覚せい剤、大麻2トンの密輸、そして「クビなし拳銃」が警察署内の引き出しにゴロゴロしているなんて、とても信じられない日本警察の現実です。
 著者の勇気とあわせて、告発に同行した札幌の市川守弘弁護士の不屈の闘志にも拍手したいと思います。だって、弁護士だって心のなかでは警察が牙をむき出したら恐いと思っているんですから・・・。ただ、本件では著者や市川弁護士が用心したことに加えて、ジャーナリズムが一定の役割を果たしたことも、身を守る盾になったのだと思います。それも、中央ジャーナリズムではなく、地方の「道新」(北海道新聞)のがんばりです。それに比べると、西日本新聞は警察に対してはやや腰くだけの感を受けて仕方ありません。
 著者が警察の裏金問題を告発するために記者会見にのぞもうとするとき、何人もの記者から、やめた方がよいとアドバイスされたそうです。ジャーナリズムの堕落ぶりを改めて痛感しました。そんな記者に報道の自由を言う資格なんてない。私は怒りすら感じました。
 「クビなし拳銃」という言葉を私は始めて知りました。犯人はいないのです。ただ、どこからか拳銃が出てきて、それを押収するのです。稲葉警部は8年間に100丁の拳銃を 押収し、そのうち64丁がクビなしだったというのです。開いた口がふさがらない異常さです。
 警察の裏金づくりが体験と日誌にもとづいて淡々と語られますから、なるほど、なるほどと、よく理解できます。会計検査院が来るときには、東京からわざわざ警察庁の係官がやって来て、予行演習させられるというのです。
 部外者からすると、署長交際費など、必要経費はなるべく認めればいいように思うのですが、そこは恐らく人間の欲望がからんでいるのでしょうね。税金がかからず自由に好きなように使える裏金というものはなかなかなくなりそうもありません。とくにひどいのは警備・公安警察のようです。協力者(スパイのこと。S)をかかえこむために必要だということで、その実態はまったく明らかにされていません。ところが、刑事警察の2倍から4倍近くの支出が認められているというのです。彼らが相も変わらず「共産党対策」と称して甘い汁を吸っているのかと思うと、腹が煮えくり返ってりそうなほど全身が怒りにふるえました。
 著者は「明るい警察を実現する全国ネットワーク」という組織をつくって活動をすすめているとのことです。福岡でも、ぜひ応援したいものだと思いました。警察の裏金問題はまだ終わっていないのですから・・・。

荒野の庭

カテゴリー:未分類

著者:丸山健二、出版社:求龍堂
 芥川賞を受賞した作家だそうですが、私は小説を読んだことはありません。ただ、この本に出ている文章には、たしかにハッとさせられる鋭いものがあります。
 自分の人生を生きるのに、何の遠慮がいるものか。ここら辺りでひとつ居直ってみよう。そして、生きたいように生きてみよう。
 なるほど、そうですよね。私も、ずい分前から、したくないことはしないようにしてきました。カラオケのあるスナックなどには行きたくもありません。たいていの演歌は聞くだけで虫酸が走ってしまいます。ホステスさんに下手なおべっかをつかいたくもないので、クラブにも足をいれたくありません。ゴルフとかテニスなど、集団で競技するより、庭をひとりウロウロして、雑草を抜きながら、花を愛で、四季折々の風の香りをかぎつつ、鳥と声をかわしあうのが自分の性にあっているのです。近くの山々の緑を眺め、空の色が暮れ泥(なず)んでいく様子を見ていると、その一瞬が地球創世の貴重なひとときにも思えてきます。
 著者は長野県の山中に居を構え、庭をつくり、そこに花と樹を植え、世話をしながら1年半に1作の小説を書くということです。さすがに花や樹々の写真が実に生き生きしています。水もしたたる美人。そんな言葉がぴったりの花がうつっています。なにしろ花びらに本当に水玉がのってころがっているのです。紅いクレマチスの花が出ています。我が家にもクレマチスをたくさん植えています。気品のある純白のクレマチスの花を見るといつも、心がハッとときめきます。花にはチョウがやってきます。生き物は人間だけではないのです。私も、花が咲くと写真をとります。ほどよくとれた写真はみんなに見てもらいたくなって、弁護士会に売りこみます。月報の一面を飾ったこともあります。わが子のようにうれしく思いました。大自然を身近に感じながら生きるのは、うれしいものです。これも私が年齢(とし)をとった証拠でしょうか・・・。
 このブログに私のとった写真をのせて皆さんにお見せしたいとかねがね思っていましたところ、トラックバックにマコさんの素敵な写真がのっていました。風に揺れるクレマチスって、本当に風情がありますよね。赤紫色の花弁のクレマチスは奥ゆかしい深みがあります。雨にうたれてひっそり咲いている純白の花弁のクレマチスはえも言えぬ気品があります。冬の花たちが次々に紹介されますので、眺めていて飽きることがありません。まさに癒しの写真です。マコさん、ありがとうございます。

ネアンデルタール人の正体

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著者:赤澤 威、出版社:朝日新聞社
 「彼らの悩みに迫る」というサブ・タイトルがついています。その生活だけでなく、思考にまで迫ってみようという意欲的な本です。そのあらわれのひとつが、復元写真と図解です。石器をつくり、火を燃やし、動物を家族で解体し、骨髄をしゃぶっているカラー口絵が紹介されています。
 毛皮を口にくわえ、歯でなめしていた状況や、死者を埋葬するとき、花をとって投げ入れていた様子も描かれています。あっと驚いたのは、ネアンデルタール人に背広を着せると、もちろんヒゲもそっていますが、まるで現代人と同じ格好になるということです。
 しかし、ネアンデルタール人はわれわれ現代人の祖先ではありません。ネアンデルタール人はヨーロッパ周辺の寒冷地にいてアジアには住んでいませんでしたが、絶滅してしまいました。クロマニヨン人との混血説は否定されています。
 人類がアフリカ起源であることはよく知られています。しかし、アフリカ起源は600万年前と20万年前と、2回あったそうです。改めて認識しました。いずれにせよ、現代人がアフリカ人を共通の祖先とすることは間違いない事実なのです。白人だから優秀だとか、黄色人種だから偉いとかいっても、何の根拠もないことがよく分かります。
 縄文時代の日本の人口は20万人くらいだったことが紹介されています。へー、そんなに少なかったのか、と驚いてしまいました。
 化石骨の分析から、何を食べていたのかまで分かる。そんな指摘があるのにもビックリです。タンパク質コラーゲンの同位体を分析すると、タンパク質がどのような植物に由来するか復元できるというのです。ネアンデルタール人は食肉中心の食生活であり、クロマニヨン人は動物の肉だけでなく、淡水魚も食べていました。
 ネアンデルタール人は、数万年間、毎日毎日同じことを繰り返していたと推定されています。現代人の私たちからすると、何の変化もなく、退屈でおもしろくない生活だったことでしょう。そこにどんな悩みがあったか、こたえはもちろん出ていません。

星野道夫と見た風景

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著者:星野道子、出版社:新潮社
 写真家・星野道夫がカムチャッカ半島でヒグマに襲われて8年もたったそうです。奥さんが事故の真相を明らかにしています。彼はテレビ番組の取材に同行していたのです。このとき、心ない人物がヒグマを確実に撮影するために、ヒグマをおびき寄せようと考えて人間の食料を与えたらしいのです。ロッジを離れて、ひとりテント生活を送っていた彼を、お腹を空かしたヒグマが襲いかかりました・・・。
 キャンプ生活のときには、身のまわりに置かない、食後はすぐに食器を洗って片づける。そんなアドバイスを、奥さんは彼から受けていたと書かれています。彼が大変用心深かったことがよく分かります。惜しまれてなりません。
 それにしても新鮮なカットの写真集です。どれも生命の躍動を感じさせます。クマの親子が寄り添っている風景は、全身で信頼していることがよく伝わってきます。そして、アザラシの赤ちゃんの可愛いことといったら、ありません。白いぬいぐるみなんてものではありませんね、これは・・・。オッパイ飲んで満ち足りてスヤスヤ眠っている赤ちゃんの黒くぬれた鼻は生命力にみちあふれています。夕日にかがやく一群のカリブーたちの写真も傑作写真です。
 手にとって頁をめくるだけでも、ひととき心をなごませてくれる、いい写真集でした。

国家の罠

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著者:佐藤 優、出版社:新潮社
 鈴木宗男代議士の腰巾着とも、外務省のラスプーチンとも呼ばれていて、今や刑事被告人となった男性による弁明・反論の書物です。
 著者は鈴木代議士を今も高く評価しています。鈴木氏は学校の成績とは別の、本質的な頭の良さ、類い希な「地(じ)アタマ」をもった政治家だった。鈴木には嫉妬心が希薄だ。そうなのかなー、そうなのかもしれないな。でも、同世代の私にはあのエゲツなさ(もちろん会ったことはないのですが・・・)には、辟易します。旧来の典型的な政治屋としか思えないのですが・・・。
 次のような構図が描かれています。外務省は田中真紀子外相によって組織が弱体化したことから、これまで潜在化していた省内対立を顕在化させ、機能不全を起こして組織全体が危機的な状況へと陥った。そこで、危機の元凶となった田中女史を放逐するために鈴木宗男の政治的影響力を最大限に活用した。そして田中女史が放逐されたあとは、「用ずみ」となった鈴木宗男を整理した。その過程で鈴木宗男と親しかった著者も整理された・・・。
 田中真紀子女史が外相のとき、アメリカのアーミテージ国務副長官との会談をドタキャンした話は有名です。このとき、田中女史は、公務に従事していたわけでもなく、実は大臣就任祝いにもらった胡蝶蘭への礼状を書いていたという話が紹介されています。驚くべき馬鹿げた話です。アメリカの言いなりにはならないぞという決意を示したまでという裏話でもあれば救われる気がしますが・・・。
 ところで、外務省幹部の日本人観は次のようなものだそうです。日本人の実質識字率は5%でしかないから、新聞は影響力をもたない。物事は、ワイドショーと週刊誌の中吊り広告で動いていく。
 イスラエルの人口600万人のうちアラブ系100万人を除くと、旧ソ連諸国から移住した100万人はユダヤ人の2割を占めることになる。それほどロシア系の人々はイスラエルに力をもっている。したがって、ロシア内部のことはイスラエルにいてもよく分かる関係にある。このように著者は説明しています。はじめて両者の関係を知りました。日本の東郷茂徳元外相の妻(エディ夫人)はユダヤ系だそうです。これまた初めて知りました。
 著者が逮捕されてからついた弁護人は、いずれもヤメ検だったようです。その弁護人が著者に何とすすめたか、興味深いところです。土日は弁護士面会がないので、週末に検察官は徹底的に落とそうと攻勢をかけてくる。だんだん検察官が味方に見え、弁護人が敵に見えてくるようになる。その策略に気をつけるべきだ。国家が本気になれば、何だってできる。ロシアでも日本でも、それは同じこと。国策捜査の対象になったら絶対に勝てない。自分は何もやっていないのに不当逮捕されたから黙秘するというのもひとつの選択だが、公判の現状では黙秘は不利だ。とくに特捜事案では黙秘しない方がよい。事実関係をきちんと話して否認することだ。
 うーん、黙秘はすすめないのかなー・・・。不当逮捕(デッチ上げ)事件で完全黙秘をすすめたことのある私は、いささか疑問に思いました。実は、取調べにあたった検察官も次のように言ったそうです。
 中村喜四郎(元建設相)は、過激派みたいに本当に黙秘するもんだから、こっち(検察)だって徹底的にやっちまえという気持ちになった。うーん、そうなのかー・・・。
 山本譲司元代議士(一審の実刑判決に控訴せず服役しました。その刑務所体験記を本にして、最近、テレビドラマになりましたね・・・)については、内部告発があったので、検察庁としても手をつけざるをえなくなった。まさか実刑になるとは思っていなかった。世論が税金の使い方に厳しくなったことに裁判所が敏感に反応したのだ。裁判所というところは結構、世論に敏感だから・・・。
 この事件は、鈴木宗男を狙った国策捜査なんだ・・・。横領だと個人犯罪だけど、背任にしたら組織を巻きこむことができる・・・。検察官の言葉だそうです。
 著者は2000年までに日露平和条約を締結するという国策の実現のために必死に動いてきただけだ。このようにしきりに強調しています。しかし、著者が国策、国策というのを強調するのに、かなり違和感を感じて仕方がありませんでした。それは日本の外交官全体に対する私の徹底した不信感から来るものかもしれません。いったい、これまでの戦後日本の外交にアメリカを離れた独自の視点と行動があったのでしょうか。もしあったというのなら、それを国民の目の前に分かりやすく形で示してほしいものです。小さな私的利益が大きな国策というオブラートに包まれているだけなのではないのか・・・。アメリカでライス国務長官から町村外相が常任理事国入りを焦っていることをたしなめられたという記事を読んで、改めてそのように痛感しました。
 それにしても、密室で取調べにあたった検事の言動がここまで具体的に明らかにされると、検察官の言動は一層慎重になることを期待してもよさそうですが、どんなものでしょうか・・・。

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