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関東大震災と民衆犯罪

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 佐藤 冬樹 、 出版 筑摩選書
 関東大震災のあと、官製のデマ(内務省つまり国が意図的に嘘と分かってデマを大々的に流しました)に踊らされた日本人民衆が無差別に朝鮮人など(中国人もいて、日本人の社会主義者なども含まれます)を大虐殺していった大惨事の内情を明らかにした本です。
 官製デマを発信した国の責任、そして、それを無批判に受け入れてタレ流したマスコミの責任を鋭く告発していますが、同時に、それに乗って狂気の無差別大量殺人を敢行した日本人民衆の責任も追及している本でもあります。
 この大虐殺事件について、殺人罪などで640人の日本人が起訴され、ほとんどが有罪となった。その被害者は「400人」以上。しかし、司法当局は大量殺人事件なのに、その捜査に熱心ではなかったし、犯人全員を検挙したわけでもない。民衆を刺激したくなかったからだ。
数百いや数千人の日本人民衆が警察署に押しかけ(30件)、そのうち11件では警察署内に乱入してまで留置場内に保護されていた朝鮮人を虐殺(竹槍や日本刀でなぶり殺し)した。
 朝鮮人虐殺を生み出したのは、警察だと名乗る自動車が「朝鮮人200名が押しかけてきて町を焼き払おうとしているから、それに備え、警戒しろ」と呼びかけたことにある。
 警察(正力松太郎)は、そんな事実はないことを確かめたうえで、このデマを「あっちこっちで触れてくれ」と新聞記者に頼んでまわった。デマと虐殺の拡散において、警察と新聞各社は共犯関係にある。恐怖と不安に取りつかれた民衆は男も女も凶暴そのものと化した。
 警察がデマを承知で広めたのは、このころ朝鮮独立運動が活発になって、日本が朝鮮を植民地としての支配を続けられるのか心配していたから。
 朝鮮人虐殺を敢行した日本人民衆は、「善良な国民(日本人)」だった。その職業は多種多校であって、下層民衆ではなかった。中間層か、それ以上の階層の人々も少なくなかった。
 民衆による朝鮮人大虐殺が進行するなか、9月6日、治安当局は、ようやく朝鮮人の殺害を犯罪だと明言した。
 そして、あとでは、民衆による虐殺はあったし、それは逮捕・起訴して、刑事上の責任は裁判と対象となった(ほとんどが有罪となったものの、早々に刑務所から釈放された)。
関東周辺で結成された自警団は、3700団、平均人数65人だったので、少なくとも70万人の武装民兵が組織された。自警団の中核は消防団員だった。関東の自警団員の6割以上は、消防団員だった。自警団は、人事前でも経営面でも公営団体だ。
 自警団による朝鮮人虐殺(犯罪)の4つの特徴…。
その1は、徹底した攻撃性。武器を何一つ持たず、無抵抗の人々を殺し続けた。
その2は、性別も年齢も問わず、朝鮮人すべてを襲撃した無差別性。乳幼児や妊娠中の女性さえ惨殺した。
その3は、警察への反発。警察署まで襲撃した。
その4は、群衆による犯罪。
自警団にとって、朝鮮人は、震火災にともなう、あらゆる災厄の源だった。
日本人が自警団によって殺害されたのは、無差別殺人にともなう、必然だった。
警察、そして国は、朝鮮人虐殺事件の責任一切を住民と自警団に押しつけた。マスコミも、それを受け入れて大々的に報道した。
日本人被害者の7割は、工場や会社、警察、軍隊に属する人々だった。農民や漁民はまったくいない。
善良な民衆が、ある日突然、凶暴な犯罪集団と化し、そのおかした犯罪について弁解し、合理化し、隠匿し、ひいてはそんなものはなかったとまで開き直ってしまったのです。デマって、本当に恐いですよね。
 
(2023年8月刊。1800円+税)
 晩秋の候となり、紅葉が美しく見頃です。先日、上京したとき日比谷公園のイチョウが実に見事なので、つい見とれてしまいました。
 庭にフジバカマを追加して植えました。アサギマダラが来てくれることをひたすら願っています。
 庭で掘り上げたサツマイモを2週間たったので、オーブンで焼いて食べました。小ぶりなのですが、ほどよい甘さのものもあり、法律事務所に持参して、所員のみなさんに持って帰ってもらうことにしました。
報道によると熊本に新しく立地する台湾の半導体メーカーに国は1兆円も投下するそうです。でも、肝心な部品の生産は台湾でするので、日本へ技術移転することはないそうです。日本の司法予算は3222億円なのです。その3倍も民間企業にくれてやるとは…。地下水汚染も心配です。

「利他」の生物学

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 鈴木 正彦 ・ 末光 隆志 、 出版 中公新書
 人間にとって腸内細菌の多様性を保持したほうが病気になりにくい。そこで、腸内バランスの改善のため、健康な人の糞便を移植するという治療法が注目されているそうです。健康な人の糞便を溶かして大腸に直接挿入したり、カプセルに入れて口から摂取したりします。
 腸内細菌とヒトの免疫系はお互いに協力しあって、外部からの菌の侵入を防いでいる。腸内細菌は、直接、病原菌を駆除することもしている。
腸内細菌は、脳と密接に関わっていて、感情面にも影響している。そもそも脳は腸の先端部分が進化した器官とも言われている。腸には、腸管を取り巻く腸管神経系があり、腸管神経系は5000万個の神経細胞から成り立っている。腸管神経系は迷走神経系と密接につながっていて、迷走神経系は脳にもつながっている。
 精神を安定化するホルモンとして知られるセロトニンは腸管でつくられる。これには、腸内細菌のビフィズス菌が関わっている。ビフィズス菌はセロトニンを自らつくり出す。このセロトニンは、迷走神経の発達を促して、脳を育てている。
植物の9割は、何らかの菌根菌と共存している。どの菌根菌も、植物と共生しないと生きていけない絶対共生性の菌類。外生菌根菌としては、あの有名な松茸、フランス料理に使われるトリュフ、イタリア料理のボルチーニなどが有名。これらが高価なのは、生きた植物にしか共生できないというのが、大きな理由。
原始地球の環境は、高温かつ酸素が少なかった。今でも、この原始地球環境に似た場所がある。深海にある熱水噴出孔周辺。栄養分の乏しい熱水噴出孔周辺には、ジャンルの生物量に匹敵するほどのものがある。なぜか…。口も消化管も肛門も持たないチューブワームは、口がなくてもエラから硫化水素や酸素を吸収できる。
花と昆虫は、お互いに利他的で、仲が良さそう。でも、実は決して安穏な関係ではない。なぜなら、両者の目的が異なるから。花は甘い蜜や栄養豊富な花粉を用意して昆虫の訪花を待つ。その目的は、あくまで花粉を運んでもらうため。
昆虫にとっては、花粉の運搬なんて、どうでもよいこと。花の蜜や花粉さえもらえればよいことなのだ…。
花と昆虫、そして人間の身体までを広く統一してとらえることのできる本(新書)です。
(2023年7月刊。880円+税)

未完の天才、南方熊楠

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 志村 真幸 、 出版 講談社現代新書
 南方熊楠は、知る人ぞ知る、国際的にも有名な天才です。まず、この人の名前は何と読むのか、私はしばらく分かりませんでした。まさか、「なんぽう」ではないだろうから、「みなみかた」だと思っていました。本当は「みなかた」です。では、下の名前は何と読むのか…。正解は「くまぐす」です。
 画期的な天才と言われる割にあまり知られていないのは、生前に3冊しか著書を刊行していないからです。といっても、南方について書かれた本はかなりあり、私もいくつかは読んでいます。熊楠は、一生を通して、一度も定職についていません。これまた驚くべきことです。東大帝大の教授にもなって然るべき画期的な業績をあげているにもかかわらず、です。
 熊楠が有名(高名か…)になったのは、変形菌を扱っていた同好の士である昭和天皇に面前で生物学の講義をした(1929年6月1日)ことにある。
熊楠は外国語の天才とも言われていますが、著者は、いくつかに限定しています。まずは漢文です。でも、現代中国語は話せませんでした。
 英語はもちろんペラペラです。中国の孫文とも英語で話しています。フランス語、ラテン語、イタリア語そしてドイツ語については、文献を書き写すなかで覚えていったとのこと。恐るべき才能です。そして会話は、その国の酒場に行って聞き耳を立てて身につけていったというのです。いやはや信じられません。ところが、ロシア語は挑戦したけれどマスターできませんでした。語学の天才である熊楠でも出来ないコトバがあったのです。
 熊楠は書物至上主義。大英博物館で洋書を書写して勉強しました。
 熊楠がもっとも長期間にわたって研究を続けたのは夢だった。
 熊楠はインプットに重きをおき、なおかつコンプリートには関心を持たないタイプの学者だった。
 熊楠は「書くこと」と記憶を軸とした巨大な情報データベースをつくりあげており、その構築にこそ人生をかけて取り組んでいた。熊楠が仕事を完成させなかったのは、怠慢や能力不足によるものではなく、むしろ熊楠にとって研究とは終わってしまってはいけないものだった。
 熊楠の魅力は、未完なところにこそある。なーるほど、ですね。
熊楠が生まれたのは幕末の1867年であり、海外(アメリカやイギリス)から帰ってきてからは、ずっと和歌山に居住して研究に没頭していた。亡くなったのは第二次大戦中の1941年のこと(74歳)。
 未完の天才である南方熊楠をよく知ることのできる新書でした。
(2023年6月刊。940円+税)

脳の中の過程

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 養老 孟司 、 出版 講談社学術文庫
 高名な脳科学者のエッセイ集です。著者は、読むものがないと死にそうになると言います。私とまったく同じです。
 本は年中、読む。乗る電車が1時間かかるとすれば、本がないと電車に乗れない。外の景色を見てもはじまらない。
 私は1時間も電車に乗るときには往復で新書3冊を読みたいと思っています。もちろん、完遂できないことが多々あります。でも、本を途中で読み終わってしまい、次に読むべき本がないというのが耐えられないのです。なので、カバンにはいつも4冊入れて行動します。
 著者は図書館が苦手で、他人から本を借りるのも好まないとしています。私も同じです。私の場合は、本を読んだら、これはと思うところには赤エンピツでアンダーライン(傍線)を引きます。そのため、ポケットに赤エンピツは欠かせません。借りた本だと、この赤いアンダーラインが引けないので困るのです。
 進化は、子が親に似ないことから生じる。親と子とがいつもまったく同じなら、進化が起きるはずがない。進化は常に遺伝の例外。みんなと同じではなくて、ちょっと変わったもの、変わったことを言う奴、そんな人やモノがいるからこそ、世の中は進歩していくのですよね。うれしい指摘です。
 ふつう、人は10歳になると神童になる。これって、もしかして将棋の藤井8段のことかしらん…。いえいえ、著者は10歳で変人になったとのことですから、全然、別の話でした。
著者は幼いころから虫好きで、そのころ甲虫を集めると決めたそうです。たくさんの虫採り機を持っている人のようです。
 男は頭髪がなくなるが禿(は)げない。ここは、男女でも肉体的な違いがある。
タコには記憶がある。タコは思ったより利口な動物だ。
「神経」というコトバは江戸時代の末ころ、『解体新書』のなかで初めて使われたコトバ。「神気の経脈」に由来する。
ヒト(人間)は、年齢を重ね、大脳皮質が薄くなったらボケる。皮質の厚さと、ボケの間には、関連性がある。
 さすがに脳科学者の話はいつ読んでも、何回読んでも、面白く、刺激的です。
(2023年8月刊。1100円+税)

ある紅衛兵の告白(下)

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 梁 暁声 、 出版 情報センター出版局
 私と同世代の中国人は、かの文化大革命の大嵐のなかで、もまれにもまれ、命を落とし、迫害のなかで発狂し、家族をバラバラにされてしまいました。
 学校も工場も、まともに機能しなくなったため、学術・文化が停滞し、大量の文盲が生まれました。そして、工場だけでなく農業も生産活動がほとんどストップし、行政機能が崩壊したため、大量の餓死者を出してしまいました。
 それでも、私と同世代の青少年は、はじめは気楽なものでした。学校の授業がなくなり、教師が打倒され、権威というものは毛沢東のほかには何もなく、無料で北京まで行って、憧れの毛沢東を一目見ることができたのです。
 権威がなくなると、たちまち群雄割拠です。紅衛兵にも、いくつものグループが生まれ、「我こそは正統派、毛沢東公認だ」と、それぞれ主張して収拾がつきません。すると、いったい、人々はどんな生活を過ごすことになるのか…、実に惨たんたる有り様が、次から次に展開していきます。
 親を反動派と告発する、ごく親しかったはずの近所の人を「黒五類」と関わりあいがあると密告する…。人間関係がギシギシして、ちょっとした言葉づかいの間違いが命とりになってしまうのです。
さらに、紅衛兵のグループ同士の抗争が始まります。すると、そこには、権威ある上部機関なるものが存在しないのですから、あとは物理的な力が決めることになります。
 毛沢東は軍隊だけは文化大革命の外に置きたかったようです(軍隊は自分が動かすだけだと毛沢東は考えていたのです)。そうもいきません。軍隊を巻き込んだ紅衛兵の集団同士の衝突は武力抗争そのもの。戦車や装甲車が出動し、小銃だけでなく、機関銃も登場し、まさしく内戦状態に陥ってしまいます。
 工場を、どちらの紅衛兵集団がとるのか、どちらが毛沢東に認めてもらえるのか…、緊迫した状況が続くなか、ついに毛沢東は一方を支持すると通知したのです。それに反した集団は当然ながら反革命集団として迫害されることになります。それも、言論だけではなく、銃撃戦があり、肉体的な抹殺をともなうのでした。
主人公の父は大騒動のなかで所在不明が続いています。主人公の若き男性(14歳から16歳)は、一方の紅衛兵集団に足を踏み入れ、危うく、銃撃戦のなかに巻き込まれ一命を落としてしまうところでした。なんとか助かったものの、母親は発狂したか、発狂寸前のありさま。
いやはや、中国の文化大革命のときの地方(ハルピン)における実情が手にとるように理解できました(と思いました)。
(1991年1月刊。1500円)

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