著者:古今亭志ん生 30年ほど前、ひところ落語のテープをよく聴いていた。子どものころ、落語全集があったので、それも読んでいた。ラジオでも広沢虎造の浪曲や古今亭志ん生の落語を聴くことがあった。
私の同期の裁判官に、今もたまに高座に出るほど落語にうちこんでいる人がいる。難しい法律の話をさせても、いつのまにか落語を聴いているような気分になり、頭のなかにすーっと入ってくるから不思議だ。やはり人の心をつかむ話術というのは、すごい力がある。
志ん生の長屋を舞台とした古典落語を読むと、いつのまにか寄席にすわって落語をじっくり聴いているような気がしてくる。座布団にちょこんとすわって、道具といえばせいぜい扇子と手ぬぐいくらいなのに、この世のものすべてそれらで表現されるという不思議な世界が目の前に現出する。
江戸時代の長屋に生活していた庶民のたくましい息づかいが伝わってくるところが実にいい。
、出版社:ちくま文庫
2005年9月9日


