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清冽の炎

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著者・神水理一郎、出版社:花伝社
 1968年の東大駒場寮に住む寮生がセツルメント活動にうちこみながら、東大闘争がはじまると、そちらにも参加しつつ、自分の生き方をあれこれ悩んでいくという展開で第1巻が始まりました。
 私も同じころ駒場寮で生活していました。6人部屋です。カーテンもなにも仕切りはなく、机とその上の本棚だけが区切りになっていました。ベッドが6台あり、床はリノリウム張りです。スリッパでペタペタ歩いていました。学生運動はなやかなりし頃ですが、セクトの活動部屋もあったものの、700人からの寮生は平穏に生活していました。いえ、もちろん、ときにはストームもあったりして、騒々しい夜もありました。でも、たいていは真面目に本を読み、勉強していました。テレビは見た覚えがありませんが、マンガ本はよく読んでいました。「あしたのジョー」とか「カムイ伝」とかに熱中していました。
 6人部屋で、当然20歳前後の学生ばかりでしたが、猥談をした記憶はほとんどありません。経験に乏しく、そのネタもなかったのでしょう。よくダベっていましたが・・・。
 アメリカによるベトナム侵略戦争に反対するのは当然だという雰囲気でした。将来、自分は何になるのか、何をめざすのかという青臭い議論を真面目にしていました。といっても、そんな議論を冷ややかに眺めて、傍観している寮生もいました。
 囲碁のプロをめざすと高言して全然授業に出ない寮生がいて、みんなで心配したこともあります。
 クラスに出ると、自家用車を乗りまわす都会派のカッコイイ金持ちのボッチャンが多くてコンプレックスを感じました。それでも寮に戻ると、貧乏学生でも気にならない、そんなアットホームな気分に浸ることができました。方言まるだしで、家庭教師に出かけて恥ずかしい思いをしたこともあります。関西弁はどこでも堂々とまかりとおっていましたが。
 東大闘争がどうして始まったのか。なぜ、あれほど一時期、過熱したのか。そして闘争のあと、みんなおとなしくなりすぎたのはなぜなのか。これは私の一生かけて解明したいと思っている謎です。団塊世代からの政治家って、本当に少ないでしょ、人口比の割に。かつて学生時代に騒いだ割には、あまりにも政治に関わっている人が少なすぎると私は考えています。保守的な気分の強い無党派層の中核をなしているのが、大卒の団塊世代だという分析を知り、本当に驚いています。打倒・自民党というわけではないのです。団塊世代は会社に入って企業戦士になったと言われていますので、体制打破というより体制に順応してしまったのですね。
 見るべきほどのことは見つ。そんな心境なのでしょうか。内ゲバと浅間山荘事件などの悪影響が尾を引いているのでしょうか。サルトルのアンガージュマンの提唱に心ひかれた学生が多かったと思うのですが・・・。
 学生が地域に出かけていき、現実とふれあうというセツルメント活動は、今こそ残念ながらありませんが、当時は大変な盛況で、全セツ連大会には何百人ものセツラーが集まっていました。そして、今の40代の人々までは一定の影響力をもっています。そのセツルメント活動って、どんなものだったのか、何をしていたのか。その記録がほとんどないのが私には残念でなりません。この本は、子ども会活動そして青年部サークルのことが紹介されています。
 東大闘争というと東大全共闘ということになりますが、もう一方には民青(民主青年同盟)がいましたし、クラス連合(クラ連)というノンセクトもいました。
 この本は、そんな学生集団の動きを当時の記録をもとに忠実に再現しながら、悩める青年たちの恋愛を描く小説としてたどっていこうとする意欲的な労作です。読みものとしてはもうひとつという気がしますが、1968年のあの息吹を伝えるものとして、一読を強くおすすめします。
 今朝の朝日新聞の一面下に広告ものっていますので、ぜひ本屋に注文してください。

透明な卵

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著者:ジャック・テスタール、出版社:法政大学出版局
 フランスにおける補助生殖技術の第一人者による本です。著者は1982年に体外受精による赤ちゃんの誕生を成功させました。
 男性の精液提供について、アラブ人は気安い提供者だが、黒人は抵抗を感じる人々だ、としています。民族(?)性が現れるそうです。日本人はどうなのでしょうか・・・。
 受精卵は冷凍保存することができる。すでに数十人が誕生に成功した。
 男性が受精後数日たった胚を自分の腹部に受け入れて、妊娠することも可能だ。単なる幻想ではない。ヒトの胚は子宮の外でも腹腔の中なら、しまいまで成長することができる。出産は帝王切開すればいい。妊娠中のホルモン調整については、適切なホルモン注射を用いれば、卵巣がなくても確実にできる。
 オーストラリアでは、卵巣機能をもたない女性が、体外受精によって、別の女性の卵子から得られた子どもを、その子宮に宿すことができた。ただし、男性の妊娠は、女性の子宮外妊娠と同じく生命にかかわる危険をともなう。
 ご冗談でしょう。そう言いたいところですが、真面目な話です。もちろん、単なる可能性であって、現実になされたということではありません。でも、人間の誕生が、科学技術の発達で、ここまで操作することを可能にしているというわけです。本当に怖い話です。いかにもフランス人らしく難解な哲学的用語の多い本書を、私が紹介しようと思ったのは、このくだりを読んだからです。
 すでに200人以上の子どもが私の試験管の中で宿ってから生まれた。そのうち10人は冷凍受精卵から育った。5人から10人の新しい赤ちゃんが、これから毎月うまれてくる予定だ。1982年から4年間で、600人以上の子どもが32のフランスの医療チームの試験管の中で宿った。すごいですね、現実はそうなってるんですね・・・。
 この本の最後には、試験管内で受精させる方法が簡単に図解されていて、理解を助けます。ところで、この本で問題としているのは、人間が人間自らを身体的に変える可能性を手にしたということです。
 人間がもっている無数の欠陥、たとえば、顔が美しくない、音痴だ、頭が悪い、気が短い、足がのろいといったものを遺伝させない技術が、たいした費用もかからず実現できるとして、これを無視できるだろうか、ということです。
 そうですよね、それはたしかに難しいことでしょう。でも、本当にそうなったら・・・。怖い世の中になってしまいそうです。ええ、はっきり言って、そんなこと、考えたくはありません。

CM化するニッポン

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著者:谷村智康、出版社:WAVE出版
 今では、ライフスタイルとしてテレビを持たない人は珍しくない。
 これは、この本の出だしの言葉です。そうなんです。私の家にも昨年からテレビがありますが、私自身は今でもテレビとは無縁の生活を毎日送っていますし、私の身近にもテレビを持たない人が何人かいます。テレビを見ないで本当に困るのは災害情報くらいですが、これもイザとなればラジオで足ります。とくに困るということはないのですが、テレビのCMももちろん見ませんので、ほら、今テレビで盛んにコマーシャルしてるでしょ、あれですよ、なんて言われたときにはキョトンとしなくてはいけないのがチョッピリ困ります。いえ、年の功で、なんとかうまく逃げきってはいるのですが・・・。
 テレビは、もうかつてのような話題の中心ではなくなった。変わったのは、もっともうけようという貪欲さが増したこと。そして、もうけるためのテクニックが非常に進歩したこと。ところが、それは視聴者を裏切るものだ。テレビ局にとって、本当の商品は広告であり、番組は広告を売るための客寄せにすぎない。
 テレビ局はCMを流すにあたって、スポンサーと「量」で契約する。たとえば、合計視聴率100%で1億円と。視聴率20%の番組なら5回、CMを流したら契約を完了できる。災害情報などの臨時ニュースのテロップは、番組中に流されることはあっても、CM中には絶対に流れない。それほどCM放送は優先されている。
 「見えない広告」については、日本が世界で一番すすんでいる。たとえば、番組の主題歌も、実は広告枠として売られている。また、ニュース番組に似せて、同じキャスターをつかってニュースではない広告が流されている。これって悪どい騙しの手口と同じです。
 月曜日夜9時から始まるテレビドラマは「月9」と呼ばれている。F1と呼ばれる20歳から34歳の若い女性を狙ったドラマだ。働く若い女性は、週末は夜遊びに出る。週初めは残業も少ないので、オフィスで話題となりやすい月曜日の夜に放映しているのだ。
 「金ドラ」は金曜日夜10時からのドラマで、こちらはもう少し上の年齢層がターゲット。F2(女35〜49歳)、M2(男35〜49歳)にあわせている。こうした家族持ちは、「ハナ金」にはコンパになんか行かない。トヨタのコマーシャルは、「月9」には比較的安い車のCMを、「金ドラ」には、高級車のCMを流している。
 このようにテレビ番組もCMも、視聴者の細かな生活情報をふまえてつくられている。
 ところが、視聴者はCMをますます見なくなっている。テレビや新聞の広告売り上げは横ばい。だからサラ金CMにますます依存せざるをえない。
 テレビCMの実態と本質について、広告代理店で働いていた経験にもとづく告発の書として、大変勉強になりました。

インターネットは僕らを幸せにしたか?

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著者:森 健、出版社:アスペクト
 IT企業につとめる社員が1日に受けとるメールは300通。これだけのメールを読まないと、中間管理職として怠慢だと非難される。しかし、メールが来るたびに読んでいると思考が中断され、まとまって考えることなんかできない。
 メールは考えずに勢いで返すのが基本。そうじゃないと非難される雰囲気がある。
 中高生の世界も同じ。1日に100通以上の携帯メールをやりとりする。即レスが基本だから、肌身離さない。これは、半強制的な拘束力をもった受動的な行動なのだ。すぐに返信しないと嫌われてしまう。ヒステリックなまでの携帯メールの執着は、そんな危機感によって駆りたてられている。これでは、ノイローゼにならない方が不思議だ。
 著者が1日に受ける迷惑メールは300通。その8割は海外、2割がウィルスメール。マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長に送られる迷惑メールは、なんと1日400万通。NTTドコモのアドレスに送られる宛先不明のメールは1日9億通。迷惑メールの対策のため年間30億円をつかっている。累計では500億円をこえている。もはやウィルス対策は、すべての操作の前になすべき必須の作業。まずはじめにリスク管理があり、その先にネットの利用がある。これが今や常識。
 検索エンジンは、ヤフー、グーグル、MSNで8割以上を占めている。とりわけグーグルが注目されている。ビジネスの世界では検索エンジンの上位にあがると、収益の伸びにつながることが証明されている。
 いまや検索エンジンは、思考を拡大再生産的に増幅させる強力なメディアであり、実は思考を統御する仕組みさえ内在している。検索結果が上位に表示される情報によって、ユーザーは常に画一的な方向に導かれる可能性がある。検索結果で小さいものは、たとえ有用な情報であっても、この仕組みのなかでは検索サイトから表示されにくい。
 ウェブ機能の進化は民主主義にとって危険な徴候となりうる。なぜか?
 「6次の隔たり」という言葉がある。この世界は、わずか6人の間をつなぐことで60億人をこえる世界の人すべてと結びついてしまう。もし、自分に50人の知人がいて、その知人に50人の知人がいたら、自分から2人目となる人数だけで2500人となる。同じ繰り返しで50倍を重ねたら、6人目に広がる数は150億人をこす。
 パーソナリゼーションが極度に進んでいくと、自分が知りたい情報だけしか摂取しなくなる。特定の関心をもつスモールワールド的な集団が多数できると、その輪のなかでの情報密度は増すが、雑多で広氾な情報共有ができなくなる。ユーザーが個人の嗜好にそった消費者的な志向を強めることによって、本来、市民がもつべき自由の権利をも失っていく。
 インターネットの特徴は、嘘の噂をバラまくこともできれば、偽善を暴露することもできることである。だが同時に、信用できそうな情報を膨大な数の人に送れることは、恐怖、誤解、そして混乱の元凶にもなりうることを意味する。それは民主的な目標をはじめ多くの社会目標を脅かすものである。
 むむむ・・・、便利さの裏にひそむ怖さを改めて思い知らされました。それにしても、私のこのブログにトラック・バッグを設定してくれている方々には、いつも感謝しています。毎日、今日はどんなトラック・バッグがついているのかなと楽しみに見ています。どうぞ、トラック・バッグをたくさんつけてください。よろしくお願いします。

韓流インパクト

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著者:小倉紀蔵、出版社:講談社
 いつも切れ味の鋭い著者の論評には感嘆しています。今度の本も、なるほど、そうなのかー・・・と、ついうなずいてしまいました。
 韓国のGDP(国内総生産)は、日本の10分の1で、神奈川県と千葉県とをあわせたほどの経済規模。それにしては日頃、意外に大きく感じてますよね。とくに三星(サムスン)が世界一になったというのを聞いたりしていますと・・・。
 著者は、ルック・コリアは3度目だと指摘します。
 日本が朝鮮半島に学んだ時期は、これまでに2度あった。1度目は古代の国家創成期。朝鮮半島からの渡来人は、古墳時代の阿知使主(あちのおみ、5世紀初め)、王仁(5世紀初め)、弓月君(5世紀初め)、6世紀の五経博士、易博士、暦博士、医博士。飛鳥時代の恵慈(えじ、595年来日)、恵聡(えそう、595年来日)、観勒(かんろん、602年来日)、曇徴(どんちょう、610年来日)などなど。
 2度目は、16世紀から江戸時代にかけて、朱子学を中心とした儒学や陶磁器づくりなどを学んだ。とりわけ、朝鮮の李退渓(イテゲ、16世紀)は、日本の朱子学に深い影響を与え、日本の儒者たちから尊拝されていた。
 日本の「冬のソナタ」などにみられる「韓流」は大変な経済効果をもたらしている。それは、1430億円にものぼり、韓国のGDFを0.18%押し上げた。韓国への観光客の8割が日本人である。
 ところで、「冬のソナタ」は、その外見上の純粋性にもかかわらず、内実は日本や外国の多様な作品からの引用によって始めて可能となった作品であり、その意味で制作方法論としては雑種性、越境性が強調されるべき作品である。
 主人公チュンサンはユジンにこう語った。
 道に迷ったときは、ポラリス(北極星)を探してごらん。いつも同じ場所にあるから。
 日本では、このポラリスという言葉になじみがない。しかし、韓国社会はポラリスという言葉を大変好む。その背景には儒教がある。儒教でもっとも重要な星が北極星なのである。だから、チュンサンは特別なことを言ったわけではない。ドラマの脚本家は若い女性2人だったが、ポラリスは若い女性でも知っている日常的で常識的な言葉なのである。その言葉が日本では衝撃的だったし、新鮮に映った。ふむふむ、そういうことなんですね。
 韓国の市民運動は著しく中央志向、政治志向であるし、韓国においては「左翼」だからといって「反愛国」「反愛族」ではなく、根っからのナショナリストである。いわば民主と愛国が強固に合体しているのが韓国の市民運動なのである。
 韓国は、儒教・ナショナリズム・ミリタリズムという戦後日本の左翼がもっとも忌み嫌ったものがセットになってそろっている国である。この三点セットがそろって初めて韓国という社会が成り立つのであって、ひとつでも欠ければ韓国のダイナミズムは弱体化する。
 儒教社会では、科挙によって選抜された有能な官僚が政界を支配する。すなわち、実力があれば若者でもどんどん出世できるのである。科挙に一番で受かった若造が一気に中央官庁の局長クラスに抜擢されるということもある。朝鮮王朝でも、重要な思想上の論争の担い手は20代の若者が多かったし、20代で大臣クラスになった若者もいた。儒教で年寄りを大事にするというのは、この激烈な競争社会における弱者救済の一手段であることを理解すべきである。
 うへぇー、そうなのかー・・・、ちっとも知りませんでした。昔からそんなに激しい競争社会だったんですね。ところが、そんな韓国の若者が日本人化しているというのです。
 学生が団体行動をしなくなった。飲み会をしても学生達はあまり現れなくなった。MT(メンバーシップ・トレーニング)に参加する学生が激減してしまった。学生同士の紐帯た弱くなったと同時に、これまでよく守られてきた垂直的な人間関係における秩序と礼儀も崩れかけている。こうなっているんだそうです。
 韓国は弱肉強食の社会、徹底的な競争社会である。しかも、学歴が唯一の尺度になってしまっている。それを補填するものとして血縁や地縁のネットワークがある。しかし、勝者と敗者とがはっきり分かれる社会である。この歪みを補うものとして宗教的な相互扶助と救済・祈福がある。だからこそ、宗教の力は韓国社会では絶大である。
 要するに、韓国社会とは、新自由主義と儒教および諸宗教が合体した社会だと思えばいい。社会福祉が整備されていないため、人々の情と神の救いが頼みの綱なのである。だから社会が不安定になればなるほど、情と信仰は強くなる。
 うーむ、このように分析されると、それならまるでアメリカ社会と同じで、日本人としては単純にルック・コリアと叫んで真似するわけにはいかないということになります。
 閑話休題。今日は私の誕生日です。でも、この年齢になると子どものころと違って、誕生日といってもうれしくなんかありませんよね。1日1日を大切にしたい。健康で、冴えた(スッキリした、という意味です)頭をたもって、たくさん本を読み、おおいに本を書いて出版したいと考えています。親友の書いた「清冽の炎」第1巻、買っていただきましたか。本屋で見かけなかったら、花伝社に注文してくださいね。なにとぞよろしくお願いします。

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