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焼き芋とドーナツ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 湯澤 規子 、 出版 角川書店
 タイトルからは何をテーマとした本なのか、さっぱり分かりません。「日本シスターフッド交流秘史」というのがサブタイトルなのですが、それでも分かりません。
 焼き芋は日本の、ドーナツはアメリカの、女性労働者のソウルフード、好みの間食(おやつ)だった。産業革命期を生き抜いた日米の女性労働者の実際を比較しながら紹介した本です。
 『女工哀史』(細井和喜蔵)は、女性労働者を論じながら、実際のその時代を生きた個々の女性の人生は議論の蚊帳(かや)の外に置いている。
 実際の働く女性は「無学で幼稚」とはほど遠く、「好奇心旺盛」だった。明治の末、東京モスリンでストライキが起きた。そのとき、若い女性弁士がこう呼びかけた。
「私たちも日本の若い娘です。人間らしい食べ物を食べて、人間らしく、若い娘らしくなりたいと思います。食事の改善を要求しましょう」
 そして、この要求だけは認められた。これを言った若い女性は細井和喜蔵の妻(内妻)だった。
 東京モスリンなどの紡績工場で働く女工たちは間食として焼き芋を好んで食べていた。
 1918(大正7)年夏に富山県魚津でコメ騒動が起きた。しかし、その内情は騒動というより嘆願だった。少なくとも特別な騒動ではなかった。今では、貧民救済制度の発動を求めた、一種のデモンストレーションだったとされている。大杉栄は、このとき、デマを流してまわり、積極的に騒動をかき立てようとした。
2021年に上映された、『大コメ騒動』は、魚津町での米騒動をテーマとしています。私も見ましたが、よく出来た映画でした。
 津田梅子は最年少でアメリカに渡った。そして、生物学者として精進した。ところが、日本に帰国したあとは生物学者ではなく、教育学者として専念した。
 アメリカの工場労働者が自宅から持参する昼食は、サンドイッチ・ケーキ・フルーツ・茶など。英語を話せない労働者はライ麦パンに魚や卵・チーズの割合が高かった。
 焼き芋とドーナツは、いずれも近代の産業革命期を生きた女性たちの胃袋を満たし、その甘さで日々に慰めと健やかさを与えた点で共通している。
 アメリカの工場で働く女工たちは、朝4時30分に起床し、4時50分に朝食、昼に食べるのがディナー、夜勤前の夕方に食べるのはSUPPER。19時に終業の鐘がなる。22時には宿舎の門限を知らせる鐘が鳴った。三食は食べているが、ランチはない。
このころの女性は結婚するまでの数年間を動いていた。工場で働く魅力は賃金だけではなかった。社会的で文化的で、かつ宗教的な貴重な経験の場を提供していたことにあった。
 言葉や文章を読みたいという欲求が工場の中に満ち、窓に貼りつけた新聞の切り抜きを「宝石」と感じる感性が女性たちに存在していた。
 焼き芋とドーナツという、それぞれの国の好まれる間食を通じて女子労働者の生活の実際を掘り下げた本です。大変勉強になりました。
(2023年9月刊。2200円+税)

誰が労働法で保護されるのか?

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 水谷 英夫 、 出版 LABO
 私は大学生のころ労働者階級こそが社会変革の原動力たりうると聞いて、誰がいったい変革の主体なのか、周囲を見まわしたことがあります。でも、身近には変革を志しているような人をほとんど見つけることができませんでした。
 現代日本では、労働者階級という言葉を耳にすることはほとんどありませんし、労働組合の存在感もほとんどありません。連合の芳野会長に至っては自民党と仲良くするのが先決、最優先で、共産党切り捨てに奔走するばかり。本当に見苦しいとしか言いようのない哀れさです。彼女を見ていると、労働組合なんて頼りにならないと若者が思うのも当然です。
 さて、この本は仙台弁護士会に所属する著者(弁護士)によるものですが、改めて、今日の日本社会における労働者の多様化を思い知らされました。
 ウーバーイーツやバイク便で働く人々が労働者だというのは当然だと私は思うのですが、いやいや、彼らは請負契約で働く個人事業主であって、労働者ではないとされることがあります。でもでも、会社の事業組織に組み入れられ、会社が契約内容を一方的・定型的に決めているのだから、労働法の適用対象となりうる。これが労働委員会そして裁判所の考え方です。当然だと思います。では、フランチャイズ店の店長は果たして労働者なのか・・・。
 まず、単なるコンビニの店長だと、実態として「使用従属関係」にあると認められるので、分会をつくったとき労働組合法上の労働者として保護対象になります。これに対して、フランチャイズ加盟店のオーナーは、継続的供給契約であり、ノウハウの対価として本部にロイヤリティを支払う構造になっている。となると、労働者性を認めるのは難しい。そうでしょうか?
 一人親方だって労働者になりうるし、弁護士も東京の一部の高給優遇されている人を除けば、労働者性が認められて当然。
今やカタカナ職業がものすごい勢いで増加中です。フリーランス・ワーカー、プラットフォーム・ワーカー。クラウド・ワーカー、ライドシェア従事者などなど・・・。私にはイメージの湧かない職種もありますが、このように名称も労働提供形態が千差万別そして、労働基準法の対象になるのか、どれもなかなかの難問ですよね。
 テレワークといっても、さまざまな格好で自宅において仕事するパターンです。いったいこれが労働者だと言えるのか・・・。
 この本は、質問に答えるという形式で労働法上の「労働者」とは誰なのかを、実に分かりやすく解説しています。見事な編集さばきで、とても見やすい本です。
 全国各地の図書館に常備しておくべき、その価値のある本です。出版社(渡辺豊氏)から贈呈していただきました。いつもありがとうございます。
(2024年1月刊。3300円+税)

ミツバチの秘密

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 高橋 純一 、 出版 緑書房
 ミツバチのことなら、何でもわかる百科全書のような本です。
 私はミツバチのオスの哀れさに涙を流してしまいました。
 オスのハチの生涯唯一の仕事は女王バチと交尾すること。もちろん、こんなことは私も知っていました。ところが、オスバチは新女王バチと交尾をした瞬間に即死するというのです。ええっ、ど、どういうこと・・・。
そして、交尾できずに巣に戻ったオスバチはメスの働きバチによって巣から追い出され、哀れ餓死するしかないのです。オスバチは自分で花から餌を取ることができません。交尾する機会があるまでは働きバチから餌をもらえるのですが、シーズンを過ぎたら、単なる厄介者なので、厄介払いされるのです。いやはや、涙があふれます。
 昔からオスバチは「ドローン」と呼ばれていたそうです。この「ドローン」とは、最近、大活躍している飛行体ではなく、「ふらふらしている」「漂っている」というのはともかくとして、「ろくでなし」「ごくつぶし」という意味なのです。
 女王バチの寿命は1~5年、平均2年ほどのようです。そして、交尾したあと、巣に戻って卵を産み続けます。その数、なんと、1日で自分と同じ体重に相当する1000~2000個の卵を産む。
 女王バチは、「受精のう」という特別な袋のような器官に精子を貯めておく。著者は100万から400万個の精子を測定したとのこと。
そして、女王バチの交尾相手のオスは1匹ではないというのです。セイヨウミツバチは平均14匹のオスバチと交尾する。
著者は、女王バチが400万個もの精子を体内に貯蔵しておくためには、十数匹のオスと女王バチは交尾しているという仮説を立て、それを実証しました。
 二ホンミツバチの女王バチは、平均16匹のオスバチと交尾していることが判明した。つまりミツバチの世界は一妻多夫の社会でもあるのです。
 オスバチの目(複眼)は、野外で交尾相手の女王バチを見つけるために発達した。オスバチにはメス罰と違って毒を注入する針がない。
 この本を読んで、ハチミツが何から出来ているか、200年前まで謎だったというのにも驚きました。
 ミツバチの「8の字ダンス」は有名ですが、その前提として、ミツバチは花の色、形、匂い、開花していた時刻、場所(景色)をしっかり記憶できることによる。
 この本では、世界中でミツバチが減少しているという事実も指摘されています。人間のせいです。農薬のせいですよね、きっと・・・。本当に心配になります。ミツバチが死滅したら、イチゴを初め、生物界では果物がとれなくなってしまうでしょう。うひゃあ、そら恐ろしい事態です。340頁の本です。どうぞ、ご一読ください。
(2023年9月刊。2800円+税)

ヒトラーの馬を奪還せよ

カテゴリー:ドイツ

(霧山昴)
著者 アルテュール・ブラント 、 出版 筑摩書房
 タイトルだけを見ると、ナチス残党を舞台とする小説としか思えません。ところが、実話だというのに驚かされます。
 悪魔のような、というよりこの世の悪魔そのものであるアドルフ・ヒトラーは1945年4月、迫り来るソ連赤軍の大軍を前にしてベルリンにある総統地下壕に立てこもっていて、ついに結婚式をあげたばかりのエヴァ・ブラウンと青酸カリを飲んで心中してしまいます。その遺体は地上に運び出されて、ガソリンをかけて焼却されました。ソ連のスターリンはヒトラーの自殺をなかなか信じなかったようですが、ヒトラーの遺体だったことは科学的に証明されています。
 そこで、この本のテーマはヒトラーたちナチスの高官が収集していた美術品の行方です。ナチスの高官たちは敗戦直前に、それぞれ財宝を隠して逃亡していきました。その逃亡にバチカンの一部が手を貸したようです。そして、南米に逃れたナチス残党も少なからずいました。その一人がアイヒマンです。
 人間は国外へ逃亡したとして、財宝はどこに消えたのか…。
 スイスの湖にナチスの財宝が決められたとして、その引き揚げに熱中した人も少なくないようです。この本の対象となっているのは、ナチスの総統官邸にあった2頭の馬です。彫像といっても小さいものではなく、巨大なものです。そんな大きなものが、激しいベルリン攻防戦の中、無傷で残っていて、どこかに隠されているなんて、信じられません。ところが、そんなことが現実にあったようなんです。
 スターリンは、「戦利品旅団」なるものを設立して、前線で価値あるものをどんどん奪ってソ連本国に持ってくるよう命令していた、というのです。たしかに、スターリンなら、ありうる命令です。そして、その命令に従うふりをして、実は自分の私腹を肥やしていた赤軍将校もいたというのです。なるほど、これまた、ありうる話です。どこの世界でも、バカ正直な人ばかりとは限りませんからね…。
 ナチスはユダヤ人から無償で取りあげた財宝を私物化したが、その分配をめぐっては醜い争いが多々あった。
 今では、このヒトラーの総統官邸に置かれていた2頭の「馬」は、ベルリンのツィタデレ美術館で公開されているそうです。まさしく、事実は小説より奇なりです。その発見に至る過程がミステリー小説のようにして展開していきます。
(2023年7月刊。2400円+税)

海賊たちは黄金を目指す

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 キース・トムスン 、 出版 東京創元社
 海賊の書いていた日誌をもとに、その海賊生活を再現した異色のノンフィクションです。
 海賊7人の日誌をもとにカリブの海賊のありのままの世界を描くと本のオビにあります。
 いったい、海賊がこんなに詳しい日誌を書くものだろうかという疑問を抱きましたが、実は海賊といっても学問のある若者もいたというのです。これもまた驚きです。そして、内容は日誌というから無味乾燥かと思うと、さにあらずです。血沸き、肉踊る、海賊たちの活劇が展開していくのです。もちろん、海賊の多くは哀れな末路をたどり、しばり首になったり、早々に処刑されてしまいます。
 海賊を裁く裁判において、法廷には被告人側弁護人がいない。1696年より前は、被告人が弁護士を雇うことは禁止されていた。そのうえ、被告に不利となる証拠は裁判が始まるまで本人には伏せられていた。予備知識なしでそれに接したら、人は正直な反応を見せるというのが理由だった。
「率直で誠実な弁護」をするのに特別な技術は必要としない。もし被告人が助けを必要としたら、判事がその面倒をみることになっていた。いやあ、それはないでしょう。
 被告人が死刑に処せられるときは、「マーシャルズ・ダンス」をさせられる。特別な巻き方をしたロープを使うと、首を絞められても頸骨が折れず、海賊は首を吊られたまま絞首台で激しく暴れる。それがダンスをしているように見えることから名づけられた。うひゃあ、これって、いかにも残酷ですよね…。
 海賊は捕虜にした人間すべてに、かたっぱしから質問をぶつけるのが習いだった。生まれ故郷、都心そして地方のこと。その結果、各地の製造業、資産、防衛施設、軍事力、弱点といった情報が、いかなる諜報組織がまとめる調書にもひけを取らないほど充実する。海賊船は、いわば海に浮かぶ国政調査局なのだ。
 壊血病は、ずっと早くから医学界では認知された。皮膚がウロコ状になったり、病斑が浮き出たりする病気で、船乗りたちが一度に数カ月もの長旅に出るようになった15世紀から発症した。崗や船の難破そして戦闘人上に、この病気で命を落とす人々が多かった。その治療に柑橘類が有効だとイギリス海軍が突きとめたのは1796年のこと。それからは船旅をする人は、ライム果汁に1.5オンスの砂糖で甘味をつけたものを毎日とるようになった。
 スペイン人という共通の敵を前にして、イングランド人から成る海賊たちと、現地のクナ族とが手を結んだ。ジャングル内の道なき道を進んでいくとき、お互いに疑心暗鬼に陥っていた。ひょっとして現地民のクナ族はスペイン人に引き渡そうとしているのではないか…。
しかし、クナ族の王は、海賊の力を借りて、スペイン人に連れさられた自分たちの娘(プリンセス)を奪還しようとしていた。実は、娘とスペイン人は相思相愛の関係だった…。
海賊たちのモットーは、「短いながらも愉快な人生」というもので、「絞首刑になるために生まれてきた」という本のタイトルどおりの人生だった。
陸(おか)の厳格な階級社会とは異なり、海賊の暮らしは平等主義が基本。船長の選出や罷免は投票によって民主的に決められる。
遠征に出発するときには、契約書が作成され、そこには「労働災害」に対する補償まで細かく定められていた。
海賊船には船医が乗っていた。船医がいないときには船大工が船医を代行する。
この本は、1680年から1682年までの2年間の海賊の生活を明らかにしている。詳しい日誌を書いた1人は、優秀な数学者であり航海士だ。英語、ラテン語そしてフランス語を流暢に託した(リングロース、27歳)。もう1人は、28歳の博物学者(ウィリアム・ダンロア)。
船員雇用契約書には、武器を常にきれいに保ち、いつでも戦闘にのぞむ用意をととのえていない者は捕獲物の取り分を失うとともに、船長や仲間の決める懲罰を受ける。敵船に乗り込む仲間の援護射撃が必要なときに銃のぜんまいがさびて撃てなかったら、その者はただではすまないと明記されていた。
報酬に関しては、「犠牲なくして報酬なし」と定められていた。まずは船医や船大工という技術職にその職能にみあった報酬を渡し、残ったものを、みんなで山分けする。船長や上級船員は、その階級にあわせて追加報酬があった。
そして、「労働災害」で左腕を失った者は奴隷5人、右腕を失ったら奴隷6人を受け取ることになっている。
ジャマイカで船に乗っていた海賊17人が副総督モーガンの邸宅に招待され、豪華な夕食をとることになった。そして、モーガンは、彼らの武勇伝を熱心に耳を傾け、聞き入った。海賊たちは、酔って、いい気分になって次から次へ武勇伝を語り出した。そして、翌朝、全員が手錠をかけられて海事裁判所へ連行された。判事席にはモーガンがすわっていて、ただちに有罪を宣告し、その日のうちに全員が処刑された。
こんな話って、本当に実話なのでしょうか…。まあ、ともかく、海賊の実態を知ることのできる本として、最後までドキドキしながら仏検(フランス語の試験)のあと、素速く読み通しました。
(2023年7月刊。2700円+税)

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