法律相談センター検索 弁護士検索

台湾侵攻に巻き込まれる日本

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 半田 滋 、 出版 あけび書房
 「北朝鮮や中国が攻めてきたら、どうする!」
 この不安と焦燥に駆られた人々が5年間に43兆円もの超巨大軍事予算を精神的に支えています。これまで軍事費は年に5兆円を上回っただけでも大問題だったのに、今や年間7兆円を軽く上回る軍事予算です。
 「北朝鮮がミサイルを発射した」と言ってJアラートを発令し、恐怖をあおり立てる政府広報。同じことを韓国がやっても、報道すらされません。北朝鮮のロケット(「ミサイル」の正体)は宇宙空間を飛んでいるのです。「日本の上空」ではありません。「ミサイル対策」と称して、学校や役所で机の下に潜り込む訓練をしていますが、戦前の防火(消火)バケツリレーと同じく、単なる気休めでしかありません。意味のないことはやめるべきです。政府は、それよりイスラエルに軍事行動の停止を求めるべきです。
 自民・公明の岸田政権はアメリカの兵器を「爆買い」し続けています。トマホークなんてスピードが遅いので、もはやアメリカ軍は使っていないとのこと。そして、オスプレイは多くのアメリカ兵を殺してしまった「未亡人製造機」と言われるほどの欠陥機。それを今度は佐賀空港に配備するのです。本当に許せません。
 「戦争が始まったら、シェルターに逃げて…」
 地下のシェルターに逃げ込めて一時的に助かったとしても、地上に誰もいなかったら、どうやって生活していくというのですか…。食料がいつまでもあるはずはありませんよ。
 宮古島に住む全住民を避難させるのに必要な飛行機は363機、船は109隻。そんな大量の飛行機と船が確保できるはずはありません。同じく、沖縄県民146万人を九州に避難させるとのこと。うまく運べたとしても(ありえませんが)、いったい九州のどこにこれだけの人を収容するというのでしょうか…。
 日本政府は、公式見解では台湾を独立国としてみていません。なので、台湾は日本と「密接な関係にある他国」とは言えません。
 アメリカは大量の半導体を必要としている。台湾のメーカー(TSMC)は、世界の半導体シェアの6割を占めている(高性能のものに限れば9割)。だから、台湾を確保しておかないと、アメリカという国自体が存続できない。
 中国は既に空母を2隻保有し、戦闘機も2000機もっている。無人の岩があるだけの尖閣諸島をめぐって武力侵攻するのは、中国の国益に合わない。
 アメリカとアメリカ軍を守るため、日本は集団的自衛権を行使する。つまり、日本を守るためではなく、外国(アメリカ)を守るため、日本人青年の血を流させようということ。
 日本がアメリカから「爆買い」するトマホーク400発を保有したとしても、中国は巡航ミサイルをすでに2200発も保有している。こんな格差があるのだから、「抑止力」が働くはずもない。
 アメリカからオスプレイ17機を購入する代金は3000億円。日本全体の司法予算はそれとほぼ同じの3300億円。しかも年々少しずつ減っている。裁判官の人数は増えていないどころか、減っている。思わず涙が出てしまいます。
 大軍拡予算がすすめられるなかで日本の軍需産業(「死の商人」たち)は喜びに奮いたっている。三菱重工業は誘導弾の新規開発に奔走している。まさしく、金もうけのためなら、何事も身を惜しみませんという姿勢です。
 自民党・公明党の脅しとウソに負けないようにしましょう。それにしても先日の参院選(補選)の投票率の低いこと…。6割以上の人が投票所に行っていません。これでは日本は救われません。
 著者の本は、いつ読んでも具体的な状況が的確に紹介されていて、大変勉強になります。
 一読を強くおすすめします。
(2023年10月刊。1980円)

私の職場はサバンナです!

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 太田 ゆか 、 出版 河出書房新社
 南アメリカ政府公認、そしてただ1人の日本人女性サファリガイドである著者がサファリを案内してくれる、読んで楽しく元気の出てくる本です。
 サファリとは、ヒスワリ語で「旅」という意味。大自然の中で、野生動物を観察しに行くアクティビティのことです。
 サファリガイドは午前3時45分に起床し、4時15分に出勤(といっても自宅兼職場)。サファリに出発するのは午前5時。3~4時間ほどのコースです。戻って午前9時に朝ごはんを食べて休憩し、午後4時ころから2回目のサファリに出発します。同じく3~4時間かけます。夜8時に仕事を終え、ときにはツアー参加者と一緒に食事。
 自宅といっても、著者は同僚6人との共同生活(部屋は個室)なので、夕食は交代制でつくります。
 著者は子どものころの夢は獣医になることでした。でも、理系科目が苦手だったのであきらめて、環境保護の分野へ転身。サファリガイドの訓練校があり、南アフリカ政府公認のガイド資格があることを知って、まだ英語に自信はなかったものの、大胆にも入学したのです。
 この訓練校では、実地での教育・訓練と教材を使っての授業を受けます。英語の授業はついていけなかったので、スマホで録音して夜に自分のテントで聞き直します。
 このとき、「生まれて初めて、勉強をするのが楽しいと心から思えた」とのことです。やはり、目的意識がはっきりしていたからでしょうね。
6ヶ月間の訓練のあと、サファリガイドになるための試験を受けました。200種類以上の鳥の鳴き声を覚え、鳴き声を聞いたら、すぐに鳥の名前を言わなくてはいけません。また、動物の足跡を見て、動物の種類、右足か左足か、前足か後ろ足か、どれくらいのスピードで歩いているかを答えます。
 著者は、なんと、1回でパスしました。次は、6ヶ月間の実習。すぐに実際のツアーを案内させられました。これで無事に終了しても、次なる難関は、就職先が見つからないということでした。
 外国人(日本人)であることは不利。道なき道をサファリカーで進むなんて女性に出来るはずがない、パンクしたタイヤの交換ができるのか…。そんな偏見にあい、困難にもめげずに探していたら、環境保護のボランティアを運営する団体にめぐりあえ、ついにサファリガイドとしてスタートできたのでした。日本の両親は猛反対でしたが、結局は、渋々、追認してもらったとのこと。すごいです。
私はNHKテレビ『ダーウィンが来た』を毎週欠かさず楽しみにしていますので、ライオンの生態も少しは知っているつもりでしたが、ライオンのオスは8頭のうち1頭しか無事に大人になることが出来ないというのには驚きました。
 また、ライオンを狙った密猟も知りませんでした。ライオンの歯や爪を装飾品にする、骨はトラの骨の代替品として、伝統薬として高値で取引されているとのこと。ひどい話です。
 過去を20年間で、ライオンは43%も減少したといいますので、半減したわけです。まったく人間は罪つくりの存在です。
 密猟対策として、サイの角(つの)が狙われるので、あらかじめ切除してしまう作業がすすめられています。ところが、オスのサイは角で戦って、メスを得るわけですので、その武器を取り上げてしまったら、どうなるのかが心配されているとのことです。悩みは尽きませんね…。
 「大好きな動物を守る」という幼いころからの夢を実現し、サファリガイドを始めて7年たった著者による若さと喜びにあふれたレポートです。ぜひ、サファリ・ツアーに行ってみたいと思いました。でも、朝5時出発して、3時間とは…。
(2023年5月刊。1562円)

石製模造品による葬送と祭祀

カテゴリー:日本史(古代史)

(霧山昴)
著者 佐久間 正明 、 出版 新泉社
 福島県の郡山(こおりやま)盆地の南端、阿武隈(あぶくま)川東岸の丘陵にある正直古墳群には、滑石などのやわらかい石で、刀子(とうす)や鉄斧(てっぷ)剣、鏡などをかたどった石製模造品が祭祀遺物として副葬されていた。
 いやあ驚きました。大量に発掘・発見されています。所在地は郡山市です。
この古墳群には50基以上の古墳があったようです。1970年12月にブルドーザーが掘削していると、凝灰岩(ぎょうかいがん)の石組が出てきた。内部が真っ赤に塗られた箱式石棺だった。
 残念なことに石棺に人骨はなかった。酸性土壌のため、石棺内に流入した土砂に埋もれた人骨は残らなかった可能性が高い。
 そして、緑色を帯びた石材が使われていて、基部には紐(ひも)を通すための貫通孔が認められた。赤色顔料は、蛍光X線分析によると、水銀朱であることが判明した。
 そして、残っていた人骨から次のことが判明した。
 男性で年齢は30歳前後。別のところからは、妊娠した徴候(痕跡)があることから、顔は平坦、身長は157センチの女性。
 いやあ、すごいです。骨の断片から、年齢も身長も判明するのですね…。石製模造品は古いものほど写実的で、新しいものほど簡略化されたものばかり。ともかく、驚くほどよく出来た模造品です。圧倒されます。
発掘調査は、ひとつひとつはほとんど無意味な作業としか思えませんが、当たれば、それまでの苦労が十二分に報われる瞬間になります。これはもう、止められませんよね。
 発掘調査の現況について、写真とともに知ることができました。発掘現場の方々は、お疲れさまです。
(2023年2月刊。1700円+税)

闇バイト

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 廣末 登 、 出版 祥伝社新書
 「高額案件、即金、仕事」
 「案件次第で日給3万円~50万円可能」
 こんなネット上のコトバにつられて申し込んでしまう若者が後を絶ちません。申し込むと、免許証を写メして、メールで送らされる。個人情報が丸ごと先方に渡ってしまう。やめたいと言うと、「今さら何を言うのか。キミは立派な犯罪者だ。キミの個人情報は承知しているから、まずはネットにさらして、詐欺犯人と公表するかな。それとも警察に通報するかな」と脅される。
 さらに、こんな甘言のささやきもある。
 「持つ者から、持たない私たちが少しいただくだけですよ。あの人たちは数百万円のおカネを寄付しても、何も困りませんよ。これは資本の公平な分配だと思えばいいんです」
 今、こうやってお金に困った若者が闇バイトの世界に足を踏み入れる。警察に検挙された少年の7割が「受け子」で、受け子の5人に1人は少年。
 きのうまではフツーの青少年だったのに、自宅から一歩も出ないまま特殊詐欺グループの一員になってしまう可能性(危険性)がある。この契約の先に待っているのは、社会的破滅に続く、あと戻りできない一方通行の道だ。
 闇バイトの人員を募るのはSNSが多い。特殊詐欺では、かけ子は20%、受け子は10%の報酬がもらえることになっているが、実際に手にできるという保障は何もない。
闇バイトの末端要因である受け子と出し子(UD)は消耗品。
電話をかける「かけ子」は言葉巧みな演技が求められるので、熟練工だ。電話をかけるのはマンションの一室(「ルーム」と呼ぶ)。ここはタコ部屋。「かけ子」は外出禁止、朝の8時から夕方5時まで、電話をかけまくるのが仕事。500万円を被害者から騙し取るのに成功すると、20%の100万円の報酬がもらえる。2~3ヶ月で、ルームは移動する。
闇名簿は高く売買されている。詳しい名簿は1件1万円することもある。使い古された名簿だと、1件300円とか500円とか、安い。金持ち、押し入ったらお金のありそうな人(家)の名簿がつくられ、売買されている。デイサービスや家政婦派遣の情報も売買されている。
 自治体のもっている情報、たとえば税金をいくら納めているとか、そんな情報が売買されている。リフォーム申込者の名簿もよく使われる。
 闇バイトは、一時のおカネを選ぶのか、一生の破滅を選ぶのか、という選択。闇バイトをやったら、破滅するのみ、必ず後悔する。
 特殊詐欺で逮捕されて起訴されると、たいてい実刑となり、刑務所か少年院に入れられる。次に失うものがない「無敵の人」になってしまって、フツーの市民生活を送るのが、とても難しい状況に置かれる。ただ、処罰を厳しくすればよいという考え方は、あまりに安易で、ますます新たな被害者を増やすことになる可能性(危険性)がある。
 闇バイトの危険性、そこに引きずり込もうとするテクニックを知ることができました。
(2023年8月刊。930円+税)

アントンが飛ばした鳩

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 バーナード・ゴットフリード 、 出版 白水社
 ポーランドに住むユダヤ人が、ゲットーに入れられ、強制収容所に入れられながらも生きのびることが出来ました。それは幸運だったことによりますが、写真技術を身につけていた点も有利に働きました。
この本がとても読みやすいのは、30扁のショートストーリーから成りたっているということです。そして、一つ一つの物語が関連して大きな流れとなっていくのですが、全体としては、7歳のユダヤ人の子どもが世の中の大きな流れのなかで、ひとつひとつにぶつかって考えていく様子がとても素直に描かれていて、感情移入が容易なのです。
 子どもだって、状況によっては嘘をつくしかない場合もある。要求の多い、不公平な大人の世界とうまくやっていかなければならないのだから。子どもだって自分で自分を守るため、その場しのぎをしなくてはいけないんだ…。
 7歳のとき親がバイオリンを習わせようと決めた。7歳では、本人に選ぶ権利なんかあるはずもない。嫌で嫌で仕方なかったバイオリンの練習も、やっているうちに上達し、いろんな音楽を弾けるようになり、ちょっとした集まりで披露させられるようになった。
 強制収容所に入れられるときには、もちろんバイオリンは持ち込めなかった。でも、ひそかにバイオリンを隠してくれていた人がいて、戦後、そのバイオリンに再会することができた。
 子ども時代に起きたことを人がすべてを覚えているわけではない。でも、いつまでたっても忘れられない出来事もある。
 廃館になった映画館でコンサートが開かれ、バイオリンを演奏することになった。寒い寒い日で、著者は失敗を重ね、不出来そのものだった。でも聴衆からは大きな拍手が鳴りやまなかった。なぜか…。それは、ひどく寒かったから、手を叩けば、ちょっとは温まるから。なので、演奏に向けられた拍手ではない。むしろ、その逆。でも。手を叩いていたら、違ってきた…。これは、戦後、生きのびた人がコンサートのことを語ってくれたときのコトバだ。
 ゲットーで、人々は至るところで死んでいった。ナチスの兵士に射殺され、また餓死していった。
「おお神よ、あなたはどこにおられるのですか?あなたの子どもに何が起きているのか見てください」
神は眠っているか、休暇をとって、どこかへ行って留守だった…。
著者がゲットーをひそかに脱出して、生きた鶏を手に入れて自宅に戻っていく途中、鶏が騒ぎ立てるので、ついに殺してしまった。
母親は、ユダヤ教の定めによらず死んだ鶏を食べようとはしなかった。
「戦争中でも平時でも、私たちユダヤ人は律法を守る民なの。でなければ、ユダヤ人として生きていくのをやめるってことなの…」
いやはや、なんとかたくななことでしょう。
著者は写真館で助手として働くようになった。そのうち、ポーランド地下組織の求めに応じてひそかに写真の複製をつくるようになった。証明写真だったり、ドイツ軍関係者の顔写真だったりした。
写真館にはナチス親衛隊の制服を着た若者が来て、ユダヤ人だと知りながら、食料を渡してくれたり、いろいろ便宜をはかってくれるようになった。著者たちは「ユダヤ人SS」と呼んで受け入れた。
強制収容所に入れられて以来、鏡で自分の顔を見たことがなかった。鏡にうつっているのはやつれた灰色の顔、どこからどう見ても他の顔だった。
戦後、親になったドイツ人の若い女性にユダヤ人虐殺の話をすると、
「あなたの話が本当に起きたことだとは知っているわ。でも、私には、なぜ人がそんなに非人間的になれるのか、理解できないのよ」
と返ってきた。
同じユダヤ人の子ども同士だったのに話をそらした人は、著者に対してこう言った。
「覚えていたくなかった。みじめな少年時代だったから。いつだって腹を空かしていた。昼食時間には、きみのような金持ちの子が分厚いサンドイッチやおいしそうなロールパンにかぶりつくのを眺めていた。眺めているのは辛かったんだ。本当に忘れたかったし、忘れたつもりでいたいんだ」
そうなんですね、ユダヤ人の家庭にもやはり貧富の差はあり、朝食も昼食もとれない子どももいたというわけなんです。
ユダヤ人の大量殺害、絶滅収容所とガス室の噂が広まりだしたころ、ユダヤ人の父親は、それを信じようとはしなかった。そういうことを言う連中は、不吉なことを言いふらしてパニックを広め、ユダヤという哀れな民族の士気をくじこうとしているんだと非難した。そして父はこう言った。
「ナチスどころか、チンギスハーンだって、そんなことをしないんだろうよ。20世紀なんだぞ、文明社会が許すわけがない」
そうなんですよね。文明社会が許すはずがないことを、ヒトラー・ナチスはあえて宣言し、「善良な」ドイツ人がそれを実行していったのでした。
いま原発(原子力発電所)が3.11大爆発を起こしたことを忘れて、いかにも「処理」して安全になったかのような自民・公明政権の言うのを盲信する日本人のなんと多いことでしょうか。マスコミも同じ穴のムジナです。「風評被害」と言い、中国はけしからんと大合唱しています。でも、そのときデブリのことはまったく頭にありません。放射能の固まりを人間が扱えるはずはありません。そして、それをいったい日本のどこに置くというのですか…。
「アンダーコントロール」されているのは原発ではなく、日本人の頭ではありませんか。
読みやすいホロコーストの本です。著者は2016年、92歳でニューヨークで亡くなりました。
(2023年4月刊。3500円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.