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社長の椅子が泣いている

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著者:加藤 仁、出版社:講談社
 一代で大企業をつくりあげたオーナーの前では、立派な実績をあげた有能な社長であっても、簡単に社長を解任されることがあるのですね。オーナーは可愛い我が子を企業の存続・発展を無視してまで優遇してしまうのです。まるで豊臣秀吉の世界です。その理不尽さに呆れてしまいました。
 舞台は静岡県の浜松市です。ここにホンダとヤマハが生まれました。ホンダの社長とヤマハの社長とが兄弟だったなんて、ちっとも知りませんでした。当事者も、それぞれの社員の手前、それを隠していたそうです。実の兄弟であり、ケンカしていたわけではなく、むしろ仲は良かったのに、公然と会うのは遠慮していたというのですから、やはり世間の目はそれだけ厳しいということですね。
 この本の主人公は、46歳でヤマハの社長になった弟の方です。アメリカにも6年半いました。ただし、社長の在任期間はわずか3年あまりで、ある日突然、オーナー(創業者)に解任されてしまったのです。
 会議をやれば、人間の能力がわかるんだよ。だれが馬鹿か、だれが利巧かね。
 組織の最高権力者からこのような牽制球を投げられると、管理職は萎縮し、プレゼンテーションひとつとっても、権力者の気に入るようにするのが会議の主流となる。
 ヤマハにおける川上源一は、実は、創業経営者でもなければ、オーナー経営者でもなかった。川上一族が所有する日本楽器の株式を合計しても3%にみたず、いわゆるサラリーマン経営者である。それでも源一が社長そして会長と30年にわたって君臨しえたのは、親が東大「銀時計」であるという出藍の誉れ、昭和30年代までのリーダーシップ、後継者候補を切り捨て続けた人事操作、くわえて自分を「殿さま」と思ってはばからない個性によるものだった。なるほど、そういうことだったのですかー・・・。それにしても、企業を私物化するエセ・オーナーって怖い存在ですね。
 徹底したマニュアル化は、人間のロボット化にほかならず、ノー・シンキングの社員を輩出することになりかねない。必要なのは、自分で問題を発見し、解決する人材である。
 河島博はヤマハ社長を解任されたあと、ダイエーの中内功に請われてダイエーの副社長に就任しました。ダイエーの建て直しに功績をあげ、続いてリッカーミシンの再建に力を注いだ。ところが、中内功に追放されてしまうのです。
 企業における社長の椅子がこんなにも重く、また軽いものなのか、驚き呆れながら500頁近い大作を読み通しました。

死刑執行人の記録

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著者:坂本敏夫、出版社:光人社
 懲役受刑者は四級からはじまり、三、二、一級と進級する。上位の級に進むにしたがって自由の範囲が広がり、社会復帰が近くなる。1933年(昭和8年)につくられた、当時は世界の最先端をいく画期的な制度だった。
 自由の範囲というのは、手紙を出せる回数、面会できる回数、自分のものがつかえる日用品等の物品の種類がふえるということ。手紙だったら、四級は月一回、三級は月二回、二級は週一回、一級になると毎日出せる。一級者になると、着衣や身体の検査もなく、独歩といって、刑務官の付き添いなしで構内を歩くことも認められる。
刑務官は1万5000人。その90%は幹部養成の研修も試験も受けない。幹部は転勤をともなうから。
 仮釈放は、刑務所の推薦があってはじめて審査の対象となる。それはパロール審査会で決まる。そのときもっとも参考にされるのは処遇係長の意見。
 死刑の執行は判決が確定してから6ヶ月以内に行うと刑事訴訟法に定められているが、実際には10年前後経過して行われている。もちろん、先日の大阪の例のような例外はある。
 絞首刑によって心臓が停止するまで、つまり生物学的に死亡するまでの平均時間は10分だといわれている。
 処刑に立会するのは高等検察庁の検察官と検察事務官、拘置所の所長、教誨師、医務課長。
 日本における死刑執行の状況を小説という形をとって克明に再現した本です。死刑執行の是非を真面目に考えるときにはぜひ読んでほしい本だと思いました。

ナスカ、地上絵の謎

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著者:アンソニー・ド・アヴェニ、出版社:創元社
 ナスカの地上絵は、世界の8番目の不思議、考古学最大の謎とも呼ばれてきた。ペルー南部の海岸近く、石と砂の大地に1000平方メートルの広さに1000以上の図像がある。1930年代に航空機のパイロットたちに発見された。
 パンパに刻まれた生物のなかで、もっとも多いのは鳥。最大のグンカンドリを描いたと思われるものは、6万7000平方メートルのスペースを占めている。コンドル、ペリカン、ウ、ハチドリ、そしてトカゲ、キツネ、サル、クモ、魚、昆虫。
 1200年以上前に刻まれたにもかかわらず、ラインは当初の状態をかなり良く保っている。これはパンパが比較的安定した状態にあることによる。風による侵食は最低限であり、水によるごくまれでなきに等しい。
 ひとつのチームの作業員が石を集めて積み上げ、その石をつかって別のチームがはっきりした黒い縁取り線をつくっている。ライン・センターの上に立つ親方が線のふちがまっすぐになるように照準棒をもった作業員に指示を出している。
 一般の人々が抱くイメージとはちがって、2000年前のナスカにはラインをつくるための労働力は豊富にあった。ナスカには、土器と織物だけでなく、かなりの数の建築物が現有する。居住地跡と埋葬跡も数多くある。

また会う日まで

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著者:早瀬圭一、出版社:新潮社
 私も、いつのまにか老後のことを少しは考えなくてはいけないと思うようになってきました。いよいよ団塊世代も50代から60代へ突入しようとしているのです。
 この本はラビドールという名の高級老人ホームの物語です。ラビドールというと、なんだかウサギ(ラビット)の小屋という響きですが、そうではありません。私の好きなフランス語で、「黄金の人生」というのです。
 入居一時金は6000万円以上です。そのうえ、管理費が月7万4000円(夫婦2人だと10万1000円)。食事は月6万円(2人で12万円)。要するに、一時金として6000万円もの大金を支払ったうえで、夫婦なら月24万円ほど支払っていかなければなりません。まさしく高級の有料老人ホームです。
 いったい、どんな人がこんな老人ホームに入っているかというと、大企業の管理職の退職者や公認会計士、大学教授といった人たちです。それでも、ここは良心的な老人ホームのようです。アルツハイマー症にかかった妻は24時間介護が必要になりました。1ヶ月56万円かかるうち、介護保険から出るのは、24万5400円。残りは老人ホームが全額負担してくれるというのです。預かり金から支払うのです。この老人ホームは終身介護の保証をうたい文句としているからです。だから、夫が負担するのは、一ヶ月のおやつ代3000円、リネンの洗濯代4000円、おむつ代1万5000円くらいのもの。
 2001年10月時点で、全国にある有料老人ホームは400施設、入居者は4万人ほど。ええーっ、こんなに少ないのかと驚いてしまいます。
 有料老人ホームにあっては、経営の安定と永続性にこそ事業目的が求められるべきである。しかし、現実には、このラビドールの母体だった千代田生命は経営が破綻してしまいました。そのとき、入居者がどうしたか。
 動揺して退出者が続出したら存続は危うい。しかし、みながじっと入居したままだと絶対大丈夫と叫ぶ人がいて、存続することができた。
 千代田生命のあとを日立グループの日立ビルシステムが引き受けた。入居者は、ものすごい不安を感じたと思います。でも、なんとか乗りこえたようです。
 私も福祉をビジネスにしてはいけない、なんてことは思いません。しかし、人間なら、誰しも等しく安全・快適な老後を過ごせるように保障するのが政治の役割ではありませんか。大金持ちだけが老後を快適に過ごせる社会は間違っています。オリックスの宮内義彦会長は、自分だって既に老人になっているにもかかわらず、老人切り捨ての先頭に立ち、金もうけだけにしか目がありません。そして52歳の首相は自分をまだ若いと錯覚しています。日本はますます年寄りに冷たい政治を目ざしています。あー、いやだ、いやだ。本当に嫌になってしまいます。でも、あきらめたわけではありません。

子ども兵の戦争

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著者:P・W・シンガー、出版社:NHK出版
 本当は、こんな本は絶対に読みたくなんかありません。子どもに銃を持たせて戦場で兵士として働かせる。それも兵站部門ではなく、安上がりの消耗品としてつかうなんて、本当にとんでもないことです。しかも、その子どもたちは誘拐してくるというのです。悲惨です。気の毒です。人道に反します。幼いころに人殺しさせられた子どもが大きくなったとき、どんな人生を過ごすでしょうか。考えただけでもゾッとしてきます。
 南米コロンビアでは、子ども兵は「小さな鈴」と呼ばれて、使い捨ての見張り役にされ、また、「小さなミツバチ」とも呼ばれている。敵が気づかないうちに刺すから。「小さな車」という言い方もある。疑わずに検問所を通過して武器をこっそり運べるから。
 ゲリラ部隊のなかには子ども兵士で3割を占めるものもある。子どもといっても、8歳とか11歳というのは珍しくない。
 トルコのクルド労働党(PKK)は、3000人の未成年者兵を擁している。武装した最年少メンバーは7歳。また、未成年のメンバーの10%は少女である。
 アフリカのブルンジでは、最大1万4000人の子ども兵が戦っていて、その多くが
12歳前後だ。難民の子どもやストリートチルドレンが徴集されている。
 アフガニスタンの子どもの30%が成人する前に軍事活動を経験している。
 子どもたちは無垢だから、闇の勢力に対抗する道具としては最高だ。
 これは、あるタリバン兵の言葉だそうです。とんでもないことです。
 スリランカのタミル・イーラム解放の虎(LTTE)は、少女兵士をもっとも多くつかっている。部隊の約半数が女子で、「自由の小鳥」とも呼ばれている。子どもたちの多くは自爆テロの特殊訓練を受けている。
 LTTEは自爆テロによって、インド首相もスリランカ大統領も暗殺している。LTTEは、タミル族の少女を集めることが、女性解放を助け、農民制度の抑圧的な世襲制を是正することになると主張している。ええーっ、そんな馬鹿な・・・。まったく驚いてしまいます。
 アフリカでは、部隊に加わって銃を持つのがかっこよくてスリルがある、と言って志願する子どもが15%もいる。そして、教育システムのなかで戦争を美化し、子どもたちが組織に共鳴し、仲間になるようにし向ける。
 子ども兵士は、人を殺した瞬間から、自分の人生は永遠に変わってしまったと思う。儀式的殺人は、組織の権威に対する抵抗心をなくさせ、殺人にまつわるタブーを破る。子どもたちをおびえさせ、最悪の暴力行為に加担させる。道徳上の最後の一線を越えたことで、子どもたちは自分の知っている唯一の環境から忌み嫌われる存在となり、帰るところがなくなって、組織への依存度をさらに深める。人生のよりどころは、銃と仲間の戦闘員の二つだけになる。こうなったら最後、子どもたちは命令にほとんど全面的に服従する。
 子どもは戦闘をゲームだと思うから、恐れを知らない。
 子どもが本来もっている恐いもの知らずの面を強化しようと、子どもに麻薬やアルコールを服用させる組織もある。
 子ども兵の悲劇は、紛争が集結したあとも後遺症が残る点にある。未成年の戦闘員をつかうことで、将来の暴力と不安定の土台ができる。子ども兵は、ひとりでに増殖していく。戦闘のたびに、戦争で心に傷を負い、希望も技能も持たない集団が新たに生まれ、次なる暴力への予備軍とも引き金ともなる。
 アラブでは、殉教者は70人の身内を天国に入れる力を授かるとされている。このような素晴らしい未来は、貧困と絶望しか知らない子どもたちにとっては、非常に魅惑的だ。自爆テロリストを生み出す重要な要素は、周囲に対する失望と、天国に行きたいという欲望との結びつきだ。
 子どもたちはテロリスト組織から、家族が受けとる報酬に心を動かす。最高2万5000ドルを家族はもらえる。ハマスは、5000ドルと、小麦粉、砂糖、衣料品だ。そして、子どもの「殉教」をまるで結婚式のように扱い、お祝いする。子どもの死は、新聞で告知され、遺族の家には、何百人もの客がお祝いにやってくる。死んだ子どもの遺書に従って、客には甘いデザートやジュースがふるまわれる。このような楽しげな光景や、自分も生まれ育った村で同じように名を上げられるかもしれないという思いが、ほかの子どもたちや、その家族の心をゆさぶる。多くの親たちは、我が子が自爆テロで死んだことを誇りに思っている。母親が小躍りして喜ぶことさえある。わが子を差し出すことをためらう親は、いじめにあったり、非難されたりする。
 イスラム教は自殺を禁じている。しかし、子どもによる自爆テロは、敵がいるから、話は別なのだ。訓練の最後に、ビデオやカセットテープによる遺言や別れのメッセージを記録する。これによって後戻りはできなくなる。後戻りしたら、公の場で恥をかきかねないからだ。
 テロをなくすためには、教育制度を再建し、経済を立て直すこと、そして、子ども兵士を集めようとする体制を弱体化させることだ。
 本当に、本当に悲しい現実が、この地球上にみちみちているのですね。昔も今も、軟弱な若者を軍(今は自衛隊)に入れて鍛えろ、という意見があります。しかし、軍隊とは、要するに、ためらいなく人を殺せるマシーンにするところです。そんな、自分の考えをもたないまま人殺しマシーンになった人間をつくって、どうしようというのですか。やはり、人間らしい温たか味のある社会をお互いにつくりあげたいものですよね。

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