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サイバー監視社会

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著者:青柳武彦、出版社:電通通信振興会
 アメリカのチョイスポイント社の個人情報データベースには2億2000万人について250テラバイトの情報が蓄積されて、毎日4万データが追加されている。ここが、大規模のなりすまし犯罪グループに情報を渡してしまった。犯人グループは、身元を偽って50件のアカウントを同社に登録し、正当な目的で情報を閲覧するように見せかけて、消費者の名前・住所・社会保障番号、クレジット履歴などの個人情報を引き出した。14万5000人の個人情報が漏れた可能性がある。
 プロの犯罪集団はここまでやるのですね。コンピューターに登録された情報は、どんなに守ろうとしても漏れていく危険があるということです。
 京都府宇治市の住民基本台帳のデータが流出した事件で、市民がプライバシーを侵害されたとして市に損害賠償を求めて訴訟を起こした。裁判所は1人について1万5000円を認めた。これは市の委託を受けたデータ処理システム会社のアルバイト従業員がデータを複写して社外に持ち出し、名簿業者に販売したもの。1人1万5000円といっても、住民全員が原告となったとしたら、総額は31億円を上まわることになる。
 この本では、Nシステムも街頭の防犯カメラもその有用性が強調され、危険性は軽視されています。私は、社会全体の連帯心をもっと高める総合的方策をとるべきだと考えていますので、著者とは考えを異にします。それでも、問題を多角的に考えようとする姿勢自体は評価できると思いました。

朝鮮王朝史(上)

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著者:李 成茂、出版社:日本評論社
 朝鮮王朝(李朝)500年の栄枯盛衰のドラマを活字にする本格的通史。オビにこのように書かれていますが、読めばなるほどと納得します。なにしろ上巻だけで600頁あります。私は東京までの往復2日間かけて、じっくり読みとおしました。
 上巻は、李成桂の建国から、ハングルが制定された世宗朝、「チャングムの誓い」の舞台となった中宗朝を経て、第18代の顕宗朝までです。李朝500年が、激しい波に浮かんであらわれては消え去っていく様子が活写され、手に汗にぎる思いにかられます。
 歴史は過去との対話である。
 けだし名言です。過去を知らないことには、現在の自分を知ることは決してできません。
 歴史において、善悪は表裏一体であり得る。小国の韓国が、これまで生き延びてこれたのは、能力を重視し、優秀な人材を選び、国家を経営してきたからである。能力主義こそ、韓国の誇るべき精神的資産なのだ。
 科挙制度と朱子学は、400年かかって韓国のものになった。つまり、10世紀にとりいれられた科挙制度は14世紀になって韓国に定着した。12世紀に導入された朱子学は16世紀の退渓(テゲ)、栗谷(ユルゴク)の時代になって、やっと韓国のものとして定着した。
 国王が世襲されるのに対し、官僚は科挙によって選ばれたから国王より優秀だった。彼らは巧妙な制度をつくって王権を制約した。人事権と軍事権は、形式的には国王にあったが、実質的には臣僚たちが握っていた。
 臣僚のあいだで朋党が生じ、党争が公然と横行する。国王は朋党間の調整に汲々とするばかりだった。皇帝権が強かった朝鮮では朋党は公認同然だった。
 朝鮮の歴代諸王たちの治世は、おおむね20年ほど。20〜30代に即位して、40〜50代に死去することが多かった。宣祖、粛宗、英祖のように30〜50年も在位した王は例外的だった。
 次の王位継承者である世子の資格条件として、長子相続の原則は、朝鮮時代にすでに確立されていた。しかし、王位の継承のような政治的に重要かつ複雑な問題を原則どおりに行うというのは、それほどたやすいことではなかった。朝鮮王朝時代500年間に推載された王は27人。そのうち王の嫡長子など、正当性に何ら問題のなかったのは、わずか10人にすぎない。残り17人の王は、世子の冊封過程や王位継承において、原則にそぐわない非正常な継承者であった。兄弟次子継承もある。物理的実行行使によって即位した世祖、中宗、仁祖、王子でない遠縁の王族として大統を継いだ宣祖、哲宗、高宗、庶子として冊封された光海君や景宗、さらに世子が交代した定宗や世宗もいる。
 王位継承には、能力や道徳性のようなものも重要な条件となっていた。王位の傍系から初めて王位を継承したのは宣祖だった。
 大院君とは、王に後嗣がなく、死後、王族から王位継承者が出た場合、その父を指す呼称だ。
 李氏朝鮮の内情を総括した歴史絵巻物を見ているような気持ちになる本でした。

明治天皇

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著者:笠原英彦、出版社:中公新書
 明治天皇が生まれたのは嘉永5年(1852年)秋のこと(9月22日)。孝明天皇の第二子。母は孝明天皇の側室、典侍として入内(じゅだい)した権大納言(ごんだいなごん)中山忠能(ただやす)の次女慶子(よしこ)。明治天皇は4歳まで母の実家である中山家で養育された。中山家には型破りな人間や熱血漢の儒学者などがいて、明治天皇は大いに感化されたと思われる。
 孝明天皇は6人の皇子・皇女に恵まれながら、そのうち5人までが3歳を数えるまで生きられなかった。慶応2年(1866年)7月、徳川家茂が21歳で大阪城で死亡。慶喜が後継者となって長州征討を中止。孝明天皇も同じ12月に36歳で亡くなった。毒殺されたとも言われる。明治天皇の即位は、慶応3年(1867年)1月、16歳のとき。
 イギリス公使が明治天皇と会見したときに同席したアーネスト・サトウは、次のように明治天皇を描いた。
 天皇は眉を剃り、その上方に描き眉を施すなど化粧をし、応対はぎこちなかった。
 横井小楠によると、明治天皇は面長で浅黒く、背丈はすらりとして声は大きかった。
 天皇が東京に来たのは明治1年(1868年)10月13日。江戸城を皇居と定めた。京都から東京までの旅費80万円を天皇家の財政は負担できず、沿道の諸藩から借金した。
 孝明天皇は外国や外国人を洋夷として忌避していたが、明治天皇はむしろ西洋に多大の関心を示した。天皇は政務に対してはあくまで熱心だった。必ずしも才気煥発とはいえないが、大変な努力家ではあった。
 西郷隆盛が征韓論が容れられずに下野したとき、明治天皇は22歳。自律的な判断を下せるとは誰も想像していなかった。西郷に殉じる者はあっても、天皇に忠誠を尽くそうとする者はいなかった。天皇はむなしい気持ちに駆られた。天皇の権威失墜は決定的で、このような事態を如何ともなしがたかった。だから、次第に酒にふけるようになった。
 明治天皇は、皇后とのあいだに子はなく、権典侍の柳原愛子(なるこ)とのあいだに皇子2人、皇女1人をもうけた。しかし、無事に成長したのは、のちの大正天皇だけだった。
 西南戦争のとき、明治天皇は26歳。西郷との直接対決を避けようとし、西郷が死んだあと追悼歌まで詠んだ。西郷に対する同情には深いものがあった。
 明治天皇は日頃、よく人物評を口にした。黒田清隆については、実にいやな男だと言い切った。しかし、天皇は内閣の輌弼を受けて消極的天子であることが望まれた。天皇が宮中で側近からの進言を耳にして意思表示することは、政治責任を負う内閣の動きと齟齬することが懸念された。
 明治憲法を制定するまでの枢密院における審議に明治天皇は一日も欠かさず出席し、玉座で目を光らせた。明治天皇は政治に関心を示し、政策の方向づけや人事に介入した。天皇は政治的に成熟してきていた。
 明治天皇は大隈重信の入閣によい顔をしなかった。明治天皇は進歩思想を敬遠する傾向があった。藩閥政府に加勢していた天皇は政党の進出を内心快く思っていなかった。
 明治天皇は常に立憲君主としてのあり方を模索していて、能動的な行動を自制していた。つまり、明治天皇は「専制君主」ではなかった。
 明治天皇の祭祀嫌いは半端ではなかった。主要な行事は掌典長が代拝した。
 天皇についての「常識」は、たいてい明治以降のことであって、江戸時代までのものとは違うということを、今の日本人はあまりにも知らないように思われます。明治天皇の生活の一日を紹介した本(前にとりあげました)とあわせて読むと、ますます面白いと思います。この本を読むと、一人の等身大の人間が見えてきますから、明治大帝という呼び方には大いに違和感を覚えてしまいます。

ニッケル・アンド・ダイムド

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著者:バーバラ・エーレンライク、出版社:東洋経済新報社
 アメリカの女性ライターが、スーパーのレジ係などの低賃金労働者になった体験談をまとめた本です。前にイギリスの女性ライターが同じような体験をして本にまとめたものを紹介しましたが、アメリカの方が悲惨さはひどい感じがします。
 求人広告とは、低賃金労働者の高い移動率に備えるための、雇用側の保険なのだ。現在の従業員が辞めたとき、補充するため、求職者を確保しておきたいということなのだ。
 時給6ドルとか10ドルで暮らしている人々には、生き残るための秘策なんてない。ほとんどの場合、「住」こそ生活を破綻させる最大の要因になっている。時給6ドルとか7ドルということは、週に平均40時間働くとして、週給200〜250ドルでしかない。
 求職者には、性格検査がなされる。マリファナに強くこだわる内容となっている。ところが、この性格検査は、年商4億ドル産業にまでなっている。アメリカでは、それほどまでマリファナ汚染がすすんでいるのですね。
 アメリカでは職場での薬物検査を支持する声は高い。検査したら、事故や欠勤が減り、健康保険への請求も少なくなって、生産性が向上するという理由だ。しかし、アメリカ自由人権協会の報告はそれをいずれも否定している。検査には膨大な費用がかかっている。1990年に連邦政府が職員2万9000人を検査するためにつかったお金は1170万ドル。ところが、陽性反応が出たのは、たった153件だった。1人の薬物常用者を調べ出すのに、7万7000ドルもかかったことになる。なぜこんなことが続いているのか。一つは、20億ドル産業といわれる薬物検査業界が展開する広告の成果だ。もう一つは、この検査のもつ屈辱的効果が雇用主にとって魅力となっている。ええーっ、そういうことなんですか・・・。アメリカって、ホント恐ろしい国なんですね。
 ハウスクリーニングがアメリカで流行している。利用している家庭は14〜18%もあり、どんどん伸びている。そして、使用人を監視し、その窃盗を防止するための隠しビデオカメラのテレビ広告が目立っている。
 貧しい女は、とくに独身女性は、二重ロック付き、警報システム付き、夫付き、犬付きの家に暮らす女たちより、恐れなければならないものがこんなに多いのか、身に沁みて分かった。著者の女性ライターの文章を読んで、いやあ、ゾクゾクしてきました。ホントにホントに、アメリカって怖い国なんですね。いつもいつも、こんなにビクビクしながら暮らさなくてはいけないなんて、とても信じられません。こんな国には住みたくありません。
 ウォルマートの女性従業員の多くは、底の薄いモカシン(靴)で一日中走りまわっている。ヘアスタイルも階級を見分ける手がかりになる。ポニーテイルが多い。肩まで伸びたストレートヘアを真ん中分けして、顔にかからないように二本のピンで留めるのもまた、希望もなく疲れ果てたウォルマート店員の典型的な姿なのだ。ウォルマートのなかにいると、ウォルマートがすべてになってしまう、それ自身で完結した排他的な世界に閉じこめられてしまう。
 単純労働など、楽勝だと思われるかもしれない。だが、それは違う。どんな仕事も、どれほど単純に見える仕事でも、本当に単純ではない。
 今や、私たち自身が、ほかの人の低賃金労働に依存していることを恥じる心をもつべきなのだ。ワーキング・プア(働く貧困層)と呼ばれる人々は、私たちの社会の大いなる博愛主義たちといえる。彼らは、その能力と、健康と、人生の一部をあなたに捧げているのだから。
 アメリカの現実を深く考えさせられる本です。では、日本はいったいどうなんでしょうか・・・。町中、どこもかしこもコンビニだらけ。従来のパパ・ママストアーは見かけなくなりました。デパートも生き残りが厳しくなり、今や郊外型ショッピングモール全盛時代です。でも、これだって、いつまでもつのやら・・・。政府が福祉切り捨てを公然と語っているのに怒りの声が不思議なほどあがりません。日本人は、昔から一揆が大好きな国だったのですけどね。和をもって貴しとせよ、という言葉は、おまえたちあまりケンカばかりするな、そのころも日本人はたしなめられていたということですよ。もっと怒りましょうよ。2世議員か3世議員か知りませんが、日本の過去を無視してしまう、あんな安倍なんかに日本の国の将来をまかせておけますか、あなた?

笑いの免疫学

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著者:船瀬俊介、出版社:花伝社
 著者も団塊の世代です。北九州の荒牧啓一弁護士は早稲田大学の同級生だったそうです。消費者問題などの著書があり、私もいくつか読んだ覚えがあります。この本は、その延長線上にあるものでしょう。なかなか面白く、画期的な内容の本です。
 かの有名なシュバイツァー博士は、こう言った。
 いつも、自分がどんな病気にかかろうと、一番いい薬は、すべき仕事があるという自覚に、ユーモアの感覚を調合したものである。なるほど、ですね。
 たとえ若い人でも、健康な人でも、一日に約3000〜5000個くらい、がん細胞は発生している。毎年31万人が死んでいると言われるがん患者の8割、25万人は抗がん剤や放射線、手術などのがん治療で殺されている。白血病やリンパ球腫などを除いて、抗がん剤で治るがんはない。抗がん剤により、命を短くしている印象すらある。
 患者には抗がん剤をつかいながらも、自分ががん患者になったときには抗がん剤の投与を必死になって拒む。抗がん剤以外の代替療法でがんからの生還を期す医師(医学部教授)は少なくない。
 毎日、数千個も産まれているがん細胞が無限に増殖せずに、人類が100万年以上も生きのびてこられたのは、がん細胞の増殖を抑える免疫細胞があるから。キラー細胞の強い人の生存率は弱い人の2倍以上。だから、がん治療の最大の目的は、このキラー細胞を強くすることに尽きる。
 ところが、がんに対する三大療法は、どれも患者の免疫力を徹底的に叩き、弱らせてしまう。つまり、がんと戦うキラー細胞を徹底攻撃している。三大療法とは、抗がん剤、放射線、手術のこと。これは、実は、がん応援療法なのだ。
 抗がん剤の最大攻撃目標は、患者の造血機能。赤血球が殲滅されて、悪性貧血になる。血小板が壊滅して内臓出血で多臓器不全で死亡する。また、リンパ球も消滅させられる。ナチュラル・キラー細胞は、リンパ球の一種。だから、抗がん剤の投与で、がんを攻撃するキラー細胞は全滅し、がん細胞が大喜びする。放射線治療でも、造血機能が殲滅される。
 ところが、笑うことで脳血流が増加し、脳が活性化し、記憶力もアップすることが具体的な数値で立証されている。笑いは深呼吸に勝る。大量に息を吐くことで、その後、酸素を大量に取りこむ大深呼吸となる。ストレスで脳は興奮状態になり酸素を急激に消費する。すると脳細胞は酸欠となり、機能が低下する。しかし、笑うと大量の酸素が脳に取りこまれ、弱った脳細胞にいきわたり、脳のはたらきが活性化する。気分がスッキリすると、ストレス物質コルチゾールが減少し、ストレス状態が鎮められる。
 著者は、『笑うと免疫力』(ノーマン・カズンズ、岩波書店)を推奨しています。私も読みましたが、笑いはたしかに心身を健康にするものだと実感しています。
 私の法律事務所では、幸いなことに笑いが絶えません。ただし、深刻な相談を受けているときに大きな笑い声が聞こえてきて困ることもあります。それでも、深刻な内容を笑い飛ばせるような心の触れあいと交流を相談に来た人としたいものだと考えています。

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