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総理の品格

カテゴリー:社会

著者:木村 貢、出版社:徳間書店
 官邸秘書官が見た歴代宰相の素顔というのがサブタイトルになっています。オビには、池田首相以来四代の総理に仕え、官邸の主と言われた宏池会本事務局長の歴史的証言、とあります。
 宮澤喜一元首相が推薦の言葉を寄せています。それによると、著者は、池田勇人に始まり、歴代の宏池会会長であった前尾繁三郎、大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一を黙々として全力で支えました。80歳となり、事務局長を辞めてから回想したものです。
 宮澤は人の言うことをまったく聞こうとしない。自分の方が頭がいいと思っていたから、当然のことだろうが・・・。
 同じように加藤紘一も人のアドバイスを聞くタイプではなかった。おれは一番頭がいい。いちばん出来るんだという自負が強かったから。だから、加藤にはいいアドバイザーがいなかった。同じ自信家といっても、宮澤と加藤とでは少しニュアンスが違う。加藤には、自分のほうからあえて近寄って行って人の話に耳を傾けるといった謙虚さが欠けている。
 大平正芳は、留守中に自分の家が火事で全焼したときにこう言った。
 これは祝融(しゅくゆう)だ。物事をきれいさっぱり一掃して新しいスタートをせよということだ。だから、これはおめでたい出来事なのだ。
 自分に言いきかせた言葉なのでしょうが、それにしてもすごい言葉ですよね。
 大平正芳は、かねてから心臓の具合が悪く、つねにニトログリセリンを持ち歩いていた。どうやら大平家の家系のようだ。兄も弟も心臓病で亡くなっている。
 鈴木善幸は初当選したときは社会党に所属していた。日米同盟には軍事同盟はふくまれていないとアメリカ帰りに記者へ明言したのは、そのリベラルなところから来ているもの。しかし、アメリカがそんな食言を放っておくはずはありません。大問題となりました。今では考えられないことです。世の中がこの点では悪い方向にすっかり変わっています。
 鈴木は総理の椅子に恋々としがみつくことはなかった。明治の男という感じだった。鈴木善幸は一番の聞き上手だった。加藤紘一は聞くのが下手だった。
 実は、この本を紹介しようと思ったのは、まことに政界はジェラシーの海だ、という著者の言葉を読んだからです。
 大平正芳が宏池会会長になると、小坂善太郎は抜けた。宏池会に河野洋平が入ってきたとき、加藤紘一は不安にかられた。加藤が宏池会会長になると河野洋平が出ていく。
 こんな具合で、政界の内情は政治家同士のジェラシーが渦巻いているというのです。なるほど、その視点で見たら、また違った政治分析ができて、面白いのでしょうね。
 それにしても福岡の古賀誠が今や宏池会の会長だなんて、どうなっているんでしょうね。銀座ホステス愛人とか暴力団との癒着とか、週刊誌でいろいろ書かれても、そんなことくらいでは足もとは揺らがないということなんでしょうね。政界の浄化は道遠しという感があります。

風の影

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:カルロス・ルイス・サフォン、出版社:集英社文庫
 本年度のミステリーナンバー1ということです。なるほど、どっしりとした読みごたえがあります。400頁の文庫本で2冊という大長編です。
 オビにある推薦の言葉を紹介します。小説を読む喜びにあふれている。物語の虜になることの愉しさがここにはある。まさに傑作。過去と現在を複雑な糸でつなぎ合わせ、読む者を浪漫の迷宮へ誘い込んでいく。すべての誠実な読書人におすすめしたい、掛け値なしの傑作である。
 どうですか。ここまで書かれると、うん、どんなものだかちょっと読んでみようって気になりますよね。私も、そんなわけで読んでしまったのです。それにしても、オビの3行とか4行で本屋で手に取って読ませようという文書を私も書いてみたいと思いました。
 舞台はスペインのバルセロナです。古書店の父と息子が登場します。スペインの小説には、いつもスペイン内戦の影がまとわりついてきます。フランコ派と人民戦線そしてアナーキストが互いに殺しあった悲惨な内戦の後遺症が今もあとを引いているようです。人々の消すに消せない重大な出来事だったのでしょう。
 いくら読みすすめていっても、いったいこの話はどんなふうに展開していくのか、まるで予測がつかないのです。だから、次はどうなるのか知りたくて、ひたすら頁を繰っていきました。
 話の筋が複雑にからみあっていて、なるほど、そういうことだったのか、と終わりころになって、ようやく事件の全貌をつかむことができます。それまで、物語の基調にあるレクイエムのような暗い調べをずっと聞いている気分に浸ることになります。決して心地よいものではありません。でも、先行見通しの不透明さ、人生の不可思議さをじっくり味わうことのできる小説ではあります。
 私はベトナム行きの飛行機のなかで読みました。ベトナムまで福岡から5時間かかるのです。

モンゴル時代史研究

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:本田実信、出版社:東京大学出版会
 イラクへ侵攻したアメリカ軍兵士が3000人以上亡くなり、ついに9.11の犠牲者を上まわりました。負傷者は数万人にのぼるとみられています。戦場PTSD患者は大変な数になっているようです。もちろんイラク人の犠牲者はもっと多く、5万人は下まわらないと言われています。これらの死傷者をうんでいる原因の一つに自爆攻撃があります。自らの身体に強力な爆弾を巻きつけて要人を暗殺した例としては、スリランカの首相暗殺をすぐ思い出します。イラクでは、スンニー派とシーア派との宗派間の争いもあって、完全な内戦状態に突入しているといわれています。
 11世紀のイスラム世界に、要人暗殺を得意とするイスマイール派という教団があったことで有名です。アッバース朝カリフ制やセルジューク朝スルタン制というスンニー派体制の打倒を目ざし、天険利用の山城群を構築し、暗殺集団を組織していた。イスマイール派の山城の総数は150とも360ともいう。山城には、十全の防備施設をもつ居城、遠望のきく見張り城、有事の際に立て籠もる逃げ城、狼煙などによる連絡点としての山城がある。これらの山城をセルジュク朝も、モンゴル軍(フラグ)も、一つも落とすことができなかった。
 イスマイール派教団には、指導者層として3階級の宣教者がいて、その下に献身者がいた。献身者の任務は暗殺。献身者は信者の若者たちから選択され、困苦に耐える肉体の錬磨、必殺の武技訓練のほかに、高度の教養が授けられ、アラビア語、ラテン語などの学習の習得が課され、自己犠牲を喜ぶ精神的鍛錬が施された。
 暗殺の対象は、スンニー派の法官、市長、さらにカリフであり、将軍や宰相だった。毒薬や飛び道具はつかわず、すべて匕首(あいくち)で刺殺した。闇討ちではなく、むしろ、大モスクの金曜日の祈りの場など、公衆の面前で刺殺するのが建前だった。そのため、献身者はたいていその場で殺害され、生還の望みは初めからなかった。
 また、スンニー派なら無差別に殺傷するというのではなく、政治的・宗教的・社会的にもっとも効果の期待できる者が狙われた。
 暗殺すべき目標の人物が決まると、彼についての詳細・的確な情報が集められ、暗殺の手だてが綿密に検討され、適任の献身者が選ばれた。
 アラムート城には、暗殺された者と暗殺した献身者の氏名、暗殺の場所、日付を書き入れた暗殺者表が保管された。それによると、暗殺された者は、ハサン・サッバーフの治世に48人、第2代と第3代の世には、それぞれ10人、14人となっている。いずれも当代スンニー派ないしセルジュク朝の代表的人物である。
 600頁をこえる分厚い学術書です。今から10年前に読んでいたのですが、イラクで頻発する自爆テロと似通っていると思いましたので、紹介します。

葉の上の昆虫記

カテゴリー:生物

著者:中谷憲一、出版社:トンボ出版
 葉っぱの上に昆虫がとまっています。蜜を吸っているのでしょうか・・・。
 モンシロチョウのメスが交尾を拒否する姿勢を見せています。チョウチョもオスを選ぶのです。オスも、さっとあきらめたり、なかなかあきらめきれずに、その辺をウロウロしたりします。まるで人間のオスと同じです。
 アリとアブラムシ。アブラムシは植物の篩管を流れる糖分の多い栄養液を吸っている。ところが、アブラムシはその栄養液の一部しか吸収せず、たっぷり糖分を含んだ甘い液を、お尻から出してしまう。この甘露をなめようと、たくさんの昆虫が集まる。チョウやハナアブ、アシナガバチなどがやってくる。
 ほかの昆虫とちがって、アリとアブラムシは特別な関係にある。アリはアブラムシのお尻から、直接、この甘露をもらう。アリが触角でアブラムシのおなかを叩くと、アブラムシは甘い液を出す。アブラムシがアリを特別扱いするかわりに、アリはアブラムシを保護する。テントウムシなどがアブラムシを食べようと近づいてくると、アリはテントウムシを攻撃して追い払ってくれる。いってみれば、アブラムシが出す甘い液は、警備員として働いてくれるアリへの報酬なのだ。
 アリはハチの一種。翅がないだけで、からだつきはハチそのもの。その生態もハチそのもの。アリとシロアリは、昆虫という大きなグループの一員ではあるが、昆虫のなかのグループ分けでは、なかり違う。
 擬態。毒ともつ生き物のまねをして、毒があるように見せかける。簡単に毒をもつことができるのなら、毒をもって身を守ればいい。しかし、毒をもつのは実際には大変なこと。だから、見かけだけ毒のある生き物に見せかけるほうが簡単で、てっとりばやい。
 昆虫のいろんな生態がよくも微細に写真で紹介されています。昆虫好きの人には、絶対おすすめの写真集です。

新・富裕層マネー

カテゴリー:社会

著者:日本経済新聞社、出版社:日本経済新聞社
 日本に金融資産1億円以上の富裕層は131万人。全世界の富裕層(770万人)の 17%を占める。
 5億円以上のスーパーリッチは6万世帯。1億〜5億の大衆富裕層は72万世帯。これは、遺産相続による人が大きな割合を占めている。
 居住目的の不動産を除いた純資産で100万ドル以上の日本の富裕層は134万人、これは世界第2位。1位はアメリカで250万人。3位はドイツの74万人。
 スイス銀行が相手にするのは、金融資産5億円以上の人。
 グロソブという言葉を初めて知りました。グローバル・ソブリン・オープンというものです。日本に比べて高利まわりの欧米の国債を中心に運用し、投資家に毎月、分配金を還元します。購入者は100万人をこえているヒット商品だということです。
 団塊世代が退職するのは間近かだ。1人あたり平均2000万円として、年間15兆円。3年で47兆円。その前後をふくめての80兆円が、いま狙われている。団塊世代は既に110兆円をもっており、あわせると団塊マネーは150〜190兆円になる。
 ひゃあー、そんな金額になるんですか・・・。
 銀行預金に利子がつかない現在、投資信託が注目されているという。銀行が投信販売に熱心になるのは、販売手数料だけでなく、預かり資産に比例して信託報酬が見込めるから。
 たとえば、いちよし証券では、信託報酬が前年同期比38%増の19億円となった。これは、グロソブの預かり資産が400億円になったことによる。
 しかし、投資信託の基本は、元本保証のないこと。これを見逃して投資すると、痛い目にあう。投信ビジネスは証券会社にとって三度おいしい。販売手数料、代行手数料、委託手数料が入るから。あのグリコ以上のおいしさを証券会社がひとり占めするなんて、そんなことが許せるでしょうか・・・。
 不動産をふくむ資産が1億円を超す富裕層の日本人は300万人をこえる。彼らは遺言書を作成する。信託協会に加盟する銀行は4万8000通の遺言書を保管している。
 信託銀行の扱うリバースモーゲージというのがあるそうです。私は知りませんでした。自宅を担保とし、そこに住み続けながら年金のように一定額を受け取り続けるというものです。利用者が死亡したときなどに自宅を売却して元利金を一括返済することになります。7000万円の評価のある自宅を担保とし、毎年180万円を受けとれたというケースが紹介されています。果たして利用者にとってのリスクはないのでしょうか。どなたか、教えてください。
 信託銀行は、たとえば3000万円を預けている顧客に対しては、名医の紹介や金持ち向けのパック旅行紹介のサービスをしているそうです。でも、パリのコンドミニアムを紹介するというサービスがあるというのには笑ってしまいました。私は別荘も持ちたくありません。旅行先では、すべてあげ膳、据え膳でいきたいのです。炊事・洗濯、すべて自己責任、だったら日常生活そのものではありませんか。
 5%の利まわりがあるという宣伝文句だったのに、実は、信託報酬など差しひかれると1%にしかならないという。あくまでも信託銀行がもうかる仕組みになっているということです。
 金融資産が1億円あるということは、1億円しかないということ。信託銀行をふくめて銀行や証券会社にとっていいカモになる危険性はきわめて大きいのです。
 いや、証券会社などに頼らずインターネットで直接取引をしてもうけるのだ、そういう人がいるでしょう。でも、そんな人はパソコンの画面と24時間にらめっこしていなくてはなりません。仮に1日で10万円もうけたとしても、それってむなしくありませんか。四季折々の移り変わり、人間の生きざまの変わり方を議論するよりなにより、パソコンの画面をじっと、何時間もみつめ続けるなんて・・・。貴重な人生時間のムダづかいの典型ではありませんか。人生にはお金に代えがたい、大きなものがある。それは、たとえば親友です。なんでも話せる友だちって、お金なんかでは買えないでしょ。
 それにしても、なんだか欺しのテクニックがどんどん広がっているようで、怖い世の中です。同じ団塊世代のみなさん、お互いに気をつけましょうね。

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