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人道の弁護士・布施辰治を語り継ぐ

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 森 正、黒田 大介 、 出版 旬報社
 戦前、人権派弁護士として大活躍した布施辰治弁護士が亡くなって今年(2023)は70年の節目にある。
 布施辰治(1880年から1953年)は、日本国内はもとより、日本の植民地だった韓国や台湾においても尊敬されるべき日本人として知られる存在となっている。とありますが、いったい今の若い弁護士そして高校・大学生は布施辰治をどれほど知っているのでしょうか・・・。
 布施辰治は宮城県石巻市出身です。私の同期(26期)の庄司捷彦弁護士は、この本の中で何回も言及されていますが、同じ石巻出身ということで、庄司弁護士からよく話を聞かされました。
3.11のとき石巻市は大変な被害にあっています。石巻市を訪問したとき、庄司弁護士の案内で市内の被害状況を視察しました。大川小学校の被災状況を見て、思わず息を呑みました。
布施辰治は、弁護士職を天職と受けとめ、在野精神を堅持し、弁護士資格を剝奪されたり、投獄されても、屈することなく、民衆と政治的少数者の人権擁護に殉じた。
 また、布施辰治は、「死刑囚弁護士」と称されるほど数多くの重罪事件に取り組んだ。
 2004年、韓国の廬武鉉大統領のとき、布施辰治に勲章が授与された。抑圧・搾取民族の一員が被抑圧異民族の国家から表彰されるのは異例の出来事。これは、とても意義深い、画期的なことだと私も思います。
 関東大震災の直後に、罪なき朝鮮人が何千人も虐殺されたとき、それを知った布施辰治は、謝罪文を韓国の新聞に掲載したそうです。すごいことです。
 布施辰治は戦前、弁護士資格を剥奪され、投獄されたあと、「聖戦協力」したこともあったようです。生きのびるためには仕方のない状況だったのではないでしょうか・・・。
 布施辰治の遺族は、段ボール箱40個分になるほど、布施辰治に関する資料を保存しておいたようです。たいしたものです。本書には、その資料からの発掘も含まれています。
 布施辰治は普選運動に取り組み、実現すると、自らも第1回普選(1928年)のときに候補者になった(残念ながら落選)。
 布施辰治を知る人の評価に目を見張ります。
 「私は発電所を連想する。その顔から、社会活動の発電所のような感じを受ける」
 社会変革を目ざして、底辺から支え、もち上げ、押しすすめていくといったイメージですよね、きっと、これは・・・。
 布施辰治は社会主義者を自認することがなかった。それは生涯、変わらなかった。
 布施辰治は治安維持法違反に問われて起訴され、有罪判決を受けて千葉刑務所に入獄した。このときの判決文がすごいです。
 「多年、人道的戦士として弱者のために奮闘したる貫き、情熱を有する士は、ときに、その危険を冒(おか)し、あるいはこれを顧慮せずして、知らず識らずのうちに、その渦中に投するの例、必ずしも絶無なりというべきにあらず・・・」(1953年、大審院判決)
 戦前にも「裁判官の良心」が認められますよね、これって・・・。
 辺野古をめぐる裁判で那覇地裁や最高裁裁判官たちの国の言いなりに判決に接すると、まさしく絶望しかありません・・・。でも、絶望して何もしないというわけにはいきません。
 布施辰治について書かれた本を、まだまだ読んでいないというものが何冊もあるようです。大変刺激を受けました。
(2023年12月刊。1800円+税)

肥料争奪戦の時代

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ダン・イ―ガン 、 出版 原書房
 三大肥料要素のリンについて深刻な状況にあることを初めて知りました。
 リンは植物の生長に欠かせないし、人類にとっても必要不可欠。
リンは、人間が食べたものを筋肉を動かす化学エネルギーへ変換してくれる。人間の骨も歯もリンから出来ている。リンは人間のDNAにも含まれている。いや、リンこそDNAそのものと言ってよい。
 リンは生命の輪を完成させる根本的な結び目だ。貴重な資源であるリンの埋蔵量が減少しているのに、人類は無駄に消費したうえ、事態をますます悪化させている。
 世界のリン埋蔵量の8割近くがモロッコなどの西サハラ地域に偏在している。
 リンは悪魔の元素と呼ばれる。1815年6月、ナポレオンが敗退したワーテルローの戦場で何千もの兵士が亡くなった。戦場では死んだ兵士からの略奪が横行していた。着ていたもの、ポケットに入っていたもの、人間の頭髪(かつら製造業者へ)、歯(義歯をつくる歯医者)、そして遺体は肥料となってイングランドの農業振興に役立たされた。知りませんでした。
 1950年代のアメリカで、洗剤にリンが使われた。泡立ちが良いというので主婦から大歓迎された。ところが、河川も海も、いつまでも消えない泡に悩まされることになった。しかも、緑藻が水面にはびこり、湖は死んでしまった。
 1990年代に入って、アメリカの洗剤業界は自主的に家庭用洗剤からリンを取り除いた。
 しかし、牧畜場から排出される汚水のなかにリンは含まれている。シカゴの五大湖は3000万人もの人々にとって飲料水の水源である。そこの汚染が止まらない。
 農場主が何十年にもわたって肥料を大量にまき続けた時代のリンが、農地の土壌に大量に蓄積されている。この農地から、過剰なリンがしみ出していくことになる。
 人糞のなかにもリンが含まれている。なのでトイレの流水からリン・窒素・カリウムを取り出し、安全な肥料に変換する技術の開発が進められている。
 地球の温暖化も心配ですが、リンをめぐる環境悪化からも目を離せないことがよく分かりました。知らない、恐い話がたくさんありました。
(2023年7月刊。2800円+税)

仁義ある戦い

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 杉山 大二朗 、 出版 忘羊社
 アフガニスタンで中村哲医師が殺害されたのは、もう4年前のことになります(2019年12月4日)。
 福岡県飯塚市の生まれである著者は、ペシャワール会の現地派遣ワーカーとして数年間、中村哲医師の下で働いていました。その様子が著者によるマンガも添えられていて、とてもよく分かります。
 現地のワーカーとして、事務作業にも従事していますが、日本人スタッフのまかない料理づくりのところはとくに興味を惹きました。日本人はアフガニスタンに行っても日本料理を食べたいのですよね。よく分かります。重労働のうえ、安全確保のため、町に出てウロウロするなんてことも許されないのですから、せめて美味しい日本食を食べたいですよね…。
 中村医師は、カレーが大好きで、カツカレーが好物だそうです。貧しい九大医学部生のときの食事以来のようです。
 それにしてもよく出来たマンガが途中にはさまれています。誰かプロに依頼したのではないのか、そう思わせるほど素晴らしい出来事のマンガなので、状況がよく理解できました。
 ハンセン病の患者であり、ペシャワール会の守衛もしていたサタール氏についてのマンガは出色です。これだけでも、この本を読んだ甲斐があります。
 患者は日本人スタッフの舌に合うような「まかない料理」をつくるよう中村医師に指示されました。でも、問題は食材の確保です。食材がなければ、どうにもなりません。
 著者は、小学生のころから、自分で釣った魚を三枚におろしてさばけたというのです。偉いものです。そして、世界中を放浪したときにも各地の料理を見よう見まねでつくったのでした。いやあ、たいしたものです。その腕をペシャワール会の現地スタッフとしてアフガニスタンで思い切り生かしたのでした。
 ジャララバード(アフガニスタン)にあった日本人舎舎のキッチンでヘッドライトの灯りで料理している著者の写真があります。チャーハンでもつくっているのでしょうか…。
 あちらでは、インスタントラーメンは、病人しか食べることが許されない貴重品だったのです。
 著者が手がけたまかない料理もマンガで紹介されています。白菜を手に入れて漬物をつくったというのです。すごいですね、塩と昆布を使います。
 豚肉はタブーなので、豚肉以外のもので代用する豚汁もどきというものもあります。鶏肉や羊肉は高くて、牛肉のほうが安上がりなのです。
 鯉の南蛮漬けもつくりましたが、日本人スタッフには好評でも、アフガニスタン人スタッフには不評でした。やはり、人の好みは生来のものがありますよね。
 アフガニスタンはイスラムの国なので禁酒。日本人スタッフはこっそり飲むこともなかったようです。酒を飲まなくても平気になったと著者は書いています。日本に帰国したら、浴びるように飲んだそうですが…。
 それにしても中村医師はよく働いたようですね。毎日、毎晩、1時間以上もミーティングをしていたそうです。いやあ、これはすごいことです。よくも倒れませんでしたね。疲れますよね、ミーティングって…。中村医師は後継者はいるかとの質問に対して、「用水路そのものが後継者だ」と答えたとのこと。
 日本政府は今、世界各地に武器を輸出しようとしています。自民党と公明党の政権が戦争でもうけようとしているのです。
 私は中村医師そしてペシャワール会のような、地道な用水路づくりこそ日本のやるべきことだと改めて思いました。
 武器をつくって輸出して、軍需産業はもうかり、そのおこぼれを自民・公明の政治家たちはもらえるのかもしれません。でも、それって平和のためではありません。戦争で私腹を肥やそうとしているだけではありませんか…。ホント、腹が立ちます。
 いい本でした。お疲れさまでした。
(2023年5月刊。1700円+税)

匂いが命を決める

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ビル・S・ハンソン 、 出版 亜紀書房
 人間は他の生物ほど嗅覚情報に頼っていない。
 あなたも私も、そう思い込んでいるだろう。しかし、実は、人間の生活の重要な場面の多くで嗅覚に頼っている。
 アホウドリなどの海鳥は、プランクトンの豊富な漁業を匂いを手がかりとして探し当てている。植物だって、匂いを感知できていて、匂いのメッセージを送りあっている。
 ええっ、ホントなの…、驚くばかりの記述が続きます。
人の嗅覚受容体が400種ほどもあるからこそ、何百万種類もの異なる匂いを識別して嗅ぎとることができる。
 プラスチックは、海に漂ってるうちに、数ヶ月もすると、DMS(ジメチルナルファイド)を放出するようになる。なので、自然界の生物たちは、これ(プラスチック)を食べられる物質だと錯覚させてしまう。
 人間の遺伝子の1~3%が匂いを嗅いで、それを識別し、反応を引き起こすために働いている。
 犬にとって、匂いを嗅ぐことは知的刺激の源。匂いを嗅ぐことによって、犬は状況を理解し、その場をうまく切り抜ける。犬は嗅覚だけを使って、過去から現在までに何があったかを理解し、未来さえも見通す。人間が500万個の嗅細胞をもっているのに対して、犬の嗅細胞は数億から10億個もある。犬のほしがりそうな情報のすべてはお尻とその付近にある。
長いあいだ、鳥には嗅覚がないとみられてきた。しかし、アホウドリが進路を知るときは、嗅覚が大きな役割を果たしている。
 サケは必ず、「自分の生まれた」流水の川を探しあてて、そこに卵を産む。視覚的情報と電磁的信号、そして鋭い嗅覚を総合的に利用して故郷に帰る道を探しあてている。
 サメもまた、匂いで方向を探知する高い能力をもっている。サメは、ある種の匂いを2500万分の1の濃度で検知できる。
 サメの脳の3分の2は嗅覚器官蚊を誘引するかどうか、人によって明らかな個人差がある。妊娠中の女性は妊娠していない女性より2倍も蚊を引き寄せやすい。ビールを飲んだ男性は、明らかに他の男性より多くの蚊を引き寄せる。
 植物は攻撃されると、被害を訴える合図として、VOC’Sを放出する。
 私は、自慢にもなりませんが、あまり鼻が利きません。水仙の花の匂いどころか、キンモクセイの香りもなかなか楽しめません。コロナ禍のなかでマスクをしていると、そのせいにも出来ますが、マスクをほとんどしない今、なんで匂いが分からないの…、と非難されると、返すコトバはありません。でも、早春の水仙って、そんなに香り(匂い)がするものなのでしょうか…。
 裁判所で調停事件のとき、待たされているあいだに、300頁ある本書を読了してしまいました。今は調停事件を何件も担当しています。
 
(2023年9月刊。2600円+税)

暗い夜空のパラドックスから宇宙を見る

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 谷口 義明 、 出版 岩波科学ライブラリー
 宇宙は無限に広く、星の数も無限にあって、星は宇宙に一様に分布していたとしたら、私たちは上空を見たら必ず、どの方向にも星、つまり太陽を見て、空を埋めている、つまり、昼も夜もなく、明るい空が広がっているはず。
 しかし、現実の夜空は暗い。なぜなのか…。これが「オルバースのパラドックス」と呼ばれているもの。私は、このパラドックスを知る前は、単純に夜空は暗いもの、星は暗い夜空でまたたくもので、満天の星というのは高い山でしか見ることのできないものであって、星が夜空を埋めていないはずがない、なんて考えもしませんでした。
 そこで、この「パラドックス」を否定するため、先人たちは、いろいろと考えました。
 ある人は、宇宙空間に存在する物質が光を吸収するので、夜空は暗いと考えた(間違い)。
 夜空が暗いのは、遠くの星の光が地球にまで届かないからと考えた(これも間違い)。
 星にも寿命があるから、夜空は暗くても問題ない(星に寿命があるというのは正しい)。
 この宇宙は悠々の過去から存在したのではなく、138億年前に誕生した。では、いったい、その前は何があったのか…。
 宇宙の現在の大きさは470億光年。とても大きな数字だが、肝心なことは、無限大ではなく、有限だということ。
 著者は、夜空が暗いのは、宇宙にある星の数が少ないからだとしています。ええっ、星の数って、無限にあるんじゃなかったの…??
 肉眼で見えるのは、6等星まで。宇宙に銀河がたくさんあるといっても、数億光年内という銀河でも、10等星以上くらいのもの。
 もっと遠いと25~30等星。なので、星がたくさんあっても、話にならない。夜空を明るくするほど星はない。
 全天にある1等星は、わずか21個。1等星を集めて太陽の光度を実現するには、なんと1000億個の太陽が必要となる。
 銀河系には2000億個の星しかない。だから、銀河系の星々をすべて動員しても、夜空を埋め尽くすことはできない。正解は…。夜空が暗いのは、この宇宙には夜空を明るくするほどの星が存在しないから。この宇宙では、星をつくる物質に限りがあるため、夜空を星で埋め尽くすほど星をたくさん生み出すことはできないのだ…。
 ふだんの私たちが当たり前のことと考えていることでも、「本当にそうなの?」と訊かれると、うまく回答できないことがあります。
 暗い夜空の星がなぜ見えるのか…。面白い着眼点です。いかがでしたか??
(2023年10月刊。1540円)

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