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ある日、あなたが陪審員になったら・・・

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:オリヴィエ・シロンディン、出版社:信山社
 フランス重罪院のしくみ、というサブ・タイトルがついています。日本の裁判員制度にフランスの陪審制は参考になるという紹介がありましたので、フランス語が少々できる私としてはぜひ読んでみようと思った次第です。
 フランスでは、毎年2万人ほどの市民が陪審員になるべく招集される。1978年以来、選挙人名簿に登録された23歳以上のすべての市民は陪審員に任命される可能性がある。パリだと1800人、その他の県だと人口1300人に1人の割合で選出される。
 市長は公衆の面前で、選挙人名簿をもとに23歳以上の人からくじを引いて、定数の3倍までしぼりこむ。そこから、法曹三者などから成る委員会が不適格者を除外する。そして、2度目のくじ引きが裁判の始まる30日前までに行われる。これも公開の法廷でのくじ引き。40人と予備員12人を選び、期日に召喚される。そして、開廷日の初日に3度目のくじ引きとなる。
 重罪院は、3ヶ月に一度、2週間の開廷期で開かれる。
 陪審員は、5年間のうち一開廷に限られる。
 人を裁くなんて、神以外の誰にもできるはずがないと言われた。私が人を裁くなんてできるはずがないと思ったし、自分の意見をもつのも得意ではないので悩んだ。それでも、政治意識から召喚を拒否しなかった。
 理由なく陪審員が欠席したら、3750ユーロの罰金が科される。
 困難な任務にもかかわらず、いつも陪審員の熱意と真面目さと努力に驚かされる。
 もし重罪院が舞台なら、そこで演じられているのは悲劇だ。陪審員のなかには、泣いたり、気を失ったり、部屋を出てもいいかと頼む者がよく出てくる。救急車が重罪院に頻繁にやって来る。
 陪審員は、あなたは心底から確信しているか、と自らに問いかける。
 評議室は閉ざされ、出入り口は守衛によって警備される。評議室から出ることはできず、トイレに行くときも、警備員が付き添う。外部からの接触は一切排除される。
 ここは、人間がふだんの自分以上の、崇高な存在になれる場所なのだ。
 陪審員による投票は2回に分けて行われる。まずは有罪か無罪かについて。そして有罪と決まったときには、量刑について投票する。有罪についての評決は12人のうち8票の多数を必要とする。量刑については7票でもいいが、法定刑の最長期の刑を言い渡すときには8票を要する。ちなみに、フランスは死刑判決はない。
 フランスの弁護士は3万9000人いるが、刑事弁護士と呼ばれるごく少数が重罪院で活動している。
 重罪院にかかった事件のうち無罪になるのは7%。2002年から無罪判決に対して検事長は控訴することができるようになった。控訴率は24%。
 2002年に重罪院の判決は2825件だった。17%は故殺、13%は凶器所持強盗、52%が強姦事件。
 いろいろ勉強になりました。イラスト入りでかかれた読みやすい本です。
(2005年11月刊、3200円)

プーチン政権の闇

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:林 克明、出版社:高文研
 プーチン大統領の支配するロシアって、本当に底知れない恐ろしさをもつ国だとつくづく思いました。もっとも先日みたアメリカ映画『グッド・シェパード』で描かれていたCIAの暗躍ぶりと対比させると、アメリカもロシアと同じような強暴な国だと思いましたが・・・。
 邪魔者は消せ。ロシアは、このひと言に言い表せるような、暗殺天国になってしまった。政府・軍・警察・官僚の不正をあばこうとする人物が、次つぎに消えていく。
 2006年10月7日、チェチェン戦争報道でプーチン政権を痛烈に批判してきたアンナ・ポリトコフスカヤ記者が自宅アパートエレベーター内で射殺死体となって発見された。
 11月23日、ロンドンに亡命していた元FSB中佐のアレクサンドル・リトビネント氏が放射性物質ポロニウム210を盛られて死亡した。
 2004年9月、南ロシアで起きた学校人質事件では、武装勢力が子どもたちを人質にとり、特殊部隊の突入で、330人が犠牲となった。この学校占拠グループで指揮していたのはロシア人である可能性が高く、犯人のかなりの部分を地元民が占めている。何らかの謀略の可能性は相当高い。
 最初の攻撃がゲリラ側からではなく、ロシア諜報部からのものであった。330人もの人質の死の責任はロシア治安部隊にある。
 そうだったのですか。それにしてもむごい事件でした。テロリストが劇場や学校を占拠し、特殊部隊が突撃して「解決」を図るなんて、考えただけでもぞっとします。
 第一次チェチェン戦争は、エリツィン大統領再選のために必要だった。第二次チェチェン戦争はエリツィン大統領が自ら選んだ後継者であるプーチン首相が世論調査で順位を上げるために必要とされた。
 ロシアでは、もう長いこと公式には死刑が執行されていない。しかし、ロシアの特務機関は、邪魔な人々を裁判後に殺してきた。裁判によらない処刑が行われている。
 1994年に戦争が始まって以降の歴代独立派チェチェン大統領は、全員殺害されている。「独立宣言」したドゥダーエフ大統領、あとを継いだヤンダルビーエフ大統領代行、史上初めて民主的な選挙で当選したマスハードフ大統領。さらに、ゲラーエフ国防大臣、有名なバサーエフ野戦司令官。日本の岩手県ほどのチェチェン共和国で、2000年から2004年末までのあいだに、1万8000人が行方不明になっている。
 ひゃあ、チェチェン共和国って、岩手県くらいの大きさしかないのですか・・・。そこから「テロリスト」が東京にやって来る構図を描いたら、ぞっとします。まさに、報復の連鎖しかありませんね。
 2006年に「国境なき記者団」が発表した報道の自由ランキングでは、168ヶ国中、ロシアは147位。プーチンが権力の座についてからのロシアでは、戦場でなく、平時にジャーナリストが暗殺されている。世界でジャーナリストにとってもっとも危険な国のトップはイラク、2位はアルジェリアで、3位はロシアである。
 いやはや、ホント、恐い、怖い、ゾクゾクしてきました。
(2007年9月。1200円+税)

ウナギ

カテゴリー:生物

著者:井田徹治、出版社:岩波新書
 ウナギは私も大好物です。私の事務所には、ヘビみたいで苦手だという女性がいますが、それは気にしすぎです。とても美味しいし、栄養満点なんですからね。柳川が本場のウナギのセイロ蒸しなんて、最高ですね。熱々のごはんと一緒にいただくと、ほっぺたが落ちそうです。思い出すだけでも、ゴクンと喉がなります。
 でも、この本を読むと、いやあ、このまま日本人はウナギを食べ続けていいのかな、と反省させられます。
 ウナギの資源は危機的な状況にある。日本人が長く食べてきたニホンウナギはもちろん、アメリカやヨーロッパのウナギ資源が急激に減少し、その将来が危ぶまれている。
 日本人は世界のウナギの70%を食べている。しかも、日本人の食べるウナギの量は過去15年間に急増した。
 ニホンウナギは日本から200キロも離れたグアム島近くの海で生まれる。生まれた直後のプレレプトセファルスほとんど泳げず、海流に乗ってながされるようにして移動する。
 日本のウナギ資源が大きく減った原因の一つは、湿地や干潟など汽水域の環境が開発によって破壊されたことにある。ウナギはそこで骨休みをし、長旅の準備をする。
 ウナギは長い距離を長時間かけて遡上する。川を上り、自分の気に入った場所を探す。50キロや100キロはざらで、信濃川では河口から200キロ、木曽川では180キロの地点まで遡った記録がある。
 ウナギは大食漢で、長寿だ。飼育下で37年間も生きた記録がある。世界でもっとも長生きしたウナギは84年。
 自分のすみかを見つけたウナギは、オスの場合に3〜5年、メスはさらに10年かけて成熟する。成熟したウナギは再び川を下って海に向い、そこで産卵して一生を終える。この降りウナギが一番美味しい。脂肪をたっぷり蓄えているから。
 ウナギは生では食べられない。ウナギの血液中には毒性物質が含まれていて、人間が食べると下痢や嘔吐をおこし、ひどいと呼吸困難をもたらす。ただ、65度以上の高熱にさらされると、無害になってしまう。だから蒲焼きしたら大丈夫。
 ウナギを養殖して得られるのは、ほとんどオス。ウナギの養殖は大変で、お金もかかる。ウナギの親は、1回に100万個の卵を産む。その卵のなかで100日まで生きるのは、0.026%だけ。さらに、シラスウナギにまで変態するのは3分の1だけ。養殖するときのエサが大変。今は、サメの卵を主成分とするエサを与えている。このサメが絶滅の危機にある。
 ウナギのメスに卵を産ませる最後のきっかけをつくるPHPという物質は10ミリグラムで2万円もする高い薬。今の手法では年に100匹程度のシラスウナギをうみ出すのが限界。しかし、日本で1年間に必要なシラスウナギの数は何と1億匹。とても釣り合わない。
 日本のウナギ市場は年間、数千億円にもなる。だから、世界のウナギ資源の保全に大きな責任がある。
 天然ウナギの漁獲量は、600トン程度でしかない。2000年に日本人が食べたウナギの消費量は、原魚換算で17万トン。だから、日本人が食べているウナギの99.5%は養殖ウナギ。
 外来種であるヨーロッパウナギが、日本各地の河川に定着している。日本固有のウナギの遺伝子は、ヨーロッパウナギの遺伝子によって攪乱されつつある。
 ウナギは体内に脂肪の量が多いため、それだけ有害物質を体内に蓄積しやすい。
 ウナギは、有害化学物質の影響を受けやすい条件を多くもっている。
 ヨーロッパやアメリカのシラスウナギを飛行機で、中国の内陸部に運び、そこで養殖し、加工までして、最終的に日本の市場に大量に流れこんでいる。
 いやあ、なんだかウナギを食べるのが怖くなってきましたね・・・。
(2007年8月刊。740円+税)

壊れる日本人

カテゴリー:社会

著者:柳田邦男、出版社:新潮社
 日本人の大学生が提携先のアメリカの大学に留学したとき、そこではケータイの使用が禁止された。すると、日本人学生は、心の支えがなくなったような、いつも何かが満たされないでいるような不思議な不安定感にとらわれた。ケータイなしでも不自由さや不安定感を感じないで生活できるまで、2週間かかった。これは麻薬中毒的なケータイ依存症にあったと言える。
 そうなんですよね。私自身は、ケータイこそ持っていますが、いつもカバンのなか。ケータイで写真をとったり、メールを送ったりなんかできません。あくまで公衆電話(めっきり姿を消してしまいました)の代わりです。
 ケータイ・ネット依存症を克服するために、非効率主義をすすめる。じっくり考える習慣、ナイーブな感性、画一的でないタイ人対処の仕事の仕方、豊で味わいのある言葉、ゆとりや間(ま)や沈黙を大事にする生活と人間関係など、人間が人間らしく生きるうえで大事なものを忘れてはならない。
 新約聖書をケセン語(日本語です)に訳した人がいるそうです。「マタイによる福音書」のなかに、有名な文句があります。
 心の貧しい人々は、幸いである。天の国はその人たちのものである。
 これがケセン語訳では次のようになります。
 頼りなぐ、望みなぎ、心細い人ア幸せだ。神様の懐(ふところ)に抱がさんのアその人達だ。
 ケセン語というのは東北弁のなかの一つで、岩手県最南部の気仙地方の方言のことです。
 方言を文化レベルの低い恥ずかしいものだと考えて、忌避する風潮が、ようやく排除されるようになったことを堂々たるケセン語訳は象徴的に示した。
 なーるほど、なるほど。まったく、すばらしい偉業です。連帯の拍手を送ります。
 1998年時点で、保育士が子どもたちの傾向として、次のようなことをあげた。
 夜型生活。自己中心的。パニックに陥りやすい。粗暴。基本的なしつけの欠落。親の前では良い子になる。
 これは、9年前の指摘です。でも、この傾向は強まっているのではないでしょうか。
 言語化の作業が苦手という子どもは、心の発達の未熟さと裏腹の関係にある。言語化とは、感情や考えたことや心の中に渦を巻いている葛藤や苦悩などを整理し、一筋の文脈のあるいわば物語(の、一部)として表現する作業だ。知能の発達、心の発達が遅れていると言語化の能力の発達も遅れる。
 なーるほど、ですね。日本人の危なっかしいところを振り返り考えさせられました。
(2005年3月刊。1400円+税)

蘇る「王家の谷」

カテゴリー:未分類

著者:近藤二郎、出版社:新日本出版社
 最新エジプト学というサブ・タイトルがついています。エジプト現地で30年も調査を続けてきた日本人学者による親切な解説本です。
 最古の人工ミイラの出現は、古王国時代(前2682〜前2145年)。古王国時代には、再生と復活の権利は、王族や一部の高官が独占していて、ミイラも王族や高官のものだった。
 中王国時代(前2025〜前1794年)に、人は誰でも死ぬとオシリス神となって、死後に再生・復活を果たし、永遠の生命を得るという、オシリス信仰の大衆化が起こった。
 新王国時代(前1550〜前1070年)になると、ミイラづくりが確立した。
 その後、ローマ支配時代まで、エジプト人は、オシリス信仰を持ち続け、遺体をミイラにする習俗を続けた。古代エジプト人は、脳を大切なものと扱わず、心臓こそ精神の働きをつかさどる中心的な器官とみていた。
 王のミイラはもちろん、ペットとしていたイヌやサル、そして神として崇めていたワシや魚、鳥などのミイラも多数のこっている。
 ピラミッド建設について、かつては専制王による奴隷労働と考えられていたが、最近は、国家の巨大事業として、農閑期の農民を中心とする余剰労働力を駆使して建設された失業対策事業であるとする説が多くの支持を受けている。
 ピラミッドを建設する作業員の大型住居も発掘されている。
 古代エジプトの人口は、200〜300万人とみられている。ナポレオンエジプト遠征時でも250万人だった。19世紀末に800万人、1945年に2000万人、現在は7000万人と、人口が急増している。
 エジプトには行ってみたいとは思いますが、なにしろ遠いでしょ。二の足をふんでしまいます。それで、こうやって、せっせとエジプト学の本を読んで我慢しているのです。
 それにしても、今が2007年でしょ。キリスト「生誕」年から2000年以上さかのぼって、さらに前にエジプト古王国は存在したのですよね。エジプト王国の息の長さをつくづく感じます。
(2007年9月刊。1400円+税)

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