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中国動漫新人類

カテゴリー:中国

著者:遠藤 誉、出版社:日経BP社
 私はテレビを見ないので、もちろんテレビのアニメを見ませんし、マンガも読みませんから、いま日本で人気のあるマンガの内容がどんなものなのか、さっぱり分かりません。ただ、映画で宮崎駿のアニメは大半を見ていますし、大学生のころまでは、よく少年マンガ週刊誌を読んでいました。社会人になってから読んだマンガというと、手塚治虫くらいでしょうか。あっ、そうそう、藤子不二雄の『まんが道』、矢口高雄の『ふるさと』も読みました。なかなか良くて、大いに感銘を受けました。
 この本は、日本のアニメとマンガが中国の青少年に大きな影響を与えていることを実証的に明らかにし、その背景と問題点をいろんな角度から論じています。近くて遠い中国の知らなかった一面を認識させられました。かつて中国へ侵略していった日本人として知るべきことが多く盛りこまれている、知的刺激にみちた本でした。
 動漫。中国語でアニメと漫画をひとくくりにして、こう呼ぶ。
 中国では、1980年以降に生まれた若者の世代を「80后」と呼ぶ。この「80后」こそ、生まれた翌年から『鉄腕アトム』が放映され、まさに生まれ落ちたときから日本動漫を見ながら育ってきた世代である。いまの中国の若者たちは、日本のアニメや漫画の影響を多大に受けている。
 そして、この日本動漫隆盛の裏には、悪名高き、「海賊版」の存在があった。日本の動漫は、海賊版の力で中国を席巻して、結果的に中国市場に深く浸透した。日本円で年間10兆円単位になろうという中国の巨大な動漫関連市場のかなりの割合を海賊版の日本コンテンツが占めている。
 たかが子ども向けの作品として、何の規制もなく中国に普及していった日本のアニメや漫画は、中国の若者たちに、民主主義と市場経済の甘い蜜を知らずしらずのうちに味わせていた。こうした甘い蜜を少しでも味わってしまうと、もう欲望は後戻りできない。
 1996年、中国で『スラムダンク』がテレビ放映されたころから、中国における日本アニメブームは全盛期を迎えた。中国全土で史上空前のバスケット熱が巻き起こり、中学、高校、大学と、どのキャンパスでもバスケに夢中になる若者が激増した。
 アニメ市場では、もうけのほとんどは、アニメそのものではなく、アニメの副産物であるキャラクターグッズがうみ出す。だから、ヒットするアニメを放映し、そこからキャラクターグッズが誕生しない限り、大きなもうけはない。
 中国全土で、熱狂的な日本語学習ブームが起きている。日本の声優の声は美しく、声に表情があり、心のひだをたおやかに表している。
 うむむ、そ、そうなんですか・・・。そう、でしょうね。
 日本動漫に熱狂するあまり、映像の中のキャラクターに自分自身もなり切って、コスプレをし、さらなる自己投影と自己実現を試みる若者が中国で急増している。中国政府は、積極的に、全国的なコスプレ大会を開いている。今や500万人の参加するイベントである。コスプレ大会では、寸劇形式をとっている。
 ところが、最近になって、中国政府は日本動漫を「敵対勢力」と位置づけた。「堕落し没落した生活方式」が中国の未成年者に悪い影響を与えているとし、その対策を取りはじめた。
 うむむ、これって、なんとなく分かりますよね。それにしても、日本と中国が実はこんなに近く、そして遠い国だということを、アニメとマンガの分野で実感させられました。面白い本でした。ほまれさん、ありがとうございます。
(2008年2月刊。1700円+税)

ミクロにひそむ不思議

カテゴリー:未分類

著者:牛木辰男、甲賀大輔、出版社:岩波ジュニア新書
 いやあ、この世界は知れば知るほど、不思議と神秘にみちみちていますね。ミクロの世界が、これでもかこれでもかと次々に紹介されます。息を呑むような精巧かつ奇妙な構造にあふれているのです。ジュニア新書というのですから、一般には子ども向けのやさしい解説書のはずですが、おっとどっこい、大人の私たちにも大いに勉強になる写真集であり、これで800円、180頁ほどの新書版ですからたまりません。世の中の不思議を知りたい人に、一見、一読をおすすめします。
 顕微鏡をつかった解剖学を顕微解剖学という。顕微鏡というのも、光学顕微鏡、透過型顕微鏡、走査型電子顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡などいろいろある。
 ミクロの世界なんて、さぞかし単純に出来ていると思われるだろうが、実はまったく逆で、そこには想像もできないような奇妙な構造があふれていて、しかも、そのどれもが精密きわまる構造をしている。
 たとえば、花粉です。実にさまざまな大きさや形をしています。花粉症の原因ともなるわけですが、それは人間の身体が粘膜に接触した花粉を洗い流そうとするための反応。過敏で過剰な反応を引き起こすのが花粉症である。
 実は、私も花粉症に悩まされている一人なのですが、塩水による鼻うがいを始めてから、すっかり症状が軽くなりました。薬を一切つかわずに、鼻うがいだけで対応しています。みなさんも一度試してみてください。
 アリ、ハチ、ハエ、カの頭部が紹介されています。なんだか、みんなよく似ています。こんな小さな生き物たちが、本当に精巧な造形物であることを知って、やっぱり神様なんていないな、と無神論者である私は思いました。ミクロの世界でこんなに精巧な造形物をつくる必然性が、全能の神様にあるとはとても思えない、という意味です。宗教を信じる人は逆に思うのかもしれません。すみません。
 さらに極めつきは、人体のミクロの世界です。人間の身体って、本当にかくも精巧な物体から成り立っているのかと感動を覚えます。よくも、こんな精密・精巧な仕掛けを、脳が間違わずに制御できるものだと不思議でなりません。
(2008年2月刊。780円+税)

僕たちの好きだった革命

カテゴリー:社会

著者:鴻上尚史、出版社:角川学芸出版
 実のところ、読む前は全然期待しておらず、車中で昔の学園紛争についての資料みたいに軽く読み流すつもりでした。ところが、さすがはプロの書き手ですね。次はどういう展開になるのか知りたくて、ぐいぐいと引きこまれてしまいました。
 今から40年前、学園闘争を果敢にたたかった人たちが、その後どんな仕事と生活をしているのか、私も大いに興味と関心があります。この本は、30年前の学園闘争のとき機動隊に頭を直撃されて植物人間となった高校生が、30年後に目が覚めて現代の高校に復学したという、とてもありえない設定で始まります。今どきの高校生と30年前の高校生徒で話が合うはずはないのですが、そこは同じ日本人なのです。いつのまにか共通するところが出てくるのが不思議なところです。
 しかも、現代の高校の教頭先生が実は30年前の全共闘のリーダーであったり、今どきの高校生の親たちが、実は、かつての全共闘の活動家だったりするわけです。となると、内ゲバの悲劇も登場せざるをえません。そうなんです。そのトラウマを今も引きずっている母親がいたのでした。
 これらを一つのストーリーに仕立てあげて読みものにするあたりは、私に真似できそうもない小説家の技(わざ)ですね。
 「オレたちは夢を見ていたのかもしれん。マルクス主義という夢、人類の平等と解放という夢、だがなあ、おまえが30年ものあいだ寝ているあいだに、ソ連を初めとする社会主義国は、続々と崩壊したんだ。あの当時の理想は消え去った・・・」
 「そんなことじゃない。あなたは賢いから、マルクスとか、いろんなことを考えていたでしょう。でも、ぼくは、自分たちの文化祭だから、自分たちだけでやりたい。自分たちの文化祭の内容を先生ではなくて自分たち生徒が決めるのはあたり前、それだけだったんですよ。それって間違いなんですか?」
 団塊世代よりちょうどう10年若い著者による本です。この本を読んで学園紛争とか全共闘について関心をもった人には、『清冽の炎』(神水理一郎。花伝社)をおすすめします。相変わらず売れていないそうです。私は、なんとか売れるように必死で応援しています。
 食事をすませ、夜、うす暗くなったころ、歩いて近くの小川に出かけます。ホタルに会いに行くのです。夜8時ころがホタルの飛んでる時間です。道端をフワリフワリと飛んでいます。そっと両手でつかまえ、ホタルの光を指のあいだにしばらく眺め、また放してやります。ホワンホワンと光るホタルって、すごくいいですよ。手にのせても、まったく重さを感じません。童心に帰るひとときです。
(2008年2月刊。1700円+税)

同盟変革

カテゴリー:社会

著者:松尾高志、出版社:日本評論社
 自衛隊の本来任務は、自衛隊法第3条に規定されている。それ以外のものは付随的任務であって、本来任務に支障のない限り行うという扱いだった。そして、海外展開任務は、自衛隊法では、雑則あるいは付則に入っていた。ところが、それを全部まとめて3条2項をつくって本来任務とした。
 たとえば、アフリカに派遣された自衛隊の駐屯地のそばで暴徒があばれ、現地の政府軍が発砲して大騒動になったとき、見張り台の上にいた自衛隊員は、命令の前に逃げていた。命令がないのに逃げるのは軍隊ではない。
 また、自衛隊がトラックで物資を輸送するとき、自衛隊には警護の任務は付与されていないため、外国の軍隊に警護を依頼せざるをえない。このように自衛隊は、軍隊でありながら、国際法上の軍隊としては海外に行けない。
 さらに、軍刑法のない現状では、自衛隊は刑法にしばられて行動する。裁かれるのは地裁である。これでは軍として動けない。海外展開を本格的にしようと思えば、軍刑法と軍法会議が、どうしても必要だ。
 これから自衛隊が海外展開するにあたってのネックになるのは、武器使用の問題である。
 海外展開の最初は1992年のPKO法によるもので、武器使用は個人判断であり、刑法にいう正当防衛と緊急避難だけだった。
 防衛省に昇格して発表されたロゴマークは、日本を守る自衛隊ではなく、世界平和のために戦う自衛隊への大きな転換・変質を如実に示している。
 そういわれると、まさにそのとおりの図柄です。みなさん、よく見てやってください。
 イラク戦争の実質的な責任者であるアメリカ中央軍のアビザイド司令官は、記者会見のとき、「イラクでは古典的なゲリラ型の戦闘がアメリカ兵に対して行われている。われわれの軍事用語でいうと低強度紛争だが、まさにこれは戦争だ」と述べた。
 自衛隊はアメリカ軍とのあいだでACSA(日米物品役務相互提供協定)を適用し、自動車部品や燃料などの物品や輸送などの役務を提供することとし、2003年12月、イラク作戦実施中のアメリカ中央軍と自衛隊の詳しい取り決めをした。自衛隊が海外でACSAを適用するのは初めて。
 自衛隊はイラクに派遣するにあたって、初めて「部隊行動基準」を決めた。これは国際的には「交戦規則」と言われるものであるが、憲法によって自衛隊には「交戦権」がないため、「交戦規則」と言えなかっただけのこと。
 アメリカ軍の部隊編成において、実は「在日米軍」とは、「日本の領土・領空・領海に存在する」米軍をいう。したがって、日本の領域から離脱すると、その米軍は「在日米軍」ではなくなる。
 現在、横田基地には、アメリカ第5空軍司令部とともに、在日米軍全体を統括する日米軍司令部が置かれている。この2つの司令部の司令官は実は同一人物が兼務している。1人の空軍中将が「2つの帽子」をかぶっている。
 昨年6月に急逝してしまった著者の貴重な論稿を集めた本です。
(2008年3月刊。2700円+税)

よみがえれ少年院の少女たち

カテゴリー:司法

著者:中森孜郎、名執雅子、出版社:かもがわ出版
 この本を読むと素直な気持ちになって、すごく感動しました。少年院で、こんな素晴らしい人間教育が何十年にもわたって営々となされていることを知り、その地道な粘り強い努力に対して心から敬意を表したいと思います。人事院総裁章を受けたということですが、このような地道な取り組みは、もっと世の中に知られていいと思いました。知らなかったのは恐らく私だけではないと思いますので、ここで声を大にして紹介したいと思います。
 仙台市にある青葉女子学園では、24年間にわたって表現教育が続いている。朝日新聞の天声人語でも取り上げた(2007年1月6日)。
 女子少年院は、全国に9ヶ所ある。その一つである青葉女子学園では、毎年春になると、創作オペレッタの準備に取りかかる。これは、すべて手作りの音楽劇である。まず、教官が漢字1字のテーマを与える。2006年は「今」だった。これをもとに、20人の少女たちが手分けして脚本や歌をつくる。すごいですね、自分たちでイメージをふくらませていって、すべて手づくりです。
 少年院に収容された少年は、その多くが幼いころから家庭内や親子の間に葛藤があるなかで育ち、学校では学習につまづき、いじめや不登校の問題にさらされ、非行に至る。ようやく見つけた不良仲間との居場所も決して安定できる場所ではなく、人に対する信頼も、自分に対するプラスの評価もないまま、絶望的な気持ちで少年院に強制的に収容されてくる。とくに少女の場合は、性的な被害体験など、女子特有の傷つき方をしていて、心身ともに疲弊して入院してくることも多い。ちなみに、少年院に送られる割合は家庭裁判所の扱う少年保護事件のうち3%程度。
 少年院に来た少女たちに共通する3つの問題点は、第1に嫌なことでも我慢してやりとげることが苦手なこと(自己統制力の未熟さ)、第2にルールを守って生活したり、集団の中で自分の役割を責任もって果たすという姿勢に乏しい(規範意識の欠如)、第3に親や周囲から愛情を受けてきた実感に乏しく、人一倍受け入れてほしい、認めてほしいという気持ちが強い(愛情欲求不満の高さ)。
 このような少女たちが大人へ示す反応・行動は、何を訊いても「分からない」「別に」などの「拒否」、どんなことにもへ理屈や難くせをつけて受け入れない「反発」、受け入れてもらうための作り笑顔や必死の「迎合」、ときには自分に好意的に接してくれる大人を試すための「裏切り」。
 うむむ、なるほど、なーるほど、これってなかなか扱いが難しいですよね。
 問題は、そこで、どうするか、です。青葉女子学園では、創作オペレッタに取り組んでいます。このオペレッタは、題材自体を少女たちが創作するという特徴があります。そして、それに少年院の全員が何らかの形で関わるのです。テーマは、漢字一文字で指導者が設定します。
 翼、道、時、光、樹、河、風、旅、響、星、窓、緑、灯、橋、鏡、手、空、輝、今、声。これが今までのテーマです。うーん、な、なーるほど。
 脚本は、全部、手書き。あえてパソコンはつかわない。これは、自分たちでつくった作品であることを実感させるため。歌も少女たちが作詞・作曲する。これまでに20回で277曲の歌がつくられた。
 ひゃあ、すごい、すごーい、ですね。
 上演時間は40〜50分間。配役も背景(舞台)づくりも、みな少女たちがする。
 このほか、青葉女子学園では身体をほぐす体操、和太鼓、詩の朗読などにも取り組んでいます。「春を呼ぶ太鼓と朗読の会」を毎年3月、家族にも来てもらって開いています。
 青葉女子学園を退院した少女が出院したあと5年内に再び犯罪・非行をして収容された率は4.5%だそうです。すごいことです。大変な苦労が学園の内外にあると思いますが、ぜひ今後とも続けてほしいと思います。
 この本を、少年付添事件を担当する弁護士すべてに読んでほしいと思いました。
(2008年3月刊。2200円+税)

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