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チャップリンを観る

カテゴリー:社会

著者:吉村英夫、出版社:草の根出版会
 読んでいるあいだにも、読み終わってからも幸せな気分に浸ることのできる本です。だって、あのチャップリンの映画をみたときの感動がまざまざとよみがえってくるのですよ。私は、この本を読んで、またまたチャップリンの映画をみたくなりました。何度みても、いいものはいいのです。とりわけチャップリンの映画って、見飽きることがありません。
 『キッド』『街の灯』『ライムライト』こう並んだら、どれもこれも、すぐにまたみてみたいものばかりです。
 私の尊敬する故諫山博弁護士は、現役を引退したあと、DVD三昧の日々を過ごしておられました。私も、ぜひそれにあやかりたいと思いますが、そのなかでも、チャップリンの映画は絶対に欠かせません。
 私は30年近くも市民向けの法律講座を毎年開いてきましたが、はじめのころ、チャップリンの短編映画を客寄せパンダがわりに上映していました。短編映画をみてもチャップリンの笑わせ方は天才的だと思います。
 でも、これらの長編映画は、レベルがまったく違います。比較になりません。言葉でいいようがないほどです。そして、この本は、そんなチャップリンの映画を今どきの大学生に授業としてみせたときの反応が紹介されているのですから、面白さが2倍にもなります。チャップリンの映画を大学の授業でみせられるなんて、そんな学生は幸せですよね。
 私も大学生のとき、『男はつらいよ』第1作を大学の教室でみました。学園祭(五月祭)のときのことです。窓ぎわまで学生がすずなりになった教室で、みんなで大笑いしながらみたことを覚えています。ですから、チャップリンの映画だったら、拍手してほしいところなんですが、授業だというので、誰も拍手しなかったそうです。残念です。やっぱり、思ったことは少しでも行動にあらわすべきなんですよね。
 学生の反応のなかには否定的なものや消極的なものもあります。やはり、そこが個性なんでしょうね。私だったら、特AとかスーパーAという評価を与える映画であっても、CとかDをつける学生もいますから、やはり世の中はさまざまです。
 『キッド』も『街の灯』も泣かせますよね。もちろん、私も泣きました。すごいですよね。これも、チャップリンの不幸な生い立ちと無縁ではありません。
 1889年4月16日生まれ。イギリスはロンドンの貧しい労働者街で生まれました。両親はミュージックホールに勤めていた芸人です。ヒトラーの生まれはチャップリンとほんと同じで、わずか4日後の4月20日生まれでした。
 夫と離婚したチャップリンの母は必死に子育てしながらも、ついに精神病院に入った。母34歳、チャップリン12歳のときのことである。チャップリンは、母が亡くなるまで愛し、感謝の気持ちをもって母に接した。
 チャップリンは、左利きのバイオリン演奏などもできる器用な人物だった。作曲もできた。チャップリンの映画は、ほとんどチャップリンが作曲している。
 『モダン・タイムス』のラストシーンにミスがあるかどうかが問題になっています。ラストに2人が夜明けの道を朝日に向かって歩いていくと、はじめのうち著者は解説していました。しかし、現地まで出かけて実見してみた人によると、これは、夕陽になってもまだたどり着かずに歩いている2人を示しているのだというのです。希望への道のりはとてつもなく長く厳しいというわけです。
 いやあ、これには、さすがの私もまいりました。映画のロケ地まで実際に行ってみて(今も、ほとんど変わらずに残っているそうです)、その時間差を考えたというのです。世の中、さすがに偉い人はいるものです。
 チャップリンは、日本にも4回来ているそうです。その秘書は日本人で、高野(こうの)虎市という人だということは知っていました。5.15事件と同じときに、チャップリン暗殺計画まであったそうです。
 アメリカ政府はヒトラー・ドイツとたたかうチャップリンを「アカ」だと決めつけ、事実上、アメリカから追放してしまったのでした。そんな馬鹿げたアメリカも、あとになって反省し、1972年にアカデミー特別名誉賞をチャップリンに授与しています。
 さあ、みんなでチャップリンの映画をみましょうね。三重大学と愛媛淑徳大学の映画サークルのみなさん、これからも元気にがんばってください。
 炎暑の夏日が続いていますが、サボテンがまたまた純白の花を咲かせてくれました。速く手入れしてやって、サボテンの子どもたちをきちんと地面におろして植えてやるべきなのですが、ともかく、この暑さでは手入れする気にもなれません。サボテンには申し訳ないのですが・・・。
(2008年1月刊。2200円+税)

死刑

カテゴリー:司法

著者:森 達也、出版社:朝日出版社
 死刑判決が急増している。2006年の1年間に出た死刑判決は、44件。地裁13人、高裁15人、最高裁16人。1980年以降、もっとも多い。地裁での死刑判決は3倍にも増加している。
 アメリカでは死刑の執行は、通常、金曜日の午前2時。その週の火曜日に死刑囚は執行室隣の監房に移される。区画内は自由に出入りできるし、外部への電話も自由。処刑の日時は死刑囚の家族にも連絡され、最後の面会がある。
 処刑の立会人は16人。公的立会人4人に加え、被害者遺族や死刑囚の親族の立会も可能。メディア関係者5人の枠もある。
 日本では死刑存置の声が急増している。死刑廃止6%に比べて、81%。「どんな場合でも死刑廃止という意見に賛成か!」と問われると、賛成は16%弱で、反対は66%強である。日本は少し異常としか言いようがない。
 すでに世界では死刑廃止が大勢である。死刑廃止国133ヶ国に対して死刑を実施する国は半数以下の64ヶ国。アジアと中東とアフリカの一部でしかない。ヨーロッパはみな死刑を廃止した。EU加盟の前提になっている。
 カナダでは1975年に死刑を廃止してから、殺人事件が大幅に減少したというデータを政府が発表した。私も、この説です。死刑がなくなれば、かえって治安は良くなるのです。死刑を存続させているアメリカなんて治安が悪化する一方なのです。
 死刑になりたいから人を殺す。犯罪大国でもあるアメリカでは、そんな実例がいくつもある。そうなんです。先日の秋葉原の連続殺傷事件もそうだったと思います。
 私は誰がなんといっても死刑廃止派です。国家が人間を殺すなんて許されません。もちろん、人が人を殺すのを許すつもりはありません。でも、単純な報復主義がはびこる社会は悪い方向にすすむだけだと確信しています。カナダの実例があるわけです。
 死刑について考えさせてくれるいい本だと思います。
 今の法務大臣は私とまったく同世代です。これまで既に13人の死刑囚を処刑してしまいました。私は、せめて死刑執行を停止して、もっと真剣にそもそも犯罪をなくすにはどうしたらよいのか、報復主義を横行させていいのか、被害感情優先でいいのか、正面から社会全体で議論すべきだと考えています。目には目を、歯には歯を、では決して安心して生活できる社会を築いていけない、これは35年間の弁護士生活を通じた実感です。
(2008年1月刊。1600円+税)

のぼうの城

カテゴリー:日本史(戦国)

著者:和田 竜、出版社:小学館
 非常にユニークな時代小説とオビにかかれています。なるほど、そうでしょうね。戦国時代のお城の攻防戦を描いているのですが、とてもユニークな物語です。そして、それが史実をふまえているというから、余計に面白いわけです。
 ときは戦国時代末期。秀吉の小田原攻めの最中に起きました。信長が本能寺の変で倒れる前、秀吉は毛利軍と戦っている最中でした。そのときとられた作戦は有名な備中高松城の水攻めです。
 秀吉がつくった人工堤は、下底が12間(22メートル)、上底が6間(11メートル)の幅があるという、途方もない分厚さがあるものを、3里半(14キロメートル)という気の遠くなるような長大さをもっていた。
 いやあ、これはすごいですね。北条攻めに動いた秀吉軍は総勢16万騎。そして、石田三成を総大将とする2万の大軍が忍城に向かった。忍城は関東7名城のひとつに数えられていた。忍城にいた成田長親は、周辺の百姓を城に呼びこみ、迎え入れた。
 三成は、籠城は内より崩れることを知っていたので、それを止めなかった。無駄な数の籠城兵は、兵糧を喰い散らす。兵糧が減るにしたがって裏切りの噂が噴出して城内は疑心暗鬼となり、裏切り者とされた者はどんどん粛清されてしまう。やがて籠城方の大将は、この状態では開城やむなし、と城を明け渡す。すなわち、城内に人が多いと、ほころびも増すことになる。
 やがて、忍城には3740人の籠城兵が充満した。ところが、城内には戦闘心旺盛で、士気は衰えなかったのです。
 三成は緒戦で忍城の計略によって負けたので、水攻めに切りかえた。7里(28キロ)の堤をつくることにしたのだ。秀吉の堤の倍である。のべ10万人を5日間、昼夜兼業で働かせる。人夫に対し昼は永楽銭60文、夜は100文。それぞれ米一升をつける。夜だけでも夫婦2人が5日間働くと、家族4人が1年食べられる米が買える。なーるほど。
 三成が人工堤の建設に着手したのは天正18年6月7日。数十万人が人夫として集まった。人工堤は、断面の台形の下底を11間 (20メートル)、上底を4間(7メートル)という厚さとし、高さを5間(9メートル)とした。秀吉のつくった備中高松の人工堤とほぼ同じ大きさ。三成は秀吉をはるかに上まわる長大な人工堤防を短期間のうちに完成させ、あわや忍城は落城寸前。ところが、アリの一穴が始まったのです。
 本を面白さがなくなりますので、これ以上は紹介しませんが、奇策によって忍城は助かってしまうのです。これだけ面白く読ませるのですから、たいしたものです。さすがに大絶賛を浴びた本だけのことはあります。
 三成は意外や意外、敗軍の将となってしまったのでした。
 最後に、「のぼうの城」というのは、「でくのぼう」の「でく」をとった呼び名からきています。「でくのぼう」でありながら、民衆の心をつかんでいた殿様だったというわけです。
(2007年12月刊。1500円+税)

地獄のドバイ

カテゴリー:アフリカ

著者:峯山政宏、出版社:彩図社
 北大理学部を出た日本人の若者が海外で寿司職人となって一旗上げようと、いま世界最先端のドバイで渡って体験した悪夢のお話です。世の中、何ごとも表があれば裏があるというわけですが、このドバイの話は、ちょっといくらなんでもひどすぎる。そう思いました。ドバイは地獄だという英文タイトルのとおりです。大金持ちにとっては天国のような国なのですが・・・。
 ドバイはアラブ首長国連邦(UAE)の一つ。いま大変な建設ラッシュのため、世界のクレーン車の25%が埼玉県ほどの面積しかないドバイに集まっている。ドバイの経済成長率は16%。いくらでも入れ替えのきく外国人労働者は奴隷のように扱われる。出稼ぎ労働者のために職場環境をよくしようという発想はない。高層ビル建築現場に働く外国人労働者の賃金は105ドル。一流ホテルの従業員であっても、月給3万円もあればいいほうだ。
 著者は東京の江戸前寿司職人養成学校に入った。3週間で一人前にするというふれこみだ。受講料はなんと40万円。しかし、ドバイでは寿司職人にはなれませんでした。何のコネも紹介状もなかったからでもあります。やむなく肥料会社に入り、大金持ちの社長邸宅の芝生に水やりをする仕事につきます。水道管のパイプがよく詰まるのです。
 外国人労働者の賃金をケチるから手抜き工事が蔓延し、結果的に水をロスすることになってしまう。そんな皮肉な現実があっても、大金持ちは、何とも思いません。すべてはお金で解決できるからです。
 著者は肥料会社に勤めていた。パスポートもあり、3年間のUAEの居住許可証も労働ビザも持っている。そのうえ、日本に帰ろうとして飛行機も手配していた。にもかかわらず拘置所へ入れられた。ええーっ、なぜ、なぜ・・・?
 勤めていた会社が閉鎖されたら、次の職場に移る前に拘置所に入れられることになっている。そんなバカな・・・!?
 しかし、それがドバイという国の法律。うひょう、し、信じられませんよね、これって。
 拘置所に入れられる。そのときスーツケースに拘置所の係官がわざと番号を間違える。荷物を行方不明にして巻き上げるため。な、なんと、そんなことが堂々とまかり通っているとは・・・。
 そして拘置所内のひどい生活ぶり。読むだけで鼻の曲がりそうな汚濁にみちみちた雑居房に前科もない日本人が一人ほうりこまれるのです。心細いですよね。200畳ほどの部屋に300人をこえる囚人が押しこまれている。囚人には、くの字になって寝るだけのスペースしか与えられていない。新参者は悪習臭を放つトイレの側で寝るしかなかった。そして、1年以上も風呂に入っていない囚人たちの強烈な体臭が押し寄せる。
 幸運にも、わずか4日間で出所できた著者による、この世の地獄ドバイだよりでした。あなたもドバイに行く機会があったら、その前にぜひ読んでみてください。
 私の娘がドバイへ一人旅に出かけ、無事に戻ってきましたが、旅行中にこの本を読みましたので、それなりに心配したことでした。
(2008年5月刊。590円+税)

いつか春が

カテゴリー:司法

著者:副島健一郎、出版社:不知火書房
 佐賀市農協の組合長が背任罪で逮捕され、てっきりいつものような「汚職」事件かと思っていたら、なんと無罪となり、無罪が確定したというのに驚いた記憶があります。この本は、その組合長の実子による無罪判決を得るまでの苦難の日々を再現しています。
 それにしても、取調べにあたった検察官の脅迫と悪口雑言はひど過ぎます。いったい検察庁はどんな内部教育をしているのでしょうか。大いなる疑問を感じてしまいました。「拷問」をするのは警官ばかりではないという典型的見本でもあります。そして、裁判官が、検察官の脅迫言動をきちんと認定して、その検察官が作成した調書を任意性なしとして排除したことを読んで救われた気がしました。これで裁判所が検察官をかばったら、日本の司法は、もうどうしようもないとしか言いようがありません。
 検事は立ったままいきなり右手を頭上に上げた。
 「何をーっ、こん畜生」
 次の瞬間、「ぶち殺すぞおーーー」という怒声とともに、右手の手刀が目の前に振り下ろされた。
 バンッ!
 机が壊れるのでは、と思うほどの大きな音が炸裂した。
 「この野郎、検察をなめるなっ!」
 「お前には第二弾、第三弾があるんだぞ!」
 検事の怒声は止まず、再び手刀が振り下ろされた。バンッ!
 「嘘をつくなー!こん畜生、ぶち殺してやるーっ!」
 ドーン。今度は机がガタンと鳴って大きく動いた。
 検事の怒声は止まず、気が狂ったかのような大声でわめき続けた。
 「法廷には、お前の家族も来るぞ。組合員も来るぞ。裁判官も言われるぞ。検察は闘うぞ。誰がお前の言うことなど信じるか!」
 「この野郎!ぶっ殺すぞー!」
 「なめるな、この野郎!嘘つくな、殺すぞー!」
 「この野郎、顔を上げんか!顔を上げろっ!ぶち殺すぞ!」
 「この野郎、否認するのかっ!こん畜生!」
 バンッ!
 「この野郎っ、署名せんかーっ!署名しろーっ!」
 「こん畜生っ!否認するのか。刑務所にぶち込むぞー!」
 署名したあと、組合長は皮肉のつもりで、「完璧ですね」と言った。
 いやあ、まさかの言葉のオンパレードです。
 ところが、この検事は法廷で次のように述べて、暴言を吐いたことを認めたのです。
 「いや、腹立ったんで、ふざけんなこの野郎、ぶっ殺すぞ、お前、と、こう言ったわけです」
 ええーっ、「ぶっ殺すぞ、お前」と言ったことを検察からの主尋問で早くも認めてしまいました。これにはさすがに驚きます。否認して、ノラリクラリ戦法をとらなかった(とれなかった)わけなのです。
 そして、圧巻なのは、被告人がこの取調べ検事に質問するということで対決した場面です。さすがに迫力がありますよ。当の本人が再現したわけですからね。
 裁判所は、この検事調べのあと、「調書は検察官が威迫して自白を迫ったもので、証拠能力が認められないので、検察官のつくった調書は証拠としてすべて不採用とする」と決定しました。
 この本には、突然、被告人の家族とされて、社会から切り捨てられていく苦悩、被告人の精神的かっとう、そしてマスコミの警察情報たれ流し報道など、さまざまな問題点も紹介されています。惜しむらくは、弁護人の活躍ぶりにも、もう少し焦点をあてていただけたら、同じ弁護士として、うれしいんですが・・・。被告人と家族を支えて立派に弁護活動をやり通した日野・山口両弁護士に敬意を表します。
 夏の朝は目が覚めるのも早くなります。あたりが明るくなると、蝉が鳴き出す前に小鳥たちのさえずりが聞こえてきます。小鳥の名前が分からないのが残念ですが、澄んだ鳴き声が聞こえてくると、心も安まります。午前7時になると、シャンソンが鳴り出します。10分ほどフランス語の聴きとりを兼ねて耳を澄まし、やおら起き上がります。
(2008年6月刊。1785円)

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