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クマに遭ったらどうするか

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 姉崎 等 、 出版 筑摩書房
 このところクマに襲われる人のニュースがひんぱんに聞かれます。いったい、山中でクマにばったり会ってしまったら、どうしたらよいのでしょうか…。
 九州に住む私は、山道を一人歩いても、イノシシ母ちゃんに出会わない限り安全だと思って安心して歩いていますが、本州だと山口を含めてクマに遭遇してしまう危険がありますよね。まず、結論から…。
 背中を見せて走って逃げたらいけない。クマとにらめっこしって、根比べする。じっと立っているだけでもよい。動かないこと。クマと対峙したら、クマの「ワウ、ワウ、ワーッ」という、うなり声に負けないだけの声を出す。そして、低い姿勢を構える。
 子連れグマに出会ったら、子グマを見ないで、親グマだけを見ながら、静かに後ずさりする。クマは最初から人を襲う動物ではない。
 ベルトをヘビのように揺らしたり(クマはヘビを怖がる)、釣り竿をヒューヒュー音を立てたり(クマは奇妙な音を嫌う)、柴を振りまわす。予防のためには、空のペットボトルを歩きながら押してペコペコ鳴らす(奇妙な音をクマは嫌う)。
 クマは動くものには、どうしてもかかるという習性がある。クマは平坦なところでは時速60キロくらいのスピードで走る。人間が木に登っても、クマも木登りはうまいので、すぐに引きずりおろされる。
 クマは人間のほうが強いと思っている。クマは人間は苦手。
 クマは臆病だけど、人が好きで、人間の里の近くで暮らす。
人間を殺して食った経験のあるクマに会ったときは、あきらめるしかない。人間を餌としか見ていないので、手の打ちようがない。いやあ、これって怖いですね。
クマは雑食性。どちらかと言うと肉食ではなく、草食のことが多い。
 著者は、単独でクマ40頭、集団で獲ったのをあわせると60頭のクマを仕留めたという、まさにクマ猟のプロ。母親はアイヌ民族で、アイヌ民族最後の狩人でした。
12歳から77歳まで、65年間、北海道で狩人として生きてきた、著者からの貴重な聞き書きの本です。一読をおすすめします。
(2023年7月刊。840円+税)

二尊院の二十五菩薩來迎図

カテゴリー:日本史(室町)

(霧山昴)
著者 小倉山二尊院 、 出版 図書刊行会
 京都の山城嵯峨、小倉山の麓にある二尊院の「二十五菩薩來迎図」は、室町時代(15世紀の前半から中頃)に描かれたもので、長らく京都国立博物館で保管されてきた。このたび修理が終了して、二尊院本堂の内陣に久しぶりに掛けられることになった。
 いやあ、実に素晴らしい仏様たちです。仏教心の乏しい私にも、これらの17点(17幅)の「来迎図(らいごうず)」には言葉が出ません。
 「来迎図」を黙って拝んでいるだけでは心もとないので、解説文を紹介しながら味わうことにします。
往生するとき、つまり自分が死に臨んだとき、阿弥陀如来や菩薩の姿を頭に焼き付けて、いざ臨終のとき、来迎聖衆が見えて、幸せな気持ちで往生できるようにイメージトレーニングする、そのための来迎図なのだ。
 聖衆が乗っている雲にはスピード感がある。たしかに、現代のマンガと同じように、雲は糸を引いています。往生を願う人にとって、すぐさま迎えに現れるというのは、とてもありがたいことだったことでしょう。
 二尊院の「来迎図」を描いたのは、土佐行広という画家。やまと絵の画派である土佐派の実質な祖。
 修理には3年間をかけ、古くからの積み重ねのある伝統的な手法によって、修理前の古びた趣を保ちつつ、仏画として再び本堂内陣にかけらえることを目ざした。
 この「来迎図」は、京都、嵯峨の地の「酒屋」などの裕福な人達の寄進によって作成された。当時の「酒屋」は、土倉(どそう)という金融業者を兼ねる裕福層だった。
 二尊院の菩薩は、細かいところにこだわりすぎない大らかさや、見る人の気持ちをゆったりさせてくれるような柔らかさを漂わせている。
この世から死者を送り出す「発遣(はっけん)」の釈迦如来と、極楽浄土から迎えに現れる「来迎」の「阿弥陀如来」を並びたてて描いているところに最大の特徴がある。
 太陽と月は、現世の風景。なぜなら、極楽浄土は仏の光明で満たされているから、太陽や月や灯火は不要。阿鼻地獄の炎の世界では、太陽も月も星も見えない。
 修理についても紹介されています。古糊(のり)を使ったというのですが、これは小麦デンプン粉を5年から10年も冷暗所で発酵させたものというのです。息の長い仕事です。そして、接着力が強くなるのかと思うと、まったく逆。きわめて弱いそうです。本紙への影響を小さくするための工夫の一つというのです。
 修理作業が写真とともに詳しく紹介されています。気の遠くなるような手作業がえんえんと続くのです。それにしても、今では「非破壊検査」で、いろんなことが対象物をこわすことなく、かなり知ることができます。そこは現代文明の到達点ですね…。
 たまには仏画を鑑賞して、目と心を洗うのもいいことだと、しみじみ思いました。
(2023年8月刊。税込4180円)

だれも私たちに「失格の烙印」を押すことはできない

カテゴリー:韓国

(霧山昴)
著者 キム・ウォニョン 、 出版 小学館
 著者はソウル大学出身の障がいを持つ弁護士。骨形成不全症のため、1級身体障害者として車イス生活を送っている。小学校は入学を拒否され、中等部では特別支援学校に入り、一般高校からソウル大学に入学。ロースクールを卒業して司法試験に合格した。ソウルで、作家、パフォーマー、弁護士として活動している。
 この本は、2018年に発刊され、韓国ではベストセラーになった。
 著者は15歳のころから今まで、砂の城だった。軽く触れるだけでさらさらと崩れてしまう。品格には最高と最低があるが、尊厳にはそれはない。
 すべての人類のすべての国民が同等の水準で有するのが尊厳だ。「最高の尊厳」という言葉はおかしい。
 著者は長らく基礎生活受給権者(日本の生活保護受給者)として生きてきた。
 障害を受け入れることは、障害を何か価値のある産物だと信じることとは異なる。
自分の人生の著者という概念は、人々がみな固有の物語と観点をもつ存在であり、自分の物語を主体的に紡ぐ存在であることを強調する。
 どんなにポジティブで強い精神を有する人であっても、横断歩道を渡れず、トイレにも行けないとしたら、人生のモチベーションを上げることなど、不可能だ。
 一日中、排尿を我慢しながら希望をもつことはできない。ある人は、あらゆる権利のなかで、「排尿権」こそ人間にとってもっとも重要な権利だと強調している。
 排尿検と同じく「移動権」は、法曹界はもちろん、一般の人々でも使われていなかった言葉だ。なーるほど、言われてみるまで考えたこともありませんでした。
 2005年1月、交通弱者の移動便宜増進法が制定された。障害者運動は社会権と自由権という伝統的な二分法に亀裂を起こさせながら「移動権」を明らかな法的概念として成立させた。
 障害者に便宜を提供する義務をもつということは、障害者に配慮しなければならないという言葉ではない。身体的または精神的な特性を抱え、長い間、自分なりのやり方で生きてきた人生の物語を尊重してほしいという、こうした障害者の要求に向き合うものである。
 人はみな、お互いの人生が尊重に値し、美しいものであることを証明するために努力しなければならない。しかし、努力するうちに、強靭な闘士の姿でなければ、自分ですら自分を愛することができない孤独な姿を発見するかもしれない。それでもかまわない。
 私たちは尊厳があり、美しく、愛し愛される価値がある存在なのである。だれも、私たちに失格の烙印を押すことはできない。
 身体障害者として育ち生きてきた著者ならではの深い洞察にみちみちた本です。それでも、こんな内容の本が韓国でベストセラーになるとは不思議な気がしました。日本では、残念なことに、こんな真面目に考える本が大いに売れるなんて考えられないように思います。いかがでしょうか…。いろいろ深く考えさせられました。
(2022年12月刊。1800円+税)

国債ビジネスと債務大国日本の危機

カテゴリー:経済

(霧山昴)
著者 山田 博文 、 出版 新日本出版社
 現在、国債などの政府債務残高は1441兆円(2023年度末)で、GDPの2.6倍。これは主要国で最悪の水準。政府債務が対GDP比で2倍をこえる水準というのは、第二次世界大戦の敗戦時と同じ水準。
 戦後の日本では軍事国債の増発はなかったのに、今や戦後70数年間に累積した国債などの政府債務残高は、第二次世界大戦に日本が参戦したときと同じ水準に達している。
 国債発行によって実現したのが大型公共事業であり、これによって巨大企業は蓄財できた。そして、国債ビジネスで蓄財した民間金融機関は莫大な利益をあげている。国債は、潤沢な資金を運用し、利益を追求する大資本にとって、安心して投資できる第1級の金融商品である。
 たとえば、みずほ銀行は、4451億円の業務純益を計上したとき、その内訳として際立つのは、5倍にもなった500億円という国債売却・償還益。
 大手銀行は、中小企業に対する貸出を激減させる一方で、マナーゲームを展開して投機的な経営に精を出している。
 国債を売ってひともうけするという「国債バブル」が生まれた。
 大口取引に適合する国債市場は、株式市場の売買高を1桁ほど上回る1京円(1兆円ではありません)という巨大市場となっている。
 国債は、政府が利子の支払いと元本の償還を保証しているので、投資家にとっては、株式などよりも安心して投資できる、信用力の高い投資物件だ。
 3メガバンク(三菱・三井・みずほ)にとって、国債売買差益は数千億円にもなる。株高の恩恵を最大限に享受したのは海外の投資家と大企業。
その一方で、貯蓄ゼロ世帯の割合は3割を超えている。
日銀(日本銀行)の国債保有高は580兆円、日銀券発高121兆円の4.7倍になっている。日銀の総資産は733兆円にまでふくれあがった。
 大手金融機関20社は、日銀を相手にした国債取引によって、今日までに10兆円前後に達する隠れた補助金を日銀から受け取っている。
 日本には貯蓄ゼロ世帯が3割もいる一方で、5億円以上の純金資産をもつ超富裕層が9万世帯、1億円以上だと140万世帯もいる。タワーマンションが続々建って、すぐ売れるわけなんですよね…。
 そして、大企業の内部留保は511兆円。投資家は、国内の株式配当金で毎年30兆円、海外投資から20兆円もの利子・配当金を受けとっている。
 今や、日本の最大の貿易相手国はアメリカ(14%)ではなく中国(25%)である。
 日本の国債ビジネスの実態と問題点などを分かりやすく解説している本です。一読して経済的認識を深めることができました。ご一読を強くおすすめします。
(2023年11月刊。2100円+税)

プーチン(下)

カテゴリー:ロシア

(霧山昴)
著者 フィリップ・ショート 、 出版 白水社
 ロシア経済は原油価格の上昇とルーブル切り下げ(1998年)のおかげで改善した。ルーブル切り下げで、ロシアの製造業者の競争率が上がった。
 プーチンは、赤ん坊のとき、母親が共産党員の父親には内緒で洗礼を受けさせた。これはスターリン政権下ではよくあることだった。ソ連は公式には無神論だったが、母親は、しばしば赤ん坊をこっそりロシア神父のもとに連れて行った。
 プーチンによれば、ソ連の誤りは、アフガニスタンに親ソ政権をつくりあげたこと。アフガニスタンはできるような国ではない。アメリカは同じ間違いを繰り返してはいけない。親米政権をつくっても、平和はもたらせない。
 たしかに、アフガニスタンは今やタリバン政権なんですよね…。アメリカがつぎ込んだ莫大なお金はいったいどこに消えてしまったのでしょうか。アメリカだけでなく、日本も相当の税金をつぎ込みました…。今は亡き中村哲医師のような人道支援こそ、日本のやるべきことだと私は確信しています。
 モスクワは、イラクのフセイン政権について、CIAよりはるかに優れた諜報を得ていた。フセイン政権は核兵器など持っていない。それを入手するつてもないのをプーチンは知っていた。また、イラクがアルカイダと何のつながりもないことも知っていた。
 プーチンは、自分の過ちを、そう簡単に水に流せる人物ではない。これって、かのスターリンにそっくりですよね。スターリンは、自分を批判した人間がいたら、いつか必ずうらみを晴らそうと、しつこく覚えていたのでした。
 プーチンとブッシュ大統領は、本当にウマがあったようだ。「とても信頼できるパートナーで、まともな人間」と評した。オバマもメルケルも、プーチンは嫌っていたそうです。
 プーチンはイデオロギーが嫌いだ。プーチンは実務家なのだ。プーチンにとって、スターリンの専制主義は、ロシアの経済近代化に必要な条件をつくり出したものとされた。
 スターリンは、確かに圧制者で、多くの人は犯罪者とも呼ぶが、ナチではなかった。プーチンは、こう言ってスターリンを擁護する。似たところがあるということなんでしょうね。
 ロシアは、いまだに超官僚化された経済をもち、役人たちがすべてを決める権利を私物化する、超官僚化された国家をもっている。公共部門の雇用は減るどころか、300万人も増え、労働力の4割を占めるようになった。官僚制と汚職との有害な組み合わせは、ロシア経済が潜在力を完全に発揮できない大きな理由。
 プーチンは、朝9時にクレムリンに出勤。会議は午前10時に始まる。テレビのニュース報道はなるべく見る。出退勤の車の中で、ビデオ録画でみる。
 仕事の日は、夜10時か11時に終わるが、ときに午前1時まで続く。
 プーチンは反発する人間を歓迎する。独自の意見を提供できない人間にはすぐ興味を失う。
 プーチンは型にはまらない思考のできる人間だ。
 プーチンは、概要資料を完璧に頭に入れられる。プーチンの記憶力は非凡だ。
 当局は、プーチンの内輪メンバーの運営する企業にもうかる契約を支えて、彼らが国家を犠牲にして不当な利益を得られるようにした。
 プーチン個人は蓄財の必要はない。プーチンの未来を保証するのは、お金ではなく、プーチンの後任による保護だ。
 大統領に就任してからプーチンの暗殺計画は5つあった。
 ロシアの若者の死亡率は高い。アルコール依存、ドラッグ濫用、事故とひどい保険制度のためだ。
 プーチンの政府は、ウクライナに侵攻すると、はじめの10日以内にキーウが陥落し、ゼレンスキー政府が逃亡すると予想していた。そして、親ロシア高官のネットワークによってウクライナに新政権ができるはずだった。ただし、この点はロシアと同じくアメリカも同じことを予想していた。ウクライナの汚職は今もひどいようですが、ロシアへの反攻を支える軍の志気は予想以上に高いということなんでしょう。
 プーチンの計画の大穴は、ロシア軍のプーチンの設定した任務を達成できないこと。アフガニスタンに侵攻したときと同様に、ロシアは目標達成には不十分な規模の軍隊しか集めることができなかった。
 プーチンとロシアの現状を深く知ることのできる本です。
(2023年6月刊。4500円+税)

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