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「生きづらさ」の臨界

カテゴリー:社会

著者 湯浅 誠、河添 誠、 出版 旬報社
 現代日本において、若者は自らの労働によって生活を成り立たせることが困難になっている。それは賃金水準が低いこともあるが、同時に、その労働環境があまりに劣悪で、それによって生活そのものが暴力的に破壊されているからである。
 貧困に陥った人は、自分自身で新しい仕事に対応する自信が持てないため、せっかく探した仕事も数日で自分から辞めてしまうことがある。これを「意欲の貧困」という。貧困のなかで、意欲までも奪われている。なるほど、そういうことなんですね。貧困というのを単に現象面のみでとらえるのではなく、人間の内面にまで踏み込んで考える視点が必要なようです。
 「不器用」というのは、具体的には、人間関係の作り方が極端に下手な人というイメージである。家族の基礎体力を、まずは高めるところからやらないといけない。家庭の基礎的な所得とか生活条件の整備が必要である。
 貧困な状態とは、生きる上での生活資源(溜め)が減少している状態である。「不器用さ」は、貧困のなかで階層的に生産されていく。非正規雇用が拡大して階層化が進めば進むほど、階層の固定化、貧困の再生産の程度が強まっていく。
 新自由主義は、あらゆるもの、市場外だったはずの領域まで市場化していく運動である。ふむふむ、鋭い指摘ですよね、これって……。
 1960年代半ばまで、生活保護を受けている人の4割は、働ける年齢の人たちだった。ところが、今は、働ける人が生活保護なんて論外だと、突っぱねられる。
人々は、どうしても貧困問題に関して「この人は救済に値するかどうか」を問題にしてしまう。それに値する人だけが救済されるべきだという発想は恩恵の論理であって、人権ではない。24時間がんばり続ける者だけが「救済に値する」という枠組みは突破される必要がある。そうでないと、そんなに「立派じゃない」貧困当事者は声を上げられないままになってしまう。ううむ、この点は、私にとっても痛い指摘でしたね。誰だって楽したいとか怠け心は持っているわけで、ありのままの状態においてその人の持つ固有の権利として保護されるべきだというわけです。
 正規になりたくない非正規の人は相当数いる。それは、正規がひどいから。生活保護を受けていない人たちの状況は、就業していても、高いストレス、長時間労働で、ぎりぎりのところで暮らしている。就業していたとしても、こうした非人間的な労働条件が標準化されている。
 もはや、雇用と生活の安定が多くの人にとって必然的な結びつきをもたなくなった。働いていれば食べていけるというのは神話になった。
企業は利潤を追求する目的集団であり、その目的に人々の生活の安定は入っていない。働いていれば食べていける状態の創造は、企業の目的外行為であり、目的外行為を行わせるためには、社会の規制力が働かなければならない。
 今や、現代日本で働くことの意義が問い直されていることがよく分かる本でもありました。
(2009年1月刊。1500円+税)

CIA秘録(上)

カテゴリー:アメリカ

著者 ティム・ワイナー、 出版 文芸春秋
 CIAのおぞましい歴史が次々に明らかにされています。腐臭プンプンで、読み続けるのが厭になってしまいますが、目をそらすわけにはいかないと思い、読みすすめました。
 CIAの秘密工作は、おおむね闇夜に鉄砲を撃つようなものだった。CIAは海外での失敗を隠し、アイゼンハワー大統領にもケネディ大統領にも嘘をついた。ワシントンでの自分たちの立場を守るためだ。CIAは、大統領が聞きたくないことを取り入れることが危険であることを学んでいた。
 CIAはソ連の内実を知るスパイを一人としてリクルートできたことはなかった。スパイはいたが、いずれも先方からの自発的協力者であり、CIAが獲得したわけではない。そして、これらのスパイは、みな死んだり、ソ連によって処刑された。そのほとんどは、アメリカにいるCIAのソ連部門の職員に裏切られたためだ。
CIAは、イラクに大量破壊兵器があるという間違った報告をホワイトハウスに送った。ほんのわずかな情報をもとにして大量の報告をでっちあげた。
CIAは日本の右翼そして自民党を育成するため大金をつぎ込んだ。
 児玉誉士夫についてのCIAの報告は次のとおり。
 児玉は職業的な嘘つきで、暴力団、ペテン師で、根っからの泥棒。児玉は諜報活動のまったくできない男で、金儲け以外のことには関心がない。
 CIAは、そんな男と長く密接な関係を持っていたのでした。
 CIAと自民党とのあいだでは情報とお金が交換されていた。自民党を支援し、内部の情報提供者を雇うため、お金が使われた。将来性のある若手政治家にお金をつぎこみ、力を合わせて自民党を強化し、社会党や労働組合を転覆しようとした。
 自民党にお金を渡すのは、高級ホテルで手渡すというやり方ではなく、信用できるアメリカのビジネスマンを仲介役に使って協力相手の利益になるような形でお金を届けた。
 岸信介は、CIAと二人三脚で日米安全保障条約をつくりあげていった。
 CIAの役割を知らない日本の政治家は、アメリカの巨大企業から提供されたお金だと伝えられた。自民党へは、4代15年間、CIAからお金が流れ、自民党の一党支配を強化するのに役立てられた。1960年には7万5000ドル、1964年には45万ドルがCIAから自民党に提供されている。
 むひょーっ、自民党はCIAのお金で育成されてきた政党なんですね。こんな政党が日本人に愛国心を持てと説教をしているのですから、世の中の倫理が間違ってしまうのも当然です。それにしても情けない話ではありませんか。自民党の側から反論も弁明も何もなされていないことにも腹ただしい限りです。黙殺してしまおうということなのでしょうか……。
 ケネディ兄弟(大統領と司法長官)は、キューバのカストロ首相(当時)の暗殺にゴーサインを出し、その実行に執念を燃やしていたことが明らかにされています。ケネディ暗殺は、その仕返しだったと言わんばかりの記述がなされています。これは、本当でしょうか。
 CIAがその名前から想像されるほど、インテリジェンスに富んだ集団でないことがよくよくわかる本でした。
(2008年11月刊。1857円+税)

裁判員制度と国民

カテゴリー:司法

著者 土屋 美明、 出版 花伝社
 G8(先進国首脳会議)の参加国のうち、国民参加の刑事裁判が行われていないのは日本だけ。世界195ヶ国のうち、80ヶ国で国民が刑事裁判に参加する手続をとっている。おとなりの韓国も陪審員に評決権のない「国民参与裁判」の試行をはじめ、中国でも人民陪審員制度を実施している。
 ところで、アメリカで陪審裁判は、刑事事件全体の5%程度でしかない。
 ドイツの刑事裁判は、捜査段階で警察官がつくった調書はそのままでは証拠にならず、公判での警察官らの証言と証拠物のみにもとづいて審理される。
 フランスの陪審法廷では、判決の言い渡しが夜10時というのは普通で、難しい事件は日付の変わった午前1時ころになることもある。重罪院の判決に対して不服があるときには、他の重罪院に対して控訴できる。そして、このときには参審員を3人増やして12人とし、裁判官3人をあわせて15人で審理する。いやあ、これって大変なことですよね。深夜に帰宅する人はちょっと怖いでしょうね。
 日本の司法に国民が参加することは、司法の姿を決定的に変える。裁判員制度は単に国民が難しい刑事裁判が引っ張り出されるだけの新しい制度というものではない。何世代にもわたる長い時間をかけて、参加が徐々に広がっていけば、日本の社会を根っこから変革していく可能性をもっている。
私も、この指摘にまったく同感です。国民が主人公なのです。それを実感する人が増えたら、この日本ももう少しまともな国になるような気がします。
 重大な刑事事件の裁判は、もともと気持ちの負担の重いものであり、それを国民があえて引き受けてこそ、この制度を行う意味がある。好んで出てくる人だけを集めていては、裁判員制度が広く国民の信頼を得られるようにはならない。簡単に逃げ道を作るようでは、制度そのものが基盤を失い、破綻しかねない。
 今の刑事裁判を批判するのなら、裁判員制度をテコとして批判を少しでも変えていくべきではないのか。そのとおりです。裁判員ぶっつぶせと叫んでいる人には、ぜひ考え直してほしいと思います。
 著者は、裁判員候補者と呼ばれた市民を、選ばれなかったときに、そのまま帰すのではなく、刑務所を案内したり、司法の実情について十分に知ってもらうチャンスとして生かすべきではないかという提案をしています。これまたまったく同感です。国民のなかに死刑賛成の声が高まっているとき、死刑執行はどのようになされているのか、その執行に関わっている人たちはどんな気持ちなのか、多くの市民に知ってもらうことには大きな意味があると思います。また、刑務所の処遇の実情(独居房の様子や労働状況など)も知ってもらったら、「懲役1年」の意味が実感できると思います。
 戦前の陪審制度だけでなく、裁判員制度も失敗するような事態になったら、日本の国民は、そもそも司法への参加になじまない国民性だという批判を裏付けることになるだろう。国民参加は、二度と主張できなくなるに違いない。
 著者のこの不幸な予測が当たらないことを私も願っています。著者は、共同通信社の論説委員をつとめ、裁判員裁判の制度設計に関わったジャーナリストですが、その冷静な論述はかえって溢れる熱意を感じさせるものがあります。私も、5月から始まる裁判員制度は必ず成功させたいと考えていますし、その弁護人をやってみたい気持ちでいっぱいです。弁論で、市民を説得してみたいと思います。
 いま、梅の花がいたるところに咲き誇っています。日曜日に、梅の木の徒長枝を切ってやりました。我が家の梅は少し形が悪いので、形を整えようと思ったのです。紅梅の枝を切って断面を見たら、枝自体が紅く驚きました。白梅のほうとは全然ちがいます。白梅の方は白いというより、普通の木の色なのです。
(2009年1月刊。2500円+税)

昆虫の知恵

カテゴリー:生物

著者 普後 一、 出版 東京農工大学出版会
 いやはや、昆虫って、すごいですね。昆虫に学べ、とは、よく言ったものです。そのとおりですね。
 ヒトの皮膚にとまった蚊は、皮膚の下にある毛細血管を探り当てるために、足の裏にある感覚器官から超音波を発信し、その反響を利用して血管の位置を感知する。
 うへーっ、まるで腹部エコー検査みたいですね。
蚊が吸血するとき、体重の2倍ほどのヒトの血液を一気に吸って消火器に流し込む。一度に腹いっぱい吸血するため、異なったヒトの血液型が混じり合うことはない。そして消化酵素ですぐに消化吸収されるため、血液が凝固することはない。ふむふむ、なるほど。
 蚊のもつ抗血液凝固物質は、酵素反応の最終段階をストップさせる。このプロリキシンSという物質は、血液を凝固させないほか、血管の平滑筋を弛緩させる作用を持っている。蚊は、吸血するとき、ヒトの皮膚感覚を麻痺させるために唾液を注入し、ヒトに気づかれないようにしている。蚊の唾液がアレルギー反応を引き起こし、かゆみの原因となる。ただし、本来、蚊の唾液は吸血終了とともに蚊の体内に戻る。そのため、かゆみも止まる。ところが、吸血が中断されると、蚊の唾液がヒトの体内に残されるので、ヒトはかゆみを感じる。
 つまり、蚊の気が済むまで血を吸わせたら、かゆみはほとんど感じないわけである。
 うひょう、な、なーんと、蚊を叩き潰すことによってかゆみを感じるというわけです。でも、蚊って見つけたらすぐに叩き潰してしまいたいですよね。
 ちなみに、蚊は一般には花の蜜や果物の汁、樹液などを吸っているが、交尾したメスの蚊だけが卵のためにヒトの血を吸う。蚊のオスは人間の敵ではないということなんですね。
 生ゴミを処理するのに、アメリカミズアブを使うといいそうです。初めて知りました。50センチ角の箱にアメリカミズアブを100頭入れて高温にしておくと、有機廃棄物が効率よく分解処理される。ふーん、そうなんですか……。いま、我が家はEMボカシで生ゴミを処理していますが、これより、もっと簡単で効率が良さそうです。
 モンシロチョウからピエリシンという物質がとれ、抗がん作用に役立つという話も初めて知りました。昆虫って、偉大なる遺伝子資源なのですね。絶滅させたら、人類にとって巨大の損失です。ミズスマシやセミの抜け殻が糖尿病に良いなんて、本当でしょうか。
 傷口にウジ(ハエの幼虫)を這わせておくと、早くよくなるという話にも驚きました。戦場での実際の体験的知見による発見だそうです。
 ウジは、自分の持つタンパク質分解酵素を分泌して壊死状態の組織を溶かし、それを吸い上げることによって壊死組織を除去する。このタンパク質分解酵素は、健全な組織を融解することはないので、壊死組織だけが選択的に取り除かれる。そして、この物質はMRSAなどの薬剤耐性菌をふくむ病原菌に対する殺菌作用ももっている。ただし、ウジを使った治療法には健康保険が適用されない。見かけによらず、ウジも人間に役立つということなんですね。
 将来の宇宙食として有望なのは、昆虫(カイコガ)である。カイコガの蛹は、栄養的に非常に優れ、絹は用途が広く、微粉末にして食材にもできる。カイコガをキャットフードに25%混ぜると、猫は喜んで食べるそうです。
 バッタが幼虫時代に劣悪な環境で育つと、身体が褐色となり凶暴化して、大害虫と化す。これまた人間に似た話ですね。
 うひゃあ、すごいすごい。昆虫ってバカにできませんね。人間は昆虫に大いに学ぶべきです。
 先週末、春一番の突風が吹き荒れました。まともに傘をさして歩けず、電車も乱れていました。でも、風が温かいのです。ああ、春一番だとすぐに思いました。隣家の庭に今年も黄水仙が列をなして咲いています。輝くばかりの黄金色です。そして、近所にはしだれ紅梅も咲き誇り、春到来を感じさせます。
(2008年5月刊。1400円+税)

警視庁捜査二課

カテゴリー:警察

著者 萩生田 勝、 出版社 講談社
 まずは業界用語を紹介します。
 起番は、おきばん。宿直のとき、詰めていること。
 猛者は、もさ。スリ係。
 本庁は、警察庁のこと。
 本部は、桜田門にある警視庁のこと。
 司法関係の機関のうち、もっとも低能力な集団は警察である。なかでも、特筆すべき超低能力集団が刑事だ。この記述は、多分に反語的なものであり、だけど集団の力はすごいものがあることが何度となく語られています。
刑事の楽しみであり、美学は、現場で一瞬にして判断すること。ところが、いま、現場に行きたがらない刑事が増えている。若手が現場に出ない。経験豊富なベテランがいなくなる。この二つだけでも警察の捜査能力の低下が心配だ。
 刑事課のなかでは、隣の係は完全に敵だ。ライバル同士なんていう甘い関係ではない。捜査員同士の競争意識は、ケタ違いの熾烈なものだ。
 大企業のトップや高級官僚にいる人間は、地位やプライドが邪魔をして容易には落ちない。落ちるのは、ホネと取調官の人間としての次元がピタリと合ったとき。
 特捜部と違う捜査二課の強みは、人海作戦にある。ただし、そのとき、小さな集団の結束がもっとも大切だ。ただし、そのとき粘りと、証拠品を飽きるほど見つめる態度が不可欠だ。それは、そうなんでしょうね。
 取り調べで大切なのは、調べにあたる刑事それぞれの人格だ。人生そのものの経験が求められる。人生経験の不足を助けてくれるものとして、読書がある。本を読んでも人格形成はできる。まったくそのとおりです。
 警察署の内部にも、収賄のおこぼれにあずかりながら、いけしゃあしゃあと生き残っている幹部が実はかなりいる。いやはや、これは困ったことです。
 警察署内部のことがかなり赤裸々に語られていて、面白く読めました。
(2008年12月刊。1600円+税)

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