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ウルフィーからの手紙

カテゴリー:アメリカ

著者 パティ・シャーロック、 出版 評論社
 ベトナム戦争をテーマとする本は、いつだって私の関心を強く惹きつけます。この本は、今から40年前、ベトナム戦争をたたかっていたアメリカに住む少年が、お国のために愛犬を送り出したという想定の小説です。ストーリーがとてもよく出来ていて、ぐいぐいひっぱられるような感じで、一心不乱に読みすすめました。
 ただ、これも犬好きの人でないと、もうひとつよく分からない心理かもしれません。たかが犬の話じゃないか、と思う人には、絶対おすすめしません。たかが犬、されど犬、なのです。犬は長く人間と一緒に生活してきたため、人間の感情をよく理解し、それにあった行動をとります。落ち込んでいる人間を見ると慰め、励ますのです。この本に出てくる犬が、まさに、そんな犬でした。
 マーク少年は、きっとお国のために役立つだろうと思って、ベトナムの戦場へ愛犬を送り出しました。ところが、軍隊では、犬は単なる道具でしかありません。しかも、いったん戦場に入ったら、人間と違って死ぬまで戦場から抜け出すことはできないのです。
 だって、敵と見たら、殺せという訓練を受け、それを実行していた犬が、平和な本国に戻ってきて、淡々とした日常生活を送れるという保証はあるでしょうか。「敵」だと見誤って善良な市民を殺してしまう危険だってあります。もっとも、人間もそうだということは今日では明らかです。つい先日亡くなった元アメリカ海兵隊員のネルソン氏の本を読むと、フツーの人が人間を殺すことがいかに大変なことか、よく分かります。
 ベトナム戦争に従軍した軍用犬は4000頭。そのうち500頭が作戦行動中に殺され、500頭が病気で死んだ。200頭だけはベトナムの外に出ることができたが、1頭もふつうの生活に戻ることはできなかった。安楽死させられたのだ。
 アメリカ軍はベトナムに贈られた軍用犬を「装備」に分類した。ベトナムで軍用犬は、1万人もの兵士の命を救った。軍用犬はパトロール部隊の先頭を歩き、隠された危険を探し出すという危険な任務に従事した。市民が愛犬を軍に提供したら、アメリカ陸軍の所有物となり、市民に戻されることはない。
 そのことを知ったマーク少年は、愛犬を軍隊に送ったことを後悔します。そして、軍隊から取り戻す運動に取り組むようになりました。父親はいい顔をしませんが、母親は援助してくれます。
 マーク少年は要求実現のためにデモを企画します。そこには、ベトナムで勇敢に戦って勲章をもらいながらもベトナムでの戦争は直ちに止めるべきだと叫ぶ反戦兵士たちも多数加わってきます。マーク少年は迷いながらも、自分のやってきたことを続けます。
 マーク少年が愛犬に手紙を出すと、訓練係そして世話係の兵士から、愛犬の名前で手紙が返ってくるようになりました。ベトナム戦争における生々しい戦場からの返信です。
 マーク少年の兄もベトナム戦争に駆り出されていて、あるときの戦闘行為によって大怪我をして本国送還となりました。足を切断して車椅子生活を余儀なくされたのでした。弟であるマーク少年に対しても、戦場での出来事はよく語ってくれません。
 そして、世話係の兵士から、愛犬が戦場でアメリカ兵をかばって敵の銃弾を受けて死んだとの手紙が届いたのです。ああ、なんということでしょうか。マーク少年たちのデモ行進がマスコミの注目を集め、国会議員も動き出そうとした矢先のことでした。
 身障者となってしまったマーク少年の兄は、「反戦帰還兵の会」に入って活発に活動するようになり、陸軍当局にPTSDを認めさせようと運動しています。
 ベトナムの戦場に送られた軍用犬を通して、兵士の家族の置かれた客観的状況そして家族内の価値観のせめぎあいがよく描けていて、思わず息を呑まされる本です。
 
(2006年11月刊。1700円+税)

バオバブの記憶

カテゴリー:アメリカ

著者 本橋 成一、 出版 平凡社
 実に心のなごむ写真集です。
 バオバブの木が、ひとり大平原にポツンと立っています。アフリカの昼間、熱い太陽光線をさえぎる木陰に、人々や動物たちがしばし憩いのひと時を過ごします。そこだけ、時間が停まったようです。
 バオバブの木は寿命4000年とか5000年とか言われています。何千年と生き延びてきましたが、このところ若木は育っていません。だから、今あるバオバブの木がやがて枯れたとき、そこには何も残らない心配があります。
 バオバブの木の中には年輪がない。満々と水を蓄えた空洞になっている。だから、朽ちて倒れてしまうと、やがて土に還るだけです。
 アフリカの人々は、昔からバオバブの木をとても敬い、大切にしてきました。霊感の強い木だとして、昼は近寄らないほどである。そして、その幹や葉をすべて薬として服用してきた。
 じっと写真を眺めているだけで不思議なほど心が落ち着きます。写真にキャプションがついていませんから、安心して写真に集中できます。どういう状態で撮られたのかのかなあと、知りたくなります。
 そして、その関心にこたえるようにして、巻末に写真についての解説がありますので、これらのバオバブの木がどんな状況で人々と共生しているのか、よく知ることができます。
 少し値段は張りますけれど、一見の価値のある写真集です。
 
(2009年3月刊。3400円+税)

兄弟(上)

カテゴリー:中国

著者 余 華、 出版 文芸春秋
 狂乱の文化大革命を生き抜く少年の話から始まります。母親はその前に北京の病院に入院しています。父親は文化大革命を歓迎していたのに、地主の子として、糾弾の対象とされてしまいます。地主といっても、ほんとに大した地主ではなかったのに、仕事を奪われ、収容所に入れられ、妻に会いに行こうとして、路上で殴る蹴るの暴行を受けて、ついに死んでしまいます。哀れ、子どもたちは、どうやったら生きていけるのか……。
 あまりに猥雑な出だしですので、とても女性にはおすすめできません。紅衛兵運動というのが、いかに理不尽なものであったのか、その体験が生かされているのでしょう。文化大革命の美名のもとで、中国古来の文化を台無しにしていった事実は消し去ることができません。今では、文化大革命というのは、要するに、失脚したも同然だった毛沢東による権力奪還闘争だったことがはっきりしています。
 それを新しい文化を創造する試み、そのために古い文化を破壊してもかまわないんだという理屈付けがなされていました。日本人の中にも、毛沢東の言うことならなんでも信じるという人々がいましたが、今となっては信じられない現象です。
 下巻は欲望の開放済のなかで主人公たちが生き抜いていくというのですから、楽しみです。
 それにしても、本当に中国は社会主義国なんでしょうかね。私も中国には何回か行ったことがありますが、とても社会主義国とは思えませんでした。観光客である私の前には、まさしく資本主義国家として登場していました。
 アメリカと違って、中国の治安は抜群に良かったし、今もいいようです。これも、アメリカの方が貧富の格差の増大が一歩先んじて際限もなく続いていることによるのでしょうね。
 
(2008年6月刊。1905円+税)

利休にたずねよ

カテゴリー:日本史(戦国)

著者 山本 兼一、 出版 PHP研究所
 さすが直木賞を受賞した作品というだけのことはあります。利休の心の動きが、ことこまかに憎らしいほど描写されています。作家の想像力のすごさに圧倒される思いを抱きながら(実のところ、私のイマジネーションの貧弱さを嘆きつつ)読み進めていったのでした。
 次は、利休の言葉です。
 わしが額(ぬか)づくのは、美しいものだけだ。
 いやはや、この文章を根底において、山あり谷あり、起伏のあるストーリーに仕立て上げる腕前はおみごとというほかありません。
 おのれの美学だけで天下人・秀吉と対峙した男・千利休の鮮烈なる恋、そして死。
これは帯にあるコトバです。
 千利休が秀吉の側に長く使えていたこと、そして、秀吉が死を命じられたことは歴史的な事実です。それを秀吉の心理描写とあわせて、緊張感あふれる場面が次々に繰り広げられていきます。
 そして、茶道の奥深さも実感できるのです。たまにはこんな本を読むのも忙しさを忘れていいものだと思います。
 小説にしては珍しく、巻末に参考文献が明記されています。
 春の庭は色とりどりです。見てるだけで心が浮きうきしてきます。いま咲き始めたのはジャーマンアイリスです。手入れをしてはいけない丈夫な花です。ぬれ縁の先に気品ある薄紫色の花を次々に咲かせます。深い青紫色のアヤメの花も咲いています。こちらは胸をときめかす高貴な花です。妖しげな魅力があり目を惹きつけます。
 庭のフェンスにからまっているのは朱色のクレマチスです。そのうち純白の花も咲いてくれるはずです。
 車庫のそばの地面は鮮やかな朱色の芝桜が覆っています。そして最後に、終わりかけていますがチューリップもまだ健在です。今、黒いチューリップが咲き、フリンジがあったり、変わりチューリップがまだいるよと誇り高く叫んでいます。
 みんな私のブログに写真をアップしているので、見てください。
(2009年3月刊。1800円+税)

派遣村・何が問われているのか

カテゴリー:社会

著者 宇都宮 健児・湯浅 誠、 出版 岩波書店
 「年越し派遣村」ほど、近年、私の心をうったものはありませんでした。私が毎月1回は通っている日比谷公園が、年末年始に派遣切りでホームレスになった人々などの救いの場となったわけです。テレビをまったく見ない私ですが、新聞を読んでいるうちに、九州の地で安穏としていいのか、という気になっていました。近くだったら、私も駆けつけて、少しはお手伝いくらいしたと思います。それくらい、居ても立っても居られない、切羽詰まった気になったのでした。
 実際、この派遣村に実行委員として関わった主要メンバーは、年末年始のあいだ、まともに眠れず、食べるものも食べずにがんばったようです。すごいものです。ついつい大学生時代、学園闘争の、それなりに厳しかったころのことを思い出してしまいました。もちろん、そのころ私は20歳前で、気力も体力もありましたから、少しくらい食べず、眠らずでも大丈夫でしたが……。
 貧困問題の主要な課題の一つは、可視化にある。見えないことから、貧困問題が「ない」ことにされてしまう。見えるようにさえすれば、誰も放置できない課題であることは明らかだから、対応がなされる。見えるようにすること(可視化)が、貧困問題の解決に向けた第一歩になる。派遣村は、そのことにかなり成功した。そして、このことは、現代の貧困の「見えにくさ」を痛感させる出来事であった。
 これは、湯浅誠氏の指摘です。その講演を私も聞いたことがありますが、決して激することなく、冷静・沈着な態度を崩さない話ぶりに、かえってほとばしる熱情を感じたものです。
 見えない貧困、しかし、現実にそこにある貧困。この事実を、私たちは正視すべきです。この本は、現代日本の抱えている深刻な状況を、実に分かりやすく目に見える形で教えてくれます。
日比谷公園には、もともと20人の野宿者がいる。近くの東京駅周辺には50人の野宿者がいる。
 派遣村の場所設定でについては、厚生労働省の目の前にある日比谷公園が最適だということになった。都心の日比谷公園は規制がきびしく、テントが張れない場所としてよく知られていた。そして、野宿者への炊き出しも行われていなかった。
 結局、派遣村にやって来た人は505人。女性は非常に少ない。ボランティアとして登録した人は1692人。のべ数千人になる。カンパは4400万円。リンゴ1.8トンなど、食材などの物品カンパも多かった。
 企業の違法行為の結果、多くの被害者が路上に放り出されてしまった。ボランティアと税金によって、企業の違法行為の尻拭いをさせられ、違法を行った張本人は何の責任もとっていない。そうなんです。トヨタもキャノンも、奥田も御手洗も、涼しい顔をして他人事(ひとごとのように自己責任だといいつのるばかりです。そのくせ日本人には道徳心が欠如しているなんて言って、子どもたちに道徳教育を押しつけているのですから、呆れるほどの厚かましさです。日本の財界人には道徳心はかけらほどもないのか、と叫びたくもなります。
 生活保護を受けようとすると、世の中の反応があまりにも冷たいことも指摘されています。甘えているというものです。私は、ヨーロッパのように、若い人が失業したら、次の仕事が見つかるまで何年でも失業保険をもらえるか、生活保護を受けられるように日本もしたらいいと思います。もちろん、年輩者には十分な年金が保障されるというのが必要です。そんな夢のようなことを言うな、という人がいるかもしれません。でも、それを実現するのが政治の役目ではないでしょうか。
 この本の面白いところは、派遣村に裏方として関わった実行委員の人たちの苦労話です。
 年末年始だったので、不足したテントを探すのに苦労したこと、せっかく見つけても運搬するトラックの運転手が確保できなかったこと。6人用テントを用意したけれど、持ってきた荷物と布団で4人が限界だったので、20張のテントに80人しか収容できなかったこと。テントを張るとき、下に石があると痛いし、平な場所が少なくて苦労したこと。実行委員は炊き出しにありつけず、寝るのもテントで寝れず、手足の先が凍傷になりかかったこと、などなど、その大変な苦労が伝わってきます。年末年始をいつものようにぬくぬくと過ごした私など、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
 そして、派遣村にやっとの思いで辿り着いた人の実情のすさまじさには息を呑んでしまいます。浜松から歩いて日比谷公園までやってきたとか、三日三晩、何も食べずにやって来たという人たちがいたのです。そして、派遣村で炊き出しを食べたら、とたんに体調を崩してしまう人が続出したのでした。
 これが豊かな国ニッポンの現実なのですね。改めて、その深刻さが伝わってきました。
 結局、派遣村にたどり着いた500人のうち、300人が生活保護を受けることになりました。それでも、外国人労働者や女性については、ほとんど手つかずというのです。
 派遣切り、ホームレス、野宿者の問題というのは、日本国民全体で考えるべき問題なんだということがよく分かる本でした。
 ホームレスの人は働く意欲がないという誤解がまかり通っているが、それは間違いだと強調されています。ぜひ、あなたも読んでみてください。ここに書かれていることは、まさに日本の現実です。私は、大学生のころから貧困問題に関心を持ってきましたが、現代日本にいまある貧困に光をあてた派遣村のことを知りうる、いい本が出たと、しみじみ思いました。
 
(2009年3月刊。1200円+税)

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