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武士猿

カテゴリー:社会

著者 今野 敏、 出版 集英社
 ブサーザールと読みます。この著者は警察小説の書き手だと思っていました。なんと、空手のこともかけるのですね。たいしたものですね。すごいな、すごいぞと感心しながら、夢中で読みふけり、時の経つのを忘れてしまいました。いやあ、身体の鍛錬というのは、毎日欠かさず、日常不断にやるものなんだと、つくづく思ったことでした。沖縄空手の偉大さを少しは味わうことができたと思います。
 カラテつまり空手は、その前には唐手と書いていたのですね。戦前のことではありますが、剣道とは違って、本土では江戸時代からあっていたわけではないようです。
大学生のころ、私の身近で流行していたのは少林寺拳法でした。その集団演武を入学式のときに見たような気がします。すごくカッコいいと思いましたが、運動神経に自信のない私は手を出しませんでした。
 明治維新の後、琉球王族の一員でもあった本部(もとぶ)家の三男坊だった朝基は、兄に勝つために琉球伝統の「手」(ティー)の修業を始めた。実戦で強くなるため、夜の路上に出て他流試合を重ねた。すごいですね、本当のことなのでしょうか……。
 沖縄武士(ウチナープサー)という言葉を初めて知りました。九州男児に匹敵する言葉なのでしょうかね。著者自身が空手の有段者とのことですから、空手のすごさが文字になってよく描かれています。読んでいる私まで、なんの技もないのに、肩に力が入ってしまいます。
 うへーっ、すごーい、こんな攻め方、かわし方があるのか、などと想像をたくましくしながら、もどかしい思いとともに頁をめくっていきました。正味90分で読み切りましたが、価値ある1時間半でした。ヤンヤヤンヤ。拍手を送ります。
 
(2009年5月刊。1600円+税)

青嵐の譜

カテゴリー:日本史(鎌倉)

著者 天野 純希、 出版 集英社
 13世紀の鎌倉時代。博多湾に元寇が襲来します。その前に、もちろん壱岐や対馬が、日本兵は島民とともに壊滅させられます。
 文永の役も弘安の役も、決して神風で日本軍が勝ったわけではありません。この史実は、この小説にも生かされています。
 元のフビライ自身は、本気で日本を占領しようと考えていたようで、第3回目の遠征軍まで準備しつつあったのでしたが、中国の国内事情がそれを許しませんでした。中国軍といっても、南宋の敗残兵を駆り集め、また、朝鮮・高麗の兵を無理やりひっぱって来ていたのです。侵略軍としての統制がとれていなかったんですね。
 それでも、今の裁判所のある赤坂あたりの小山というか丘をめぐって、蒙古軍と日本軍とが激しくたたかい、一進一退していたということです。蒙古軍はずっと海上にいたのではなく、かなりの部隊が博多湾から上陸して陸地で日本兵と戦ったのでした。
 蒙古襲来絵詞で有名な竹崎李長も登場します。このときの戦いで、失地回復しようと必死でした。そのため、この絵巻物を鎌倉まで持参して、その手柄をなんとか公認してもらったのです。おかげで、このときの合戦の様子を、現代日本の私たちは視覚的にもとらえることができます。
てつはうという鉄砲のようなものもあります。蒙古軍は集団戦法はには強くて、日本軍をさんざん打ち破りました。日本兵は一騎打ちでは負けなかったのですが、その前にやられてしまうのですから、話になりません。
 ほとんど負けと思ったところ、はじめからやる気のうすい蒙古軍が博多湾に引き揚げて休んでいるところを、突如として台風が襲ったのでした。まあ、日本は運が良かったのでしょう。
 私の子どものころ、「ムクリ、コクリ」という言葉を聞いた記憶があります。とても怖いものというイメージです。ムクリは蒙古、コクリは高句麗のことです。700年たっても、人の記憶って生きているんですね。
 いずれにせよ、30歳にもならない著者の想像力には脱帽してしまいました。 
(2009年8月刊。1600円+税)

そして戦争は終わらない

カテゴリー:アメリカ

著者 デクスター・フィルキンス、 出版 NHK出版 
 アメリカのイラク侵略戦争に従軍したアメリカの若きジャーナリストのレポートです。
 表紙の写真がアメリカそのものを描いています。必死の形相です。恐怖で顔が引きつっています。女性兵士ではないかと思うのですが、ともかく若い白人兵士がイラクの町なかで襲撃にあい、小銃を構えながらも恐れおののいている様子がよくとらえられています。
 アメリカ兵は既にイラクで5000人近くも亡くなっています。もちろん、イラク人の死者は、それより桁違いに多いことと思います。それにしても、勝ったはずのアメリカ軍、占領軍のアメリカ軍が、毎日毎日いまだに殺されていっているわけです。やはり、このアメリカによるイラク侵略戦争は、かつてのベトナム侵略戦争と同じように、アメリカの大きな間違いだと思わざるを得ません。そんな侵略戦争に日本がアメリカ軍に加担したのを、私は恥ずかしく思います。
 オバマ政権がイラクから撤退する方針を打ち出しているのは正しいと思います。ところが、アフガニスタンにはアメリカ兵を増派するというのですから、私にはまるで理解できません。
 若いアメリカ兵が次のように語った。
ここは世界でも最悪の場所だと言われているが、それほど悪いわけじゃない。連中は自分たちのために戦っているだけだ。どこにでも内戦はある。アメリカだって内戦はあった。
 こっちは撃つだけだ。すると、向こうが反撃してくる。やつらをぶっ殺して家族のもとに帰るか、それとも連中に殺され、さらに多くの人が殺されるか、どちらかだ。撃たないと、オレは家族のもとにも、彼女のもとにも帰れない。ここで生き抜くほうが、よっぽど耐えられないことだ……。
 著者は現在のイラクを、精神の病んだ国だといいます。人々はかつて持っていた奔放な明るさを失い、じっと家に閉じこもっている。いつどこで起きるか分からない自爆テロにさらされ、隣人による告発を恐れ、警察をかたる誘拐一味からの電話に怯えながら生きている。母国の治安を守ろうと警察官募集の行列に並べばテロにあい、民主主義を根付かせようと選挙に行こうとすれば家族ともども皆殺しにするぞと脅迫される。身を守るためには、家の中にとじこもっているしかない。太陽の下にいるのは、アメリカ軍か、そうでなければテロリストだけなのだ。
 こんなイラクに、アメリカ人ジャーナリストが4年もいて無事だったというのです。奇跡としか言いようがありません。日本人ジャーナリストで、そんな人はいるのでしょうか。
 根本的な障壁になっているのが、言葉だ。イラクにいるアメリカ人で、アラビア語の単語を2つ以上知っているのは、兵士でも外交官でも、新聞記者でもほとんどいない。そして、その大多数が通訳さえ同行していない。
 多くのイラク人にしてみれば、サウスダコスタから来た19歳の典型的な陸軍伍長は、決してアメリカの善意を運んできた無垢な著者ではなく、むしろ武装した無知な若者という、最悪の組み合わせでしかない。
 アメリカがイラクに侵攻したあとの5年間に900人以上の自爆者が出ている。自殺志願者には事欠かない。殉教作戦中に殺された。自爆のことは、このように表現される。
 トイレは、とても重要な問題だ。6000人もの海兵隊が歩いて行進するというのは、とんでもないことである。どこか、その辺で用を済ますというわけにはいかない。夜も同じだ。武装勢力には、凄腕の狙撃手がいる。そして、便器は使い物にならない。
 バグダッド支局は、要塞化していった。クレーンを使って、厚さ30センチ、高さ6メートルのコンクリート防爆壁を建てた。天辺には、有刺鉄線を張る。武装した警備員を20人雇った。そして、30人、40人へと増やしていった。全員にカラシニコフ銃を買い与え、地下室にあるロッカーにはグレネード弾が置かれた。屋上にはサーチライト、そしてマシンガンがある。
 元兵士の警備アドバイザーを日給1000ドル(10万円)で雇った。装甲車を3台購入した。新聞社が記者にかけた生命保険料は、1か月1万4000ドル(140万円)。保険会社は、少なくとも1人は死ぬと推測していることになる。
 バグダッドの電力は、1日4時間しかもたない。自家発電できるようにイギリスから600万円かけて発電機を輸入した。
 警戒厳重のグリーン・ゾーンにいると、この戦争は負けるという気がしてくる。
 いやあ、おそらく、そうでしょうね。アメリカのイラク侵略戦争は間違っています。いかにフセイン大統領がひどい独裁者だったにせよ、アメリカのやったことを正当化できるものではありません。日本が、アメリカの間違いをこれ以上は追従してほしくないと、つくづく思います。
(2009年2月刊。1600円+税)

10年後、あなたは病気になると、家を失う

カテゴリー:社会

著者 津田 光夫・馬場 淳 ほか、 出版 日本経済新聞出版社
 いま、日本は、病気にかかるリスクの高い人を、国民健康保険という一つの保険に集めている。当然、保険料は高くなり、払いたくても払えない人たちを増やすことにつながる。
 国保の保険料(保険税)の滞納が1年以上も続くと悪質滞納者とみなされ、保険証が取り上げられて、代わりに資格証明書が発行される。資格証明書では、窓口でいったん全額を支払わなければいけない。あとでその7割が返還されるはずだが、実際には滞納分に充当されるので、お金は戻ってこない。つまり、資格があるというだけで、事実上は無保険を意味している。このような無保険世帯が34万世帯もある。このように、国民皆保険は崩壊しつつある。
 民医連の調査によると、国保の保険証が取り上げられて、医者にかかれないうちに亡くなった人が、05~06年に29人、07年に31人、08年も31人いる。
 そして、医療機関に多額の未収金が発生している。3270病院の累積未収金は、1年間で219億円、3年間で426億円になっている。
 国保財政が赤字になったのは、国庫からの拠出金が減少しているため。
 そもそも、社会保障制度にはすべての国民に対して、負担の如何にかかわらず国が面倒をみるという基本概念がある。
 生活習慣病という呼び方には、自己責任と共通する意味がある。本人の生活習慣が悪いために慢性疾患になった、という意味が込められている。
 うへーっ、ちっとも知りませんでしたよ……。
 医療・介護・年金の分野で、国は自らの責任を後景に追いやり、代わって国民の自助と共助を強調している。それは、戦前への逆戻りである。そうなんですね……。
 アメリカの民間医療保険は、生命保険会社や損害保険会社が運営する営利目的の保険である。アメリカのように公的医療保険が不十分だと、企業負担が増大する。日本の医療・福祉制度は絶対にアメリカのマネをしてはいけない。著者は、このように強調しています。やはり、アメリカではなく、イギリスを含めたヨーロッパ型を日本は目ざすべきだと痛感させられました。
 日経新聞を私も毎日読んでいますが、そこから出ている本だとは思えない、とてもまともで、道理のある本です。
(2009年4月刊。1700円+税)

小沢一郎、虚飾の支配者

カテゴリー:社会

著者 松田 賢弥、 出版 講談社
 ついに政権交代が実現しました。政権が変わることによって、すべてがたちまちバラ色に変わるなんて、まったく思いません。でも、長く続いた自民党政治を、一刻も早く終わらせたいとは、大学生のころから、つまり40年間、ずっと思い続けてきました。それがようやく実現して、感無量です。
 アメリカでは一足早く、チェンジつまり変革を叫んだオバマ政権が誕生しました。どうせ同じアメリカ帝国主義じゃないか、そんな冷めた見方もあります。だけど、オバマ大統領は核廃絶を真剣に呼びかけているじゃないですか。環境問題についても、前のブッシュとは比べものにならないほどの真面目な取り組みをすすめています。イラクから撤退するという方針も評価できます。ただし、なぜ今もってアフガニスタンにこだわるのか、その点はさっぱり理解できません……。
 いいものはいいと、高く、きちんと評価する。それは、オバマ政権であれ、今度の民主党政権であれ、必要なことだと思います。無用なダム建設をやめる。後期高齢者医療制度を見直す。子ども手当を支給する。いろいろ、いいことを打ち出しています。私は、大歓迎です。教育予算を増やして、高校だけではなく、大学まで授業料も無料とし、学生には生活費も補助するというように、日本は人材(人間)育成にもっとお金をかけるべきです。ダム建設よりも、よっぽど有効なお金の使い方だと思います。
 それにしても、気になるのが、「ダーティ小沢」です。この本は、次のように叫んでいます。
政権交代の前にはすべてが許されるのか。政権交代という看板を掲げていれば、ゼネコンから巨額なカネをもらい、その金も化けた政治資金で10億円にのぼる不動産を買い集めたことに一片の釈明もしなくていいのか。
 小沢は、「やましいことは一点もない」という。果たして、本当なのか……。
 小沢にとって、権力とはカネだ。小沢にとって、政治とは自身のあくなき権力欲を満たすためのものではないのか……。
 民主党の幹事長という要職を占める小沢一郎は、今こそ国民の前で自らの疑惑について語る必要があると思います。秘書に責任をなすりつけてはいけませんよ。
 西松建設の裏金の総額は、20億円をこえる。うち、国内分が10億円、海外分が10億円。国内分は、全国の支店が下請業者から工事費を還流させたり、架空経費を計上したりする手口を使っていた。
 ところが、小沢は次のように開き直っている。
 「ゼネコンから選挙の応援を受けたり、資金提供を受けてなぜ悪いのか。応援してもらうのは、あたりまえでしょう」
 小沢一郎の政治団体は、政治資金パーティを開いて、4年間で4億円近くも集めた。ところが、そのパーティ券は、どこの誰が買ったか明らかにされていない。これではまったくのザル法ですよね。
 小沢は、陸山会の政治資金によって、1994年から都内にマンションを買い始めた。今や、10億円を超える。すべて小沢一郎名義である。
 虚飾に覆われた小沢の支配者の仮面は、いつか剥がれおちる日が来るだろう。小沢一郎の仮面が剥がれたとき、民主党も政権を手放すことになるのか、それは今のところ予測がつきません。脱ダム、脱公共工事をすすめていったら、脱小沢一郎になってしまいます。それを小沢一郎が許すのかどうか。そのせめぎあいが当分つづくのではないでしょうか。
 民主党の暗黒面、自民党と同じ利権体質の政治家が生き延びるのか、ぜひとも注目していきましょう。
 連休中に、青空の下、モズの甲高い鳴き声を聞きながら、庭にチューリップの球根をせっせと植えつけていきました。畳1枚半ほどのスペースに、200個の球根を植え付けました。スコップで一個一個掘るので、ついに親指の付け根のところに豆ができて、つぶれてしまいました。
 いま、庭には黄色いリコリス、そして同じく黄色のエンゼルストランペットが咲いています。地面の足もとにはピンクかかった白いゼフィランサスの可憐な花もあちこちで咲いています。
 空を見上げるとピンクの芙蓉もまだまだ咲いていて、そのそばを赤とんぼが悠々と飛んでいました。稲刈りも間近です。秋も深まりました。
 
(2009年7月刊。1500円+税)

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