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冬の兵士

カテゴリー:アメリカ

著者 反戦イラク帰還兵の会、 出版 岩波書店
 イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実というのがサブ・タイトルになっています。ここで語られる内容は実におぞましく、寒々としています。まさしく寒風吹きすさぶ中で立ち尽くす冬の兵士を思わせます。そして、イラクへの侵攻、アフガニスタンへの派兵の増強をアメリカがしようとしているのは、根本的な間違いだと痛感させられます。
 アメリカのように他国の権利をいとも簡単にふみにじる国は、実は自分の国民、アメリカ人も冷たく扱い、切り捨てるものだと痛切に感じました。
 捨て置き武器という言葉を初めて知りました。
 アメリカ兵たちはAK47ライフルを一丁携行している。自分たちが撃ってしまった人物が武器を持っていなかったとき、そのAK47を死体のところに置いておく。それから部隊は、その銃を基地に持ち帰り、先ほど射殺した男が敵性戦闘員だった証拠として提出する。うへーっ、アメリカ軍って、こんなに手の込んだごまかしまでやっているのですか……。信じられません。2003年3月から2006年7月までのあいだに、18万6000人のイラク国民がアメリカ軍とその連合軍によって殺害された。これはイギリスの調査報告書に載っている数字だ。
 アメリカ軍に同行する記者がいるときには、極端に行動が変わる。決して普段と同じふるまいはしない。常に規則正しく行動し、すべて教科書どおりに動く。
 キューバのグアンタナモ基地で働いた兵士の体験談もあります。
 尋問室で、被収容者は手と足に枷をはめられ、それで床につながれ、腰掛けられるものは何もなく、耳をつんざくような大音量の音響が鳴っていて、室温は零下5度とか10度とかいうように震えるほど寒い。ここに12時間とか14時間入れられ、取り調べを受ける。これが拷問でないはずがない。うひょう、これってまさしく拷問そのものです。
 アメリカはイラクで2万4000人以上を収容していた。彼らは逮捕状もなく起訴されることもなく、法廷で自己を弁護する機会も与えられないまま、無期限に抑留されている。
 ベトナム戦争では、7500人のアメリカ女性が従軍した。湾岸戦争のときは、4万1000人だった。しかし、イラクとアフガニスタンには、これまで16万人を超える女性兵士が配置された。現在、アメリカ軍の現役兵士のうち15%と、前線に配置される兵士の11%を女性が占める。
 退役した女性兵士の3分の1が、軍隊にいたあいだにセクハラや強姦の被害にあい、71%~90%が任務をともにした男性からセクハラを受けたという。
 国防総省は、誘拐犯や殺人犯の入隊は許すのに、自ら公言しているゲイとレズビアンは入隊させない。なぜか。2003年から2006年までのあいだに、軍隊は経歴に問題のある10万6000人を入隊させた。これには、麻薬犯6万人近くが含まれている。
 イラク・アフガニスタン帰還兵のうち29万人近くが、軍人省に障がい者手当を申請した。
 ホームレス人口の3分の1は帰還兵である。
 退役軍人医療制度が実効あるものとして機能していないことへの不満が多く語られています。戦場で心身に故障をもつようになったアメリカの青年が、冷たく放置されているのです。アメリカの民主主義は、お金と力のあるもののみを対象としていることが、ここでもよく分かります。
 毎週、平均120人の帰還兵が自殺しているというデータがあるそうです。
 イラクとアフガニスタンに展開中の戦闘部隊の兵士のうち、22%ないし17%が日々を乗り切るために医師の処方箋を必要とする抗うつ剤や睡眠薬を併用して服用していた。
 過酷な戦場のなかで、多くのアメリカの青年が心身ともに壊れていっているのですね。戦争にならないような知恵と工夫がいよいよ求められていると思います。
 アフガニスタンへ日本が自衛隊を派遣するなんて、もってのほかです。
 
(2009年9月刊。1900円+税)

水神(上・下)

カテゴリー:司法

著者 帚木 蓬生、 出版 新潮社
 いやあ、実にすごいです。読み始めて2日のうちに、一気に読了しました。いつもの車中読書ですが、まったく外界の雑音が耳に入ってきませんでした。いつのまにか終点の駅についています。もちろん、あいまに仕事はしたのですが、読みかけていますから、次の展開が気になってしかたありませんでした。
 著者の本はかなり読んでいますが、これは筑後川につくられた大石堰が舞台ですから、余計に身近な話として、ぐいぐい作品の情景に引きずり込まれました。なにしろ、その情景描写が細やかなのです。まるで眼前に筑後川がながれ、にもかかわらず、田圃には水が流れないため日照りで百姓は食い詰めてしまう様子が生々しく、迫真の筆致で描かれます。
 筑後川から日がな一日、ずっと2人一組の人力で水をくみ上げる作業をする片足の悪い百姓が登場し、その愛犬ゴンが動き回ります。そして、下級奉行が村々を見て廻り、ついには大石堰のためにわが身をささげてしまうのです。すごいです。涙がにじみ出ます
 筑後川周辺の利水のために、5人の庄屋が久留米・有馬藩主に対して堰の構築を嘆願します。その財政的裏付けは、自分たち庄屋の自己負担。万一、失敗したら、5人の庄屋は財産没収ではすみません。はりつけ死罪です。現に工事が始まったとき、失敗に備えてはりつけのための処刑台が5本、近くにこれ見よがしに建てられたのです。
 反対する庄屋もいました。ひどい妨害にもめげず、自分の全財産を投げうって、工事着工を実現していくのです。著者の筆致はよどみなく、タンタンタンと、陣太鼓の音まで聞こえてきそうです。こんな良質な小説を読むと、心のなかまで清々しくなります。
「大石堰の方で、狼煙(のろし)があがったぞ」誰かが叫んだ。頭を巡らすと、白い煙が少しかしぎながら青い空に吸い寄せられていくのが見えた。
「いよいよ、水が来るぞ」別の村人が声を上げる。
 「水が来たぞ」村の方で何人もが叫んでいる。水路に沿って駆け出した若者もいたが、すぐに走りやめる。代わりに吠えながら猛然と走りだしたのはゴンだった。水は真新しい溝渠の中を波頭を立てて迫っていた。黒々とした流れの先端に、白い波しぶきが見えた。ゴンはさらに吠えかかろうとしたが、かなわぬと見て尾を巻いて駆け戻ってくる。
龍だ、と助左衛門(五庄屋の一人)は思った。龍が頭を高く、あるいは低くして、白髭をひくつかせて攻め寄って来る。誰もが立ち上がり、水路に吸い寄せられたときには、龍の頭はもう十数間先に走り去り、今は黒々としてうねる背中がみえるだけだ。しかもその龍の背は、側壁を削るかのように膨らみ、ある所では杭に当たって白いしぶきを上げた。
「子供には気をつけろ」伊八が叫んでいる。次兵衛と志をが三人の子供の手を引いている後ろで、次兵衛の母親が手を合わせていた。目を閉じ、念仏のようなものを唱えている。
 すごい描写ですよね。堰が出来て、水門が開けられてやってきた水流が龍のように躍動している様子をしっかりと思い浮かべることができます。これからも、たくさん書いてください。
 11月28日(土)午後3時から、北九州の厚生年金会館で帚木氏に今度は精神科医として依存症について講演していただくことになっています(入場料500円。全国クレサラ対協のHPを参照してください)。
 私は、今から大いに楽しみにしています。
 この筑後川の堰渠を構造するについては、長い歴史があったようです。『久留米市史』第2巻735頁から30頁ほど詳細な経過が述べられています。
 寛文3年(1663年)に大干ばつで作物が全滅状態となったため、五庄屋が誓詞血判して藩庁へ出願したこと、反対運動が起きたこと、夜間に提灯をともして土地の高低を測量したこと、失敗したら磔(はりつけ)の刑に処することになって、工事開始の直後に5つの磔台が建てられたこと、藩営事業として正式に工事が始まり、工事は人夫1万5千人によって2ヶ月間で無事に完成したことなどが記述されています。
(2009年8月刊。1500円+税)

棄民たちの戦場

カテゴリー:日本史(戦後)

著者 橋本 明、 出版 新潮社
 第二次大戦の末期、アメリカがナチス・ドイツを追い詰めていた。ところが、ドイツ軍の巧妙な反撃にあって、アメリカ軍の一部隊がフランスの山地で敵中に孤立してしまった。
 包囲されたテキサス大隊の兵211人を救出するため、日系アメリカ兵800人がフランスの山地、氷雨に煙るボージュで死んでいった。
 第二次大戦が始まると、日系アメリカ人はアメリカ政府によって、敵性国の人間だとして自由を失い、砂漠のなかの収容所に強制的に収容された。カリフォルニア州だけで10万人近く。ハワイやオレゴンなどをふくめると、全米で12万6000人もの日系アメリカ人が強制的に収容された。このとき、同じ枢軸国であっても、ドイツ系やイタリア系には同じような措置はとられていない。黄色い日本人は差別されたのですね。
 その強制収容所から日系アメリカ人の兵隊が誕生した。そして、この日系アメリカ兵の部隊に名声はいらない。果敢に任務を遂行するキツネ顔の日系人は、埋もれた消耗品に過ぎなかった。独立のコマンドとして差別し、動静を隠す。
 442歩兵連隊2800人。平均背高162センチ。在フランス師団の増強部隊として、欧州戦線のど真ん中に参戦した。第442歩兵連隊戦闘団は、「お釣りを絶対に期待できない」戦闘に首を突っ込んでいった。敵性国民という不当なレッテルと差別をはねのけるために立ち上がったタフガイ集団といえる。
山が山を覆い、森が森を連ねるフランスのボージュ戦域は、第二次世界大戦を通じてもっとも劇的なエピソードをつづる場に変わっていく。後に戦史家は、このテキサス大隊救出作戦を、アメリカ陸軍史上もっとも重要な「十大戦闘」の一つに数え、ペンタゴンの壁に永久表彰画を掲げた。
 テキサス大隊を自らの身を犠牲にして救出していった日系アメリカ兵の活躍ぶりがあますところなく活写されていて、まさに良質の戦争映画をスケールの大きな画面で身近に見ている気になり、手に汗を握ります。第二次大戦に従事した日系アメリカ兵は、総勢二万人を超えたということです。
 フランスに現地には、このときの日系アメリカ兵の活躍をたたえる碑が建っているそうです。感動的な、いい本でした。よくぞ、ここまで掘り起こしたものだと思います。
 
(2009年6月刊。1600円+税)

モグラ博士のモグラの話

カテゴリー:生物

著者 川田 伸一郎、 出版 岩波ジュニア新書
 我が家の庭にモグラがいることは間違いありません。でも、死んだモグラしか見たことはありません。この本を読むと、モグラの生態ってまだまだわかっていないことがたくさんあるんですね、びっくりしました。こんな身近な存在なのに、分からないことだらけというのも不思議ですよね。著者はモグラ博士ですが、ぜひいっしょにモグラの謎を解明しましょう、と呼びかけています。
 モグラには目がない。目はあるけれど、皮膚でおおわれてしまっている。モグラは光を感じることができない。また、その必要もない。モグラの棲む地下世界は夜の闇よりもっと暗く、まさに真っ暗。ここまで光がない環境だと、目は必要ない。
モグラの鼻には、アイマー器官というのがあって、微弱な振動を感知することができる。これによってモグラのトンネルにミミズが出てきたことなどを知る。
モグラは、地上を歩くのは苦手。モグラ塚は地上との出入口ではない。
 西日本にすむ大きなコウベモグラがどんどん北上していって、小さなアズマモグラを北東に押しやっている。この分布境界線は、富士山から金沢市を結ぶ線あたりにある。
 モグラのテリトリーは、水田の1枚から2枚ほど。モグラの寿命は3年から4年。5年も生きていたら珍しい。メスは一度に3匹から6匹の子どもを産む。ただ、モグラの人工的な繁殖に成功した例はない。
モグラは植物を食べない。そうなんです。でも、毎年春のチューリップ畑を目ざしている私にとって、モグラはチューリップの球根を地上に放り出すという厄介者なのです。
 モグラはトンネルに穴が開くことをとても嫌う。出入り口が開くと、すぐに土を持ち上げて隠してしまう。というのも、ネズミなどが入ってきたりするからです。
 モグラは、1日3回食事をする。おなかがすくと、体力を消耗してすぐに死ぬ。そのため、早朝、夕方、深夜と3回トンネル内の見廻りに出かける。モグラが何度も繰り返し利用し続けるトンネルは、モグラのブラシのような被毛によって壁が磨かれ、つるつるの硬い壁面になっている。
モグラは温帯にすむ。暑いところにもすごく寒いところにも住んでいない。いやはや、モグラって、こんなに分かっていないことが多いのか、ホント不思議ですよね。
 モグラが生きて捕まるのは、母親モグラが子育てが終わって、子どもモグラを追い出すときだというのです。なーるほど、子別れって命がけなんですね。
 モグラの不思議な話が盛りだくさんの面白い本でした。
 
(2009年8月刊。780円+税)

ALMA電波望遠鏡

カテゴリー:宇宙

著者 石黒 正人、 出版 ちくまプリマー新書
 波というのは、振動を伝える水そのものが移動していくのではなくて、媒体の上に乗っかっている振動だけが移動していく現象である。
 電磁波の場合は、空気のような媒体がなくてもそれが伝わる。電場と磁場の振動、つまり電場が振動すると磁場を誘導し、磁場が振動すると電場を誘導し、ということを交互にくりかえすことによって、宇宙の何もないほとんど真空の状態でも、電磁波が遠くまで伝わる。
 可視光線も電磁波の一種である。可視光線は、波長のうんと短い電磁波である。
 サブミリ波、ミリ波の宇宙からの電波は、大気中の水蒸気に吸収されてしまう。だから、空気の薄い標高5000メートルの高地、しかも高地でありながら平らで、10キロメートル四方以上の広さにパラボラアンテナが展開できるアタカマ高地(チリ)を選んだ。
 温度のあるものは、すべてから電波(電磁波)が出ている。人間の身体からも、36度あるので、それに相当する電波が出ている。
 新書版ではありますが、カラー写真によって宇宙のさまざまな姿が紹介されています。なかでも有名な馬頭星雲の形には驚かされます。まさしく、そこに馬の頭の恰好の星のかたまりがあるのです。
 私たちの生活する銀河系が2億5000万年で1回転するなんていうことを知ると、気が遠くなってしまいます。人間は、たかだか100歳までしか生きられないのです。万年はおろか、2億5千万年前だなんて、さっぱりイメージすることもできません。
 そうはいっても、たまにこんな本に出会い、紹介される宇宙の写真を眺めていると、時の経つのを忘れてしまいます。といっても、確実に年齢(とし)はとっていて、身体の老化現象は隠せないのですが……。
 
(2009年7月刊。950円+税)

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