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家を失う人々

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 マシュー・デスモンド 、 出版 海と月社
 アメリカの貧困層を食い物にする大量の大家軍団が存在することを初めて知りました。恐るべき現実です。このような先の見えない貧困層の存在がトランプの岩盤支持者につながっているのではないのかと思いました。
 最上の住宅を借りられるだけの経済力をもつ金持ちからは、最大の利益をあげられない。代わりに小銭にも事欠く住人にスラムのぎゅう詰めの住宅を貸し、そこから利益を吸い上げることにしたのだ。
 生活環境が悪化するなか、家賃は上がり続けた。やがて、多くの人々が家賃を支払えなくなると、家主は「動産差押え特権」を行使した。
 不平等な社会では、平等な扱いもまた差別を助長しかねない。たとえば、黒人男性たちは過剰に投獄され、黒人女性たちは過剰に強制退去させられる現実のなかで、犯罪歴や強制退去歴がある希望者の入居を平等に拒否すればアフリカ系アメリカ人は断然不利な状況に追いこまれる。
 つまり、強制退去という制度そのものが、安全なエリアに暮らす家庭と、治安が悪く危険なエリアに暮らす家庭を生み出す一因になっている。
最近まで、アメリカには収入の3割以上を住宅費に充てるべきではないというコンセンサスがあった。そして、近年まで、借家人世帯の大半は、この目標を達成していた。だが、時代は変わった。
いま、アメリカでは、毎年、数万や数十万ではなく、数百万もの人たちが、自宅から強制退去させられている。
低所得者層が頻繫に転居している。最貧層の転居の4分の1は強制による。
強制退去させられると、住居だけでなく、さまざまなものを喪失する。家、学校、愛着のある地域だけでなく、家具、衣類、本といった私物までも失う。
強制退去は仕事を失う原因にもなる。そして、公営住宅に入居する機会も失う。強制退去させられた家族は、同じ市内でも、より好ましくない地域に追いやられる。
そのうえ、強制退去は、住人の精神状態にも大きな害を及ぼす。自宅から追い出すという行為は、いわば暴力であり、拍手をうつ状態に陥らせ、最悪の場合は自殺に追い込む。
「収入に見あう家賃の物件がない」という危機は、今や大規模かつ深刻な問題だ。
アメリカの全借家人の5世帯に1世帯が収入の半分を住居費に費やしている。家主の9割に弁護士がついているのに、借家人の9割は弁護士をつけられない。もしも借家人に弁護士がつくようになれば、事態は一変するだろう。
家主が好きな金額で家賃を請求できる権利を法で認め、家主を守っているのは政府だ。
富裕層向けの集合住宅の建設に助成金を出し、家賃相場を上昇させ、貧しい人々のただでさえ少ない選択肢をさらに狭めているのは政府だ。
借家人が家賃を支払えないとき、一時的・継続的に住む場所を提供しはするものの、家主の要請に応じて武装した保安官代理を派遣して借家人を強制的に退去させているのも政府だし、借金の取立代行業者や家主のために強制退去を記録に残して公表しているのも政府だ。
その結果、裁判所、保安官代理、ホームレスシェルターは、都市の貧困者の住宅費の増加や低所得者層向住宅市場の民営化の副産物への対処に、日々、忙殺されている。
大半の家主にとって、物件のメンテナンスに費用をかけるよりも、借家人を強制退去させたほうが安くあがる。
ミルウォーキー郡では、強制退去が審議される法廷に出頭する人の4分の3は黒人で、うち4分の3は女性だ。
家主は強制退去の執行を依頼する前に、裁判所から委託されている業者と契約を結ばなければならない。たとえば、ある会社の5人ひと組のチームを雇うには、5万円の手付金がまず求められ、保安官が10日以内に借家人を退去させられる。それは8万7千円ほど、かかる。
家は、そこに暮らしている人の個性の源泉だ。それを奪われることは、いかに大変なことなのか…。
著者は、トレーラーの中に住み込み、周囲の住人にインタビューをし続けて、本書を完成させたのでした。それにしても恐るべき深刻な貧困の実相です。
(2023年12月刊。2600円+税)

楽園

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 アブドゥル ラザク・グルナ 、 出版 白水社
 私と同世代で、2021年のノーベル文学賞を受賞した作家です。
 アフリカ東部のタンザニア(旧ザンジバル)に生まれ、1964年の革命騒動で、イギリスに渡り、大学に入りました。
 解説によると、グルナの作品は美しく簡潔な文体でつづられるとのこと。
 主人公は12歳の少年ユスフ。苦境に陥った父親の借金のかたとして、大商人アズィズに引き渡され、アフリカ内陸奥地に向かう隊商に加って働くのです。ユスフが18歳になるまでに体験する出来事が語られていきます。
 ユスフというの旧約聖書のヨセフであり、コーランの預言者ユースフの話が下敷きになっている。この小説の舞台は20世紀初頭のドイツ領東アフリカ(タンガニーカ)。アズィズの隊商は、ベルギー領コンゴ東部を目指す。隊商にはインド人の資本が提供されている。また、既に廃止されたとはいえ、奴隷の身分が残存している。
著者がノーベル文学賞を受賞したときの記念講演が紹介されています。
 書くことはよろこびであり続けている。私も同じです。書くことなしに私の人生はありません。書かないではおれません。
 著者は、若いころ、無謀にも郷土を逃げ出し、置き去りにした。そのことを反芻(はんすう)したのです。そして、語るべきこと、取り組むべき課題があり、それを言葉として深く考えるべき後悔や怒りがあると感じるようになったのでした。そこで、自己満足に浸る支配者たちが自分たちの記憶から抹消しようとする迫害や残虐行為について書かなければならなかった。
 そして、口あたりのいい表現で、支配の本来の姿が覆い隠され、自分たちもその偽りを受け入れていた。
 書くことを通じて、自分たちを見下し、軽視する人たちの自信満々で、いい加減な物言いに抗(あらが)いたいと強く願うようになった。
 書くことは、自分の人生において意義深く、夢中にさせてくれる営みであり続けている。
 なるほど、そうなんですよね。私はいま、昭和初期に7年のあいだ東京で生活していた亡父、ちょうど17歳が24歳という青春まっただなかの多感な年頃でした、の生きざまを調べ、考え、書いているところです。こんなに夢中にしてくれることはほかには滅多にありません。
 この本が1ヶ月で2刷になっているのに驚きました。さすがはノーベル文学賞受賞作家です。
(2024年2月刊。3200円+税)

戦前の日本

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 武田 知弘 、 出版 彩図社
 私の父は17歳のときに大川市から単身上京し、24歳まで7年のあいだ東京にいました。1927(昭和2)年4月から1934年8月までのことです。
 このころの日本そして東京はまさしく激動の時代でした。大正デモクラシーという自由な雰囲気が少しは残っていましたが、次第に軍人がのさばり始め、五・一五事件が起きて犬養首相が首相官邸で「問答無用」と青年将校から射殺され、ついに政党政治が強制終了させられ、軍部独裁の政治が実現しました。
 そんな時代の様子を今いろいろ調べています。この文庫本を読み返したのも、その一環です(初版は平成28年)。
 戦前の日本は貿易大国だった。紡績業がその中心にあった。そして、なんと、自転車も重要な輸出品目でした。自転車の生産台数は大正12年に7万台、昭和3年に12万台、昭和8年に66万台、昭和11年に100万台を突破し、それ以降も同水準だった。
 次に玩具(オモチャ)。セルロイドや金属を使ったり…。昭和8年には輸出額は2000万円にのぼった。
そして、日本は中国や朝鮮半島から留学生を大量に受け入れていた。中国人留学生は5000人以上、そして朝鮮半島からは3万人ほどもいた。
 つい最近、日本政府は外国人が大学に行くときには、その授業料を日本人より高値に設定するというのです。まさか、と我が眼を疑いました。この反対に外国人学生の学費はタダにして、大いに諸外国から来てもらうようにすべきです。トマホークやオスプレイのようなものを買うお金はあっても「人材育成」のために使うお金なんてないというのです。まるでアベコベ政治です。
 昭和3(1928)年10月の人口調査によると、大阪市が233万人で、東京市は、それを下回る221万人でした。信じられません。それほど大阪市は活気に満ちていたのです。
 戦前の日本は、日本映画の黄金時代。上映される映画の8割近くは邦画だった。ドイツでは6割、英仏でも7割がアメリカ映画だったのに対比させると、いかに邦画が繁栄していたかです。おかげで有名な監督が輩出しました。
 サラリーマンは、平均月収が100円。ところが大企業では課長クラスで年収1万円(今の年収5000万円)。今は、もっと格差が大きくなっていると思います。
 寿司屋では、にぎりずしが25銭、ちらし寿司が30銭。大衆食堂では、朝食10銭、ライスカレー20銭でした。ところが、高級料理店では2円だった。コーヒーは10銭で飲めた。マイホームは4000円前後で建てることができた。
 知らなかったことが、たくさん出てきました。
(2016年9月刊。648円+税)

もしも世界からカラスが消えたら

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 松原 始 、 出版 エクスナレッジ
 毎年、今の時期(2月下旬から3月上旬)、電柱の高いところにカササギが巣をつくります。私の通勤途上に4個、巣を見かけます。本当にうまくつくり上げたものだと毎年感嘆して見上げています。ちょっとの強風ではビクともしません。つがいのカササギが巣を作り上げ、一緒に子育てするのです。とは言っても、子どものカササギを見たことはありません。カラスもよく飛んでいますから、カササギの卵、そして幼鳥をカラスから守るためカササギ夫婦は必死にがんばっているのだと思います。
 南米にはカラス属がいないそうです。カラスがいるのはメキシコまで、とのこと。どうして、こんな不思議なことが起きたのでしょうか・・・。著者はカラスは北回りでユーラシアから入ってきたからだとしています。でも、どうしてメキシコで止(停)まり、それより南下をしなかったのでしょうか。謎は深まります。ただし、南米にはコンドルがいる。とはいっても、北米では、コンドルとカラスは同居しているのだから・・・。
 鳥の先祖が恐竜だというのは、今や定着した学説です。そして、この恐竜とは、二本足で駆け回る活発な肉食恐竜だった。つまり、鳥は肉食だったはずなのに、鳥には種子食や果実食に特化したものが存在する。肉食から草食への転換が起きている。なぜなのか・・・。
 恐竜から鳥が分岐した時点、その時代には、まだ果実そのものがなかった。そして、鳥のほうも甘みを感じる能力をまだ身につけていなかった・・・。そういうことなんですね。
 カラスはオウムのように訓練したら、しゃべれるんだそうです。「オハヨウ」「オカーサン」「カーコチャン」というように。
カササギは、佐賀・福岡・熊本そして北海道の苫小牧・室蘭周辺にいるだけ。
北海道のカササギはロシアと遺伝子が共通している。また、九州のカササギは、秀吉の朝鮮出兵の際に持ち帰ったものとされているが、遺伝子情報によると、もっと古くから日本にいたとのこと。
さてさて、やっと本題に入ります。カラスは、本当に何でも食べる。隠れた主食は果実類。胃の内容物に占める果実種子は、ハシブトガラスで44%、ハシボソガラスで18%。
果実を食べる鳥がいないと、植物はとても困ることになる。鳥に食べられることによって遠くに種子を運んでくれ、生殖範囲が広がっている。
カラスの強みは、人間が近くにいても平気なこと。なるほど、人間を恐れないどころか、子を守るためには人間を襲うのも平気です。
イスラム教では、カラスとフクロウは不吉な存在だとされている。あまりカラスがいないということの反映なのでしょうか・・・。
カラスの生態を一生の研究テーマとしている著者は、カラスがいなくなっても、直ちに生物社会が成り立たないことはないとしています。少しだけ安心しました。それでも、カラスのいない社会なんて考えられませんよね。
同じことはミツバチについても言えます。ミツバチがこの世界からいなくなったとしたら、ハチミツも採れませんし、多くの果実の受粉が出来なくなって、たちまち食糧不足時代に到来することになるでしょう。
カラスと人間の関係について、改めて考えさせられました。それにしても、路上のゴミ出しをカラスが狙って散乱させているのだけは見るに耐えません。もちろん、人間のほうが悪いのです。きっちり締めておかないといけませんよ・・・。
(2024年1月刊。1600円+税)

最強の恐竜

カテゴリー:恐竜

(霧山昴)
著者 田中 康平 、 出版 新潮新書
 「子ども科学電話相談」では思いもよらない質問が寄せられるとのこと。たとえば、「ティラノサウルスのオスとメスは、どちらが強いの?」です。ええっ、恐竜にもオスとメスがいるのは当然ですが、そのどっちが強いか、なんて私は考えたこともない疑問です。
 人間(ヒト)なら、女性が強いに決まっています。カマキリだって、オスは交尾中にメスから食べられてしまうのですからね・・・。著者も、気迫でメス(母親)が勝つとしています。
 メスのティラノサウルスは史上最大の恐竜であるアルゼンチノサウルスと戦っても勝つだろうと著者は言っています。図体が出かければ争いに勝つというものではありませんよね。
 アルゼンチノサウルスは、全長40メートル、体重100トンだとみられています。ボーイング737型は80トンないそうですから、ジャンボジェット機より重たいというのです。すさまじいでかさです。
 恐竜がどれくらいのスピードで歩き、また走れたのかは足跡化石から推測できる。それによると、時速10キロほどで歩いていたが、時速40キロ前後で走っていたと推測される足跡化石がある。ずいぶん速いですよね。
 恐竜のウンコ化石もたくさん見つかっていて、ティラノサウルスのウンコ化石には骨のかけらが大量に含まれていて、その割合は30~50%に達している。つまり、ティラノサウルスは餌の骨を砕き、骨まで飲み込んでいた。
 マイアサウラのウンコを丸めて糞玉をつくると、直径24センチ、バスケットボールと同じくらいの大きさになる。
 著者は、かの小林快次先生の弟子です。師匠は、「ファルコン・アイ」(ハヤブサの目)として名高い存在だが、最近では「ローガン・アイ」、つまり小さなものを見るのが滅法弱くなったので・・・。ところが、どっこい、まだまだ師匠にはかなわないと、著者が泣いて悔しがる場面も多数登場してきます。
 子どもたちの意表をついた質問をいかに切り抜けるかを念頭に置いた、楽しい恐竜の本です。
(2024年1月刊。820円+税)

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