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つぎはぎだらけの脳と心

カテゴリー:人間

著者 デイビッド・J・リンデン、 出版 インターシフト
  人間の脳にはすごく関心があります。人間ってなんだろう、心はハート(心臓)にあるのか、脳にあるのかなど、知りたいことだらけです。
 脳の設計は、どう見ても洗練などされていない。寄せ集め、間に合わせの産物に過ぎない。にもかかわらず、非常に高度な機能を多く持ちえている。機能は素晴らしいが、設計はそうではない。脳やその構成部品の設計は、無計画で非効率で問題の多いものだ。しかし、だからこそ人間が今のようになったという側面がある。我々が日頃抱く感情、知覚、我々の取る行動などは、かなりの部分、脳が非効率なつくりになっていることから生じている。脳は、あらゆる種類の問題に対応する「問題解決機械」だが、そのつくりは何億年という進化の歴史のなかで生じた種々の問題に「その場しのぎ」で対応してきた痕跡を、すべて、ほぼそのまま残している。そのことが人間ならではの特徴を生み出している。
 海馬には、事実や出来事に関する記憶を貯蔵するという独自の役割がある。海馬に貯蔵された記憶は、1~2年くらいの間、海馬にとどまった後、他の組織に移される。
 軸策末端と樹状突起のわずかな隙間は、塩水で満たされており、「シナプス間隙」と呼ばれる。このシナプス間隙を5000個並べても、ようやく髪の毛の太さくらいしかない。シナプス小胞から放出された神経伝達物質が、シナプス間隙を通って渡されることで、信号が隣のニューロンに伝えられる。
 各ニューロンが対応するシナプスの数は、5000ほど(0~2万の範囲)。ニューロンごとに5000のシナプスが存在し、脳に1000億のニューロンが存在するとすれば、概算で、なんと500兆のシナプスが存在することになる。即効性の神経伝達物質は、何らかの情報を運ぶのに使われ、遅効性の神経伝達物質は、情報が運ばれる環境設定をするのに使われる。一つのニューロンが1秒間に発生させることのできるスパイクは、最大でも400回。スパイクの伝達速度は、せいぜい時速150キロメートル。
 個々には性能が悪いとはいえ、脳にはプロセッサが1000億も集まっている。しかも、なんと500兆ものシナプスによって相互に接続されている。多数のニューロンが同時に処理し、連携することで、さまざまな仕事をこなしている。脳は非常に性能の悪いプロセッサが多数集まり、相互に協力しあって機能することで、驚異的な仕事を成し遂げるコンピュータなのである。うへーっ、そ、そうなんですね……。
 人間の遺伝子は、その70%までが脳を作ることに関与している。人間は1万6000の遺伝子で、1000億個のニューロンをつくっている。遺伝子は、個々のニューロンを、具体的に、どのニューロンに接続するかまで逐一指示したりはしない。
 人間の脳が高度な処理をするためには、多数のニューロンを複雑に相互接続せざるをえない。個々のニューロンは、状態、信頼性が低いからだ。脳が大きくなると、産道をとおれなくなる。そして、シナプスの配線の仕方をあらかじめ遺伝子に記録するのが難しくなる。500兆もあるシナプスを、どのように相互接続するかを逐一記録していたら、大変な情報量になってしまう。このため、遺伝子は脳の配線をおおまかにだけ決めるようにするしかない。そして、本格的に脳を成長させ、シナプスを形成するのを、誕生後まで遅らせるようにする。そうすれば、胎児の頭が小さくなり、産道をとおりぬけられるようになる。脳の細かい配線は、感覚器から得られる情報にもとづいて行う。
 記憶の書き換えは、驚くほど簡単に起こる。書き換えは、過去についての記憶を現在の状況に合うように歪めてしまうこと。子どもが自発的に話してきたときには、それは本当であることが多い。しかし、そうするだけの社会的誘因さえあれば、子どもは嘘の証言をする。子どもは嘘をつかないというのは、事実に反する。
 脳のことを図解しながら、かなり分かりやすく説明してくれる本です。
(2009年9月刊。2200円+税)

現代アフリカの紛争と国家

カテゴリー:アフリカ

著者 武内 進一、 出版 明石書店
 アフリカの紛争をすべて「部族対立」で説明する単純な議論は、基本的に間違っている。万の単位で犠牲者を出し、国際社会の介入が議論されているような現代アフリカの紛争は、いずれも何らかの形で国家が関与し、国際関係の力学のなかで生じている。
 1990年代のアフリカの紛争を特徴づけるのは、単なる発生件数ではなく、その人的・物的被害の甚大さである。そして、膨大な数の民間人が紛争に「関わる」ことが近年の顕著な特徴である。
まず第一に、民間人犠牲者が増加している。第二に、暴力行為に民間人の関与が目立つ。犠牲者としてであれ、加害者としてであれ、民間人が紛争に深くかかわるようになっている。多数の民間人が紛争に参加する(紛争の大衆化)、政府側が国軍以外の暴力行使主体に依存する(紛争の民営化)、紛争に関与する主体が多様化するという特質がある。
 独立以降のアフリカ諸国においては、合理的な法体系による統治の体裁をとっていても、実体としては支配者を頂点とする恣意的な統治体制が構築されていた。国家統治における権威がフォーマルな法・制度ではなく個人に置かれ、支配者は「国父」として国民の上に君臨する。
 支配者は個人的忠誠にもとづくパトロン・クライアント関係に立脚して国家機能を運営し、その資源を私物化(家産化)してクライアントに分配する。クライアントもまた、与えられた地位を利用して蓄財し、自分のクライアントに資源を分配する。こうしたパトロン・クライアント関係の連鎖が国家を内的に支えている。
 大統領は出身部族を全体として優遇するわけではない。実際に恩恵を被っているのは、大統領と親密な関係にある少数の人々だけである。
 アフリカでは、1950年代に独立を勝ち取った国々が、独立直後は多党制を採用していた国が多いが、1960年代末ごろから、一党制を採用する国が次第に増加し、1980年代には、それがもっとも一般的な政治体制となった。
 ルワンダのジェノサイドも深く突っ込んで分析しています。現代アフリカを認識できる、460頁もの労作です。
(2009年2月刊。6500円+税)

アメリカの眩暈(めまい)

カテゴリー:アメリカ

著者 ベルナール・アンリ・レヴィ、 出版 早川書房
 私と同世代のフランス人哲学者がアメリカを駆け巡って考察した本です。200年前にもフランスのトクヴィルが同じようなことをしました。
 今回はアメリカを車で2万5000キロも移動しながら見聞したのでした。売春宿も刑務所も訪れています。しかし、ウォールストリートもシリコンバレーも見ていないじゃないか、と批判されています。
 ケネディ神話は、もはや神話ではない。ジャッキーとの幸福な家庭生活の光景は、宣伝用につくられたイメージだった。日焼けした若きヒーローが、実はテストステロン剤(男性ホルモン剤)とコーチゾン剤(副腎皮質ホルモン治療剤)を常用する重病人で、そのバイタリティあふれる外観はまやかしだった。
 イラクの平和化を先導するはずのアメリカ軍は、平凡で素人っぽく、装備も悪く、訓練もきちんとされていない。イラク派遣部隊は、半分は星条旗の下で参戦すれば帰化手続きが早まるのを見込んだ非アメリカ人で構成されている。もっとも難しい任務、たとえば政府施設やアメリカ大使館の警護は、民間警備会社が雇った傭兵がしている。これで本当に近代の帝国軍隊なのか……?
 奇妙な転移現象がみられる。伝統的な生産活動の大半が第三国に移転されている。銀行、政府、企業、つまり国の年金や健康保険など原則的に支配国家のものであるはずのものが、巨額の対外債務に依存している。これ自体が原則として被支配国家の経済、とくに、インド、ロシア、日本、中国の資本によって資金を供給されている。
 アメリカには、公式に3700万人の貧困者がいるにもかかわらず、アメリカ国民は自らを「アメリカン・ウェイ・オブ・ライフ」を運命づけられた巨大な中流階級と思い続けている。
アメリカの浮浪者は、退去命令に従うとか逃げる手立てさえないので、町の廃墟に閉じ込められている。
アメリカの真実を、フランスの哲学者が鋭く暴いています。
(2006年12月刊。1600円+税)

関ヶ原前夜

カテゴリー:日本史(江戸)

著者 光成 準治、 出版 NHKブックス
 関ヶ原合戦については、二項対立的にとらえられてきた。たとえば、北政所派に対する淀殿派。また、武功派に対する吏僚派など。しかし、北政所と淀殿は実際には連携していた。さらに、武功派と吏僚派という単純な対立図式は成り立たない。
 実際には、これらの対立軸は複雑に絡み合い、また、血縁・姻戚関係や地理的要因にも左右され、諸大名は自らの進退を決した。うーん、たしかにそうなんだと思います。
 前田利家が死去した直後、石田三成は加藤清正や福島正則たち七将に襲われ、伏見にあった家康邸に逃げ込んだ、という見解は誤りであって、三成は伏見城内にあった自邸(曲輪)に入った。この点は、たしかに実証されています。
 毛利輝元は、西軍の総大将格に祭り上げられたが、積極的に戦闘には参加しなかったという通説見解にも疑問がある。むしろ輝元は、あらかじめ奉行衆や安国寺と決起のタイミングについて打合せ、諸準備を整えたうえで、上坂要請という大義名分を得て迅速に行動した。
 毛利軍は、最前線に兵力を投入することには消極的だが、それ以外の東軍参加大名の所領を侵食することには積極的だった。関ヶ原合戦のとき、輝元は、岐阜城の落城や伊勢や大津での苦戦、家康の西上に不安を感じていただろうが、他方、石田三成との絆も完全に崩壊はしていない。また、西軍の総大将格としての矜持も失っていない。そこで、吉川広家ルートによって万一、西軍が敗戦したときの自己保身を図る一方、南宮山の布陣は削がず、西軍有利と見れば下山して東軍を叩きつぶす。弱気と強気の交錯した感情のなかで、輝元は、どちらにも対応できる策をとったものと思われる。
 さまざまな思惑謀略の渦巻く中、関ヶ原は戦場と化していった。
 なーるほど、日和見というか、毛利輝元のずる賢さというか…ですね。
 毛利輝元は、大坂の陣に際し、表面的には家康に従い、豊臣秀頼攻撃軍に兵を送る一方で、毛利元就の曾孫にあたる内藤元盛を佐野道可と改名させたうえで、兵を与えて大坂城に送りこんだ。秀頼軍は秀頼の直臣ほかは、関ヶ原合戦後に浪人となった者で構成されており、佐野道可のように主君の密命を帯びて秀頼に加担した例は他にない。
 このように、毛利輝元の人物像は、非常に野心に満ちたものといえる。
 関ヶ原合戦で、仮に西軍が勝ったとしても、秀吉が健在だったころの豊臣家を唯一の武家頂点とする国家体制が復活したとは考えられない。西の毛利、北の上杉に加え、宇喜多や島津、佐竹などが地域国家として分立し、形式上の最高指導者である秀頼の下、石田三成ら豊臣奉行人と地域国家指導者との合議によって、日本全体の国家を運営していくという複合国家体制が成立していたであろう。
 なーるほど、そうなんでしょうね……。
 私は関ヶ原の古戦場跡には2回行ったことがあります。徳川家康は決して自信満々で関ヶ原決戦にのぞんだのではないことを知って、現場で感慨を深くしました。知れば知るほど歴史は面白くなります。
 
(2009年7月刊。1160円+税)

現代の傭兵たち

カテゴリー:アメリカ

著者 ロバート・ヤング・ペルトン、 出版 原書房
 イラクで2006年春までに死亡した民間軍事要員は314人と発表されている。しかし、民間軍事要員の死亡がすべて報道されているわけではない。アメリカ政府もイラク政府も、死亡した民間軍事要員の数を公式に数えていない。それも当然で、交戦地域で現在稼働している民間警備会社の数も、その社員の数も把握していないからだ。
2006年春、イラク政府だけでも、730個の身辺警護隊を必要としていた。イラク民間警備会社協会なる組織が設立されて、企業の合法化に取り組み、モグリの企業を取り締まる法案づくりを働きかけた。だが、イラク政府は民間請負会社を取り締まる能力も意思もなかった。
 武装した身辺警護隊で働いているイラク人のうち、1万4000人が未登録になっている。
 1万9120人の外国人警備員を加えると、合計3万3720人をこえる人間がイラクで殺しのライセンスを支えられていることになる。
 西洋人の警備要員が日常的にイラク人の車や車内に向けて弾丸を浴びせている。
 民間軍事要員による発砲事件で市民が死傷した重大事件400件を分析すると、バクダッドの民間警備要員は、この9ヶ月間で61台の車両に発砲した。そのなかで、相手が発砲や暴力、危険な行為で反撃してきた例は、たったの7件。そして、ほとんどのケースで、警備要員は事件の直後に現場から遁走している。警備要員は、年がら年中、人に向けて銃を撃っているが、死人やけが人が出たかどうか、いちいち止まって確かめたりはしない。
 2006年春の時点で、民間軍事(警備)要員がイラクで犯した罪で、告訴された例は一つもない。その一方、何百人という兵士が、軍の軽い規則違反から殺人にいたるまで、さまざまな罪で裁かれている。
 軍事要員の故意または不注意による市民に対する攻撃が、たまたま明るみになったとしても、どのような法的手段をつかって犯人の責任を追及するのかも定まっていない。
 交戦地域や高度危険地域での民間警備会社の台頭は、新種の民兵や武装した傭兵、警備要員や企業体を生み出した。彼らは攻撃されたら全力をあげて反撃するライセンスを与えられている。いわば、あいまいな法規制のもとで活動する傭兵階級予備軍だ。
 ロシア人が退くと、ジハードの戦士は職を失った。故国に帰った者もいたが、多くはアルカイダに加わるか、他のイスラム武装勢力とともに戦う道を選んだ。
治安の悪い場所で働き、殺しのライセンスを与えられるなどというと、ぞっとする人もいるだろう。ただ、これが病みつきになって、アドレナリンが体内を駆け巡るという人種もいる。雇用の水源が枯れあがったとき、現在、イラクで働いている何千人という警備要員のうち、どれだけの人間がふつうの市民生活に戻れるかは見当もつかない。
 警備事業は、既成の企業や政府の顧客のしがらみから解放されると、即座に物騒な方向に走り出すだろう。なにしろ、傭兵は、儲け第一主義の個人事業主なのだ。
 いやはや、とんだことです。イラクの「安定」は世界中に不幸をもたらす「不安定」につながりかねませんね。これもアメリカのイラク侵略によって引き起こされた悲惨な事態としか言いようがありません。今年11月、アメリカ軍はイラクから撤退するということです。遅きに失しました。しかし、今度はアフガニスタンへ進駐(増派)するといいます。ますます世界の不安定要因(危険)が増大してしまいます。
 
(2009年12月刊。2200円+税)

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