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職業・振り込め詐欺

カテゴリー:社会

著者 NHKスペシャル取材班、 出版 ディスカヴァー携書
 私も振り込め詐欺の被害にあった人の依頼を受けて回復に取り組んだことがあります。2日間で350万円を騙し取られてしまった。被害者は20代の独身女性でした。架空請求のハガキが来たのです。身に覚えのないことながら、何かしら不安にかられて電話したところ、「弁護士」が出てきて、「それは大変なことだ」と脅され、「弁護士」の指示どおりに「示談のため必要」と言われ、50代の母親に相談し、生命保険を解約してまでお金をつくって、2日間にわたって振り込んだのでした。
 親に相談してもストッパーにならず、かえって一緒にお金づくりに走ったという点でも驚きでした。父親(夫)だけは知りません。ばれたら深刻な家庭騒動になるのが必至なので、黙っておこうという合意が母と娘に成立しました。私は振込先の銀行(なぜか千葉と福岡でした)に連絡して引き出しを止めようとしたのですが、引き下ろされた後のことでした。結局、口座に残っていたのは1万円ほどです。着手金ゼロで始めましたので、実費としてそれを私がいただき、「終了」となりました。本当に残念でなりませんでした。
 警察は銀行口座を開設した人間、そして受け取りに来た人間をなぜ捕まえないのか。そこから手繰っていけば、騙し役の連中も捕まえられるはずだと思いました。
 この本を読むと、振り込め詐欺の手口は海外の電話まで使うというように極めて高度なテクニックが使われていること、そのため、警察も逮捕が難しいことを認識しました。
 一流大学を出た賢い若者たちが、IT技術なども駆使し、企業のウラ情報ネットワークもつかいこなしているというのです。ひどい話です。でも、でも、それにしても、警察には、もっと頑張って逮捕してもらう必要があります。
 振り込め詐欺グループの電話かけは、1日に200件~300件。ノルマは1日200万円。朝9時から夜9時まで、1日12時間、地方の年寄りに騙しの電話をかけ続ける。
 名簿は、東京の名簿屋から買う。1件あたり10~15円。2万人分だと、20~30万円。
 親の年齢は50代後半から60代後半まで。
 こっちからは絶対、名前は名乗らない。アポ電は、名簿を見て電話して、その親が騙されたか、騙されてないかを見極める。
 振り込め詐欺の拠点を、店舗という。ひと月に1~2億円を荒稼ぎするグループがある。騙すためのストーリーは多種多様。個人でアレンジもする。
 同じ人を2回だまし取るのをおかわりと呼ぶ。
電話をかける主要メンバーは、マンションのアジトにこもりきり、人目を徹底的に避ける。その代り、外で手足になって働く人間を雇う。
 出し子からお金を受け取るのは、デパートのトイレとかパチンコ屋のトイレとか、人目に付かないトイレで受け渡しする。出し子をマンション(アジト)へ入れることは絶対にしない。出し子は仲間じゃない。コマだ。いざとなれば切ってしまう。お金を引き出すとき、出し子は帽子をかぶりメガネを掛ける。サングラスは逆に怪しまれる。大きめのアメを2つ口に入れて、銀行ATMの前に並ぶ。顔が変わって見える。
 飛ばしの携帯とは、他人名義の携帯電話のこと。ケータイを使うのは1回きり。不況のなか、1万ほどの報酬で名義を売る人間は大勢いる。
 それまで犯罪に縁のなかった若者が、一攫千金をもくろんで振り込め詐欺にかかわっている。彼等は、世の中がこんなに理不尽なら、オレが復讐してやろうと考えている。
 一生懸命にがんばってきた。なのに社会に裏切られた。だったら、社会に復讐してやるんだと、高言している友人がいる。
 振り込め詐欺の被害者はのべ10万人を超える。
 振り込め詐欺犯たちが容易に捕まらない現状は改められなければなりません。被害者が、息子からオレをそんなに信用できないのかとののしられ、その後、親子関係が断絶したという話もあります。二次被害も深刻です。
 
(2009年10月刊。1000円+税)

大搾取

カテゴリー:アメリカ

著者 スティーブン・グリーンハウス、 出版 文芸春秋
 アメリカでは、毎年、4年制の大学に行く資格のあるハイスクール卒業生の40万人以上が、経済的な理由から進学をあきらめている。そのうち、20万人は2年制の短大に行くが、17万人は大学教育をまったく受けない。その結果、10年間で400万人以上のハイスクール卒業生が4年制の大学への入学資格を持ちながら入学できていない。
 法律事務所のなかには、25歳の一流法科大学院出身者の初任給が年16万ドル(1600万円)というところもある。退職者の医療保険給付を削減しながら、その一方で、重役たちに対しては、途方もない高額の退職後医療保険給付をおしみなく与えている。役員のための「補足」年金制度を別に設け、しばしば平均的従業員の賃金の40倍という年金を与えている。
 多くの企業の取締役会では、CEOの友人が役員報酬決定委員会の委員におさまり、年金をCEOの報酬を増やす手口の一つとみなしている。
 アメリカ人材派遣協会によれば、1982年に98万人だった派遣労働者は今日では300万人にまでふくれあがっている。マイクロソフトのような一流の巨大企業でさえ、派遣社員は全従業員の20%を超える。
 人材派遣業は、1975年の年商10億ドルから、今や720億ドル産業へと急成長した。今やアメリカの臨時雇用労働者は800万人に達する。正規雇用労働者の64%が、雇用主の提供する医療保険に入っているが、派遣労働者は9%しか入っていない。
 ウォルマートが医療保険を提供しているのは、従業員の50%にすぎない。
 ウォルマートが地域に参入してくると、その地域の賃金水準が低くなる。
 ウォルマートの経営者だったサム・ウォルトンは、合計資産が800億ドルを超え、世界一の富豪であり、その相続人が年に30億ドルを寄付してウォルマートの従業員のためにすばらしい医療保険制度をつくるくらい、わけもないはずだ。
ホントですね。でも、決してそんなことしないんですよね。金持ちはケチですから。
 労働組合に加入している労働者のほうが間違いなく経済的に優遇されている。組合のおかげで労働者の賃金は平均20%引き上げられ、医療保険その他の福利厚生を加えれば、総収入で28%も上がっている。組合に加盟している工場は、労働者一人当たりの生産性も高い。
 アメリカ人が今ほど借金まみれになったことは、かつてなかった。
 底辺から5分の2の世帯では、4分の1近くが月の収入の少なくとも40%を借金返済に充てている。まじめに働けば、その報いとしてまともな暮らしが送れる。日々、正直に働けば、家族に十分な衣食住を与えられるというアメリカの約束は、破られてしまった。
 社会は、労働者や労働者が抱えている問題について、もっと関心を払わなければならない。見えないことが無視につながり、逆に関心は尊重につながる。
 日本は、アメリカ社会のようになってはいけない、つくづくそのように思わせる本です。
 
(2009年6月刊。2095円+税)

つながる脳

カテゴリー:人間

著者 藤井 直敬、 出版 NTT出版
 人間の脳について、また新しい知見を得ました。こうやって学問の進歩を実感できるのも、うれしいことです。
 ヒトがユニークでおもしろいのは、複雑な社会を操作してうまく泳ぐことにある。その場の空気に合わせた振る舞いを、脳は実現できる。
 私も、たまに大勢の人の前で話す必要があります。そんなとき、あらかじめこれは言おうと考えてはいるのです。でも、その場になって、私を注視している人の顔を見て、それこそ当意即妙に自分でも思わぬ言葉を紡ぎだすことがしばしばです。潜在意識が働き、その場の空気を読んで、こう言ったらいいんだと、脳のなかの言語中枢に何かが指令するのです。実に不可思議なことですが、しばしば、そういうことが現実に起きています。
 ですから、マイクを握って話すときには、事前に原稿を用意することは多いのですが、原稿どおりに話したことがありません。ただ、私の特技は、自分で話した内容をあとで文書に書き起こすことができるということです。もっとも、そんなことは滅多にしません。これは、大学生時代に全身全霊をかけて打ち込んでいたセツルメント活動で身につけたものです。
 お互いに、見知らぬサルを向かい合って座らせてみる実験が紹介されています。
 どちらのサルも、相手を見ようとしない。完全に無視しあう。面白いことに、無視し合っているのに、相手の顔の辺りにはほとんど視線を向けない。つまり、相手の存在を分かった上で、相手が何をしようが気にとめないという態度をとる。
 この2頭のサルの中間にリンゴを置くと、どうなるか。2日か3日のうちに、この2頭のうち、どちらかのサルがリンゴを取るようになり、もう1頭は手を伸ばさなくなる。つまり、抑制こそが社会性の基本なのである。衝動を我慢することは、ヒトが生きていくうえでとても重要なことなのである。ふむふむ、なるほど、なるほど、ですね。でも、なかなか我慢できないことって世の中には多いですよね。
 基本的に、サルはヒトのような協調行動を自発的に起こすことはない。
 グルーミングはサルの生得的な行動の一つである。人間の白衣の裾が少し破れて毛羽立っていると、それを見たサルはグルーミング行動を始める。
 賢いサルの眼は、そうでないサルと比べて眼が違う。本当に賢いのは、上位のサルではなく、苦労している下位のサルの方なのである。
 人間の脳は、その内部に非常に複雑なつながり構造をもつ情報ネットワークシステムである。しかも、そのネットワークは、脳単位で閉じていない。脳は、常に社会や環境とつながりを持ち、そのつながりの中で働いている。つまり、神経細胞同士、友だち同士、国と国の間まで、そのすべてが異なる種類の多層的ネットワーク構造を介してつながっている。そのような「つながる脳」の仕組みを理解することは、脳だけでなく、脳が作っている社会の仕組みを理解することにもつながっている。
 大変面白く、分かりやすい、脳についてのまじめな本でした。
 すっかり春めいた陽射しとなりました。早くもメジロが飛び交っています。ウグイス色で、目の周りが白くて、まさに目白です。チッチッチっと可愛い泣き声で来たことを知らせます。桜の木の枝にミカンを半分に切ってさしてやると、すぐについばみにやってきます。
 先日から膝が痛くて、びっこをひいて歩いています。外科医に診てもらったところ、老化現象による関節炎だと言われてしまいました。膝の関節のところにあるホネって、老化すると摩耗するのではなく、部分的にとがってしまうのですね。初めて知りました。それが無用に刺激して痛みます。じっとしていたらなんともなく、夜もぐっすり眠れますので、仕事にあまり支障はありません。それでも室内をちょっと歩いただけでも痛いので、悲鳴をあげています。
 ヒアルロン酸を関節内に注射してもらいました。とても痛くて泣きたい気持ちでした。
  
(2009年11月刊。2200円+税)

合戦の文化史

カテゴリー:日本史(古代史)

著者 二木 謙一、 出版 講談社学術文庫
 日本には、いわゆる青銅器時代はない。木・石器から、いきなり青銅・鉄器がほとんど同時にもたらされ、その後も、超スピードで鉄器時代へと進んだ。
 刃が両側についている両刃の武器を剣、片刃のものを刀と区別している。甲はヨロイ、冑はカブト。平安期以降は、鎧、兜の字をあて、上代の遺品については甲冑を用いて区別している。
 日本原産の馬は、木曾馬や道産子馬のように小型であったため、乗用としては適さなかった。6世紀ごろになって、大陸や朝鮮半島との交流のなかで騎乗に適した良種の馬がもたらされ、騎馬による戦闘が各地にあらわれた。
6世紀から8世紀にかけて、日本をとりまく東アジアの情勢は、今日の日本人には想像もできないほど緊迫した状況にあった。
 6世紀前半には、日本は伽耶諸国(任那)や百済を支援して高句麗に対抗したこともあったが、6世紀後半には、朝鮮半島から手を引いた。
 日本国内は、継体天皇以降、皇位をめぐって凄惨な争いが繰り返されていた。
 奈良時代の日本の人口は800万人。そのころ、総兵力は12万9000人と想定されている。きびしい徴兵制度がとられていた。1軍団は1000人ほど。国には3ないし4つの軍団があった。
 日本の宮廷親衛隊の多くは農民からの徴兵によるものだった。天皇から軍事指揮権の象徴である節刀(せっとう)を受けて、臨時に任命される征夷大将軍が衛府や軍団の集合軍を指揮して軍事行動を行った。1万人以上を大軍と称した。
大臣(おおおみ)、大連(おおむらじ)らの古代豪族の系譜を引く有力氏族の力を無視できない天皇の地位は、中国の皇帝とは大違いであった。今日の『象徴天皇』と同じようなものである。
 日本史の古代より明治期までの軍事史を、ざっと見る思いのする本ですが、知らないことがたくさんありました。
(2008年3月刊。960円+税)

超訳 古事記

カテゴリー:日本史(古代史)

著者 鎌田 東二、 出版 ミシマ社
 うひゃあ、こ、こんな本の作り方があるなんて……。信じられませんよ。畳に寝そべって話す人がいて、それを聴きとる人がいて、そうやって本を作ったというのです。
 バリバリと雷鳴が轟き、ピカピカと稲妻が走り、激しい雨音がザアーッと地面を打ち続けているなか、寝そべって話したんだそうです。それも、目をつぶって、なのです。もちろん、参考文献も何も持たず、ひたすら記憶とイメージを頼りに、心の中に浮かんでくる言葉の浮き出るままに語り、録音していったのです。さすがに学者ですね。大したものです。
 この本は、「古事記」の上巻の神話を口語に訳したものです。そして、原文に沿った通語訳ではありません。「古事記」自体が古くからの口承伝承にもとづいているので、それにもとづいてつくったというのです。
 私は、過去、何度も「古事記」に挑戦しましたが、思うように理解できませんでした。今度の本は、リズム感もあり、なるほど、こういう内容の本だったのかと、すんなり腑に落ちてくれました。とても面白い本です。
 
(2009年11月刊。1600円+税)

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