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発禁『中国農民調査』抹殺裁判

カテゴリー:中国

著者:陳 桂棣・春桃、出版社:朝日新聞出版
 2003年に出版された『中国農民調査』は中国の内外で大きな話題を呼び、このコーナーでも紹介したと思います。
 この本は、その本が裁判で訴えられた顛末が紹介されていますが、まさしく中国の司法の寒々とした実情が実感をもって語り伝えられています。この本を読む限り、まだまだ中国は法治国家というより人治国家のようです。
 『中国農民調査』は2004年2月、中国政府から発禁措置を受けた。そして、この本で実名をあげた安徽省の党書記から、名誉毀損として訴えられた。
 2004年1月9日、裁判官2人が著者の家を予告なしで訪問した。
 ええーっ、裁判官が予告なしで被告宅に訪問するなんて・・・。日本では、まったく考えられないことです。
 訴状を送達するためのようです。この訴状は、本の出版を停止せよ、謝罪して慰謝料20万元(260万円)を支払えというものでした。
 原告は党書記、そしてその息子が裁判官になっています。そんなところで裁判を受けるわけにはいきません。まずは弁護士探し。幸い、ボランティアでやってくれるという弁護士が見つかりました。
 中国の地方行政が腐敗しているのは有名だが、この阜陽市は、なかでももっとも深刻なところ。なにしろ、市党委員会の元書記は、収賄と官職売買で死刑を執行された。その後、2ヶ月足らずで、160人もの問題幹部が発覚した。
 裁判が始まった。原告側の弁護士は自分の机の上に山ほどの証拠書類を積み上げたものの、被告への提出を拒んだ。コピー代がかさむからという理由だ。にもかかわらず、裁判所はいきなり原告側が連れてきた証人を調べようとする。忙しい指導幹部だから・・・。なんということでしょうか、まったく信じられませんね。
 そして、裁判長は公開を原則とする法廷なのに、傍聴していた2人の記者について有無を言わさず退廷を命じたのです。
 20数年になる中国における法の普及教育を通じて、現在の中国で法的知識がもっとも欠けているのは一般市民ではなく、増長した党と政府の役人たちなのである。
 残念ながら、これではそうとしか言いようがありませんね・・・。
 4日間、合計35時間にわたる裁判が終わったのは夜10時。ところが、裁判所の正門に人々がぎっしりと待っていた。応援のために遠くから駆けつけてきた人々だった。これはすごいことです。
 でも、阜陽市裁判所の独自の審理権は上部の行政機関の強い関与を受けている。多くの司法間は供応あり、収賄を紹介しあい、裁判所内は、あからさまな「賄賂の取引市場」になっていた。そこは、「お役所の門は開けても、お金のない者は入るべからず」であっただけでなく、大胆不敵な汚職司法官たちは、「訴訟ごろ」の弁護士や「訴訟屋」たちと結託して、大きなブラック・ネットワークをつくっていた。法をその手に握る彼らは、飲む打つ買うのやりたい放題、天をもあざむく非道のかぎりを尽くした。
 たとえば、重罪を犯した男を仮釈放し、その妻に土地を売らせて数千元を受けとり、そのうえ自分のオフィスで妻を強姦した。
 20数年のキャリアのあるベテラン司法官は、職位を利用して、少なくとも6人の当事者の親族と肉体関係を結び、その中には、多数の少女を強姦・輪姦した凶悪犯を逃がしてやるとして、その母親と関係に及んだ事実もあった。
 阜陽市裁判所の歴代所長3人が汚職取り締まり捜査で摘発され、起訴された。
 なんということでしょう・・・。
 中国では、全国人民代表大会を最高国家権力機関とし、権力分立を否定する体制をとっている。そこで、裁判官が裁判において憲法を根拠に国家公権力の行使を抑制することを認めていない。
 なかなか中国の前途も多難だと思いました。
(2009年10月刊。2800円+税)

ニッポンの刑務所

カテゴリー:司法

 著者 外山 ひとみ 、講談社現代新書 出版 
 
日本全国に77の刑務所があり、6万2756人(2009年末)の受刑者が収容されている。未決をふくめると7万5250人、少年院や少年鑑別所などを入れると8万456人となる。
刑事施設の収容人員のピークは2006年で、このとき未決をふくめて8万1255人、既決だけだと7万1408人だった。2008年から既決の収容率は97.6%と100%を下回るようになった。
執行刑期8年以上の長期受刑者が2003年から増加している。1998年から2008年の10年間で、3113人から6529人へと2倍以上に増えた。
 女子施設については、まだ過剰収容は深刻で、2009年末でも平均収容率が既決で114%を超えている。女子受刑者は、1974年に811人だったのが、2009年末の既決収容者は4348人となっている。収容率は114%だ。
外国人の受刑者の比率は、中国人が39%、ブラジル人とベトナム人がそれぞれ10%、韓国人とイラン人もそれぞれ9%の順になっている。外国人の受刑者が増大した原因は、日本が不況になって、彼らの仕事がなくなったから。
 外国人受刑者は、塀の中から母国へ電話をかけて話すことが認められている。1000円のテレフォンカードでイランだと13分、中国だと23分間話すことが出来る。法務官が電話をかけ、相手を確認してから受刑者と替わる。別室で会話は傍受されている。
横浜刑務所の受刑者の平均年齢は49歳、平均入所数5.1回、最多は60代の26回目の服役。最高齢は87歳。罪名は窃盗32%、覚せい剤26%。この二つで6割を占める。
 高齢者が急速に増えている。60代以上の受刑者は、2001年に12.4%だったのが、2008年には24%となった。
 寮から工場へ移動するとき、受刑者が整列し、刑務官が自ら大号令をかけて引率する「行進」はなくなった。この進行については自主性を損なうものとして批判がありました。
 30%の再犯者によって60%の犯罪が行われている。65歳以上の高齢者では、2年以内に再犯を犯すのが4分の3、1年以内が半数。55歳以上では半数、20代前半では47%が2年以内に罪を犯している。
 したがって、30%の再犯者にストップをかければ、犯罪も大きく減ることになる。この再犯防止のためには、教育と出所の受け皿、つまり帰る場所と仕事があることが重要である。
 山口県美祢にある社会復帰促進センターでは、国の職員123人に対して、民間220人、非常勤をふくめて男女520人が働いている。ここに受刑者の定員は男女各500人に対して、実際には男性281人、女性310人が入所している。美祢センターは全国はじめての男女合同施設である。収容者には高学歴の人が多く、21%が大学の中退以上。
過剰収容で収容率130%になっても暴動が起きない。刑務官が丸腰でも襲われない。これは日本人のいいところだ。そうなんですね。阪神大震災のときに暴動がなくて、世界から注目されましたよね。
刑務官の待遇改善と増員なしには再犯は減らせないと私は思います。ギスギスした人間関係から犯罪は生まれるのです。日本の刑務所を取り巻く状況を概観することのできる本として一読をおすすめします。 
(2010年3月刊。800円+税)

出口のない夢

カテゴリー:アフリカ

著者:クラウス・ブリンクボイマー、出版社:新曜社
 まず、鉄砲がアフリカにやって来た。その後、ムスリムとキリスト教徒の宣教活動が始まった。そうしてアフリカで奴隷制度が始まった。組織的な人さらいの時代が400年も続いた。アフリカ大陸の歴史の暗黒部分の下手人がヨーロッパ人であったことは間違いない。
 だが、アフリカ人も、これに手を貸していた。西アフリカの諸部族は相戦っており、勝者となった族長たちは、敗者の戦士を白人に売っていた。敗者の数が十分でなく、捕虜が足りないときには族長は自身の部族民も売った。族長は兵士に村々を襲撃させ、部族民の小屋から息子や娘を連れ出した。奴隷市場で売りに出すため、つまりは族長の富を増やすためだった。多くの奴隷と交換に多くの武器が手に入った。その武器で、さらに多くの奴隷を捕らえることができた。
 奴隷制の歴史は、アフリカの歴史の核心部分をなす。トータルで6000万人の人間が絶え間なく消滅し、死亡した。火器と王たちに対する恐怖と無力感。これが記憶に刻み込まれ、それが部族を変え、民族を変え、大陸全体を変える。それは自画像も、イメージも変える。
 アフリカのイメージ・・・?
 取り残されて腑抜けの卑屈で追従的、迷信深くて怠惰、不潔で原始的。
 アフリカ大陸は、しばしばこのように見られ、記述され、扱われている。植民地を経営する国々は、アフリカには自己管理能力が欠如しているという理由をつけて植民地政策を正当化する。
 アフリカは一族郎党(クラン)の大陸だ。成功を収めた者は、分かち与えなければならない。単独であることは、アフリカでは天罰を受けるふるまいであり、呪詛を意味する。一方、集団は聖なるものだ。それは、たとえば、100ドルを稼いだ者は、50ドルを誰かに分け与えることを意味する。ここらは、日本人とかなり異なった感覚ですよね。
 ビッグ・マンという概念は、アフリカの全能の支配者。つまり諸部族の有力者、神々、虐待者をさす言葉だ。モブツ、アシン、ボカサ、ドウ、セラシェたちは、ビッグ・マンの系譜に連なる名前だ。彼らは、誇大妄想を体現する権力の象徴的人物であり、彼らの本質的な目的は、自分自身を維持することにあった。
 ハンセン病は、今日なおナイジェリアの国民的な病気であり、毎年、数千人が罹病する。その理由は、薬がないからだ。抗生物質を用いれば、ハンセン病はきわめて容易に治癒可能な病気である。
 今日、ナイジェリアは、娘たちを輸出している。少女たちは13歳か14歳だ。胸がふくらみ始めると、彼女たちは商品になる。そうなると、彼女たちは、家を、部落を、そして国を出ていかなければならない。ここでは、誰もが、それを知っているし、あまりに多くの者たちが同じことをする。
 アルジェリアは、1992年に内戦が始まり、7000人が行方不明、12万人ないし20万人が死亡した。そして今日、アルジェリアは、30以上の政党を有する民主主義国家だが、実際には、相変わらず軍事独裁国家である。
 リベリアでは、テーラー大統領による7年にわたる戦争で20万人が死んだ。テーラーは、ダイヤモンド、生ゴム、木材を売った収入で少年兵たちのための武器の購入費用に充て、残りは外国の銀行口座にためこんだ。税収およびダイヤモンド、木材取引による収入の7000万ドルから1億ドルをテーラーは自分の懐に入れた。テーラーの資産は30億ドルに上った。2006年春、テーラーはナイジェリアで逮捕され、シエラレオネに引き渡された。戦争犯罪人として裁かれる。
 ヨーロッパにおいて、1990年から2000年にかけて人口増加の89%は移民によるもの。2010年以降には100%になる。移民がなければ、ヨーロッパ大陸の人口は、この5年間に440万人減少していたはず。
 移民は、2004年に、銀行を介して1500億ドルを故国に送金した。別のルートによる送金額は3000億ドルと推定されている。
 なんと、日本にも1000万人の移民を受け入れる構想を自民党の政策チームがまとめて福田首相(当時)に提出したそうです。
 日本の人口は現在、1億2700万人ですが、50年後には、9000万人を割り込み、100年後には4000万人台になるという予測を立てて、今後50年間に1000万人の移民を受け入れて1億人の人口を維持しようという構想です。しかし、こんな議論はまったくされたことがありませんよね。
 アフリカで起きていることは、決して他人事(ひとごと)ではありません。
(2010年4月刊。3200円+税)

人間らしさとはなにか?

カテゴリー:人間

著者:マイケル・S・ガザニガ、出版社:インターシフト
 脳が人間の思考と行動をどう司っているのかは、いまだによく分かっていない。数ある未解明の問題のうちには、思考がどのように無意識の深みから抜け出して意識に上るのかという大きな謎がある。
 本当にそうなんですよね。私たちの毎日の生活のなかでは、意識されてはいないけれど潜在的意識が実際の行動にとても影響をもっているということがよくありますよね。たとえば、人前で話すときに意識のなかったことが、当意即妙で話すことがあります。こんなとき、自分のなかにもう一人の自分がいると実感します。このように、人間という存在は、意識にのぼっているところだけではとらえきれないものだと私はつくづく思います。
 左脳が知性を司る半球だ。話し、考え、仮設を立てる。右脳は、そういうことはしないが、左脳より優れた技能をもつ、とりわけ視覚的知覚の領域で秀でている。
 左脳は、右脳の670グラムと縁を切っても、分離される前と同じ程度の認知能力を維持する。脳の賢さの所以は、単なる大きさにとどまらない。つまり、左半球には知覚機能で著しく劣る点があり、右半球は認知機能にさらに顕著な欠点がある。
 脳の左半球は、事象を解釈せずにはいられない。右半球には、そんな傾向はない。
 二つの脳半球は、二つの違った方法で問題解決の状況にのぞむ。右半球は、単純な頻度の情報にもとづいて判断を下すのに対して、左半球は、手の込んだ仮設を立ててそれを拠りどころにする。
 脳は、生まれたときは、成人のたった23%の大きさしかなく、成人に達するまで拡大し続ける。人間の脳の一部は生涯を通して成長を続ける。それは新しいニューロンが加わるというのではなく、ニューロンを取り囲むミエリン鞘が成長を続けるということ。
 観察から分かっているチンパンジーの社会集団の大きさは55匹である。人間の大脳皮質の大きさから割り出した社会集団の大きさは150人。今日、狩猟採集部族の典型的な規模は、一年に一度だけ伝統行事のために集結する同族集団において150人だ。
 人間は、組織階層なしに統制できるのは150~200人であることが分かっている。
 人間の会話の中身の3分の2は、自分に関する打ち明け話であることが判明している。
 他愛もない話を分析した学者がいるのですね。
 赤ん坊は、生まれてまもないときから、何よりも顔を見たがる。生後7ヶ月を過ぎると、特定の表情に正しく反応しはじめる。顔知覚は、社会的相互行為を円滑にすすめるために膨大な情報を提供する。ただし、顔を識別できるのは、人間だけではない。チンパンジーやアカゲザルにもできる。
 チンパンジー、ボノボ、人間など、多くの種では、大人も遊ぶ。いったい、なぜか?
 大人は、もう練習の必要はないのに、なぜ遊ぶのだろう。そうなんですよね・・・。
 社会的であることを理解するのは、人間というものを理解するための基本だ。イスラエルのキブツでは、血のつながりのない子どもたちが一緒に育てられる。彼らは、生涯代わらぬ友情を育むが、お互いに結婚することはめったにない。
 人間の脳は多くの点でコンピューターとは異なっている。脳の回路はコンピューターよりも遅いが、超並列処理をする。脳は100兆個のニューロン接続をもっている。これは従来のコンピューターよりも多い。
 脳は、常に自らの配線を直し、自己組織化している。
 脳は、創発的特性を利用する。つまり、行動は、カオスと複雑さのかなり予測の難しい結果だ。
 生後8ヶ月の赤ん坊の、発達過程にある脳は、ランダムなシナプスを多く形成する。そして、現実世界をもっともうまく説明できる接続パターンが生き残る。結果として、大人のシナプスは、幼児よりも、はるかに少ない。
 脳は分散型のネットワークだ。指令を下す指揮官も中央処理装置もない。脳は密接に接続してもいるので、情報の通り道は、そのネットワークの中にたくさんある。
 脳全体の仕組みは、ニューロンの仕組みよりも単純だ。
 人間と脳について深く考えさせてくれる面白い本でした。
(2010年3月刊。3600円+税)

新・雨月

カテゴリー:日本史(江戸)

船戸 与一  著 、徳間書店 出版 
 江戸時代最後、幕末の日本の状況を実感させてくれる貴重な小説だと思いました。
  明治維新というのは、幾多の多大なる犠牲なしには実現しなかったのです。
明治維新に反抗したのが、たとえ後世になって「反動」と呼ばれようとも、薩摩や長州勢の言いなりにはならないという日本人も多かったのではないでしょうか。そして、新政府をかたちづくった薩長土肥その他の内部にも、また皇族や公じ家の中にも大いなる矛盾と激しい抗争が存在しました。
 この本は、その点を多面的な角度から描こうとした意欲的な小説です。私も、こんな本を1968年の「大学紛争」について小説として書いてみたいと思ったことでした。
 上巻1冊で500項もある大作です。かなり強引な飛ばし読みをしましたが、それでも丸2日間、3時間はたっぷりかかってしまいました。それだけ読みごたえのある本なのです。
 よく調べて書かれていますので、幕末から明治維新にかけての日本各地の雰囲気を知りたい人には絶好の本だと思いました。
(2010年3月刊。1900円+税)

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