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孫の力

カテゴリー:人間

 著者 島 泰三、  出版 中公新書
 
 私は、著者の本のうち『安田講堂』を除いて、とても良い本だと、いつも感嘆しながら読んでいます。さすが、サル学とりわけアイアイの権威だと思うばかりです。そんな動物学の権威が人間、それも自分の孫をじっくり観察したとき、どう評価するのか、とても興味があります。
 私自身は、残念なことに子ども3人がいずれも独身であり、まだ孫はいませんので、観察のしようがありません。それにしても、孫はかわいいとよく言いますが、著者はほんとうにもうメロメロ状態です。これでまともな観察記になるのだろうかと、そんな心配をするほどです。まあ、それでも、面白く読ませるところは、さすがに年の功ですね。
 生まれたての赤ん坊は、決してかわいくなんかない。
 実際、私も、我が子を初めてみたときには、そう思いましたね。でも、もちろん、やがて可愛くなってくるのですから不思議です。
赤ん坊の始めてのほほえみには、驚くほどの広さ、深さ、豊かさと、それらを越える衝撃的ななにものかがある。赤ん坊のはじめての頬笑みは、「わたしの喜びはあなたの献身から生まれたのだから、私はあなたへ同じ喜びで必ず報いる」と語る。いやはや、これはまったくそのとおりです。うまく言葉にしたものだと賛嘆しました。
 人は、されたことをするようになる。水を飲ませる。おしめを替える。むずがれば抱き上げる。赤ん坊を扱うのは、心を配る仕事でもある。この時期のことを、赤ん坊は決して覚えていない。覚えているのは、自分が物心がついた字だからなので、あたかも自分は一人で生きてきたかのように思い、ひとにもそう語ることになる。しかし、そうでないことは、自分の子どもが生まれたとき、痛いほど分かることになる。うひゃあ、そうでしょうね……。
 生まれてきた赤ん坊は、胎内のときと同じ程の活発さで脳をつくるから、大量の酸素が必要になる。赤ん坊の脳は体全体が要する酸素量のほぼ半分を使う。つまり、赤ん坊はあくびを繰り返して脳をつくる大量の酸素を補給している。
 ほかの動物と違って、人間の脳は生まれてから発達する。半年で倍に、2歳までに誕生したときの3倍になり、4歳までに4倍になる。
 赤ん坊はまず見知った顔を見分け、その顔に執着し、次に知らない顔に恐怖を示すという順繰りの過程をたどる。
孫が1歳7カ月のとき、言葉を覚える過程、言葉を発する過程がこれほどゆっくりしたものだとは思わなかった。このように著者は書いています。
 2歳前後の子どもほどかわいいものはない。開き始めた花が春風にそよぐように、産まれたばかりの心がどんなものにも反応して、はずんでいる様子は、どこから見てもほほえましい。
 1歳半あたりから、子どもは、それまで見たこともない深い感情表現を示すようになる。それが、両親をさらに子煩悩にする。祖父母には、これまで経験したこともない喜びをもたらす。孫は、祖父母が自分を愛しているひとだと認めている。その感覚は、非常に強く、姿を見ただけで飛んでくるほどだ。この不思議な感情の芽生えは、このときに始まる。それを生むのは、お互いがお互いなしには生きていけないと思うほどの相互関係の感情である。
 ところが、やがて人は反抗することで人格を形成する厄介な動物なのである。
 孫が3歳になるころ、祖父母に出番がやってくる。友だちができるが、もめごとも起きる。自分では解決できないことが多くなってくる。3歳の子は、大人と対等だと思っている。
 新しいことをしたいという気持ちは、これまでの自分を越える行動をしたいということだ。
 なんと!人は日々、自分を越えようとする動物なのだ。
 孫の観察は、人間が作られていく過程をじっくり見極めるものだということがよくよく分かる、実に面白い本です。子、そして孫を持つ人にとって、必読文献だ、と思いました。
(2010年1月刊。780円+税)
 日曜日の午後、仏検(1級)を受けました。いつものことながら緊張しますし、我ながら不出来なのが残念です。予想問題集に取り組み、頭の中をフランス語モードに切り替えるよう努めたのですが、ボロボロと忘れていくことが多くて大変です。自己採点でなんとか4割の得点でした。フランス旅行の楽しみのための苦労と思って辛抱しています。

検察との闘い

カテゴリー:司法

 著者 三井 環 、創出版 
  
  元大阪高検公安部長が飲食代などの32万円の贈賄等の容疑で逮捕され、裁判にかけられて有罪(実刑判決)となり、1年あまり刑務所に入ってから自分の検察官人生を振り返った本です。
著者は、福岡高検の検事長にもなった加納駿亮氏を一生許せないと厳しく糾弾しています。現在は弁護士になっている加納氏を検察庁の諸悪の根源の一つだと言いたいようです。加納氏は福岡にもなじみのある人ですから、一度、加納氏の反論も聞いてみたいと思いました。
 著者は、自分が刑事事件となったのは、検察庁の裏金問題をマスコミに内部告発しようとしたからだと主張します。
 1999年に7億円あった検察庁の裏金(調査活動費)が、内部告発があって問題とされた翌2000年に5億円となり、今では7000万円台になっている。ところが、法務省全体の調査活動費は減っていない。つまり、検察庁のほうが減った分を公安調査庁など法務省の組織内で消化されているというわけです。
著者は懲戒免職処分され、もらえたはずの退職金7000円も受けとれず、弁護士資格もなく被選挙権さえ5年間ありません。
 たしかに、裏金問題を告発しようとしていたテレビ出演の3時間前に逮捕されたというのは、告発者の口封じのためとしか考えられませんよね。警察の裏金問題も、かなりあいまいな決着でしたが、検察庁の裏金については大問題になる前に幕引きとなった感があります。
 検事として、著者はかなりアクの強い、スゴ腕だったようです。こんな豪腕検事と法廷でぶつかりあわなくて良かったなと正直いって思いました。それはともかくとして、検察庁や警察の裏金問題の解明のために、引き続きがんばってほしいと思います。
(2010年5月刊。1400円+税)

「おたふく」

カテゴリー:日本史(江戸)

 著者 山本 一力 、日本経済新聞 出版 
すごいですね、うまいですね、ほとほと感嘆しながら、江戸時代の気分を満喫して読みすすめました。著者は同じ団塊世代ですが、この描写、ストーリー(筋立て)、なんとも言えない巧みさに、いつもいつも降参しまくりです。
ときは江戸時代、真面目で倹約家の定信が登場してくる寛政の世。そうです。寛政の改革というのを日本史で習いましたよね。
幕府はぜいたくは敵とばかり、徹底した倹約を大名から庶民に至るまで求めます。借金まみれの旗本、御家人の窮状を救うため、借金棒引きを命令します(棄損令)。
ところが、これまでの借金がなくなったのはいいとしても、次の借金がなくなってしまうと、生活が出来ない仕組みです。さあ、大変。世の中は大変な不況に見舞われてしまいます。
そのときに、地道な商売を見つけて、工夫しながら生き抜いていく商売人がいました。いつもながら無理のないストーリーです。読んでいるとホンワカ心があったかくなります。得がたい作家ですね。日経新聞の夕刊に連載されていました。でも、そのとき、私は読んでいませんでした。
(2010年4月刊。1800円+税)

検察との闘い

カテゴリー:司法

 著者 三井 環 、創出版 
  
  元大阪高検公安部長が飲食代などの32万円の贈賄等の容疑で逮捕され、裁判にかけられて有罪(実刑判決)となり、1年あまり刑務所に入ってから自分の検察官人生を振り返った本です。
著者は、福岡高検の検事長にもなった加納駿亮氏を一生許せないと厳しく糾弾しています。現在は弁護士になっている加納氏を検察庁の諸悪の根源の一つだと言いたいようです。加納氏は福岡にもなじみのある人ですから、一度、加納氏の反論も聞いてみたいと思いました。
 著者は、自分が刑事事件となったのは、検察庁の裏金問題をマスコミに内部告発しようとしたからだと主張します。
 1999年に7億円あった検察庁の裏金(調査活動費)が、内部告発があって問題とされた翌2000年に5億円となり、今では7000万円台になっている。ところが、法務省全体の調査活動費は減っていない。つまり、検察庁のほうが減った分を公安調査庁など法務省の組織内で消化されているというわけです。
著者は懲戒免職処分され、もらえたはずの退職金7000円も受けとれず、弁護士資格もなく被選挙権さえ5年間ありません。
 たしかに、裏金問題を告発しようとしていたテレビ出演の3時間前に逮捕されたというのは、告発者の口封じのためとしか考えられませんよね。警察の裏金問題も、かなりあいまいな決着でしたが、検察庁の裏金については大問題になる前に幕引きとなった感があります。
 検事として、著者はかなりアクの強い、スゴ腕だったようです。こんな豪腕検事と法廷でぶつかりあわなくて良かったなと正直いって思いました。それはともかくとして、検察庁や警察の裏金問題の解明のために、引き続きがんばってほしいと思います。
(2010年5月刊。1400円+税)

北朝鮮を見る、聞く、歩く

カテゴリー:朝鮮・韓国

著者:吉田康彦、出版社:平凡社新書
 人口2400万人の北朝鮮に10回訪問した日本人の体験記です。上すべりの見聞記ではないかと思いつつも、うへーっと、驚くことがありました。
 北朝鮮では牛肉は高価なぜいたく品で、庶民に人気があるのは安価で栄養価の高いアヒルとガチョウを食べる。生育が早く、容易に入手できるからだ。そして、犬料理も大人気だ。
 北のキムチは赤くない。北朝鮮では、コーヒーはぜいたく品。
 北朝鮮の食糧危機は深刻で、穀物生産量が需要に追いつかない。
 北朝鮮は、本来、映画王国である。年間40本前後をつくる。映画が全国民にもっとも人気のある大衆娯楽である。北朝鮮はアニメ映画づくりも盛んで、輸出産業の花形になっている。ただし、日本から北朝鮮に直接発注はできないので、韓国経由となっている。うへーっ、そ、そうなんですか・・・。
 北朝鮮では、皆すぐに歌をうたい踊り出す。歌も踊りも指導者に対する忠誠心の表現に化ける。
 平壌はサーカス劇場が二つあり、いつもにぎわっている。サーカス団員の地位は高く、平壌サーカス学院という専門学校まである。平壌には、サーカス団が4つあり、団員の総勢は300人。朝鮮人民軍の中にもサーカス部隊があり、専用の人民軍サーカス劇場がある。サーカス団員は人民軍兵士を除いて、文化省所属の公務員であり、文化芸術家として尊敬を集めている。
 北朝鮮のマスゲームは外貨獲得の有力な手段として観光名物ともなっているので、金正日自らますます力を入れている。動員規模も5万人になる。
 切手も北朝鮮自慢の文化である。北朝鮮では、ごく限られたエリートを除いて、インターネットにも外国の放送にもアクセスできない。
 ケータイは、一度禁止されたが、2009年から平壌市内で再開して急速に普及している。国際通話は原則としてできない。
 北朝鮮はレアメタルの宝庫であり、ほとんどが未開発状態にある。この北朝鮮のレアメタル開発で先んじているのは中国企業である。
 一般人民が外国放送を聴くことはきびしく禁じられており、国内で販売される受信機には、外国の放送は一切入らない。国外から持ち込むラジオは、周波数を国内放送の位置に固定したものだけが販売を許可される。
 自動車は少ないので、いつも道路はガラガラ、交通信号はない。人口2400万人の全土に3万台の車しかなく、そのほとんどは党・政府の幹部と軍・企業用で、個人用はない。しかも、ガソリン代がバカ高く、日本と同じ。一人あたりの国民所得は日本の100分の1だから、ガソリンの高さが分かる。
 地下鉄の駅は、緊急避難用のシェルターとして設計されているので、地中深く掘られ、頑丈な大理石と花崗岩で造営されている。
 こんな国には住みたくありませんね。まさしく前近代的な超独裁国家です。
 私も若いころは少々の憧れを抱いていたのですが・・・。現実を知るにつけ、おぞましさばかりを感じます。
(2009年12月刊。800円+税)

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