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動物たちの地球大移動

カテゴリー:生物

著者 ベン・ホアー 、  悠書館  出版 
 
この本を読むと、地球って広いようで意外に狭いものなんだなと思わせます。だって、キョクアジサシという小鳥は、毎年4万キロメートルもの往復旅行をするっていうんですよ。1年のうちに、北極と南極の夏を両方とも経験する固体がいるというのです。そ、そんな馬鹿な。うひゃあ、し、信じられません・・・・。同じような小鳥が他にもたくさんいるのです。
スグロアメリカムシクイは高度5000メートルを飛んで、カナダなどから越冬地の南アメリカへ片道4000~8000キロメートルを渡る。高いところを飛ぶのは、順風をえるため。そして、胸筋が酷使されてオーバーヒートしないように冷気で冷やすため。この旅に備えて、旅行前にせっせと食べるから普段は11グラムの体重が20グラムまで増える。この余分な脂肪は、旅のあいだに燃焼し尽くされる。うへーっ、そうなんですね。
 ご存知のツバメも、もちろん渡り鳥ですが、すでに紀元前4世紀にアリストテレスが渡り鳥だと確認したのだそうです。どうやって確認したのでしょうか。中世ヨーロッパでは、ツバメは泥のなかで冬眠していると思われていたというのです。ツバメは北欧からアフリカ南部まで10週間かけている。平均すると一日150キロメートルだが、実はツバメはしばらく休んでは発作的に進むことを繰り返す。ただし、春になって北へ向かうときには子育てが待っているので、約2倍の速さで北進し、同じコースを5~6週間で着く。これもすごいですよね。
 小鳥よりももっと小さい蝶も大移動します。たとえば、今や有名なオオカバマダラです。
オオカバマダラは、最大4750キロメートルも飛行する。無風状態では1000キロメートルを休まずに自力移動できる。数千万頭から成る蝶の群れが飛んでいく様子はオレンジ色の流れとなる。一日に130キロメートルすすむ。
 学者は、このような大移動を調べるため、たとえば体重1,5グラムのギンヤンマ(トンボ)になんと300ミリグラムの電子追跡装置をトンボの胸部下面に取り付けるというのです。すごい技術ですよね。
 海中にいるもヨシキリザメもすごいですよ。きわめて鋭敏な嗅覚があるので、泳ぎながら継続的に水を調べ、水に溶けた科学的物質のにおいの濃淡から行き先を判断している。このサメは、イカを捕らえるために、よく潜水し、350メートルも潜る。水を鉛直方向に泳ぐことから、電磁気を感知する能力を使って、磁方位を知るのに役立てている。
 陸上を移動する動物たちの写真もあります。広大なアフリカのサバンナ(太平洋)を一列になってすすんでいくウィルドビーストがいます。圧倒される大群です。
カリブー、ウィルドビースト、ハクガンのような平原の動物たちは、突然、子どもをどっと増やし、獲物の数で捕食動物を圧倒する。捕食動物が消費できる獲物の数には限度があるので、結果的に子どもの多くが生き残れる。
少々高価な本ですが、手にとって眺めていると、日頃の悩みがいかにちっぽけなものかを気が付かせてくれる写真集と考えたら、決して高くはありませんよ。せめて、図書館で手にとって眺めてみてくださいね
(2010年1月刊。8000円+税)

よみがえる脳

カテゴリー:人間

著者  生田 哲、  サイエンス・アイ新書  出版 
 
かつて脳細胞は大人になるにつれ、死滅していくだけとされていました。しかし、今では、脳細胞も生成していることが分かっています。だから、あきらめる必要はないのです。
この本は、運動が脳に良いこと、タバコは脳にも悪いことなども強調しています。
脳は、環境の変化に対応し、年齢に関係なく、どんどん変化していく。脳の本質は変わりやすいことなのである。
 カナリヤは平均して10年生きるが、毎年新しい曲を学んで歌う。毎春、同じ鳥がまったく違った歌をうたいだす。うへーっ、そうなんですか・・・・。一度じっくり聞いてみたいですね。
 タバコは頭を悪くする。タバコの煙にふくまれる一酸化炭素が血液中のヘモグロビンというタンパク質と結合することによって、脳が酸欠状態になり、脳に一過性の障害が起きる。また、タバコの喫煙によって発生するアセトアルデヒトという毒物がアセチルコリン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどといった脳内の伝達物質に存在するアミノ基と科学反応を起こして生成するシッフ塩基という毒物が、脳内の神経細胞にダメージを与える。うへーっ、こんな大切なことをもっと国は国民に知らせるべきです。小学生のときから教えておけば、こんなに有毒なタバコを吸う人は絶滅する可能性がありますよね。タバコは税収に貢献しているなんてことは、もう言わないでくださいね。
 エクササイズ(運動)でうつ病が治り、脳は活性化するといいます。抗うつ薬を服用してうつから回復した人で、改善効果を10ヶ月後も維持できた人は55%、再発率は38%。これに対して、エクササイズだけでうつから回復した人の88%が改善効果を10ヵ月後も維持していたし、再発したのもわずか8%でしかなかった。そうなんですか・・・・。
 エクササイズの達成感が自己評価を高め、気分を向上させ、うつを改善する。
瞑想でも脳の機能が改善するそうです。これはありうると思いますが、残念ながら、瞑想を体験したことはありません。分かりやすい説明で、すっと読んで納得できました。
(2010年12月刊。952円+税)

江戸農民の暮らしと人生

カテゴリー:日本史(江戸)

 著者 速水 融、  出版 麗澤大学出版会
 
 岐阜県の一農村の97年間にわたる宗門改帳(しゅうもんあらためちょう)を分析した本です。農村の一断面、とりわけ江戸時代の農村が閉ざされていなかったことが良く分かります。この村から関西方面へ、男も女も出稼ぎ・奉公に行っていたのです。
 日本の江戸時代には豊富な史料・文献が残されている。公私にわたる膨大な文書、記録の山がある。これは識字率の高さにもよる。幕末期の日本において、成人男性の45%、女性の15%が読み書き能力を持っていた。これって、実は、すごいことですよね。昔から日本人の好奇心、知的欲求度の高さを反映している数字だと思います。
 初めの49年間では、夫婦5組に1組は離婚している。残り50年間には離婚数は減った。100年間を通してみると、離婚数は結婚数の11%、9組に1組の割合となっている。しかも、離婚件数26のうち14組には子どもがいた。日本では、離婚は昔から少なくなかったのです。
 女子の結婚年齢は、上層ほど低く、下層では高い。これは、小作層から多数の奉公人が出稼ぎに出ていたからである。
 そして、結婚の継続期間は比較的短かかった。5年以内では離縁が最も多く、妻の死亡によることも少なくなかった。わずか1年内で終了するときには、その8割が離縁だった。
 夫婦が若いうちに離死別したときには、残された夫または妻が再婚する事例は多い。男は、40歳前だと、そのほとんどが再婚し、女も、35歳以下なら半数は再婚している、
 長男が家督を承継する制度ないし慣習が確立していたとは決して言えない。
 ここでは、女性が戸主である率は全体の7.1%であった。
 そして、長男以外の男子による家督の継承は、戸主の死亡の時にかなりの頻度で見られる。戸主が死亡したとき、その半分で女性が継承者となっている。前戸主の妻が継承者となることが多い。これは、夫より妻の方が年齢が低かったことによる。
 江戸時代の農村の実情を知ることができる本として、おすすめします。
(2009年9月刊。2400円+税)

ルポ生活保護

カテゴリー:社会

  著者  本田良一  、中公新書  出版 
 
いま日本は、生活保護の受給者数でみれば、1955年、56年と同じ状況にある。
1955年に192万人、1956年に177万人だった。それに対して、2010年は186万人とほぼ同じである。
保護費は国が4分の3を、残り4分の1を地元自治体が負担する。受給者を快く思っていない市民が少なくない。昼間から酒を飲んでいるとかパチンコ店に通っているという通報が福祉事務所へ寄せられる。しかし、地方自治体にとって、現実には生活保護は受給者の生活を支えるだけでなく、地域経済を下支えする「第四の基幹産業」になっている。
日本国憲法25条1項は次のように定めている。すべて国民は、健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する。忘れてはいけない大切な憲法の条項です。
 母子世帯のうち、生活保護を受けている割合は13.3%。つまり、日本ではひとり親の
2世帯に1世帯以上が貧困状態にあるが、生活保護を受けているのは、8世帯のうち1世帯程度にすぎない。
子どもの学力は家庭や塾に負うところが大きくなっている。ところが、いま日本の家庭は、教育費負担があまりに大きい。大学に進学すると、1年で最低で100万円、多いと240万円かかる。4年間では、少なくとも400万円、多ければ1000万円かかってしまう。なぜこうなっているかというと、家庭に代わって政府が負担する部分が少なくないから。その結果、家庭の経済力の違いによって、子どもの教育機会が不均等となり、子どもの将来格差を生み、世代をこえて貧困が再生産されていく。
いまの生活保護制度は、丸裸になった人に、全部、着物を着せてあげるものになっている。住宅やローン、生命保険、金融資産などの、すべての資産を使い尽くさないと保護を受けられないという制度では、再挑戦の機会も意欲も奪ってしまう。そうなんですよね。弁護士として相談を受けていて、大いなる矛盾を感じることが多々あります。
 貧困世帯の8割以上が生活保護を受けずに暮らしている。貧困を放置すると、社会が貧困者と、そうでない人に分裂して、破綻してしまう。絶望のあげく自殺が増え、また犯罪が増える。
 国が負担する保護費は2009年度、2兆円をこえた。そのうち半分の1兆4千億円が医療扶助となっている。いま生活保護受給者が増えているのは、ほかの制度の矛盾をすべて生活保護が受け止めているから。貧困対策を進めていくうえで、セーフティーネットの拡充は、社会を維持するために必要な投資なのだという社会の合意が不可欠である。
先に(12月7日)釧路市の生活保護についての先進的な取り組み『希望を持って生きる』を紹介しましたが、この本にも、そのことが紹介されています。
日本社会が安全・安心に生活できるものであり続けるためにも貧困対策は大きな意味をもっていることをお互いに確認したいものです。とても分かりやすい新書です。先の本とあわせて一読をおすすめします。
(2010年8月刊。780円+税)

「秀吉の御所参内、聚楽第行幸図屏風」

カテゴリー:日本史(戦国)

 著者 狩野 博幸、   青幻舎 出版 
 
 昨年(2009年)秋に、新潟県は上越市で初公開された屏風絵が秀吉や秀次そして聚楽第などを描いているというのです。とても珍しい屏風絵なのですが、著者はそれをこと細かく実証しつつ解説してくれます。眺めて楽しく、読んでうれしくなるような本です。
 京都の御所を出て進んでいく行列の中央に天皇しか乗ることの出来ない鳳輦(ほうれん)が描かれている。その輿の上には金銅製の鳳凰が飾られている。なるほど、白装束の者たちが鳳輦をかついで進んでいます。そして、反対側からは、多くの武士たちに守られて進む牛車が描かれている。その牛車には、桐の紋がはっきり見える。
後陽成天皇が聚楽第(じゅらくだい)に行幸したのは天正16年(1588年)4月14日のこと。秀吉が聚楽第をつくったのは京都における政庁を作るためだったが、天皇の行幸もその視野に入れていた。
 秀吉は、天皇の行幸のとき、室町将軍のときの先例を無視して、内裏に御迎(おむかえ)に参上した。そして秀吉は桐紋の牛車に乗って、天皇の乗る鳳輦と向かいあう形で進んでいった。このあたりは、この本に解説とともに屏風絵が拡大されていますので、よく分かります。
秀吉の参内、天皇の行幸は華やかさのなかにも、恐るべき緊張の下に進められた。厳重な警固が張られ、行幸にあたっては、内裏から聚楽第までわずか15町ほどのあいだに6千余人の武士が張りついて警備していた。屏風絵に描かれた武士たちは、いずれも脇差しさえも着していない。
 この屏風絵は、儀式は儀式として描き尽くしながらも、それとは無関係に当時の市中に生きる人々の姿をこと細かに描いている。当時の女性たちが夫の諒解を得ることなく、勝手に外出している様子も描かれている。外国からやって来た宣教師たちが驚いた光景である。宣教師たちは、女性の貞操観念の低さにも呆れている。女性は自由だったのである。日本の女性こそ、世界でもっとも自由な存在であったと知るべきなのだ。女性だけでなく、子どもたちも伸びのびと生きていました。うらやましい限りです。
このようにきらびやかな素晴らしい屏風絵が最近まで広く世に知られていなかったというのは惜しい限りです。一見、一読の価値ある本としておすすめします。
 
(2010年10月刊。2500円+税)

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