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睡眠の科学

カテゴリー:人間

著者  桜井 武 、    出版  講談社ブルーバックス新書
 
 動物は命がけで眠っている。それほど睡眠って、生き物にとって必要なものなんですね。
 惰眠をむさぼるという言葉があるが、睡眠は決して無駄なものではなく、動物が生存するために必須の機能であり、とくに脳という高度な情報処理機能を維持するためには絶対に必要なものなのである。身体とりわけ脳のメンテナンスのために睡眠は必須の機能である。睡眠中は、心身が覚醒状態とはまったく異なる生理的状態にあり、それが健康を維持するために非常に重要なのである。
ヒトは眠ると、まずノンレム睡眠に入る。ところが1時間から1時間半すると、脳は活動を高める。これがレム睡眠である。このとき、脳は覚醒時と同じか、それ以上に強く活動している。このレム睡眠のときの脳の強い活動の反映として夢を見る。レム睡眠時の夢は奇妙な内容で、感情をともなうようなストーリーであることが多い。これに対して、ノンレム睡眠のときに見る夢は、多くがシンプルな内容である。
 睡眠は記憶を強化する。シェイクスピアは、睡眠こそ、この世の饗宴における最高の慈養であると言った(『マクベス』)。たしかに、睡眠は甘い蜜の味がしますよね。
 睡眠不足は肥満になる。また心血管疾患や代謝異常のリスクを増加させる。
ノンレム睡眠は、一般的に脳の休息の時間だと考えられている。レム睡眠を「浅い睡眠」というのは間違いである。レム睡眠時には、不可解なことに、交感神経系と副交感神経系が両方とも活性化している。レム睡眠時には脳幹から脊髄にむけて運動ニューロンを麻酔させる信号が送られているため、全身の骨格筋は眼筋や耳小骨の筋肉、呼吸筋などを除いて麻酔している。そのため、レム睡眠時には脳の命令が筋肉に伴わないので、夢のなかの行動が実際の行動に反映されることはない。ただ、眼球だけは、不規則にさまざまな方向に動いている。
 睡眠は脳が積極的に生み出す状態であり、外部からの刺激がなくなって起きる受動的な状態なのではない。
睡眠と覚醒はシーソーの関係にある。覚醒は、シーソーが覚醒側に傾いている状態である。大脳皮質の活動という点からみると、覚醒とは、脳の各部がさまざまな情報を処理するために活発に、かつ、ばらばらに動いている状態と言える。
 健康なヒトでは、オレキシン系が適切なときに覚醒システムに助け舟を出し、シーソーの覚醒側を下に押し下げることにより、覚醒相を安定化することが可能になっている。
 オレキシンの機能はいろいろあるが、そのもっとも中心的な機能は覚醒を促し維持すること。そして交感神経を活性化して、ストレスホルモンの分泌を促す。モチベーションを高めて、全身の機能を向上させる。意識を清明にし、意力を引き出す。
 ヒトが眠りにつく前、一時的に手足の温度が上がるが、これは手や足の血管を拡張させて、体温を外に放散させることによって深部体温を下げている。こうして脳の温度を少し下げることによって睡眠が始まる。あまり体温を上げず、しかし暖かくして眠ることが大切だ。眠気を払いたいときは、逆に考えて、手足を冷やすといい。
時差ボケを解消するのには、光だけでなく、食事によってもリセットが可能だ。これは、いいことを知りました。今度、ためしてみることにします。
睡眠に関する科学の最先端の状況が私のような一般人にもわかりやすく解説されていて、一気に読み通しました。
(2011年11月刊。900円+税)

ソコトラ島

カテゴリー:アフリカ

著者 新開 正、新開 美津子  、 出版 彩図社
 
 ええっ、こんな島があったの・・・・。そう思ってしまいました。世にも不思議な島というのは、まったくもってそのとおりです。インド洋のガラパゴスといわれているそうですが、なるほどと納得できる写真集です。
 イエメンの南東の海上にある小さな島です。ユネスコの世界自然遺産にも登録されています。年間降水量250ミリという極端に乾燥した大地ですから、そこに自生する生き物はみんな乾燥に強いものばかりです。
 バオバブの木に似て、幹に水を貯められる、ぷっくらお腹の木もあります。和傘を逆さにした木は竜血樹です。薬や着色剤として珍重されてきたということです。傘のような形の樹冠になっているのは、空中の水分を効率的に補足できるからだといいます。それほど、雨が少ないということなのです。そして、竜血樹には年輪がなく、繊維が詰まっているのです。不思議な木です。
 ボトルツリーとかキュウリの木とかいうのは、バオバブそっくりです。とっくり形の幹に水を貯めているのですね。そして、その太った幹から葉が出て、花が咲くのです。みんな面白い形をしています。
 アロエも変わった形です。アレキサンダー大王が、アリストテレスの助言を受けて、ここのアロエを入手するため、ソコトラ島を占領したというのです。本当なのでしょうか・・・・。
 こんな変わった島にも人々が住み、生活しています。ラクダもいます。ソ連の軍事基地が置かれていたこともあって、F34戦車の残骸まであるのです。これにも驚きました。
大きな洞窟があります。4万人あまりが生活するソコトラ島にリピーターで渡った日本人夫妻の写真集です。知らない世界は多いものですね。
(2010年12月刊。1600円+税)

絵草紙屋・・・江戸の浮世絵ショップ

カテゴリー:日本史(江戸)

著者  鈴木 俊幸、   出版  平凡社 
 
 まっこと、日本人っていうのは昔から本が大好きなんですよね。江戸時代、大人も子どもも、本屋の前に広く集まり、江戸では新刊本を、地方では古本を待ち焦がれていたのでした。
 地本(じほん)とは、江戸で、生産される草紙類のこと。豪華な印刷。錦絵は、江戸の繁華を象徴するものであり、最新の流行を盛り込んで、「通」の美意識にかなうお洒落なものだった。地本は、絵草紙屋という店で商われる。小売専業の店が江戸に出来て、錦絵を商品の主体とした。浮世絵のなかで、もっとも主要なジャンルは芝居絵である。相撲絵や吉原の遊女の姿絵も主要なジャンルの一つであった。
そして、きれいな浮世絵が店先に吊るし売りされている絵草紙屋は掏摸(すり)のかっこうの稼ぎ場でもあった。絵草紙屋の店先に吊るされていた浮世絵をポカンと大口をあけて眺めていると、そっとスリが近づいてきて、フトコロの財布を盗んでいってしまう。絵草紙屋の主人はそれに気がついても黙って成り行きを見ているだけ。そんな状況が紹介されています。昔も今も変わらない情景ですね・・・・。
絵草紙屋には、春画・書本の類も置かれていて、根強い人気商品だった。
 参勤交代などで、地方から江戸へ出てきた田舎にとって、「土産の第一」は、浮世絵だった。国元への土産に大量に買い付けた。田舎へ持って帰るのには、新版である必要はない。浮世絵は吊るし売りされていた。観光地であり、行楽地である浅草は、小売専業の絵草紙屋が登場した。
 江戸時代の貴重なメディアの一つであった絵草紙の興亡を知ることができました。
(2010年12月刊。2800円+税)

「ふたつの嘘」

カテゴリー:社会

著者  諸永 祐司 、  出版  講談社 
 
 毎日新聞記者(西山太吉氏)が外務省の機密電信文を入手し、それをもとに国会で社会党の議員が政府を追及した。沖縄返還をめぐって、日本政府がアメリカと重大な密約を結んでいたことを暴露する内容だった。ところが、やがて問題すりかえられた。西山記者が入手した情報が外務省の女性事務官との男女関係によるそそのかしにもとづくものだったことにマスコミが焦点をあて、本当の問題点だった政府間の密約問題が話題にのぼらなくなった。このときのマスコミって、無責任報道の典型ですよね。
作家の村上春樹の受賞スピーチが紹介されています。モノカキのはしくれとして、私はなるほどそのとおりだと思いました。
小説家は上手な嘘をつくことを職としている。ただし、小説家のつく嘘は、嘘をつくことが道義的に非難されない。むしろ、巧妙な大きな嘘をつけばつくほど、小説家は人々から賛辞を送られ、高い評価を受ける。小説家は、うまい嘘、つまり本当のように見える虚構を創り出すことによって真実を別の場所に引っ張り出し、その姿に別の光を当てることができる。
なるほど、なるほど。まさにスピーチのとおりです。
西山記者は毎日新聞を辞め、北九州で隠遁生活を過ごす。妻との離婚の危機、そして、息子たちとの葛藤。さらには競艇への乗めりこみ。うつうつとした生活がずっと続きます。
ところが、ついにアメリカ公文書館で密約を掘り起こした日本の学者がいて、それが日本マスコミで大々的に報道されました。それを受けるかのように、日本の裁判所が密約の開示を政府に命じる判決を下したのです。ついに、西山記者の主張が裁判所でも認められた一瞬でした。すごいですね。苦節40年近くを経て、いったん不当におとしめられた職業人が不死鳥のごとくよみがえったのです・・・・。
 それにしても、こんな大切なことで日本国民を裏切る政府なんて許せないことですよね。いつだってアメリカ政府言いなりの菅政権に対しては、いいかげんにしてよ、あんたも若いころはアンチ・アメリカを叫んでいたんじゃないのと言って、お尻ペンペンしてやりたくなりました。
(2010年12月刊。1800円+税)
 震災後に続いている福島原発の深刻な事態について、政府は本当のことを国民に知らせていないのではないかと言われています。真実を知らせると国民がパニックを起こして収拾つかなくなるという考えにもとづくものです。でも、真相が隠されていると国民が疑う状況では、かえって無用のパニックが発生しかねません。政府は「直ちに健康被害は出ない」「落ち着いて行動してください」と言うだけではなく出来る限り正確な情報を国民に知らせるべきではないでしょうか。そうなることによって、かえって政府発表への依頼性が増し、国民は冷静に対応できると思います。
 それにしても大震災発生後2週間たっても原発災害の異常事態が続くのはあまりのことです。政府は日本の科学者・技術力のすべてをそそぎ込んで安全を確保してください。お願いします。
 我が家のチューリップが咲きはじめました。きのう数えたら15本のチューリップが咲かせています。なぜか赤い花ばかりです。チューリップ畑を眺めて、原発による不安の心を少しだけ落ち着かせています。

日本国憲法の旅

カテゴリー:司法

著者  藤森 研、    出版  花伝社
この本の序文(はじめに)に著者は次のように書いています。日本国憲法の大切さを自分の仕事と生活のなかで実感したというのはすごいですよね。弁護士をしていても、憲法を日頃意識するのは、実は私にしてもそんなに多くはないのです。反省させられました。
この35年間、新聞記者として事件や司法、教育、労働、戦後処理、ハンセン病、メディア問題などを取材した。その時々の課題を追う社会部記者の暮らしのなかで、いつもどこかで気になっていたのは、私の場合は、日本国憲法だったように思う。
著者は大学時代に、小林直樹教授の憲法ゼミに所属していたとのことです。そして、今は新聞社を退職して、専修大学で学生を教えています。
日露戦争のとき、与謝野晶子が「きみ死にたまうことなかれ」と反戦詩を発表したのは有名ですが、その前に、ロシアの文豪トルストイもイギリスで同じような反戦の論文を発表していました。いったい、晶子はトルストイの論文を読んでいたのか。著者は読んでいたと断言しています。時期として矛盾しないし、内容に類似性があるということが根拠になっています。実は、私は別の本でも、このことを追跡しているのを読んだばかりですので、著者の考えに同感です。
そして、晶子が日露戦争のあと、変節したのかと問いかけています。晶子は満州旅行に出かけたとき、ちょうど奉天で日本軍による張作霖爆殺事件に遭遇したのでした。この事件は、当時の日本では満州某重大事件として真相が秘匿されていましたから、晶子が真相を知っても、その考えを発表することはできなかったでしょう。
軍隊を持たないコスタリカにも著者は行って現地で取材を重ねました。モンヘ元大統領は次のように語ったそうです。
私たちは軍隊を持っていないだけに、どんな小さな紛争も看過せずに調停と仲介を通じて、積極的に平和をつくり上げていく。私たちの中立主義はイデオロギー的な立場で唱えているのではなく、人間の自由と人権を守る方向で考えている。アメリカは複雑な国だ。ペンタゴン(国防総省)やタカ派は反対であっても、アメリカ議会は我々の立場を承認する方向にあった。
そして、コスタリカでも注目すべきは選挙です。サッカーと選挙は国民的な祭典である。投票日直前になると、全国一斉に禁酒となる。過熱によるケンカの予防のため。ただし、これはコスタリカだけではなく、他の多くのラテンアメリカの国と同じ。そして、子ども選挙が行われている。高校生たちが企画・運営し、10歳前後の子どもたちが大人と同じように本物そっくりの投票箱に投票用紙を入れる。こうやって、子どもたちは民主主義とは何かを体験し、学んでいく。実践的な公民・政治教育が盛んにすすめられている。いやあ、これっていいことですね。日本で政治に無関心な人が多いのは、子どものとき学校できちんと教えられていないことにもよりますよね。
 コスタリカ政府がアメリカのイラク侵攻を始めたのを支持する声明を出したとき、一人の法学部生が憲法に反対すると提訴した。そして、最高裁は政府によるアメリカ支持の声明を違法とし、その声明の取り消しを命じる判決を出した。
 うむむ、これってなかなかすごいことですね。こうやって憲法をつかい、定着させていくわけですね。日本では、その点の努力がまだまだ弱いですよね。
 著者は本の最後を次のように締めくくっています。これまた、とても大切な言葉だと思いました。
 日本国憲法を世界に活かしていく歩みは可能だと思う。望めば、その歩みに直接かかわることもできる国に暮らしていることを、恵まれたことだと私は感じる。
 実は、著者は私と同じころ大学(駒場)にいたのでした。学生のころは面識がありませんでしたが、今では年賀状などをやりとりする関係にありますので、この本も贈呈していただきました。ありがとうございました。じっくりと読むに価する本だと思います。 
(2011年1月刊。1800円+税)

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