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沖縄決戦

カテゴリー:日本史

著者  新里 堅進    、 出版  クリエイティブマノ   
 
 丸ごと戦場となった沖縄の凄惨な地上戦のイメージがひしひしと伝わってくる劇画です。本土防衛の捨て石とされた沖縄地上戦の顛末の全体像が迫真の画で明らかにされています。現実は、もっと悲惨だったのでしょうが、ここに描かれた絵だけでも、もう十分ですと悲鳴をあげたくなります。
平和な島、日本軍に絶対の信頼を置いていた沖縄の人々が、ある日突然、アメリカ空軍の大規模な空襲にあい、逃げまどいます。そして、アメリカ軍の上陸作戦の前には、とてつもない数の軍艦による艦砲射撃によって地上の市街地は壊滅させられてしまいます。やがて、上陸したアメリカ軍と地下に潜んでいた日本軍との死闘が始まります。
前に紹介しました『シュガーローフの戦い』(光人社)の凄まじい戦闘状況も描かれています。戦史をなるべく忠実に再現しようとした著者の努力によって、沖縄地上戦のすさまじさを十二分に実感できます。それにしても、軍隊とは何を守るものなのかを改めて考えさせられます。
何の武器も持たない住民が逃げまどうなか、それを楯にして軍隊が移動していきます。そして、逃げこめる洞窟が一つしかないとき、軍隊は情容赦もなく、先に入った住民を追い出してしまうのです。
「おまえらを守るために戦っているのだから、出て行け」というのです。おかしな理屈ですが、銃剣とともに迫られたら住民は従うほかありません。
また、沖縄方言で話していると、アメリカ軍のスパイだと疑われて銃殺されたり、アメリカ軍に投降しようとすると裏切りものとして背後から射殺されたり、日本軍の暴虐非道ぶりは目に余るものがあります。
そして、抵抗なく上陸し、すっかり安心して進軍していたアメリカ兵も、内陸部にさしかかったとき日本軍の頑強な抵抗を受けると、たちまち総崩れし、兵士たちのなかに発狂する者が続出するのでした。
姫百合部隊の活躍の場面も紹介されています。大きな地下の穴蔵生活のなかで、どんなにか苦しく、つらい生活だったことでしょう。もっともっと長生きして、人生を楽しみたかったことでしょう。青春まっただなかだった彼女らのつらい日々も偲ばれます。
日頃はマンガ本から遠ざかっている私ですが、心揺さぶられるマンガ本でした。一読を強くおすすめします。ノーモア沖縄、ノーモア戦争を改めて叫びたくなりました。
(2004年1月刊。2136円+税)

最新脳科学でわかった五感の驚異

カテゴリー:人間

著者   ローレンス・D・ローゼンブラム 、 出版  講談社
 
 びっくりすることがたくさん。脳は大人になったら死滅するだけ。そんな常識が次々にひっくり返されています。
脳は経験によって、その仕組みや構成が変わりうる。かつては特定の知覚能力だけを司ると考えられていた脳の領域が、異なる知覚機能をその感覚内でも別の感覚にまたがっても割り当て直す潜在能力があることが分かった。
ということは、私のように還暦を過ぎても、まだ脳は可塑性があるということです。逆に、いくら若くても、あきらめていたら、脳は固定してしまって、役に立たないものになる危険もあるということではないでしょうか・・・。飽くなき知的好奇心こそ人間の、人間たる所以なのですよね。
 盲目の男性がマウンテンバイクで山中をツーリングしているというのです。うひゃあ、と思いました。そして、信号音つき野球ボールをつかって、攻守ともに正確にプレーする盲目のチームがたくさんあります。もちろん、選手は皆、目が見えないか、目隠しを着用しているのです。選手は、音のおかげで一瞬先を聞きとっています。
足音を聞くだけで、その人の性格が分かる。ええーっ、そうなんですか。気をつけましょう。
 犬は1秒間に6回の早さでにおいを嗅ぐ。人間は1秒にひと嗅ぎする。人間は2つの鼻の穴を通ってくるにおいを比べることで、においの所在を確認している。なーるほど。
 たとえば、不動産業者は家の展示会をしているとき、クッキーを焼いて、家のぬくもり感や居心地の良さを演出する。なるほど、なるほど、よく分かります。
 アリは、ほかのアリが脅かされているにおいを感じると、たちまちちりぢりになる。ハツカネズミは、自分が食べられそうになった場所に不安のにおいを残すことで、天敵の居場所を知らせあっている。ふむふむ、そういうことをしているのですね。
 魅力的な顔は、左右の釣り合いがとれている。魅力的であり続けるコツは、学び続けること。好奇心を失わず、なんでも学ぶこと。学ぼうというその意気込みが、人を輝かせる。それが美しさだ。
妊娠の可能期間中の女性は左右のバランスのとれた男性のにおいを好む。男性は、妊娠可能期の女性の体臭を好む。うひゃあ、そうなんですか。
左右のバランスがあまり良くない動物は、正常よりも発育速度が鈍く、寿命は短い。そして、繁殖力も弱い。左右のバランスが悪いと、遺伝子的にも、肉体的、精神的にも劣り、認知能力や知能指数も低いことが予想される。むむむ、そうなんですか・・・。
 食べ物や飲み物の品質についての予想が、そのおいしさの度合いを左右する。質の良いワインだと思って飲んでいるときのほうが安物だといわれて同じワインを飲んでいるときよりも、快感に関わる脳の領域がはるかに活性化する。上等のワインを飲んでいると思うことで、そのワインの実際の質にかかわらず、この快感領域の活動を高めることがある。脳の快感領域に関する限り、私たちは払った(つもりの)額にみあったものを実際、確実に得ている。ソムリエがひと口飲んだとき脳にまず見られるのは、味覚と嗅覚の情報が集まる領域の活性化だ。ソムリエは、ワインの味と香りを表現するための概念理解力と言語能力が豊かに発達している。なにかを味わうことは、におい、感触、見た目、そして音に至るまでの無数の影響による、味は予想や知識にも左右される。
 低い声のほうが高い声よりも分かりやすい。女性や子どもより、男性の声のほうが理解しやすい。手で触ると、顔の表情もほぼ正確に認識できる。
 知覚のなかで、これほど多くの情報がこれほど素早く伝わるのは、人の顔をおいてほかにはない。顔を見れば、その人の素性、性別、感情状態、意図、遺伝的健全さ、生殖能力、そして言葉によるメッセージすら、たちまち分かる。
 顔は、ある特殊な方法で知覚され、そのために特殊な戦略と脳の仕組みが使われている。70歳になるころには、その人の顔写真を見るだけで、その人がどんな感情を招いて生きてきたのか、知らない人でも読みとれる。この年齢になるころには、顔は、ある感情をほかの感情よりもうまく伝えられるようになっている。理由は簡単、実践を積んできたからだ。顔の皮膚の下は、50種類あまりの異なる筋肉の集まりで出来ていて、そうした筋肉が身体中でもっとも複雑な配列で関連しあっている。しかも、筋肉のつねで、鍛えれば鍛えるほど、よく動くようになる。つまり、ほほえむ回数が多い人ほど、顔で喜びを表しやすくなる。これは年齢(とし)をとるにしたがって、とくにあてはまる。人柄と表情癖が顔をつくっていく。たしかに、そうだと、私も思います。
人の印象は顔を10分の1秒も見ただけで決まる。そして、人は、自分の顔の特徴に似たところのある人をパートナーに選ぶ。これは、教養、食べ物、環境、性格がその二人のあいだで似かよっているからだ。
  人間の五感のすばらしさを改めて感じました
(2011年2月刊。3150円+税)

ラッコ

カテゴリー:生物

著者   久保 敬親 、 出版   新日本出版社
 
 野生のラッコの可愛いらしい写真が満載の写真絵本です。
 ラッコって、もともとの日本では見ることができなかった動物なんですね。昔からいるものとばかり思っていました。ところが、最近になって、北海道東部の海岸近くに現れるようになったのです。
岸辺に近い海でプカプカと気持ちよさそうに2頭のラッコが仲良く浮かんでいます。つぶらな黒い瞳が魅力的です。そして小さな身体を柔軟に丸めてしまいます。鼻はぺしゃんこの三角形です。
 コンブの海で、あおむけになって寝っころがります。ラッコの足(後ろ足)は、ひれ状になっていて、泳ぐのに最適の形をしている。そして前足は肉が厚くて、爪の出し入れが自由に出来るので、食べ物を持ったり、岩に登ったりもできる。
 ラッコの下毛(したげ)は、密にはえていて、あいだに空気の層をつくっていて体温を保つことができる。
 ラッコの大好物はウニ。カニもホタテも大好き。ええーっ、それじゃあ人間の食べ物をとってしまうんじゃない。ラッコの敵は人間かも・・・。そう思いました。実際、しなやかで、質のよい毛皮を持つラッコは人間からどんどん殺され、絶滅が心配されていたほどです。
海辺に浮かぶラッコを現地で見たくなる楽しい写真絵本です。
 この本の著者は、たくさんの写真集を発刊していて、実は我が家に何冊もあるのでした。『エゾヒグマ』(山とう渓谷社)、『大雪山の動物たち』『キタキツネとの出会い』『シマリスの四季』(以上、新日本出版社)です。どれも、動物たちの、大自然のなかで伸び伸び、そして生き生きと躍動感あふれる素晴らしい写真です。見るだけで心あたたまる写真を、いつも本当にありがとうございます。
(2010年6月刊。1500円+税)

逆渡り

カテゴリー:日本史

著者   長谷川 卓 、 出版   毎日新聞社
 
 ときは戦国の世。ところは、上杉憲政と対峙する甲斐の武田晴信軍のぶつかるあたり。
 主人公は四三(しそう)衆の一員。四三衆とは、5、6年おきに山を渡る渡りの民のこと。四三とは北斗の七ツ星のこと。この星を目印として渡ることから、自らを四三衆と名乗っていた。四三衆の山の者の役割は、戦うことではない。傷兵らの傷の手当と救出、重臣に限定されるが、戦場からの遺体の搬出。山の者は薬草などに詳しく、里者よりも金創の治療に長けているからだ。
多くの場合、武将が山の者を駆り出すのは輸送のため。山の者に支払われる金の粒や砂金は、蓄えとして貴重であるうえ、塩や米にも換えやすい。四三衆は、断る理由がない限り、仕事を受けた。
 戦場で手傷を負った者を見つけたときは、傷口を縫うが、薬草(蓬の葉)を貼り、布でしばる。だが、縫うか薬草で間に合う程度の傷の者は少なく、ほとんどの者は少なく、ほとんどの者は見殺しにするか、せいぜい縛って血止めをするのが関の山だった。
 逆渡(さかわた)り。生きるために渡るのに対し、仲間との再会を期さず、死に向かって一人で渡ることを、山の者は逆渡りと言った。
 四三衆では、60を迎えた者の次の渡りに加えず、隠れ里に留め置く。いわば、捨てられるのだ。
 うひゃあー・・・。60歳になったら山のなかに一人置いてけぼりになるのですか・・・。いやはや、まだ、60歳なんて、死ぬる年齢ではありませんよね。早すぎる棄老です。許せません。
 山の民の壮絶な生きざまが活写されています。作者の想像力のすごさには脱帽します。
(2011年2月刊。1500円+税)

国家対巨大銀行

カテゴリー:アメリカ

著者  サイモン・ジョンソン、ジェームズ・クワック、 出版  ダイヤモンド社
 
 アメリカ人は寡頭制などというものは、よその国で起きることだと考えたがる。アメリカの政治は世界でもっとも進んでいるかもしれない。だが、寡頭制のほうも、もっとも巧妙である。
 1998年にアメリカの金融業界でもっともホットだったのは、デリバティブ取引である。トレーダーとセールスマンは、顧客の「身ぐるみを剥がした」ことを自慢しあっていた。この連中がやっていたのは、顧客には理解できない複雑な商品を仕組んで売ること。それが少しも顧客のためにならなくても、ウォール街の大手銀行は誘惑に勝てなかった。首尾よく規制が回避されると、金融業界は利ざやを確保するためにますます複雑なデリバティブを発明していった。
巨大で強力な銀行は、一段と巨大で強力になって危機からよみがえった。アメリカの巨大銀行は巨大化する一方だ。1983年に全米最大手だったシティバンクの総資産は
1140億ドルで、アメリカのGDPの3.2%に相当した。2007年には、このシティバンクの対GDP比を銀行9行が上回っている。2009年には、バンカメの総資産はGDPの16.4%、JPモルガン・チェースは14.7%、シティグループは12.9%に達していた。
2008年の潤汰で生き残った大銀行は、以前にも増して強大になっている。バンカメは、2009年9月に2兆3000億ドルの資産規模になった。2009年6月の時点で、アメリカの銀行によるデリバティブ契約の95%をわずか5行で扱っている。2009年上半期にゴールドマン・サックスは、給与として114億ドル一人あたり75万ドルを準備した。大変な超高給とりたちです。
韓国の危機は、1990年代に起きた新興市場危機の典型だと言える。有力者とコネをもつ大企業が低利の借り入れで急速に勢力を拡大した。資本主義経済で企業の無責任な行動を防ぐはずの力は働かず、株主は強い発言権をもつ創業者に対しては、ほとんど無力だった。貸し手は、主要財閥の重要性から考えて政府が破綻を容認するはずがないとの前提で、無節操に貸した。民間部内と政府は癒着しており、財閥に恐れるものは何もなかった。
 クリントン政権でもブッシュ政権でも、ウォール街からたくさんの大物が政府の主要ポストに就いている。多くのゴールドマンOBが財務省の顧問をつとめた。ウォール街とワシントンの間にある回転ドアは、金融業界の大物を政府の主要ポストに就ける役割を果たしただけではない。大物銀行経営者と政府高官の間に個人的なつながりができ、その太いパイプを通じてウォール街の価値観を政治の場に吹き込むことが可能になった。
 国内で最も有力な投資銀行の元共同会長が財務長官に就任したという事実自体が政権はウォール街に友好的だというシグナルを発信していた。
この20年間というもの、ウォール街の友人仲間は、日の当たるところで堂々と行動することができた。なぜなら、ウォール街の価値観が、ワシントンで、ニューヨークで、そしてヨーロッパの主要都市でも、政治エリートから熱狂的な支持を得ていたからだ。
過去20年間で、一般市民の目から見ても金融は変わった。あまり信用されない退屈な職業から、現代アメリカ経済を支える輝かしい主役へと変身した。
一流大学や業界紙やシンクタンクや政治の中枢では、金融業界はアメリカン・ドリームに残された最後の希望の星だった。一生懸命に働き、万人を豊かにするような新しい商品を開発し、そして自分も大金持ちになる、そんな夢だ。
アメリカ連邦政府は、サブプライムローンを規制しなかったばかりか、先頭に立って旗振りをした。2000年代には、頭のいい大学生が大金を稼げると現実的に期待できるのは、投資銀行かヘッジファンドに就職することだった。
住宅バブルの崩壊によって、2008年8月までに110万の雇用失われた。その後の1年で、さらに580万人が職を失い、経済成長率はマイナス4%にまで落ち込んだ。失業率は2009年10月に10.2%となった。本来の労働力人口の6人に1人が失業している。
正しい解決策ははっきりしている。大きくてつぶされないような金融機関をつくらないこと、既にできているものは分割することだ。メガバンクの解体・分割なしに健全な経済運営は不可能なのだ。
日本でも巨大銀行の横暴さには目にあまるものがあります。なんでもアメリカ礼賛、アメリカの悪いところまで真似するようでは困ります。町にある身近な信用金庫やJAが成り立つような金融行政であってほしいものです。
(2011年1月刊。1800円+税)

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